新規事業の旅145 テーマパーク

2024年11月4日 月曜日

早嶋です。12500字です。

2025年に沖縄の北部エリアにジャングリアが誕生する。この時期をもって、テーマパークの事業モデルについて考察を含めた。私が九州にいることから、USJやディズニーランドを中心に考えるのではなく、冒頭はスペースワールドやオランダ村を題材に、テーマパークの失敗要因を検討した。その後、テーマパークをゼロから立ち上げるためのコスト、ランニングコストのあたりを付け、資金調達の方法を考察。実際に、ジャングリアの公表されている情報をもとにスキームの検証をした。今回は、公共性の高い投資も含まれているため、一般に考える経済性などの評価をどのようにするのかを勝手に予測してみた。そして、ネックになるであろう来園数の議論を、同じエリアにある美ら海水族館をベースに考察。とここまで議論した場合、なんとジャングリアに投資したかった!となる読者が多数でるのでは無いかと勝ってに考えた次第である。実際は、2025年以降の開業を追わなければ分からないが、大きなプロジェクトが動き始めているのは事実だ。

(スペースワールド)
スペースワールドは開業当初、テーマパークとして大きな注目を集めた。しかし、経営環境の変化が影響し撤退。バブル崩壊後の日本経済の停滞、レジャー施設への需要低迷等が重なり集客が減少したのだ。更に、国内外の競合施設(ディズニーランドやUSJなど)の台頭により、スペースワールドの魅力が相対的に低下した。

スペースワールドは開業時、宇宙をテーマにした設備やアトラクションに大規模な投資を行った。特にジェットコースターやシミュレーターなどの最新技術を用いたアトラクションは初期投資が大きく、運営コストもかかっていた。集客が多い時期は良いが、集客が減少しても維持費が一定かかり、経営に大きな負担があったことを推測できる。

2016年に発生した「氷の水族館」問題は、イメージの悪影響を加速させた。このイベントでは、凍らせた魚を氷の中に閉じ込めて展示する内容が動物愛護の観点から批判され、結果として展示が中止される事態に陥る。この事件はメディアで大きく取り上げられたので、来園者数の減少に拍車をかけた。

当初、スペースワールドは新日鉄が主導で設立したテーマパークで、のちに親会社となった西日本鉄道(西鉄)が運営を引き継ぐ。しかし、親会社の方針転換や事業の見直しにより、2017年末をもって閉園する決断が下された。西鉄は、不採算事業からの撤退や、より収益性の高い事業への資源集中を進めた結果なので、合理的な判断を下したと思う。

(長崎オランダ村)
オランダ村は開業当初、ヨーロッパ風の街並みや庭園が観光客を魅了し、多くの来場者を集めた。しかし、開業から数年が経つと、新鮮味が薄れ、競合施設も増えたため集客が減少。欧風の街並みを再現するために、施設の維持管理には多額のコストがかかっていた。特に、海外から取り寄せた建築資材や装飾品などが多いため、施設のメンテナンスに必要な費用が高騰し、収支のバランスを悪化させたのだ。

長崎オランダ村は、交通の便が比較的良くない場所に位置していたため、都市圏からのアクセスが不便だった。これにより、他のテーマパークや観光施設と比べて集客が難しかったとされる。長崎オランダ村が開業したのは1983年で、バブル経済の好景気の中。しかし、バブル崩壊後、観光やレジャー産業に対する消費が冷え込む中、オランダ村も経営に打撃を受け、集客の落ち込みが深刻化した。

同じ九州内で開業したハウステンボス(1992年開業)が、より本格的なオランダの街並みを再現していたため、観光客がハウステンボスに流れる。これにより、オランダ村はさらに厳しい競争に直面する。これらの要因が重なり、長崎オランダ村は経営が立ち行かなくなり、結果的に撤退・倒産した。

(失敗要因の整理)
スペースワールド、オランダ村など、九州を見るだけでも多数のテーマパークが誕生して、同じような要因が重なり経営が行き詰まっている。主な原因は以下だ。

●立地とアクセスの不便さ
主要都市や空港から遠いと、訪問者がアクセスしづらくなり、集客力に影響する。長崎オランダ村は都市部から遠くアクセスが不便だった。また、交通インフラが整っていない場所だと、特に家族連れや外国人観光客にとって不便さが増大する。

●経済
テーマパークの来場者数は経済状況に比例する。バブル期は多くのテーマパークが開業したが、バブル崩壊やリーマンショック後の不況により、レジャーに対する消費が減少。経済が停滞すると、家族連れや若年層が訪れなくなることも多く、テーマパークの収益に影響する。

●運営コスト
テーマパークの施設やアトラクションの維持・管理には多額のコストがかかる。特に、特別な設備や輸入品を多用したテーマパークでは、運営コストが非常に高く、収益を圧迫する。ディズニーランドやUSJのような大規模施設ならば新規アトラクションの追加やリニューアルを行う余力があるが、資金不足の中小規模のテーマパークではそれが難しい。

●一見さん
はじめは良いが、リピートがつかなければ、年々集客は困難になる。例えば、ハウステンボスが成功した一方で、同じオランダをテーマにした長崎オランダ村は規模や内容で劣り、観光客が流れてしまった。観光客にとって他に代替できる施設がある場合、わざわざ訪れる動機が薄れてしまうのだ。

●テーマやアトラクションの陳腐化
開業当初は話題となったテーマやアトラクションも、時が経つと新鮮味が失われる。これを防ぐためには、新しいアトラクションの追加やリニューアルが必要だが、資金不足や企画力の不足が障害になることが多い。また、テーマがニッチすぎる場合、広範囲の客層を引き付けられない可能性もある。

●総合するとマーケティング力不足
立地の選定、テーマの決定やその後との取組などテーマパークは企画と運営そのものだ。定期的なプロモーションや魅力的なイベントの提供がなければ、リピーターを増やすことができない。特にSNSやインフルエンサーを活用したデジタルマーケティングが活発な中、広報活動が遅れているテーマパークは競争に置いていかれる。

中小規模のテーマパークは、運営そのものよりも、テーマパークを開園することに力を注ぎ、その後のリトルハイアである運営や追加投資、設備の維持メンテナンスを行いながらの運営の想像力が欠如していたのだ。

(テーマパークの開発)
数そのものが少ないので、一般化し抽象化できる概念では無いと思うが、初期投資とランニングコストは推定できる。

●初期投資
テーマパークを建設する際の初期コストには、大規模投資だ。まずは、用地取得費。利便性が良ければ、土地の規模は望めなくても費用が膨大になる。広さを求めると地方や栄えていない場所になるが、その後の集客コストや他のインフラを整備するコストが高くなる。インフラ整備として、道路、駐車場、上下水道、電力などのインフラも郊外であればほぼゼロベースでコストが必要になる。

次に建設費用。アトラクションや施設(レストラン、ホテル、ショップ、トイレなど)の建設には莫大な費用がかかる。アトラクションは特に高額で、最先端技術を用いたものでは数十億円に達することもあるだろう。ディズニーのように大規模なアトラクションの場合は、1つの規模で100億を超えることも珍しくないのだ。

もちろん、もっと上流工程には、テーマの設定やデザインなどの企画が必要だ。独自のテーマを設定し、建築デザイン、内装、外装に反映させるために専門家を起用するだろう。内製化したところで、一定の規模に慣れば期間が必要だし、その後の運営時のことを考えると無視できないコストだ。もちろん、その企画の中に既に人気のキャラクターやストーリーがあればライセンス料や特許のような権利費用が発生するだろう。また、オープン前からの告知や運営を始めた後の定期的な集客や認知、リピートを増やすための費用も必要な項目だ。

ディズニーランドやUSJは、これらを含めて初期投資が数千億規模になっているのは良く知られていることだ。

●ランニングコスト
テーマパークの運営におけるランニングコストを考えてみる。大きいのは人件費だ。運営スタッフ、管理者、メンテナンススタッフ、エンターテイナーなど、多くの従業員を雇用するための費用が必要だ。

次に、設備の維持メンテナンス費用だ。アトラクションや施設の維持管理には定期的なメンテナンスが必要で、特に大型アトラクションでは高額になる。入場者数と単価をベースにPLを予測して、メンテナンスコストの妥当性を把握するだろう。下振れよりもコスト高の上振れが激しく予測できる。更に、入場者が想定通り来園しなければ、コスト圧迫は当然大きい。電気代や水道代も馬鹿にならない。大規模施設のため、光熱費や水道費が膨大だ。夜間イベントやエンターテイメントショーにかかる電力も必要で、供給側と特別な交渉等が必要になる。

ライセンスを使用している場合、これらの契約は定期的に更新する必要がある。ただライセンスを持つ側が力が強く、継続的なコストは一定ではなく、通常は緩やかであるが右肩りになるだろう。そして、都度マーケティングや企画などの費用がかかる。集客を維持できなければ破綻するビジネスモデルナので、ここはぜひ内製化して強化したい機能だ。

ディズニーランド等の資料を色々入れば、ランニングコストで年間に数百億円規模のコストが発生している。アトラクションの更新、施設の修繕、新規アトラクションの開発なども含まれた数字だ。

総じて、小規模テーマパークで数十億から数百億、中規模で500億から1,000億、大規模で数千置くの初期投資をかけている。年間のランニングは数十億から数百億円程度だ。過去の資料を見れば、USJの初期投資は1,800億程度で年間の運営コストは500億程度で約3割。ディズニーランドも投資額の2割強のライニングコストをかけていると想定できる。従い、15%から30%のランニングコストが掛かるのだ。

(国内のテーマパーク)
東京ディズニーランド、ユニバーサル・スタジオ等を代表として上げ、九州の芽からハウステンボスも加えた。他に、山梨の富士急ハイランド、三重県のナガシマスーパーランド、同じく鈴鹿サーキットモートピア、志摩スペイン村、愛知県のレゴランド、栃木の東武ワールドスクエア、熊本件のグリーンランドなど、全国には結構な数のテーマパークが存在する。小規模なテーママークを含めると地域ごとに特色のある施設が展開されている。これらは主に近隣エリアの地域住民に対して提供されているので、エリアや地方がずれると認知度が一気に低迷することだろう。ただ、日本はまだまだアトラクション天国なのだ。

テーマパークの収益状況だが、東京ディズニーリゾート(東京ディズニーランドおよび東京ディズニーシー)を運営するオリエンタルランドの23年の売上高は6184億で純利益は1202億で過去最高記録だ。40周年記念イベントとコロナ後のインバウンド客の獲得と同社は説明する。

USJは23年も3600億円以上の売上で前年を上回る。スーパー・ニンテンドー・ワールドやハリー・ポッターのエリアが観光客に人気で、海外からの観光客数も回復し、収益に貢献している。

一応、ハウステンボスは、22年度の営業利益が約2.6億円と報告されている。コロナ禍からの回復が見られるものの、他の大手テーマパークと比べると規模が小さいため、経営の安定には引き続き挑戦が伴うだろう。

(ジャングリアの資金調達)
沖縄北部で建設中のテーマパーク「JUNGLIA(ジャングリア)」は、総工費約600から700億円と報道される。規模的にみると中規模程度だろう。ゴルフ場跡地を有効活用して、沖縄の自然環境を生かした新しい体験型テーマパークで2025年の開業を目指している。母体は森岡毅氏が率いいる株式会社刀が推進するSCOM沖縄テーマパーク投資ファンドだ。地域の活性化や観光振興、雇用創出などを目的としてプロジェクトとしての位置づけだ。ファンドの総額は15.6億なので、総工費は複数の資金調達手段を組み合わせていると推測する。通常は、出資、負債、プロジェクトファイナンス、補助等の組み合わせだ。

出資金は、自己資本部分に相当し、投資家や企業が株式を取得する。ジャングリアを運営する株式会社ジャパンエンターテイメント(JE)の資本構成は、複数の投資家からの出資で成り立つ。資本金は9900万円だが、事業を支えるために大幅な増資が行われ、株主資本は224億円にまで増額されている。出資者は、株式会社刀(森岡毅氏が率いる企業)やオリオンビール、全保連、サムティ株式会社、第一交通産業などが含まれ、地域経済や観光産業の活性化を目的としたソーシャルファイナンスも活用している。これは、沖縄北部での地域創生を図るプロジェクトで、地元企業や金融機関を巻き込み、多面的な支援を得るものだ。

大規模プロジェクトでは、銀行や金融機関からの借入による資金調達も行う。ジャングリアでは、政府系金融機関の商工組合中央金庫(商工中金)が運営を担うジャパンエンターテイメント(沖縄県名護市)に対して366億円の協調融資を組んだと発表している。琉球銀行や全国の地銀、政府系の沖縄振興開発金融公庫など計13金融機関で事業資金を融資する。商工中金と琉球銀が共同で幹事(アレンジャー)を務め、融資額の内訳は商工中金が80億円、琉球銀が50億円、その他11金融機関で236億円。22年9月に契約している。600から700億円程度とされる事業費のうちおよそ半分の規模だ。協調融資はシンジケート・ローンとも呼ばれ、複数の金融機関が1つの借入人に対して共通の契約条件で融資する方式だ。ジャングリアのように資金需要が大きく、1つの銀行だけではリスクを負えない場合やリスク分散のために用いられる。

プロジェクトファイナンスも良く活用される資金調達手法だ。テーマパークなどの長期にわたる事業に対して行われる資金調達手法で、プロジェクトの収益性に基づいて融資が行われる。通常、出資者と融資者がリスクを分担し、投資家がリターンを得られる構造が採られる手法だ。他には、補助金もある。今回の沖縄のような地域振興を目的とするプロジェクトでは、政府や地方自治体からの補助金や融資が提供されることもあるのだ。具体的な内容はわからないが、運営会社に対して、観光人材を育成する使徒で、補助金を活用するニュースは見られた。

事業費全体の600億から700億の内訳の正確な数字はわからないが、準備会社としてJEを設立し、ある程度の構想が固まった時点で、森岡氏の刀がJEにメジャー出資で30億程度行った。刀の資金調達は大和証券と組んでいる。大和証券は刀に対して140億の出資をしている。JEの資本構成が9900万から始まり、事業を支えるための増資で224億まで増やした。そして、商工中金や地元琉球銀行などを中心に13の金融機関からの協調融資で366億円。合計すると600億は集めていることになる。複数の資金調達を実際に組み合わせながら行っているのだ。テーマパークをゼロから立ち上げる際の資金調達の事例として参考になるケースだ。

(経済効果の予測)
新規事業を行う際、ジャングリアのように大きな初期投資をする際など、かならず資本家から経済効果の問を受ける。ジャングリアを事例にどのように考えるか整理してみよう。最終的に正解はないが、一定の合理的な推定と根拠は必要になり後は、実行者の信頼や熱意が全てになるのが実務の世界だと思う。

ジャングリアは、沖縄北部の自然環境を活かしたテーマパークで、2025年に開園予定だ。このプロジェクトには総額約600から700億円の資金が投入され、観光産業への大きな貢献が期待される。その際の経済効果は次の要素が加味された。

●観光客の増加
国内外からの観光客の引き寄せ効果だ。当然、沖縄全体の観光収入を押し上げることが期待される。特に沖縄の北部地域は、これまで観光の中心から外れていたため、地域の活性化に大きく寄与する見込みだ。

●雇用創出
パークの運営や周辺施設の開発に伴い、地域の雇用機会が拡大する。テーマパーク自体のスタッフに加え、関連するサービス業(宿泊、飲食、交通など)にも波及効果があるだろう。

●地域企業との連携
地元企業や全国的な企業がプロジェクトに参加し、オリオンビールや近鉄グループなどがパートナーになっている。この連携による沖縄経済全体への波及効果が期待される。

上記のように、まずは考えられる定性的な要素を網羅して影響の波及を考える。そして、次にそれらを何らかの手法を使って定量的な数字に落としていく。

●直接的な観光収入の増加
沖縄北部地域に年間数十万から100万人以上の観光客が訪れることが期待される。というか、そのくらいの規模が来ないと600から700億の投資は回収できない。1人あたりの平均観光支出を10万円と仮定しよう。100万人の観光客で1,000億円の直接的な観光収入になる。もちろん、入場料、宿泊費、食事、交通費、アトラクション利用料などを含む数字だ。基本的に、詳細に分析しても正解はない。まずは事業を単純化して大きな数字のあたりをつけるのだ。

●雇用創出効果
ジャングリアの運営や関連するホテル、レストラン、交通サービスにおいて、多数の新規雇用が生まれる。推定すると数千人の雇用が直接または間接的に創出されると予想できる。テーマパーク自体の従業員、周辺地域のサービス産業にも雇用効果が及ぶだろう。例えば、諸々のサービス従事者が単純に数千人規模で増加した場合、一人の年収が400万だとして、その1.5倍から2倍の間接的な波及効果が発生する。400万円の収入を持つ従事者が地域で消費(家賃、食品、生活用品、娯楽等)すると、更に波及して関連する小売や不動産、飲食業にお金が流れ循環するからだ。
従い、雇用が1000人生まれたら、400万×1.5(乗数効果を1.5とした場合)×1000人で600億。5000人の場合3000億と皮算用が出来るだろう。

●地域経済の波及効果
ジャングリアは地域経済への波及効果も大きく、地元の小売業、農業、飲食業などが恩恵を受けると予想できる。例えば、施設建設や運営に伴う地元の供給業者との取引が発生し、経済活動が活発化する。一般的に、観光施設の経済波及効果は直接投資額の2倍から3倍とされるため、総工費600億円を基にすると、1,200億円〜1,800億円の経済波及効果が見込まれる。ただ、この考えは、上記の従業員による効果とダブルところもあるが経験則的な数字と定数を加味することで、一定の規模の数字が推定できるのだ。

●地域振興と人口流入
沖縄北部の地域振興としての役割もあり、観光客だけでなく、テーマパーク関連の施設や事業が拡大することで、人口流入や地元企業の新規設立が促進される可能性もあるだろう。これにより、地域の税収も増加し、さらに長期的な経済効果も期待される。

このように考えると、ジャングリア規模の開園によって年間1000億の直接観光収入、数千人規模の新規雇用、2000億前後の経済波及効果が見込まれる。というのをたたき台として議論を進めていると思う。

(立地から推定したコンセプト)
ジャングリアが結果的に沖縄北部に選定された理由はいくつかあるだろう。おそらく、初めに沖縄でやりたかったと思う。実際、USJの執行役員をしていた2011年から沖縄のテーマパーク建設に関心を寄せていた。当時は、名護市のネオパークオキナワ周辺を候補地として検討していたが、親会社の方針転換により計画と構想は2016年に中止されている。その後、森岡氏は2017年に独立。株式会社刀を設立して、沖縄でのテーマパーク構想を再始動させたのだ。2025年夏の開業を目指しているのだ。その情熱はすごいと思う。

上記を加味して、ジャングリアが沖縄北部に選定された理由を考える(実際は、沖縄北部の土地が可能性として残り、ジャングリアのコンセプトが固まったと私は思っているが)。

沖縄北部のやんばる地域。これまで未開発で、あまり注目が無かった。従い、豊かな自然と生態系を持つ世界自然遺産というカタチでエリアの自然が残っているのだ。ジャングリアは、ゴルフ場跡地という既存の開発された土地を利用することで、テーマパークの開発費を抑えれる検討ができたのだろう。そして、自然環境への影響を最小限に抑えることが目的だというように解釈していると思う。場所の設定から自然環境をテーマにしたジャングル体験というコンセプトを練りだした可能性はあるだろう(完全に私の推測だが)。

(失敗の懸念)
当然に何だって裏と表があり、ジャングリアに対しても失敗の声は多数あがる。プロジェクトを立ち上げる時はその両面をしっかりと把握して、そこに対しても武装しリスクを軽減できるかを検討することが大切だ。

ジャングリアの場合、最も言われるのはアクセスだろう。沖縄北部は観光客が集中する那覇や中部地域から距離があり、観光客が訪れるのに時間やコストがかかるのだ。交通インフラの整備は十分とわ言えない。これが集客に悪影響を及ぼすリスクが指摘されているのだ。

次に、コンセプトだ。自然と調和したテーマパークとして差別化を図ろうとしているが、日本にはディズニーランドやUSJなど、国際的に成功している大型テーマパークが存在している。これらの施設とどう差別化を図るかは、必ずネガティブリストにあがるだろう。

コロナを経験したことで、観光需要の不確かさを指摘する人もいるだろう。どの観光地も、新型コロナウイルスの影響から回復しつつあるものの、国際情勢や経済の不安定さにより、観光需要が変動しやすい状況だ。国際観光客に依存する場合、国際情勢や渡航制限の影響を受けやすく、観光客数が計画通りに推移しないリスクはあるだろう。

沖縄全体の問題として、台風の影響だ。自然災害がテーマパークの運営に影響を与えるリスクだ。また、ジャングリアは自然環境との調和を謳っているが、開発が進む中で環境保護団体や地元の反発を受ける可能性もある(この場合、かなり政治的な意図が因果の可能性があるが)。

当然、運営コストと収益のバランスも指摘されるだろう。600から700億規模の投資だ。誰も取り組んだことがない。実際の完成とランニングにおける運営にもコストがかかる。上述でも行ったが、集客人数をベースに諸々の数字が変化すると投資回収が危うくなる事業リスクだ。

リスクとリターンは表裏一体だ。常に、上記のようなリスクを整理しながらジャングリアの投資と着工は進められている。ポイントは言語化して、そこに対してどのように対応するかを常に考え、実際に運営が始まっても繰り返し実験と検証とその結果を将来にフィードバックすることが必要になる。そこは運営母体に森岡氏のマーケティングセンスで解消できると皆が思っているから投資しているのだ。

(ジャングリアの来園数)
テーマパークの失敗については、(失敗要因の整理)でスペースワールドやハウステンボスを事例に整理した、要点は以下だ。
●立地とアクセスの不便さ
●経済
●運営コスト
●一見さん
●テーマやアトラクションの陳腐化
●総合するとマーケティング力不足

ジャングリアについて考察しよう。まずは、立地だ。立地に対しては、今後変えることは出来ない。かといって、高速道路や交通インフラは整備されるだろうが、鉄道などの根本的な解消は遠い将来だろう。それを見越しての計画だから一旦無視してみよう。更に、経済は、全ての事業に言えることなのでこれも無視しよう。運営コストとテーマアトラクションの陳腐化は、結局は集客してファン化させるなど、一定以上の来園者を常に確保することだ。もちろん、マーケティングに対しては運営母体がマーケティングの会社だから、他の事業者よりは有利なはずだ。投資家の期待もそこにあると言って良いと思う。

となると、ネックは集客なのだ。ここについて少し数字を加えて検証してみたい。ジャングリアの年間利用者数については、公式に具体的な数値はまだ発表されていない。しかし、類似の大型テーマパークに基づく推定はできる。沖縄北部に位置するジャングリアは、国内外の観光客をターゲットにしており、特に自然と調和した新しいタイプのテーマパークとして、USJや東京ディズニーランドと異なるコンセプトを打ち出している。それでも最低年間100万人来ないと収支は超厳しいだろう。ここを底として考えてみる。

まずはマクロの数値だ。過去10年程度における沖縄の観光者数は増加傾向が続いていたが、新型コロナウイルスの影響で大きな変動があった。2019年には観光客数が約1,000万人を超え、特に外国人観光客が増加していた。しかし、2020年から2021年にかけては、コロナ禍による入国制限や旅行自粛が影響し、観光客数は大幅に減少。2021年には約300万人程度まで落ち込んだ。2022年から2023年にかけて、コロナの影響が緩和され、特に国内観光客が回復した。2022年には国内観光客が約565万人に達し、前年から約87%増加となった。外国人観光客も徐々に回復しつある。

2023年からは、1月から6月が毎月70万から90万人の観光客で、7月8月は100万を超える。9月から12月まで70まんから80万の観光客がきている。2024年は23年と同様で7月8月は100万人を超え、他の月は70万から90万人の観光客だ。

総じて、年間1000万人は沖縄に観光として戻っていることが分かる。この数字をベースに考えてみよう。ジャングリアは、常に沖縄の観光客の10%の数字を確保することができれば、100万人の年間来場者を確保できるという計算だ。

因みに沖縄は離島だ。母数の1000万人は直近のピークの数字だ。仮にこれを2倍にしようとするのであれば、飛行機や船のインフラを2倍にする必要がある。那覇空港は2020年3月末に第二滑走路が供用開始されている。沖縄は国内線のハブ空港だ。平均搭乗率も7割後半から8割前半と予測する。総合的に考えると多少は上振れがあってもそれがピークで月に100万人なので、1200万人の年間観光客がピークと考えて良い。当面の間は。従い、ジャングリアのポテンシャルは1000万人をベースに考えるのは妥当だと考えた。

(美ら海水族館での考察)
ジャングリアの年間100万人。この数字だけ見ると難しそうだが、同じエリアの美ら海水族館を見ると達成可能に見えてくる。美ら海水族館の年間の利用者は2010年代を通して約300万人前後を推移しているからだ。ピークは年間約378万人で、日本の水族館では最も多くの来館者数を誇っている。パンデミックで沖縄の観光客数とともに減少するも、近年は再び回復している。

ちなみに、美ら海水族館の直近の収支を調べてみた。2022年度で経常収益は約102億7千万円、経常費用は約93億2千万円で9億5千万円の黒字を計上している。この黒字は、新型コロナウイルスの影響が薄れ、観光客が増加したことが大きく寄与している。ただ、沖縄県からの指定管理料の7.5億も提供があるのでトントンの数字だ。

美ら海水族館の入館料は近年値上げして大人2180円(高校生1440円、小学生720円、6際未満無料)だ。館内のショップやレストランの出費は1000円から3000円程度としたら大人が一人当たり4000円から5000円支払うことになる。300万人×5000円=150億と年間の収支とおよその数字はあっている。

美ら海水族館までのアクセスは車だ。従い、レンタカー、バス、タクシーの選択肢だ。沖縄に訪れる観光客の多くは、那覇空港でレンタカーを借り、美ら海水族館へ向かう。那覇空港から水族館までは、沖縄自動車道を利用して約2時間(距離は約90km)。これが最も一般的なアクセス方法だ。ジャングリアもこのシミュレーションを参考にしていると思う。

一方で、車を利用できない観光客向けにバスも運行されている。那覇空港から美ら海水族館までの直行バスがあり、高速バスや観光バスツアーが提供されている。バスでの移動時間は約3時間ほどだろう。他に、タクシーや観光タクシーを利用する人もいるが、費用が高額になるため、特定のニーズに応じた方法としてマイノリティだろう。

美ら海水族館の駐車場は約2000台分ある。駐車場は無料で団体観光客用のスペースも十分に確保されている。年間300万人の来場者があるとした場合、1日あたり1万人弱だ(ピーク時の378万人でも1日あたり10,300人だ)。1台で4人ベースでも、4人×2000台で8,000人。団体の移動を考えるとこれも数字上の計算はあっている。

(ジャングリアの立地と100万人)
ジャングリアまでのアクセスは、ほぼほぼ美ら海水族館までのアクセス(約80㌔)と変わらない。実際は、ジャングリアの方が若干遠くなる(約100㌔)が、那覇を起点に考えた場合の違いは、そう感じられないだろう。

となると、やはりメインの移動手段は自動車で、レンタカーが主戦場になるのだ。高速バスも運行されるだろうが、美ら海水族館と同じような割合になるだろう。観光タクシーや長距離タクシーもあるが、ここは美ら海水族館同様、一部のマイノリティの利用だ。

改めて100万人の来場者を考えた場合、なんか問題無く達成できる数字に見えてくる。1日あたりで2740人だ。もちろん季節変動や時期によって変わるだろう。そして台風の影響もあり、コントロールできない部分もあるだろうが、美ら海水族館の規模の3割から4割で収支が取れる計画であれば、それを凌ぐ来場者は確保できるのではないかと考える。実際、そのように結論付けたので600億から700億のお金が動いているのだ。

ジャングリアは、日帰りの設備ではなく、滞在型だ。ジャングリアには、宿泊施設の開発計画が含まれている。具体的には、不動産開発会社のサムティ株式会社がオフィシャルホテルを建設する計画が進められており、テーマパークと宿泊施設の一体運営により、訪問者に充実した滞在型の観光を提供することが目指さしている。また、ジャングリアが位置する沖縄北部には、他にもリゾートホテルや宿泊施設が点在している。

現在、ジャングリアの入園料金に関する公式な発表はまだ行われていない。しかし、他の大型テーマパークの料金を参考にすると、7,000円から10,000円程度になる可能性があると予想できる。

年間100万人の来場があり、テーマパークの入園料のみで1万円人した場合、収入は全て大人前提で100億円。これまでの議論から運営費用や人件費、メンテナンス、マーケティング等を加味して初期投資の20%前後とした場合。ジャングリアの初期投資が600億円だと120億円の運営費がかかる。10%だと60億、20%だと120億。年間の運営費が100億であれば、100万人の来場者でトントンのラインだ。美ら海のように300万の来園が維持できるラインになると一気に収支があかるくなるが、ここらへんの数読みは無数にされているだろう。

(まとめ)
成り立つかどうかは正確には分からない。将来に答えを見れば明らかになることしか分からない。しかし、森岡さんの取組に対して、600億から700億の資金が動き、プロジェクトが既にはじまっている。全体の議論としては他に漏れもあるだろうが、大枠は抑えれていると思う。2025年の開園が待ち遠しくなったのは間違い無いと思う。



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