新規事業の旅168 中国は金融戦争を仕掛けるか

2025年4月12日 土曜日

早嶋です。950文字。

トランプ政権が発端となった米中の貿易戦争。中国には関税が直撃し、それ以外の国々には90日の猶予が与えられた。だが、同時期に起きていたのが「米国債の売り」だ。注目すべきは、日本と中国という米国債の二大保有国の動向だ。

2025年3月末時点で、米国の総債務残高は36兆ドルを超える。そのなかで日本は約1兆793億ドル、中国は約7608億ドルの米国債を保有している。中国の数字は、表向きだ。実際には第三国を経由した保有もあるため、実質保有額は1.2兆ドル程度になる可能性がある。

では、中国がこの「米国債カード」を切る可能性はあるのか。答えはイエスでもありノーでもある。当然、分からない。

たしかに中国が保有する米国債を売却すれば、米国の金利は急騰し、ドルは売られ、米経済に打撃を与える可能性がある。だが一方で、その影響は中国自身にも跳ね返る。米国債市場が混乱すれば、人民元が不安定化し、中国国内の金融秩序にも影響が出る。つまり、相互依存が前提のグローバル経済では「武器」を使えば「自傷行為」にもなりかねないのだ。

もう一つの選択肢は「通貨戦争」だ。中国は人民元のレートをコントロールできる立場にあるため、意図的に元安を進める可能性がある。これは輸出競争力を高める一方で、海外からの資本流出リスクも高まる。2015年の切り下げ局面では、実際にそのような状況が起きていた。

さらに注目すべきは、米国の制裁に対抗する形で中国がロシアやイランなどと築いている「制裁逃れの枢軸」だ。人民元や金などドル以外の通貨で貿易を行い、アメリカの経済制裁の効果を弱めようとする動きが見られる。これは金融戦争というよりも、経済秩序のパラダイムシフトになる。

結局のところ、中国が米国に対して金融的な一手を打つ可能性はある。ただし、それは常に「自国経済への影響」との天秤の上で判断される。金融戦争はボタン一つで始まるものではなく、状況を見ながら、ジワリと仕掛けられるものだ。

今後の展開次第では、米中の経済衝突は通商や軍事ではなく、金融領域で火花を散らすことになるかもしれない。そうなったとき、問われるのは各国の「通貨主権」と「金融耐性」だ。そして日本もまた、そこから無関係ではいられない。



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