早嶋です。(約3300文字)
不祥事が続く。不祥事としてすぐに想起する企業はエンロンだ。エンロン(Enron Corporation)は、かつて米国に存在した大手エネルギー企業だ。その経営破綻は企業会計における大規模な不正事件として知られた。
エンロンの会計不正はいくつかの不正使用や改ざん、悪用を重ねた。まずはSPEの悪用だ。エンロンは、自社の負債や損失を隠すためにスペシャル・パーパス・エンティティ(SPE)を活用して、独立した会社を多数設立した。これらのSPEを活用して、エンロンの会計上の負債を切り離し、エンロンの財務諸表上では見えなくするためにSPEを活用したのだ。エンロンは実際の財務状況よりも遥かに健全に利益を上げているように見せかけた。
エンロンは、マーク・トゥ・マーケット会計という手法も採用した。これは、将来の契約から予想される利益を、契約が結ばれた時点で利益として計上する手法だ。結果、将来の不確実な利益を現在の利益として計上し、実際にはまだ得られていない利益を膨らませたのだ。
まだある。エンロンは、架空の収益や架空の資産を財務諸表に計上し、投資家や取締役会に虚偽の情報を提供していた。驚くべきは、外部の監査法人アーサー・アンダーセンも、この不正を見逃し、または積極的に隠蔽することにも加担していたのだ。
結局組織的な悪事と隠蔽が継続し、エンロンの幹部は、会社の実態を知りながらも、それを隠すために様々な手段を講じた。内部告発者の警告を無視し、株主や規制当局を誤導したのだ。
エンロンの終焉は皆が知るところだ。2001年にエンロンの会計不正が発覚し、エンロンは破産を申請。この事件により、投資家は数十億ドルを失い、多くの従業員が職を失った。また、この事件を受け、米国では企業の会計や監査に対する規制が強化され、サーベンス・オクスリー法が制定された。エンロン事件は、企業の透明性とガバナンスの重要性を改めて強調する事例となり、現代の企業会計の歴史において非常に重要な出来事とされたのだ。
すべての物事には何らかの因果がある。上述したエンロンの事件がおきた背景について考察する。結論は、一つの事象というより、複数の要因が絡み合った結果、エンロン事件が発生したと言える。
まずは、利益至上主義と企業文化だ。エンロン内部では、短期的な利益を最優先する文化が蔓延していた。経営幹部たちは、株価の上昇と高い利益を出すことが最も重要だと考え、これが不正行為を助長したのだ。エンロンは非常に競争的な職場環境で、従業員は利益を上げるために強いプレッシャーを感じていた。この圧力が、倫理的な判断を鈍らせ、不正に手を染める原因の一つとなったのだ。
当然にガバナンスと内部統制の欠如もある。エンロンの取締役会や監査委員会は、経営幹部の行動を十分に監視し、チェックする役割を果たしていなかった。これにより、経営幹部たちは事実上、無制限に自分たちの行動を決定できる環境にあったのだ。当然、内部告発者の声は無視され、意図的に黙殺されている。その結果、問題が早期に解決される機会が遠ざかっていったのだ。
更に、複雑な会計手法と外部監査の失敗も重なる。エンロンは複雑な会計手法や金融商品を駆使した。結果、不正が外部から見破りにくくなっていた。特に上述したSPEを駆使した複雑な仕組みは、エンロンの財務状況を正確に理解することを難しくしたのだ。外部監査法人であるアーサー・アンダーセンも、エンロンの主要な会計処理に深く関与しており、独立性はすでに欠如していた。従い、不正を見逃すか、積極的に隠蔽する形でエンロンを支援していたのだ。
他には、市場の過信と規制の緩さもあった。当時の金融市場は、エンロンのような企業が革新的なビジネスモデルで急成長することを称賛し、あまりにも過信していたのだ。この過信が、不正行為を見抜く目を鈍らせた結果となった。また、当時の規制環境は企業の会計処理に対して比較的緩やかで、エンロンのような大企業が不正を行いやすい状況にあったのだ。後に制定されたサーベンス・オクスリー法は、こうした規制の甘さを改善するためのものになる。
最後に、個人的な利益とインセンティブの歪みもあったと思う。エンロン幹部たちは、自分たちの個人的な利益やボーナス、ストックオプションに基づくインセンティブを追求するあまり、会社全体の健全な経営を犠牲にしたのだ。株価の上昇に伴う報酬が大きかったため、短期的な株価維持のために長期的なリスクを無視する行動が取られたのだ。
このように要因が複雑に絡み合い、エンロンの大規模な会計不正が発生した。そして長期間にわたって続く結果となったのだ。エンロン事件は、企業の倫理、ガバナンス、そして規制の重要性を強く認識させるきっかけとなったが、喉元過ぎれば熱さを忘れるで、現在の日本でも度々企業の不祥事を耳にする。
以下は、当たり前に言われる取組だが、他山の石として真摯に取り組むことが他説だ。
– 企業文化の改革と倫理の検証
– 内部統制と監査機能の検証
– ガバナンスの検証
– インセンティブの検証
– 透明性とコミュニケーションの検証
– 法律や規制遵守の検証
企業文化と倫理はトップが率先して行う事項だ。すべての因果はトップにあると私は思う。企業全体に健全な文化を根付かせるためには、トップのコミットが欠かせない。そのうえで、定期的な倫理研修と従業員に対して倫理基準を理解させる取組など、当たり前の不正を防止する意識を高めることが大切だ。
エンロンのように内部告発は潰される可能性がある。そのため内部告発制度を整備し、従業員が不正や疑わしい行為を報告できる体制も重要だ。この制度は匿名での通報を受け付け、公正に対応することが保障されるべきなのだ。
内部監査部門の独立性確保は、経営層からの圧力に屈することなく、客観的に監査を行える体制を構築することだ。内部監査部門は、取締役会に直接報告できるようにするなど、ガバナンスの中核に位置付けることが重要だ。
企業規模が大きければ外部監査法人の選定において、独立性と信頼性を重視し、監査法人が企業の影響を受けずに厳格な監査を行えるようにすることが重要だ。また、監査法人を定期的に変更するローテーション制度の導入で監査の質を確保するなどの工夫がある。ただ、過度なローテーションは監査コストを高騰する要因になる。
取締役会は外部取締役の割合を増やし、経営層から独立した視点で企業を監視することが重要だ。特に、専門的な知識を持つ外部取締役が企業の経営に対して健全なチェックを行う体制を整える。コンプライアンスの遵守を監督するための委員会を設置し、企業全体の行動規範やルールが適切に運用されているかを定期的にチェックするなどの取組も浸透している。
経営層の報酬が短期的な利益や株価に過度に依存しないよう、長期的な業績や持続可能な成長を反映する報酬制度を設計する。結果、短期的な不正行為を防止し、企業の持続的な発展を促進することにつながる。これには経営層の業績評価において、ESG指標を組み込み、社会的責任やガバナンスの強化に対する意識を高めることが重要だ。
透明性においては、企業の財務状況や経営戦略に関する情報を開示し、株主や投資家が企業の実態を正確に把握できるようにする。特に、リスク情報や経営上の判断に至るプロセスを明示することが求められる。定期的に株主や他のステークホルダーと対話を行い、企業の経営方針や倫理基準についての理解を深め、信頼関係を築くことも大切だ。
規模が大きい企業はグローバルなビジネス環境や技術の進展に応じて、企業のコンプライアンスやガバナンス体制を見直し、最新の規制や業界基準に適応させることが重要だ。変化が激しい環境に対応し、リスクを管理を徹するのだ。
当たり前と思う取組が、いつしか歯車が狂い、組織的に認識しているけれども、止めることができなくなる。不思議な現象が発生するのだ。そのために、上述のような取組が企業経営の中に必要のなっている。重要なのは、トップからボトムまで企業全体が一丸となってこれらの価値観を共有し、実践することなのだ。
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