新規事業の旅158 小規模農業者向けの流通プラットフォーム

2025年2月6日 木曜日

早嶋です。

日本の農業規格は面白い、未だに生産者の都合、流通の都合であり消費者に向いていないのだ。

例えば、とうもろこしのように「サイズ」で商品を分類するのは、物流や流通の効率を考えてのことだが、味や糖度といった消費者の求める価値とは関係がない。3Lや2LやL、Mなどのサイズによる分け方で3LとMに味や糖度の違いがない。しかし、なんとなく3Lご先に売れ、LやMが売れ残るというのだ。

更に、出荷規格は5㌔とか10㌔で、現在の核家族化や単身世帯には合わない。例えば、デコポンやオレンジなどで5㌔で15個前後の量だ。箱買いをしても良いが、とても一家族では消費ができないのだ。

伝統的な農家は、農産物を作った後は、JAなどの流通に持ち込む。集荷された農産物は品質ではなく、サイズや重さで価格が決まる。農家がどれだけ頑張っても、このリンゴはLサイズね。という感じで他のLサイズのリンゴと同様に扱われるのだ。

農家は、いいものを作りたい気持ちが高いが、市場の価格に合わせて品質を下げる農家と、それでも品質にこだわって生産する農家に分かれる。ただ、それが全体的な味という品質のバラツキにつながるのだ。更に、当然に農家に利益が還元さないので、言葉は悪いが手を抜いた農家が儲かる仕組みになっている。

消費者は、「糖度の高さ」「オーガニック」「品種」「個食サイズ」などを求めているが、それが販売戦略に組み込まれた集荷になっていないのだ。一方、直売所やオンライン販売では「小分け」「糖度保証」「希少品種」などの付加価値がつけられ、JAルートよりも高価格で販売されるケースもある。

本来は、小分け&家庭向けパッケージなどがあれば理想だ。例えば、デコポンなら2個セット、4個セットなどにして販売するのだ。そして、3Lや2Lなどではない、小さめのとうもろこしなども「スイートコーンミックス」などとして販売できれば良い。

根本は、集荷する組織が規格そのものをゼロベースで見直すことだ。糖度や品質の分類して、農産物に価値を付ける発送を持つのだ。糖度18以上のプレミアムとうもろこしなどと区別をつけて流通させると、商品単価はあがるだろう。

そう考えると、少し規模が大きな農家は出荷に任せるのではなく、農家自身が直接EC販売やスーパーとの提携でブランド化するなども考えられる。例えば、北海道の「雪の下キャベツ」や「甘熟トマト」のように、特定の栽培方法や品質でブランディングしてその価値を伝えて販売するのだ。

しかし、課題が残る。集荷する組織が規格を変えることは不可能だろう。これまでもそうだったから、やすやすと規格を見直して消費者に向くなど不可能だ。であれば農家が個別にブランドを作り、ECや法人に対して直接販売することが良さそうだが、ハードルはある。

まずは交渉だ。レストランや加工業者と直接取引する際、価格交渉や契約内容の調整が必要になる。規模が小さい農家は、営業ノウハウが乏しく、安定した契約を取るのが難しい。更に支払いサイト(入金のタイミング)の違いも問題だ。JA経由なら比較的安定するが、法人取引だと30日後、60日後払いなどになり、キャッシュフローが厳しくなるのだ。

次に安定供給の問題だ。個人農家は天候や病害虫の影響を受けやすく、安定した量の確保が難しい。飲食店や加工業者は「いつでも同じものが同じ価格で手に入る」ことを前提に契約するため、供給の変動が大きい農家とは継続取引しづらいのだ。農家側も、収穫量が少ないと高く売りたいが、契約価格を固定するとリスクが大きいと簡単に事が運ばないのだ。

品質も同様だ。レストランや加工業者は、毎回同じ品質の農産物を求める。しかし、自然相手の農業では品質がバラつくため、規格を統一するのが難しい。JAのような組織がここを管理すればいいのだが、実際にはサイズ基準ばかりで、味や品質管理は不十分ということを考えると、一つの小さな農家が行うには限度があるとだ。

本来、流通はこうした課題を解決し、農家の販路拡大をサポートすべき組織だが、現状は以下のようなことが観察できる。

– 「出荷さえすれば売れる」時代の規格が続く。
– 一括流通に適したシステムを持ち、個別ブランドや小規模農家の支援には非対応。
– 販路開拓のサポート不足
– 商社的な動き(交渉・マーケティング)をしておらず、農家がECや法人向けに販売する際の支援はほぼない。
– 柔軟な流通の仕組みがない。JAの流通網は一括出荷向けで、個別配送や直販サポートには向いていない。

とこれだけ見てみると課題天国でビジネスチャンスの香りがプンプン漂う。

例えば、流通を新たに担う組織が、農家同士のネットワークを再構築するのだ。上記の諸々の対応をその組織が担う。個々の農家が単独で対応するのではなく、複数の農家が共同で販売するのだ。例えば、「〇〇県や▲▲地域の有機農家グループ」として、共通ブランドを作る発想だ。

JAの組織を見直し、新たな流通組織を立ち上げるイメージだ。農産物のブランド化と販売支援を行い、新たな協同組織やスタートアップとして取り組むのだ。農家の代わりに交渉し、品質管理し、安定供給を保証する企業や団体があれば、農家も安心して販売できる。そして、ここにはデジタルの相性がとっても良い。農家の収穫予測データをAIで分析し、安定供給計画を立てる等だ。

本来は、「農家が直接売るのがベスト」だと思うのだが、交渉・安定供給・品質管理・ブランディングの問題で、小規模農家は難しい状況だ。そこで、その規模で頑張っている農家にフォーカスした新たな流通組織を立ち上げる。或いはその取組を支援するプラットフォームを作ることができれば、一地域から全国のエリアに拡大することが考えられる。

JAが上記課題の点において機能していないと仮定するならば、新たな農業流通組織のスタートアップは可能性があるかも知れない。

(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。

(著書の購入)
コンサルの思考技術
実践『ジョブ理論』
M&A実務のプロセスとポイント



コメントをどうぞ

CAPTCHA