新規事業の旅136 スタートアップと大企業

2024年8月30日 金曜日

早嶋です。(約1万字)

スタートアップ企業は、経営資源である、ヒト、モノ、カネが常に不足する。大企業も然りだが、それよりも当然に悲惨だ。その環境下、自分たちのアイデアや仮説を検証すべく日々チャレンジしている。しかし、構造的な仕組みから商品(製品・サービス)開発に重きを置き(そうなってしまう)、その後の販売や販促の設計まで目が届かない。更に、販売後の商品のフォローや顧客のサクセスの実装にも常に課題が残る。

(構造的に商品化に資源を注ぐ理由と打開策)
企業のバリューチェーン(VC)を考えると、一定、その理屈が説明できる。VCは上流工程から企画開発や研究開発があり、徐々に調達製造や物流購買、そして販促販売、メンテナンスやサクセスと続く。上流工程は企業側の取組で、下流工程に近づくと顧客側の取組になる。事業はいきなり全ての機能を実装することはできない。規模とともに時間がかかるのだ。従い、上流工程の着手から始まるのが常だ。

VC全体を効率的にカバーすること。スタートアップにとっても重要な問題になるのだ。商品がなければ商売ははじまらない。最もなことだが、事業の成功において販売戦略やカスタマーサクセスの実装は不可欠だ。この問題に対処するため、スタートアップが取るべきアプローチは次のオプションがある。

リソースの最適化とアウトソーシング
重要な開発段階を自社で行い、販売やカスタマーサクセスの部分をアウトソーシングすることだ。限られたリソースを効率的に活用する。実際、スタートアップのフェーズでは、シードで計画を練り、アーリーで商品化、ミドル頃よりテストマーケティングに進む状況を観察する。リソースを商品化に注いでいるのだ。

アライアンスやパートナーシップの構築
一方で、実際の販売やマーケティングに強い企業と戦略的に提携を通じて、バリューチェーンの下流部分を強化するアイデアもある。この場合、なんとなく組み立てるよりは、意図的に、どのくらいのフェーズにいくと販売が必要になるかを鑑みながら企業にアプローチを取るなどが大切になる。

最小限の実装でのカスタマーサクセスのテスト
ただし、一定の成功を収めるスタートアップは、初期段階であっても小規模にカスタマーサクセスを実装している。この目的は商品化を更に強化する目的が強い。顧客のフィードバックを基に改善を繰り返すのだ。協業や連携、外部に任せる場合でも、一定の流れを自社で考え実装した取組は、後のパートナーシップとの交渉にも優位になる。

基本は、上流工程に加えて、下流工程の取組にも注意を図り戦略を立てて置くことだ。戦略自由度を高めるために、自社で行う場合、他社で行う場合、協業の場合などの選択肢を準備して、状況に応じてオプションを選べるようにするのだ。通常は、商品化にリソースを注ぎ、下流工程はテストマーケティング程度は自前で行なう。資本政策をうまく構築して、下流工程の初期の段階は協業で取組、成長とともに徐々に内製化する。という流れが理想だろう。

(理想的なD2C)
一方で、始めから自社に直接アプローチして商品提供を行なうスタートアップも多数存在する。20年程度前は、顧客に直接リーチする手段が乏しく、あったとしても非常に高価だった。そのため販売やアフターメンテナンスについては外部に任せる企業が多かった。しかし、スマフォの普及により状況が変わる。スタートアップとしても、顧客に直接販売することで、コミュニケーションを直接行え、商品のフィードバックも、顧客の購買行動の把握やその後のクロスセルの提案も一連の流れの中で実装することが可能になる。また、決済機能を自社で持つことができれば、今後の事業拡大も可能性が広がる。

このように、近年の優れた商品は、顧客との直接的な関係を築くことを重視している。このダイレクト・トゥ・コンシューマー(D2C)のアプローチは、特にデジタル化が進んだ現代において、大きな競争優位性になる可能性を秘める。インターネットとデジタルツールの発展により、企業が顧客と直接つながることが容易になり、多くのメリットを享受できるようになったからだ。D2Cの主な利点だ。

直接的な顧客フィードバックの収集
顧客から直接フィードバックを得ることで、製品やサービスの改善に素早く反映できる。また、顧客の声をダイレクトに聞けることで、顧客が何を求めているかを深く理解しやすくなる。

クロスセルやアップセルの機会
顧客との継続的な関係を構築することで、クロスセルやアップセルの機会が増える。例えば、関連商品やサービスの提案を行うことで、顧客のライフタイムバリューを向上させることが可能になる。

ブランディングの強化
直接顧客にリーチすることで、自社のブランドメッセージを正確に伝え、顧客に一貫したブランド体験を提供できる。これにより、顧客とのエンゲージメントが高まり、ブランドロイヤルティが向上する。

データの活用
自社の決済機能や顧客管理システムを通じて、顧客データを集約・分析することで、よりパーソナライズされたサービスを提供できる。これにより、顧客体験を最適化し、事業の成長につなげることができる。顧客体験の最適化を実現できる仕組みが得られればスイッチングの可能性が低くなり、最終的にはサブスクでの商品提供へも誘導しやすくなるのだ。

コスト削減と利益率の向上
中間業者を排除することで、流通コストを削減し、利益率を向上させることができる。また、顧客との直接取引により、価格設定やマーケティング戦略を柔軟に調整できるため、競争力を高めることができる。これらの実装が可能になれば、売上規模が小さくても収益性や収益額が高まるので企業の価値が向上する。将来に必要な機能を早い段階から設定して企業価値をテコにM&Aを活用して指数関数的な成長を遂げるイメージが描けるようになるかもしれないのだ。

D2Cは、単に商品の販売方法を変えるだけでなく、顧客との持続的な関係を構築し、長期的な成長を目指す戦略とも言える。デジタルプラットフォームの普及により、企業はグローバルな市場に容易にアクセスできるようになった。より多くの顧客に直接リーチする機会が生まれたのだ。加えて、決済機能を自社で持つことで、キャッシュフローの管理がしやすくなり、新たなサービスやビジネスモデルの展開にも迅速に対応できるようになる。これらの要因が組み合わさることで、企業は顧客との深い関係を築きつつ、事業のスケールアップを図ることが可能となる。D2Cモデルは、特にスタートアップ企業や規模の小さな企業にとって、限られたリソースの中で大きな成果を得るための有効な戦略であり、今後もその重要性は増していくと考える。

(オープンソースの活用と大手企業のチャンス)
再び現実の議論に戻る。実際のスタートアップはやはり資源が乏しい。事業計画では、上流工程の企画や研究開発から下流工程のカスタマーサクセスまで網羅的、全視点的な計画を描く。が、どうしても計画通り商品開発は進まず、運転資金が底をつく状況が何度もやってくる。その際に、下流工程にまで資源を配分して準備を進める太い心臓を持つアントレプレナーは極わずかだろう。そう、やはり外部に頼り人の資源を活用する手はないのだ。

これらを鑑みると、一定の商品開発が終える前後のスタートアップは、大企業にとって協業のチャンスとなる。スタートアップのフェーズではアーリーからミドル期頃に商品開発が終わり、数名、あるいは数社にテストマーケティングも終えている段階だ。しかし、販売や販促、あるいはその後のフォローに対しても課題が山積状態で、資金も余裕がないのだ。そこで、黒字を目指すためにシリーズAのラウンドに向かうのだ。その際、出資する企業が、自社サービスの拡販やアフターフォローをしてくれる存在であれば、是非ともパートナーになりたいと考えるだろう。

スタートアップが直面する課題は、計画通りに商品開発を進めることが難しく、資金やリソースが不足することだ。シードからアーリー期で商品開発を完了し、テストマーケティングが行われた段階は、スタートアップにとって重要なターニングポイントだ。このフェーズでの選択肢は、一定のオプションがある。

専門家の採用
販売やカスタマーサクセスに精通した人材を採用し、次のフェーズでの成功を支える準備をする。特に、スタートアップは、即戦力人材の確保が重要だ。給与で賄えない部分は、ストック・オプションなどの成功に紐づく報酬を検討して彼らの経験や知識を活用するのだ。

外部パートナーシップの構築
販売チャネルやマーケティングの専門性を持つ企業との提携を通じて、VCの下流部分を強化する。これにより、自社のリソースを商品開発や戦略的な事業展開に集中させ、販売やフォローアップを強化することが可能だ。

段階的なマーケット投入
フルスケールの市場投入をする前に、少数の顧客や地域をターゲットにした段階的なマーケット投入を行うことで、リスクを分散させることも可能だ。テストマーケティングの延長でもあるが、リアルタイムでのフィードバックが継続的に得られるす。この段階で得たデータや知見を基に、販売戦略やカスタマーサポートの強化を図るのだ。

資金調達の再評価
商品開発やテストマーケティングが成功しつつある段階で、新たな資金調達を行うことも一つの戦略だ。シード期やミドル期での成果を証明することで、追加の資金を確保し、次のフェーズでの成長に向けたリソースを確保するのだ。

自社リソースの集中と外部委託のバランス
自社の強みやコアコンピタンスに集中し、その他の機能については外部リソースを利用することで、効率的に事業を進めることができる。何がコアで何を外にだすべきかは、正直良くわからないだろう。そのため小さく倒産しない範囲で、網羅的に行いながら自社のコアを確定していくのだ。

上述のアプローチを選択して行なうことで、スタートアップはリソースが限られた中でも、柔軟に対応することが可能になるのだ。特に、シード期やミドル期以降の成長フェーズへの移行は、リソースの再評価や外部との連携は成功の鍵となるのだ。また、この段階での適切な人材の採用や資源を保有する企業との提携は、商品開発だけでなく、販売戦略や顧客関係の構築においても大きな影響を与えるため、慎重かつ計画的に進めることが重要だ。スタートアップが持つアジリティを活かしつつ、適切なタイミングで外部リソースを活用する。短期と長期の取組を貪欲に推進する、まさにスタートアップの醍醐味なのだ。

(スタートアップの資金調達の目的と活用)
ここまで議論すると、資金調達は単にお金だけを獲得する行為と捉えず、各フェーズで仲間になりたい企業や機能を保有する個人や組織に出資もしてもらうことを並行的に考えることがポイントだ。その戦略は資金と協業支援の両方を獲得することが可能になるのだ。また、業務資本提携のように、一緒に事業開発のスピードと精度を高めることも選択できる。もちろん、その際の株主間契約や出資契約は、経験を積んでいる企業が常に上手なので、スタートアップとしても充分に準備し戦略を立てる必要があるのだ。この視点を踏まえたスタートアップからみた資金調達のメリットと戦略を整理した。

戦略的な出資者の選定
単に資金を提供する投資家ではなく、自社の成長を加速させるために必要なリソースやネットワークを持つ企業や個人を出資者として迎え入れることが重要だ。これにより、資金だけでなく、知識、経験、ネットワークといった貴重な資産を得ることができる。

業務資本提携によるシナジー効果
出資者との業務資本提携を通じて、製品開発、マーケティング、販売の各フェーズでの連携を強化し、事業開発のスピードと精度を向上させることができる。例えば、販売チャネルや技術支援、マーケティングノウハウの共有など、スタートアップが直面する課題を補完する形での協力が期待できる。

株主の支援を活用した成長戦略
戦略的な出資者や提携パートナーは、単なる資金提供者以上に、自社の成長を支えるサポーターとなる。これにより、株主が持つネットワークや影響力を活用して、新規市場への進出や事業のスケールアップをスムーズに進めることができる。

出資契約と株主間契約の慎重な設計
出資契約や株主間契約は、長期的なビジネスの安定性を確保するために非常に重要だ。特に、業務資本提携のような深い関係を構築する場合、契約内容を慎重に設計し、スタートアップの利益と成長戦略に合致するようにする必要がある。経験豊富なアドバイザーや弁護士のサポートを受け、リスクを最小限に抑える契約を結ぶことが求められる。

フェーズごとの資金調達戦略の設計
資金調達は、各フェーズで異なる目標やパートナーシップの必要性に応じて戦略的に行うべきだ。例えば、シード期では技術開発やプロトタイプの作成に焦点を当てる一方、成長フェーズではマーケティングや販売チャネルの強化を目指す資金調達が求められる。

資金調達を単なる資金獲得の手段とせず、戦略的なパートナーシップの構築や事業開発の加速装置として活用することで、スタートアップは持続可能な成長を実現することがでるのだ。これにより、資金調達のプロセスそのものが企業の成長を支える重要なエンジンとなり、株主のサポートを受けながら、長期的な成功を目指すことができる可能性が高まる。このアプローチを採用することで、スタートアップは単なる資金不足を補うだけでなく、競争力を高め、より強力な市場ポジションを築くことが可能になる。また、株主やパートナー企業との関係性を深めることで、将来的なチャレンジにも柔軟に対応できる体制を整えることができるのだ。

(スタートアップに出資する大企業のメリット)
一方で、スタートアップに出資する企業のメリットも存分にある。近年の大企業はのみなみ自社の主力事業が成熟期を迎えている。多くの事業がキャッシュカウのポジションで瞬間風速のキャッシュフローは潤沢だが、将来の可能性が乏しい状況だ。その中、どの企業も新規事業の開発に注力するが結果が伴わない。過去10年から20年の間、安定的な事業が複数あり、現在マネジメントする人材にも、新規事業の開発経験が無いのだ。

アイデアを自社で創造し、実際にテストマーケティングまで進む。つまりゼロイチ(ゼロからイチを作る意味)は、大企業は苦手なのだ。しかし、出来上がった商品を販売し、認知を得ることは得意だ。すでに全国、全世界。あるいは特定の業界に対して既存顧客のネットワークを保持しているからだ。そこで自社でゼロイチをしながらも、自社と協業の可能性があるスタートアップとの提携や資本提携で、ビジネスを開発する取り組みには規模が見えると考える。以下、大企業がスタートアップと協業を目的に提携や出資するメリットについて整理した。

新規事業開発の補完
大企業が自社でゼロから新規事業を立ち上げることは、多くのリソースと時間を要す。スタートアップに出資することで、既にアイデアが具体化され、テストマーケティングまで進んでいるプロジェクトに早期にアクセスできるメリットがある。開発コストを削減し、スピード感のある事業展開が可能になる。

イノベーションの取り込み
大企業は、既存のビジネスモデルに依存しがちだ。それはイノベーションを起こしにくい環境を意味する。しかし、スタートアップは新しいアイデアや技術に精通しており、大企業が持つ硬直的な組織文化を打破するための刺激となる。スタートアップに出資することで、大企業は外部からのイノベーションを取り込むことができる。

市場拡大と顧客基盤の強化
大企業は、スタートアップが開発した新製品やサービスを既存の顧客ネットワークに導入することができる。これにより、スタートアップにとっては即座に大規模な市場へのアクセスが可能になり、大企業にとっては新たな収益源を獲得するチャンスとなる。

リスク分散とリターンの可能性
大企業がスタートアップに出資することで、新規事業におけるリスクを分散しつつ、成功した場合には高いリターンを得ることが可能だ。スタートアップの成長に伴い、企業価値が上昇し、将来的な利益を享受することもできる。

社内文化の変革と人材育成
スタートアップとの提携や出資を通じて、社内のマネジメント層や若手社員に新しいビジネスやアプローチを学ぶ機会を提供できる。これにより、大企業内部の文化を活性化させ、次世代のリーダーを育成する効果が期待できる。

競争優位性の強化
大企業が競合他社に先駆けて有望なスタートアップに出資することで、競争優位性を強化することができる。特に、新しい技術やサービスが市場に受け入れられる段階での投資は、将来的な市場シェア拡大に大きく寄与する。

大企業とスタートアップがそれぞれの強みを活かして提携することは、双方にとって大きなメリットをもたらす。スタートアップは、大企業のリソース、ネットワーク、経験を活用することで、市場に迅速に参入し、事業をスケールアップする可能性が高まる。一方、大企業は、スタートアップの革新的なアイデアや柔軟なアプローチを取り込むことで、自社の事業ポートフォリオを強化し、将来の成長機会を確保できるのだ。

また、資本提携や業務提携を通じて、共同で事業を開発することは、リスクを分散し、成功の確率を高める効果がある。このシナジーを実現するためには、両者の戦略的な一致が重要で、協力関係を築く際には、双方が明確な目標を共有し、継続的なコミュニケーションを図ることが求められる。

(スタートアップ協業を活用した人材育成)
スタートアップと協業を進める中で、徐々に不足する業界の知識やゼロイチの感覚などを身につけることができる。通常、大企業の内部の仕事は役割が分断されており、VCの上流から下流工程の全てを理解できる人材は限られる。しかし、新規事業は総合格闘技のようなもので、売上や規模は小さいが、VCの開発や設計、調達や販売、その後のメンテナンスなど、それぞれの業界で事業をする際の取組を総合的かつ網羅的に考える視点が養われる。さらに、法的な仕組み、人事の採用や育成、総務的な感覚、経理やファイアンスの知識も必要になり爆速で動きながら吸収していくのだ。

これは私の仮説だが、大企業の将来を担う若手に取って、スタートアップとの協業の経験は将来の事業開発に加え、次期経営者としての育成にも良い経験になると考える。スタートアップとの協業を通した若手社員の教育メリットについて見解をまとめた。

総合的なビジネススキルの習得
スタートアップでは、限られたリソースの中で迅速に結果を出すことが求められる。社員は多くの役割を兼任し、バリューチェーンの全体像を把握する必要がある。これにより、若手社員は製品開発、調達、販売、マーケティング、カスタマーサポートなど、多岐にわたるビジネススキルを総合的に習得する機会を得られる。

ゼロイチの感覚の醸成
大企業においては、既存のビジネスモデルやプロセスに従うことが多く、イノベーションを生み出す「ゼロイチ」の経験が不足しがちだ。しかし、スタートアップとの協業では、新しいアイデアを具体化し、事業として立ち上げる経験を積むことができ、これが将来のビジネスリーダーとしての能力を高めることにつながる。

起業家精神の育成
スタートアップで働くことで、リスクを取って新しいことに挑戦する起業家精神を養うことができる。この経験は、大企業内での新規事業開発や、革新的なプロジェクトを推進する際に非常に役立つ。

業界知識と横断的な視点の獲得
スタートアップとの協業を通じて、特定の業界や市場に関する深い知識を獲得しつつ、業界を越えた視点で事業を捉える能力を養うことができる。これにより、若手社員は単なる業務遂行者から、広い視野を持った戦略的なリーダーへと成長する。

法務、財務、人事といった機能的スキルの強化
スタートアップでの経験を通じて、法務、財務、人事、総務といった各分野での実務スキルも磨かれる。これにより、ビジネス全体を見渡せる「全方位型」の人材が育成され、将来的に経営を担うポジションでの適応力が高まる。

アジリティと適応力の向上
スタートアップはしばしば変化の激しい環境に置かれる。この中で、若手社員はアジリティ(俊敏性)や適応力を高め、変化に対する抵抗感を減らすことができる。これは、大企業が直面する市場の変化やテクノロジーの進化に対応する際に、非常に有効だ。

大企業がスタートアップとの協業を推進することは、単に新規事業を生み出すだけでなく、次世代のリーダーを育成し、組織全体の成長に貢献する戦略的な投資となる。このような経験を積んだ若手社員は、将来的に企業の中核を担うリーダーとして、より高度な戦略立案や事業運営に貢献することが期待される。さらに、このアプローチは、組織全体のイノベーション文化を醸成し、企業の持続可能な成長を支える力となる。スタートアップとの協業は、組織の硬直化を防ぎ、新しいアイデアやアプローチを柔軟に取り入れる文化を促進する重要な要素となるからだ。これにより、大企業は変化する市場環境に対応しつつ、将来にわたって競争力を維持できるようになるのだ。

(出資者の出口戦略)
大企業として、スタートアップに出資する際、スタートアップの出口戦略は重要だ。スタートアップの多くは、IPOやM&Aを視野に入れた出口戦略と急成長を目指す。しかし中には、外部を取り入れた資本政策を考えず、オーナー家で株式を保有している場合もある。もし、オーナー家で株式を保有している企業と協業を行いたい、将来的に資本業務提携を行なう場合は、出口として株式からのキャピタルゲインを得ることが難しくなる。当然だ。売り買いが制限されるからだ。当たり前だが、企業がスタートアップやスモールビジネスに出資をする際も、出資先の出口戦略を考慮する必要があるということだ。

IPO(新規株式公開)
スタートアップがIPOを目指している場合、大企業にとってはリスクが低い投資となる。IPOが成功すれば、株式の市場価値が上昇し、大企業はキャピタルゲインを得ることができる。また、IPOによりスタートアップが成長を更に加速させることも期待できるのだ。もちろん日本でのIPOは年に多くても100社程度なので、可能性は低いのだが。

M&A(買収や合併)
M&Aを出口戦略としているスタートアップに出資する場合、大企業はそのスタートアップを将来的に自社に取り込むことや、第三者に売却することで利益を得ることができる。これは、大企業の成長戦略や新規事業の一部として、スタートアップを吸収する場合に特に有効だ。

オーナー家による株式保有
オーナー家が株式を保有し、IPOやM&Aを目指さない場合、大企業にとってはキャピタルゲインを得る機会が限られる。このようなスタートアップに出資する場合、大企業はキャピタルゲインを期待するのではなく、他の目的(例えば、戦略的パートナーシップ、事業開発の加速、イノベーションの取り込みなど)を重視する必要がある。

リテンション型の出口戦略
一部のスタートアップは、株主に対して安定的な配当を行うことを目的とする場合がある。このような戦略では、キャピタルゲインを得ることは難しいが、持続的な収益を得ることができる。この場合、大企業はスタートアップの安定した事業運営と収益性に焦点を当て、長期的な関係を築くことが重要だ。

本稿では、大企業がスタートアップやスモールビジネスに提携や出資する目的を事業開発の一つとして考えていることを前提にしている。従い上述のように、出口を考えなくてもシナジーを出して協業に成功させれば問題ない。しかし、事業の方針が変わり、その領域の事業を整理することなども考えられる。その歳、リスクヘッジとして出資した資金を回収できるかどうかは重要な判断基準になるのだ。いくつか大企業が取るべきアプローチを整理した。

出資目的の明確化
大企業は、スタートアップへの出資を決定する前に、自社が何を目指しているのかを明確にする必要がある。キャピタルゲインを重視するのか、それとも戦略的なシナジーを期待するのかだ。その出資目的によって適切なスタートアップを選定することが必要だ。

出口戦略の共有と調整
スタートアップとの間で、出口戦略に関する共通の理解を持つことが重要だ。大企業とスタートアップのビジョンが一致しているかどうかや、特定の分野においての方向性を確認する。そして交渉段階から双方が望む結果に向けて調整を図ることが必要になる。

代替的なリターンの検討
オーナー家が株式を保有し続けるスタートアップに出資する場合、大企業はキャピタルゲイン以外のリターン(例えば、事業提携による利益増加や技術や知識の取得など)を検討することになる。スタートアップの価値が他の方法で自社に還元される仕組みを構築することも考慮にいれなければならないのだ。

リスク管理と契約の確立
出口戦略が不明確なスタートアップに出資する際には、リスク管理が重要だ。契約上、大企業が一定の条件下で株式を売却できる権利(プットオプションなど)を確保することや、万が一の場合に備えたリスクヘッジの仕組みを取り入れることが有効だ。

スタートアップに出資する際、スタートアップの出口戦略を理解し、それが自社の目標とどのように一致するかを慎重に評価する。当たり前だが、ここが抜けている企業が跡を絶たない。出口戦略が明確でない場合や、オーナー家が株式を保有し続けるケースでは、出資の目的や期待するリターンを再考し、適切な戦略を立てる必要がある。このステップがない場合は、そもそも出資そのものをするべきでは無いのだ。大企業は出資に際して、短期的な利益だけでなく、長期的な戦略的メリットを視野に入れたアプローチを取ることが成功の鍵になるのだ。



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