新規事業の旅132 台湾事情2024その2背景

2024年8月2日 金曜日

早嶋です。(約8000文字)

台湾がこの10年から15年で急激に成長している背景について考察する。次の視点を立てて考える。

・ハイテク産業の成長
・グローバルサプライチェーンの一部としての役割
・政府の経済政策
・スタートアップ支援
・人材の質

(ハイテク産業)
まずは、ハイテク産業の成長だ。台湾は半導体や電子機器の製造において世界的に重要な地位を占めている。特に、TSMC(台湾積体電路製造)などの大手半導体メーカーは、世界中のテクノロジー企業にとって不可欠な存在になっている。TSMCといえば九州熊本菊陽町の物価や土地建物価格を一気に上昇させた会社でも有名だ。スマフォ、パソコン、自動車など、さまざまな製品に使用される半導体の需要が増加し、台湾の輸出収入が大幅に増加しているのだ。

技術が躍進する足元には必ず戦略的な人材育成があると考える。台湾も同じ用に、再現性高く人材を輩出するメカニズムを持っていると思う。ブログその1でも考察した通り、台湾は人口増加がさほど顕著でない中、質の高い人材を輩出している。台湾の教育システムは、特に科学技術分野に特化して充実させている。理工系の大学や専門学校が多く存在し、高度な技術教育が行われている。また、研究開発に対する奨学金制度や政府の支援プログラムも充実しており、学生が技術分野でのキャリアを追求しやすい環境が整っているのだ。日本は、文系の方が大学に入りやすいからと言って7割が文系という不可思議な発想が未だにつついている。文系はもちろん重要ではあるものの、そのベースに理科系の発想を組み入れることが重要だと思う。

台湾の教育機関は国際的な協力関係を戦略的に構築している。多くの学生が留学や国際的なプロジェクトに参加し、国際的な視野を持つ人材が育成される。あわせて最新の技術や知識を台湾に持ち帰ることにも貢献している。中国と台湾という微妙な地政学の影響も大きく影響しているだろう。同じ島国でありながら、緊張感の差は大きいのだ。

産学官の連携も強い。学生はインターンシップや共同研究プロジェクトを通じて、在学中から実際の業務に触れる機会が多い。そして卒業後すぐに即戦力として活躍できるスキルを身に付けている。もちろん企業での人材育成も工夫されている。企業内での研修プログラムや継続教育の機会が豊富で、社員のスキルアップが図られているのだ。台湾の企業は、教育の充実を離職防止と捉えている。技術者に成長する環境を提供しつづけることが優秀な人材の流出を防ぎ企業内に高い技術力を維持すると考えている。

更に、ベンチャー企業の支援も力が入っている。テック企業の人材育成に加えて若手の起業環境を整備している。これらは台湾そのものの文化とも一致していると思う。教育や仕事に対する高い意欲と勤勉さを持つ文化があり、この文化を技術分野に集中して高い専門性と技術力を持つ人材の育成に寄与しているのだ。

(グローバルサプライチェーンの一部としての役割)
台湾はグローバルサプライチェーンの重要な一部となった。特にアジア地域においてその役割は大きい。台湾企業は、中国、日本、韓国、アメリカなどとの貿易関係が強く、これも経済成長の一躍と考える。いくつか台湾のグローバルサプライチェーンの事例を示そう。

TSMC(台湾積体電路製造)。九州熊本でも有名な世界最大の半導体ファウンドリ企業だ。Apple、NVIDIA、Qualcomm、AMDなどの大手テクノロジー企業に半導体を供給する。TSMCの最先端の製造技術(例:5nmプロセス技術)は、スマートフォン、データセンター、AI、5Gなどの分野で使用される重要な半導体を生産する。これにより、グローバルなテクノロジーサプライチェーンの中核を担っている。

Foxconn(鴻海精密工業)。世界最大の電子機器受託製造(EMS)企業だ。AppleのiPhoneをはじめとする多くの電子機器を製造している。Foxconnの工場は中国やインドなどに広がり、グローバルサプライチェーンの重要な一部だ。Foxconnの製造能力は、製品の迅速な市場投入とコスト削減を可能にし、多くの企業にとって不可欠な存在だ。

AcerとASUS。台湾を拠点とする主要なコンピューターメーカーで、世界市場にパソコンやノートブック、周辺機器を供給する。両社とも、自社の設計および製造拠点を台湾に持ち、部品の調達や製品の組み立てを中国や他のアジア諸国で行っている。同社の強みでもある、コスト効率の高いサプライチェーンを構築し、国際競争力を維持している。

MediaTek。台湾を拠点とするファブレス半導体企業だ。スマフォ、タブレット、スマートテレビなどに使用されるチップセットを設計している。MediaTekのチップセットは、Samsung、Xiaomi、Oppoなどの大手スマフォメーカーに供給され、世界中の消費者に影響を与える存在だ。

Delta Electronics。電力およびエネルギー管理ソリューションの大手メーカーで、電力変換器、エネルギー貯蔵システム、再生可能エネルギーシステムなどを提供する。Deltaの製品は、グローバル市場で使用され、特にエネルギー効率の高い製品の需要が高まる中で重要な役割を果たしている。

Pegatron。台湾を拠点とする電子機器受託製造会社で、Apple、Microsoft、Sonyなどの大手企業に製品を供給する。Pegatronは、製品の設計から製造までの全プロセスをサポートし、複雑な製造プロセスを効率的に管理することで、顧客の多様なニーズに対応する。特に、ノートブック、スマフォ、ゲーム機の製造において強みを発揮している。

これらからわかるように、台湾企業はグローバルサプライチェーンの中で、スマフォやIT機器などの電子機器で特に重要な役割を果たしている。その背景には技術力、製造能力、コスト効率の高さと工夫があり、国際競争力を維持しているのだ。

(政府の経済政策)
台湾政府は技術革新を促進するための政策を積極的に推進している。研究開発への投資やスタートアップ企業の支援、外国直接投資の誘致などだ。結果、産学官の連携が促進され、相乗効果で台湾の成長に寄与している。そのキーワードは集中だと思う。

まずはエリアの集中だ。台湾は特定の地域(例えば、新竹サイエンスパーク)にハイテク企業や研究機関を寄せている。場の力を活用して密な連携とイノベーションを促進する目的だ。新竹サイエンスパークにはTSMC、UMCなどの大手半導体企業のほか、多くの中小企業やスタートアップ、研究機関を集めている。相談相手や商談相手が近場にいることは、偶発的なイノベーションを生むためにも大切な要素で、産学官の連携も自然と強化されていくのだ。

次に分野だ。台湾政府は「五加二産業革新計画」などの政策を通じて、特定の産業(半導体、バイオテクノロジー、グリーンエネルギーなど)を重点的に支援している。この政策は、産学官連携の強化と研究開発への投資も促進している。政府の明確なビジョンと支援が、成功要因になっている。日本は、総花的かつ非連続の支援で複利の効果が効いていないと反省すべきだ。

日本のイノベーションを鑑みると、様々な規制があるおかげで、未だに大企業や規制起業が守られている。例えばETCの普及など、一気に進めれば良いものの、「クレジットカードを持たない運転者はどうする?」といった議論で前に進まない。渋滞の原因は明らかにETC以外のレーンがキャパオーバーになり発生するのにだ。背景は元公団などの仕事が縮小されることなどがあるとしか考えられない。タクシーのシェアサービスも然り。タクシードライバーはプロの免許を持たない運転手は危ないとか、素人は研修を受けていないとかでシェアを100%受け入れない。それらを含めて技術の力で仕組みを変えるのがDX、つまりデジタルの力を使ったトランスフォーメーションなはずが、既存のタクシー業界を守るためにシェアサービスが変な形で導入された。ちょいと事例を探せばキリが無いくらい無数に出てくる日本と比較して台湾は柔軟なのだ。産学連携を促進するために、大学や研究機関が企業と共同研究を行いやすい法規制が整備されているのだ。また企業が大学や研究機関と連携して研究開発を行う場合、税制上の優遇措置や補助金が提供されることもある。結果、企業はリスクを低減しながら研究開発を進めることができるのだ。

大学の考え方も成長にフォーカスしている。日本は、アカデミーという名前が選考して実務に程遠い教育を未だに提供する学術機関が良しとされる。情報が民主化され、知的な情報は独学でも学ぶことは可能になった。従い、知っていることそのものは価値が薄く、それらを実践して結果を出すことではじめて価値となる。それでも学びを軸にした学問が未だ多い。一方、台湾の大学は、産業界との交流を重視し、多くのインターンシップや共同研究プログラムを提供する。例えば、国立台湾大学は、TSMCやFoxconnなどの大手企業とのインターンシッププログラムを通じて、学生に実務経験を積ませる機会を提供している。結果、産業界のニーズに即した人材が育成されて、卒業とともに即戦力が増強される仕組みが整っているのだ。

台湾の文化も背景にあるかもしれない。それは、協力と共同作業が重視されることだ。企業、大学、政府機関が密接に連携し、共同で問題を解決する文化が根付いている。このような文化的背景が産学官連携の成功に寄与しているのだ。協力と協業を街中で観察したければ、いつも賑わっている鼎泰豊を覗いてみると良い。常に待ち行列の小籠包で有名な飲食チェーンだ。あらゆる客層に柔軟に対応し、店舗スタッフは寡黙に休みことなく気持ちの良い接客をする。阿吽の呼吸で飲食の提供や顧客の案内、次の顧客を案内するまでの間のテーブルのセットなど、気持ちの良いサービスが提供される。そしてその協業ぶりは実に見事だ。

この協力体制は国内のみならず、常に世界に視野を向けている。台湾の大学や研究機関は、国際的なネットワークを活用して、海外の大学や研究機関と連携している。例えば、国立交通大学は、アメリカやヨーロッパの多くの大学と共同研究プロジェクトを行っている。そして最新の技術や知識が台湾に導入され、国内の研究開発が更に促進するという良いサイクルを構築しているのだ。これらの要因が組み合わさることで、台湾の産学官連携は成功しているのだ。政府の積極的な支援、法規制の整備、文化的背景、国際的な視野が、特に重要な役割を果たしていると言える。

(スタートアップ)
企業や地域が成長する前提として、その卵が沢山産まれることが前提だ。台湾のスタートアップは政府や学術機関、それから民間の支援も重なりユニークな特徴を持っている。そして台湾がスタートアップやイノベーションを促進するための重要な要素となっていのだ。

台湾政府は「Startup Taiwan」プログラムを通じて、スタートアップ企業への資金援助やインキュベーション施設の提供を行っている。このプログラムには、資金調達、ビジネスモデルの開発、マーケティング支援などが含まれ、スタートアップ企業が初期段階での課題を乗り越えるための包括的な支援が提供される。そして場とネットワークの提供として、台湾には多くのインキュベーションセンターやアクセラレーターが存在し、スタートアップ企業に対してオフィススペース、メンターシップ、ネットワーキングの機会を提供している。例えば、台北市政府が運営する「Taipei Tech Arena」は、スタートアップ企業に対して技術支援やビジネスマッチングの機会を提供し、多くの成功事例を生み出している。

台湾のスタートアップは、中国を市場として考える一方で世界にも目を向けている。内向きの事業も外向きの事業も非常にポテンシャルが高く、始めから国際的なネットワークを見ているのも特徴と言える。更に、台湾のスタートアップは、政府や民間の支援を受け国際的な市場へのアクセスを得やすい環境にあるのだ。例えば、「Asia Silicon Valley Development Plan」の一環として、台湾はシリコンバレーとの連携を強化し、スタートアップ企業がアメリカ市場に進出するための支援を行っている。また、国際的なスタートアップイベントや展示会に参加する機会が多く、グローバルなネットワークを構築しやすい環境にあるのだ。

鶏と卵ではないが、成長する源泉にはその成長によってリターンを得たい組織のネットワークも構築される。その証として、台湾には多くのベンチャーキャピタル(VC)が存在する。スタートアップ企業に対する投資が活発で、政府もVCファンドに出資し、スタートアップ企業への資金供給を促進していり。これにより、スタートアップ企業は必要な資金を迅速に調達できる環境が整うのだ。

繰り返し述べてきたが、台湾は場所と業種を一定絞ってのイノベーション開発を行っている。半導体やICT(情報通信技術)の分野で世界的に重要な地位を占め、スタートアップ企業もこれらの先端技術を活用しやすい環境にあるのだ。そして官民問わず積極的に協業を行いながら小さな実験を積み重ねる機会を多数生み出しているのだ。「Taiwan Startup Stadium」は、政府、民間企業、大学が協力して運営されており、スタートアップ企業に対して包括的な支援を提供している。このような連携により、スタートアップ企業は多様なリソースを活用できる環境が整う。まさに台湾のベンチャー起業支援は多様で包括的だ。スタートアップ企業が成功するための土壌が整っているのだ。政府の積極的な支援、インキュベーションセンターの存在、国際的なネットワーク、VCの活発な投資、技術力の強化、そして公共・民間のコラボレーションが、台湾のスタートアップエコシステムを支えていると言っても過言では無いのだ。

(人材の質)
台湾の人材の質は高い。台湾の人口動態を見ると、日本と同様に高齢化が進んでいる。2010年の時点では平均年齢は39.5歳だったが、2024年では44.6歳に達している。2020年の日本の国政調査の結果から、日本人の平均年齢は47.6歳なので台湾と日本の平均は大きく変わらないといって良い。

台湾の出生率も日本と同様に長期的に低下傾向だ。2023年の時点で、出生率は8.386人/1000人だ。また、総出生率(TFR)は2022年に0.87人/女性で、これは世界平均の2.3人/女性を大きく下回り、日本と比較(2021年で1.3人)してもかなり低い。現時点で台湾の65歳以上の人口割合は2023年に18.4%に達しているので、今後の台湾でも急速に高齢化が進むことがわかる。この人口動態の変化は、台湾の社会保障制度や労働市場に大きな影響を与える。高齢者人口の増加は、医療費や年金支出の増加を招き、若年層の労働力不足が経済成長を抑制する可能性があるからだ。台湾政府は、これらの課題に対処するために、出産奨励政策や高齢者の社会参加を促進する政策を実施していり。また、技術革新と自動化を推進し、生産性の向上を図る取り組みも行っている。日本でも同様の取組を行っているがスピード感や集中といった点で大きく結果が水分されているのだ。

日本と台湾は同じ島国だ。日本は隣国や中国やロシアとの脅威が常にありながら人口減少に対して明らかな打ちては見せていない。一方台湾は、中国からの侵略リスクに対してもハイテク産業と軍事産業のバランスを取っているように観察できる。台湾は、ハイテク産業で培った技術を軍事産業に応用し、両者のバランスを取っている。例えば、半導体技術や通信技術は、軍事装備や防衛システムの強化に役立っているのだ。ハイテク産業の人材が間接的に軍事力の強化に貢献しているのだ。これはイスラエルも同様だ。人材が少ない国々で軍需が豊かな国はハイテクと軍需の両立を担うことでバランスを取っているのだ。

それから台湾は予備役制度を強化している。平時は民間のハイテク企業で働き、緊急時には軍事産業や国防任務に従事できるようにしているのだ。このシステムも若い労働力を軍事とハイテク産業の間で柔軟に配分することに成功している。

ただ、台湾のように一定の科学技術分野にリソースを集中しすぎると、他の業界では人手不足を生むのではと考えるだろう。台北市内を歩くと、建設ラッシュが今も進んでいることがわかる。諸々話を聞くと日本と同様に人で不足は問題視されている。特に中堅技術者や職人、機械操作員の不足が顕著だ。2022年には、建設業界全体で約11万8000人の労働者が不足していると報告されている。背景は日本似ている。若者が建設業界に参入することを敬遠する傾向があるのだ。建設業は低賃金で労働条件が厳しいと見なされ、親世代も子供にこの業界を勧めない傾向があるのだ。また、他の業種と比べて社会的地位が低いとされることも要因の一つだ。

そこで台湾政府は、労働力不足を補うために外国人労働者の導入を推進している。最近では、新たに8000人の外国人労働者を建設業界に受け入れる計画が発表し、需要に応じてさらに1万5000人に増やす可能性もある。政府はまた、移民労働者の雇用を容易にするための新しい人口政策と移民政策を推進している。これには、外国人専門職や留学生を引き寄せ、既存の外国人技術労働者の定着を図るプログラムだ。これにより、即戦力となる外国人労働者の確保を目指しているのだ。

もちろんこれだけでは根本の解決にはならない。そこで建設業界の魅力を高めるために、政府と業界団体は職業教育の推進や職業資格の価値向上に取り組んでいり。これにより、若い世代が建設業に関心を持ち、参入する動機づけを提供することが狙いだ。ただ今の不足感を見ると、やはりハイテク産業に人員を割かれ、政府の思惑通りに建設業界の問題が解決するということは簡単に実現できないだろう。

台湾の人材は、非常に勤勉で優秀だ。なんか昭和の頃の日本のような感じを受ける。自国の成長や今の生活水準を上げるために皆が黙々と高みを見ている感じだ。もちろん台湾の教育システムは非常に競争力があり、高い教育水準を誇っている。特に科学技術分野での教育が充実しており、多くの学生が国際的な競技会で優れた成績を収めている。ただ、今の日本と比較するとすごいな!と思うが1980年代の日本も同じような傾向だったのではないか。

台湾の経済は活発で、多くの人々が朝から夜まで働いている。特に都市部では、夜市や24時間営業の店舗が多く、街全体が活気に満ちている。戦後の日本とまではいかないが、発展している国の街中はどこを歩いても活気がある。日本が低迷しているのではなく、なんとなくある程度の地位を獲得してしまって、そこからさらなる高みを見るとこを忘れてしまったのでは無いだろうか。

台湾は少し前の日本なのかもしれない。怒られるかもしれないが、皆新設で、民度が高く、社会全体の活気や人々の高い生産性に国民が一丸となって貢献しているように感じる。教育、経済活動、社会文化のいずれもが台湾の人々の優秀さと活力を支えているのだ。

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