早嶋です。6200文字です。
観光を次の産業にしようと言いながら、環境公害とかオーバーツーリズムという言葉を作るメディアがいる。何が問題になっているのか?
(訪日観光客のファクト)
まず、訪日外国人の推移は、コロナによって激減したが再び回復している。ピークは2019年の約3200万人。2022年から回復し、2023年は2500万人まで戻る。
年度 訪日外国人観光客数(人)※1
2013 10,363,904
2014 13,413,467
2015 19,737,409
2016 24,039,700
2017 28,691,073
2018 31,191,856
2019 31,882,049
2020 4,115,932
2021 245,862
2022 3,831,900
2023 25,066,100
訪日外国人の国や地域による傾向は2024年9月では以下の通りだ。韓国が1/4、中国が1/4で半数を占め、台湾が16%、香港が6%、米国7%と中国、韓国、台湾、香港で約7割を占めている。
国・地域 訪日客数(人) 全体に占める割合(%)※2
韓国 656,700 22.9
中国 652,300 22.7
台湾 470,600 16.4
香港 170,200 5.9
アメリカ 191,900 6.7
(観光客を取り巻く現象とリピーターの存在)
このようななか、国内の観光地での現象は、訪問地の集中、リピーターの増加、体験型観光への移行が鍵になっている。訪問地の集中は、東京、大阪、京都、北海道、福岡といった大都市や主要観光地に観光客が集中していることだ。多くの観光客は、食事やSNSで話題になっているスポットを訪れる傾向が強く、インスタや他のSNS媒体に自分の存在をマーキングしているのだ。しかし、リピーターに注目すると、何と約6割の観光客が2度目移行の観光なのだ。リピーターは、主要観光地以外の地方やディープな日本文化、自然体験に興味を持つ傾向があり、ここに注目することで地域であっても十分に観光事業をチャンスに変えることが出来るのだ。体験型観光への移行は、観光の目的が食事や観光に加えて、自然体験や伝統文化(例:茶道、陶芸、農泊など)に惹かれる人が増えていることがポイントだ。
当初、観光の目的が自然景観の鑑賞や、歴史や文化遺産の体験、食文化の堪能やショッピングなのだが、リピート観光客は、より日本を知りたい欲求が高まっている。具体的に2回目以上の観光目的は、地方エリアの探索、特定のテーマや趣味の追求と面白い。例えば、温泉巡りや伝統工芸の体験、アニメや漫画の聖地巡礼などだ。更に、その文化の興味は季節ごとのイベントや祭りへの参加などと深みも増していく。そして、究極には地元の人々との交流など日本にどっぷり興味を示す人がリピータの特徴だ。
●訪問目的の多様化
リピーターは、初回訪問者と異なり、観光地巡りやショッピングに加え、目的がより具体的になる。大都市以外の観光地として、北陸、四国、東北地方など、未開拓の観光スポットに足を運ぶ。テーマ別旅行として温泉、伝統工芸、アニメ・漫画の聖地巡礼、アウトドア活動(登山やスキー)など、自分の興味・関心に特化した旅行を計画する。季節限定の体験として、春の桜や秋の紅葉、冬の雪景色など、四季折々の風景やイベントを楽しむ。そして、文化体験として茶道、書道、着物着付け、農泊など、地元の文化や生活を直接体験するのだ。
●滞在期間の延長
リピーターは、日本の旅行事情や移動手段を事前に調べるため、初回よりも滞在期間が長くなる傾向がある。当然、地方を巡るため、宿泊地を複数設定することが多いし、都会での短期旅行よりも、ゆっくりとした旅を計画するのだ。
●費用配分の変化
初回訪問者が観光やショッピングに重点を置くのに対し、リピーターは費用を配分する傾向がある。地元の体験やツアーへの参加費や、高級旅館や地元の特産品、質の高いレストランでの食事など、資金には限界があるのが当たり前だが現状だ。
● 訪問国・地域別の傾向
中国・台湾・韓国からの旅行客は、家族旅行やグループ旅行で地方都市を訪れる傾向がある。そして温泉や美食、ショッピングを楽しむ。アメリカ・欧州からの旅行客は、自然体験や文化体験を重視し、山間部や農村地帯に足を運ぶ。英語が通じやすいエリアやガイド付きツアーは口コミで広がりやすく選ばれやすい。そして、リピーターの共通の傾向は、SNSや口コミを活用し、「まだ知られていない」「話題になりそうな」スポットを探索する意識が高いのだ。
(現時点で表面化している課題)
●Wi-Fi
訪日観光客の課題は以外にもWi-Fiだ。必ずアンケートにはWi-Fi環境が悪いという文言があるのだ。普通に見ると、Wi-Fi日本はつながっているだろう!と思うだろう。しかし盲点がある。日本人は通常、サブスクでキャリアにお金を払っているのでWi-Fiにそもそもあまり困っていない。子どもや学生はギガの制限があり、家庭や学校を離れた場合、無料のWi−Fiを探して上手く接続しているだろうが、訪日観光客の行動はそれと似ている。
そもそも、訪日観光客は、自国でもプリペイド(つまり使い切り)のSImカードが一般的で、日本のようにサブスク(定額の月払い)の契約は日本程普及していないのだ。特に通信料金が高いエリアでは、データ通信を使うときだけチャージするなどの従量課金も未だにある。実際、欧州や米国に旅行にいくと、短期滞在者向けのプリペイドSIMや柔軟なプランが多数用意されている。
米国や欧州などの多くの国では、カフェ、レストラン、公共交通機関、観光地は無料Wi−Fiが充実しているのだ。そのため日常的にWi-Fiを無料で活用する文化が形成されていてモバイルデータの必要性が低いのだ。
●コミュニケーション
公共交通機関を含め、訪日外国人は日本語を理解しているわけではない。かと言って、英語が通じる国民でも無い。そのため総合的にコミュニケーションに困難を感じている割合が多いのだ。更に、Web情報に至っても、多くが日本語のコンテンツばかりで英語や中国語、韓国語が少ない。仮に翻訳アプリを活用しようと思っても、上述のWi-Fiがつながっていなくてアプリが起動しないのだ。
そのため、たまたま訪日観光客が訪れてバズった場所に、情報弱者の訪日外国人がよってたかって向かうために慢性的な行列ができるのだ。オーバーツーリズムの背景も根本は同じだ。自治体や観光施設によって、事前予約を受け付けるが、そもそも多言語対応したサイトになっていない。そのためやはり偶然話題になった場所に物理的に行って並ぶしかないのだ。
(解決策の方向性:Wi-Fi)
基本的に、人口減少の日本が有能な人材を活用して多言語対応すること自体の方向性はみらいが無い。従い、ここは完全にWebやアプリの世界を充実するのが正解だ。具体的な解決策などもWiFi環境が充実していれば同時翻訳や、サイトの多言語化支援など難しくない。となると無料のWi-Fiを拡充するか、事前にポケットWi-Fiを借りてもらうかが大きな方向性になる。
●無料Wi-Fiの拡充
●入国前にWi-Fi環境は自己責任でという情報を出す
実際に、無料Wi-Fiを拡充するには、他国の事例は参考になる。
●政府や地方自治体
観光立国を目指すのであれば、訪日観光客の満足度向上は政府や自治体が準備するという考えだ。韓国は、地方自治体が地下鉄、公共バス、公園などで無料でWi-Fi環境を提供している。シンガポールは政府主導で市内全域を無料でWi-Fiを通している(「Wireless@SG」プロジェクト)。台湾も政府や観光地や公共施設では無料でWi-Fiを提供している(「iTaiwan」プロジェクト)。
●民間企業に
カフェ、レストラン、ホテル、ショッピングモールなどの民間施設では、集客や顧客満足度向上のため、無料Wi-Fiを提供している。費用負担は完全にその企業が負担し、顧客の利用は基本的に無料だ。スタバやマクドナルドなどのグローバルチェーンはWi-Fiを開放しているし、大型商業施設も同様に行っている。
●スポンサーシップ
一部の無料Wi-Fiサービスは、広告収入を得るために企業がスポンサーとなり、費用を負担している。ユーザーがWi-Fiに接続する際、広告動画を視聴するか、特定のページにアクセスすることで利用可能になる仕組みだ。欧州や米国の一部の空港では、広告を条件に1時間無料Wi-Fiを提供する。
費用負担を考えるのであれば、入国税や観光税を確実に訪日観光客からもらい、その資金を明確にWi-Fi整備やゴミや美化活動に充てる費用として予算化して、各自治体の温度を取って政府が整備すれば良い。
実際、東京都は宿泊税の全額を観光振興施策に充てている。主な事業として、Wi-Fiやデジタルサイネージなどの利用環境の整備、東京観光情報センターの設置・運営、都内の観光スポット等を記載したウェルカムカードの作成としている。Wi-Fi整備以外は効果があるか疑問だ。京都市も宿泊税徴収している。使徒は、市民生活との調和を最優先とした観光課題への対策強化、歴史的・伝統的な街並み景観や自然環境の保全・整備、文化芸術、伝統産業の振興と実態が不明だ。福岡県は、観光資源の開発・整備、観光プロモーションの強化、観光案内所の運営と発想がアナログかつ昭和なのだ。デジタルの世界に投資する発想が東京に若干あるのみで後は何をしているのか不明なのだ。
としても、ここは文化の違いなので、しばらく解決しないと思う。海外では、Wi-Fiがインフラとして重視され、政府や企業が積極的に投資する文化がある。一方、日本は、通信事業者の月額契約が一般的で、無料Wi-Fi整備の優先度が低くいのだ。その結果、外国人観光客にとっては無料Wi-Fiの少なさが不便と感じられる要因になっているのだ。
更に、日本ではセキュリティ意識が高く、無料Wi-Fiを使うことへの不安感が強い。無料Wi-Fiは盗聴やデータ漏洩のリスクがあると考えられ、企業や自治体が積極的に提供することを控える傾向も事実だ。ここも観光客向けWi-Fiの整備が遅れる一因でもある。
そして法規制の影響もある。無料Wi-Fi提供における日本の法律や規制が負担になっているのだ。利用者情報の収集やログ管理が義務付けられる場合があり、これが事業者にとってコスト増につながる。プライバシー保護や通信の監視などのルールが複雑なため、導入をためらうケースもあると聴く。
となると、2つ目の方向性で、Wi-Fiは日本ではインフラではないですよ!と事前に訪日外国人に普及する手もある。航空券のチケットを確約する際に、日本のWi-Fi環境を説明して事前にポケットWi-Fiなどの準備を促すのだ。
日本の観光問題は、Wi-Fiに自由にアクセス出来ると信じていた訪日観光客が実はネットに自由にアクセス出来ず体験価値を下げている。更に、仮にネットにアクセスしたところで、日本語のコンテンツが豊富で英語や他の国の言語での情報が少なく、結果的にメジャーな同様の人種が集まる場所に集中してしまっていることだ。
(解決策の方向性:多言語化)
インターネットの言語は1位が英語で約5割、スペイン語、ドイツ語、ロシア語、、フランス語、日本語がそれぞれ4%から6%の割合で、以下ポルトガル語、トルコ語、イタリア語と続く。中国語や韓国語のコンテンツはそもそもインターネット全体の世界から少なく、日本語のコンテンツは他国の言葉と比較して少ないわけではない。ただ、その中身が観光地や訪日観光客が欲しい情報かどうかは分からないが、欲しい情報にアクセス出来ないと感じているのは事実だ。
近年多言語のWebサイトを母国語に翻訳する、あるいは変換する技術は進歩している。ニューラル機械翻訳(NMT)技術の進展により、Google翻訳やDeepLなどが非常に高い精度の翻訳を提供しはじめた。翻訳の文脈理解能力も向上し、単なる単語の置き換えではなく、文脈に合った自然な訳が可能になっている。更に、ウェブサイトの多言語化は、Google Cloud Translation APIやMicrosoft Translator APIを用いることで比較的容易に実現可能だ。Google Chromeなどを使えば、自動翻訳機能も使え、ユーザーにリアルタイム翻訳を提供される。更に、AIによるリアルタイム音声・テキスト翻訳(例: Google Lens、Microsoft Azure AI)は、観光やビジネスシーンでの多言語対応をさらに簡易化し実用レベルにある。
もちろん、技術的な課題も多数ある。機械翻訳は文脈や文化的背景の深い理解がまだ十分ではないため、特定の業界用語やスラングを正確に訳せない。日本語やアラビア語は、文法や表現が英語と大きく異なるため、微妙なニュアンスが失われたり、理解されにくくなる可能性は残る。観光地の名称、特定のイベント、料理名などは直訳では正確さを欠く場合もある。更に、一般的な翻訳エンジンは、特定のターゲット層や業界に特化した翻訳結果を生成するのが難しいとされている。そのため動的なウェブサイトなどの技術は汎用的なので、観光や来日観光客に情報提供するには、チューニングや技術の開発は必要になるだろう。
こられらをベースに考えると、国や自治体が日本として、観光地専用の翻訳データセットを構築してAIモデルをトレーニングするなどすれば、より正確な翻訳が可能になる。そして単に翻訳するだけでなく、文化的背景や利用者の慣習を考慮したローカライゼーションを実施するのだ。例えば、日本の「おもてなし」文化は他言語で伝えるのではなく、解説をつけて伝えるようにする。「いきがい」などの概念も翻訳するのではなく、概念を説明するようにするのだ。それから機械翻訳の初期段階を叩き台として、ウィキペディアのように、人間が文脈やニュアンスを調整するハイブリッドアプローチをはじめから導入するのも大切だと思う。
(というものの実態は・・)
日本は税金は国が決めて徴収する。そして中央集権のように地方の分配を国が決めるので中央が強い。一方で、観光のWi-Fiの課題など、国が関与せずに地方に丸投げしている。そのため感度が高いエリアは対策を講ずるが、低いエリアは放置(しているつもりは無いかも知れないが)される。更に、地方によって取り組みが異なり、日本を移動すると地域によってかなりばらつきがあるのだ。プラットフォームの概念を持ち、共通化した仕組みを作った上で、APIなどでローカルのカスタムをする。全体の仕組みは国が音頭を取り、カスタムできる設計にする。などとするとよいのだが、それが出来ないのが我が国日本だ。ということでWi-Fiの問題は当面解決されないだろうし、ウェブサイトの多言語化、しかも訪日外国人に特化したデータセットやAI、一部では進むかも知れないが、公共やインフラというレベルになるのは随分と先だろう。
(参照)
※1 ジェトロ 訪日外国人統計
※2 ジェトロ 同上
※3 訪日ラボ