早嶋です。1900文字。
スタートアップと提携、あるいは資本提携を結ぶ際に、一般的に締結を検討すべき項目について整理する。もちろん、契約は全てケースバイケースで、適宜専門家のアドバイスと共に進めるのが正解だ。見通しを良くする目的で記述する。
■株式購入契約書(Stock Purchase Agreement, SPA)
スタートアップの株式を購入する際に交わす契約書だ。この契約書は、購入する株式の数、価格、支払い条件、取引が成立するための条件を記載する。ポイントは以下だ。
●価格と条件:株式の価格や支払い条件、購入株式数を明確に記載する。
●表明保証:スタートアップが提示する情報が正確であることを確認し、これを契約書に明記する。将来的なリスクを軽減するために重要だ。
●取引の条件:取引が成立するための条件(例:デューデリジェンスの完了、必要な承認の取得など)だ。
■株主間契約書(Shareholders’ Agreement, SHA)
複数の株主が存在する場合、株主間の権利義務関係を定める契約書だ。この契約書は、株主の権利、株式の譲渡制限、会社の経営方針に関する決定方法などが規定される。ポイントは以下だ。
●株式の譲渡制限:株式を第三者に譲渡する際の制限や優先交渉権(ROFR)を定めることが重要だ。
●株主の権利と義務:各株主の持つ議決権や、経営への関与の度合いを明確にする。
●紛争解決メカニズム:株主間の意見対立が発生した場合の解決方法を定める(例:調停、仲裁)。
■業務提携契約書(Strategic Alliance Agreement, SAA)
スタートアップと大企業が協業を進めるための契約書だ。業務提携の具体的な内容、各社の役割、利益分配の方法などを記載する。ポイントは以下だ。
●提携内容の明確化:どのような業務で協力するのか、具体的な内容と範囲を明確に定める。
●役割と責任:各社の役割と責任範囲を明確にし、曖昧さを排除する。
●知的財産権の取扱い:提携により生じる知的財産権の帰属や利用条件を定めることが重要だ。
■技術供与契約書(Technology Transfer Agreement, TTA)
大企業がスタートアップに技術を提供する場合や、逆にスタートアップが持つ技術を大企業が利用する場合に締結する契約書だ。ポイントは以下だ。
●技術の範囲:提供される技術の具体的な内容や範囲を明確に定める。
●利用権と制限:提供された技術をどのように利用できるか、利用範囲や制限を規定する。
●知的財産権:提供された技術に関する知的財産権の帰属と、その後の管理方法を定める。
■秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement, NDA)
提携前や提携中にやり取りされる機密情報の保護を目的とした契約書だ。ポイントは以下だ。
●機密情報の定義:機密情報の範囲を具体的に定義し、何が保護対象となるかを明確にする。
●情報の管理方法:機密情報をどのように管理し、どのように取り扱うべきかを規定する。
●期間:秘密保持の義務が続く期間を定める(例:契約終了後も一定期間継続するなど)。
■出資契約書(Investment Agreement, IA)
スタートアップへの資本注入を行う際に、出資条件やリターン、権利義務関係を定める契約書です。ポイントは以下だ。
出資条件:出資額、出資方法、出資する際の条件(例:目標達成の基準)を明確にする。
権利と義務:出資者としての権利(例:取締役の指名権など)と、義務(例:追加出資義務の有無など)を定める。
リターンの取り決め:出資によるリターンの計算方法や、将来的な資本の払い戻し条件を明示する。
■オプション契約書(Option Agreement)
スタートアップの将来的な株式購入権を付与する契約書だ。大企業が将来的に株式を追加で購入できる権利を確保するために用いる。ポイントは以下だ。
●オプション行使条件:どのような条件でオプションを行使できるか、具体的な条件を定める。
●価格の設定:オプション行使時の株式購入価格や、それを算定する方法を規定する。
●有効期限:オプションを行使できる期間や期限を定める。
上述した契約書は、スタートアップとの提携や資本提携を進める際に重要な役割を果たす。契約書を作成する際、法務部門や専門家の協力を得て、提携の目的やリスクを十分に考慮しながら、適切な条項を含めることが必要だ。契約書の内容が明確で、双方の理解が一致していることが、成功する提携の基盤となる。
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