新規事業の旅130 設立から上場までの物語

2024年7月24日 水曜日

早嶋です。(今回も超長文です。約11,500文字)

ベンチャー企業が上場するまでの流れ。メモ的内容。設立、プレシード、シード、シリーズA、B・・・、上場準備、上場。資金調達を軸に整理している!

(設立:Founding)
設立時。企業のビジョンやミッションを確立し、基本的なビジネスモデルや製品アイデアを定義する。主な活動は、創業メンバーを集め、会社を登記し、初期市場の調査や商品(製品やサービス)の初期コンセプトを開発する。会社を登記する前に、創業者やメンバで集り、コンセプトを固め、ワイガヤで議論する期間。夢と将来しか無い楽しい時間だ。このステージの資金調達は、ブーツストラッピングと言い、創業者やメンバの自己資金や友人・家族から調達することが多い。予め将来的にIPOやM&Aなどの出口を考えているのであれば、設立段階から資本政策は考えておくべきだ。タダよりも高いものは無い経験が待っている。

設立時に調達する資金額は、事業の種類や規模、ビジネスモデル、創業者の目標により大きく異なる。テクノロジー関連のスタートアップ(例えば、ソフトウェア開発、ハードウェア製造、バイオテクノロジーなど)は、研究開発や初期プロトタイプの作成に多額の資金が必要だ。この場合、設立時に数百万円から数千万円、場合によってはそれ以上の資金調達が必要になることもある。一方、比較的少額の初期投資で始められるサービス業や小売業では、数百万円程度の資金で始めることができる。

スケールできるビジネスモデル、つまり急成長を目指すビジネスモデル(例:サブスクリプションサービス、オンラインプラットフォームなど)は、初期段階での市場投入やマーケティングに多額の資金が必要となるため、設立後に数千万円以上を調達することもある。一方で、地域密着型のビジネスモデル(例:カフェ、レストラン、小規模製造業など)は、初期投資が比較的少なく済む。数百万円から多くても数千万円程度の資金で十分だ。

多くのスタートアップは、初期段階で創業者の自己資金や家族・友人からの資金提供を受ける。事業に精通している人が起業する際は、エンジェル投資家にアプローチして資金を調達することもある。その場合、数百万円から数千万円が一般的だ。もちろん、初めの時期に高いシェアを与えないように資本政策についての知識はあったほうがよい。近年はインキュベーターやアクセラレーターが主催するプログラムに参加し、数百万円程度のシード資金と、ビジネス支援やメンタリングが提供されることもある。随分と環境が良くなったと思う。

もちろん資金調達額は、地域や国によっても異なる。例えば、シリコンバレーやニューヨーク、ロンドンなどのスタートアップエコシステムが発達した地域では、設立時に調達される資金の額が比較的大きくなる傾向が観察できる。

(プレシード:Pre-seed)
プレシードは、ビジネスアイデアの検証、初期プロトタイプの開発、初期市場の反応を確認する。詳細な市場調査を行い、プロトタイプの開発とテスト、初期の顧客やパートナーの獲得を目指す。この時期の資金は、エンジェル投資家やインキュベーターからの小規模な投資だ。規模や内容によっては、設立とプレシードを重ねて行う場合もある。

少額のプレシード投資は、数十万円から数百万円程度で、一般的なプレシード投資は数百万円から数千万円だ。テクノロジー関連(ソフトウェア、ハードウェア、バイオテクノロジーなど)の事業は研究開発やプロトタイプの作成に多額の資金が必要だ。従い、数百万円から数千万円のプレシード資金が必要になる。サービス業や小売業などは、比較的少額の初期投資で始められるため、数十万円から数百万円のプレシード資金で十分な場合もある。資金調達が少額で良い場合は、設立とプレシード、もしくはシード時期の資金調達を一気に行う場合もある。逆に、テクノロジー関連の事業は、設立時にビジネスプランやチームを整える構想を得て、プレシードでその実現の一歩を踏み出す。創業経験が過去にある場合、スタートアップで会社を設立した後、ビジネスプランを片手に投資家を口説きまわって資金を調達する。そして、プレシード段階でアイデアを固めて、より多くの資金を調達するのだ。

(シード:Seed)
シード時は、製品やサービスの市場適合性(Product-Market Fit)を確認し、初期顧客基盤を構築する。商品(製品やサービス)のプロトタイプの改善とフィードバック収集を行い、マーケティング活動を開始する。それから初期の売上獲得を画策する。資金調達はエンジェル投資家、シードファンド、クラウドファンディングなどから探す。

少額のシード投資だと、数百万円から数千万円程度。一般的なシード投資だと、数千万円から数億円程度だ。ただ繰り返すが、テクノロジー関連(ソフトウェア、ハードウェア、バイオテクノロジーなど)は研究開発やプロトタイプの作成、市場投入に多額の資金が必要で、金額は高くなる。サービス業や小売業など、は必要な資金も少ない場合が多い。

スケーラブルなビジネスモデルで急成長を目指す印象が強ければ、調達額も大きくなるし、創業者や創業メンバーに経験者がいる場合も同様の傾向だ。ただし、金額が大きければ良いものではない。シリーズA以降で、シード期に出資した企業や個人、つまり誰が株主になっているかは極めて重要だ。シード期に、著名なエンジェル投資家やシードファンドが既に投資している場合、それが新しい投資家にとって信頼性を高める要因になるからだ。これらの投資家が投資していること自体が企業のポテンシャルを示すサインとして受け取られる。また、シード期は他の投資家が持つ専門知識やネットワークが、企業の成長に役立つ可能性もある。既存の株主や投資家が業界に精通している場合、その知識やネットワークが企業の成長アクセルになる。信頼できる共同投資家の存在は、新たな投資家にとって安心材料であり、次のシリーズA以降で有利になる場合が多いのだ。

シード期のマーケットフィットはとても重要だ。企業が提供する商品(製品やサービス)がターゲット市場のニーズや要求に適合している状態がマーケットフィットだ。顧客がその商品を強く求め、満足し、積極的に購入や利用を続ける状態が理想になる。理想的なマーケットフィットの特徴は、顧客の需要を発掘し、高い満足度を提供する。そして持続可能な成長の糧になり、顧客からもポジティブなフィードバックを得る要因にもなる。

マーケットフィットは、製品やサービスが顧客の問題を効果的に解決し、顧客がその価値を認識している状態。すなわち顧客の需要を発掘したことになる。顧客はその商品を使いたいと思い、購入意欲が高くなる。顧客が商品に満足することで、リピート購入や利用を継続する。そして口コミや紹介を通じて、新たな顧客を自然に引き寄せる力も持ち合わせる。広告費をかけて企業が宣伝するよりも満足度が高い顧客が直接推奨している商品に信頼度は上がることは明らかだろう。これらのサイクルは商品の売上や利用者の増加をもたらし、持続可能なビジネスモデルを形成することに欠かせない。顧客基盤の拡大が見込まれるのだ。商品が市場に浸透するにつれて顧客からのフィードバックはありがたい。ポジティブなものは、改善点を反映させることでさらに満足度を高める要因につながり、開発サイクルが効果的に回りはじめる。

もちろん簡単ではない。マーケットフィットを見極めるためには地道な取組が必要だ。ベースはユーザーインタビューと調査だろう。顧客の声を直接聞くことで、製品の強みや弱み、改善点を明確にできる。アンケートやフィードバックセッションなども活用する。ただあまりにも革新的な商品やイノベーションの場合は、顧客がまだ商品の概念を理解できていない。そのような場合はしばらくは顧客の声を度外視して進めるのが良い。

既に一定のテストマーケティングにより購買する顧客がいる場合は、新規と既存顧客の行動パターンを分析する。リピート率や解約率などの基本的なデータを基に試行錯誤を続けるのだ。近年は満足度の代わりに、NPSを用いることも多くなった。顧客がどの程度商品を他者に推薦する意向があるかを測る指標だ。高いNPSは顧客満足度が高く、マーケットフィットを示す一つの指標となるし、NPSは満足度よりも利益との相関が高いことが分かっている。

マーケットフィットの重要性は理解できたと思う。この取組をプレシード期に行う理由を議論したい。プレシード期は、ビジネスアイデアの検証、初期プロトタイプの開発、初期市場の反応を確認する。この段階で、アイデアが市場に受け入れられるかどうかの仮説を立て、初期の顧客インタビューや市場調査を通じて仮説を検証することはもちろん重要だ。しかし、完全なマーケットフィットの確認は難しい。まだベンチャー自体の仮説が固まっていないからだ。

そのためにシード期で商品(製品やサービス)のマーケットフィットを真剣に考えるのだ。製品やサービスが顧客の問題をどれだけ解決できるか、顧客がその価値をどれだけ認識しているかを評価するのだ。顧客インタビュー、プロトタイプのテスト、市場調査などを通じてフィードバックを収集し、製品を改善していく。

シリーズA以降は、商品の市場投入後の成長加速、マーケティングとセールスの強化、チームの拡充が目的になる。この時期以降は、一定の程度のマーケットフィットが確認できていることが前提になる。シリーズA以降は、製品のスケールアップや市場シェアの拡大が主な焦点で、マーケットフィットが確立されていることで、投資家からの信頼を得る。従い、マーケットフィットを考えるべき段階は、シード期が最も重要なのだ。

(シリーズA:Series A)
シリーズAは、ビジネスモデルを拡大し、持続可能な収益を確保する、つまり商売に結びつけるための取組だ。製品やサービスのスケールアップを行うために、マーケティングと営業の強化を進める。ベンチャーキャピタル(VC)やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)からの投資を積極的に受け成長を目指す。そのため調達する金額は少なくても数千万円、通常は数億から数十億程度を集める。

シリーズBでは、2回目の資金需要として、更なるビジネスモデルの拡大、市場シェアの獲得、新市場への進出などを行う。回数が増えてC、Dと続く度に資金は大きくなる。より大規模なVCやCVCなどと関係を密にして展開する。規模が大きなベンチャーなどは、大規模な事業拡大、国際展開、新製品ラインの追加、M&Aなどの計画を実行するための資金として数十億から数百億を集めることもある。ここまでくるとグローバルVC、大手金融機関、戦略的投資家、プライベートエクイティ(PE)なども調達候補として上がってくる。

ところでシリーズAから一気に上場準備に進めない理由もある。ベンチャー企業は急成長を目指し、革新的なアイデアや技術を活用して新市場を開拓することが多い。初期段階のシリーズA前後で、製品やサービスの市場適合性(Product-Market Fit)を確認し、初期の顧客基盤を構築する。シリーズB以降では、事業の大規模な拡大が必要となり、さらなる資金調達が求められる。前に入れた金額を凌駕するための企業価値にしなければ、投資家もリターンを得られない。得たとしても十分な金額にならないという投資家再度の理由もある。

もちろん、市場シェアとの戦いに一定の目処をつける目的もあるだろう。ベンチャー企業といえども、同じような製品やサービスが育ってくれば、やがてその事業は一定の市場を成し成長市場と化す。その中で競争が激化する。市場シェアを迅速に拡大するためには、マーケティングや営業、製品開発に多額の資金が必要となるのだ。各シリーズでの資金調達は、この成長を支えるためのガソリンになるのだ。

さらなる企業価値を高めるためには、新市場への進出や新製品ラインの追加が重要な場合もある。ここにも大規模な資金が必要となり、シリーズC以降の資金調達が行われる。各資金調達ラウンドでは、企業価値(バリュエーション)が上昇することが期待され、投資家は次のラウンドでの高い評価額を期待して投資する。成長期待には天井がなく、大規模な事業拡大、国際展開、大規模な設備投資、新規M&Aなどをすることで確率が高まるのであれば、シリーズEやFと続くこともあるのだ。近年のユニコーン企業(評価額が10億ドル以上のスタートアップ)は、シリーズEやFまで資金調達を行うことも多い。上場前にさらなる成長資金を確保するためただ。

シリーズA以降の資金調達をしたものの、目的を達成できない企業も数多く存在する。というかベンチャー企業の特徴を鑑みたら珍しくもない。いくつか理由を整理してみる。

まずは、需要不足だ。要は売れると思ったが、そこまで売れなかった場合だ。企業が提供する製品やサービスに対する市場の需要が予想よりも低かったのだ。Quirky(クワーキー)は2009年6月にベン・クウフマン(Ben Kaufman)によって創業された。GEや大手VCなどから合計185万ドル(当時約222億円)の投資資金を調達していた。しかしその年の9月22日、Quirkyは、米国破産法第11条に基づく倒産手続処理の申請をした。Quirkyは社名の通り、誰でも自分の商品アイデアを提案でき、コミュニティと改善しながら支持を集めて、商品化されればロイヤリティを得られることで人気を集めたプラットフォームだった。実際、登録ユーザーは113万人で400以上の商品が生み出された。しかし思うような需要がなく、最終的に破産したのだ。

競争激化もある。同業他社や新規参入者との競争が激化して、市場シェアを思うように獲得できなかった場合だ。現在でもウェアラブルデバイスはポジションが曖昧でこれと言った目立った企業が無いと思う。そのウェアラブルデバイスでは老舗的存在だったJawbone(ジョーボーン)も1999年の創業からポジションを取ると思われたが、2017年6月に資産売却が報じられ、既存ユーザーへのカスタマーサービスやアフターケアがなおざりになり結果的に、Fitbitなどの競合にも対抗できずに事業を閉鎖した。

経営上の問題もある。経営陣の戦略ミスや運営上の問題が原因で事業が息詰まった場合だ。血液検査スタートアップとして有望視されたTheranos(セラノス)は、内部の経営問題や技術の信頼性に関する問題が原因で失敗した。創業者兼CEOだったエリザベス・ホームズと元COOのラメシュ・バルワニは、投資家、医師、患者を騙した詐欺罪で起訴されたのだ。

資金管理からの失敗もある。調達した資金の使い道が不適切で、資金不足に陥った場合だ。バッテリー交換式の電気自動車の普及を目指したイスラエルのスタートアップ、Better Place(ベタープレイス)。2007年に創業のベタープレイスは、これまでに8億5,000万ドルもの資金を調達していた。しかし、2013年に破産申請を行っている。ビジネス展開の読みが甘く、10年かかると考えられた事業をわずか1年で実現しようとして急激な投資と資金ショートに陥ったのだ。資金の管理がうまくいかず、破産に追い込まれた。

技術的な問題もある。商品(製品やサービス)の技術的な問題が解決できず、顧客の期待に応えられなかった場合だ。2011年8月米国カリフォルニア州に本社を置く、太陽光発電パネルメーカーのSolyndraは、連邦倒産法第11章に基づく申請を行い倒産した。同社は、CIGS型薄膜太陽光パネルメーカーとして2005年に創業。クリーンエネルギーの担い手として、オバマ大統領からも絶賛されていた。VCからは10億ドル以上の資金を調達し、米国エネルギー省からも債務保証を受け、仮に債務不履行となった場合に、エネルギー省が負担をする契約もとりつけていた。しかし中国メーカーや他の企業のコスト競争と技術に追従することができずに競争力を失ったのだ。

規制や法律の変更に追随できず失敗した事例もある。Aereoはテレビ番組をパソコンや携帯端末で見れるサービスを展開した。従来Apple製品などに限定していたサービスを主要ブラウザに拡大し、多くの人が主要テレビ局(ABC、CBS、NBC、FOXなど)の番組をパソコン等でストリーミング視聴できるようになるサービスだ。しかし、時期が早いのと、エスタブリッシュメントからの反撃と法的問題で事業を継続できなくなった。

ハイリスク・ハイリターンにかけるベンチャー。シリーズA以降の資金調達を成功した企業でも、様々な理由で目標達成できなかった事例を紹介した。市場の需要、競争、経営、資金管理、技術的な問題、規制の変更、顧客獲得の失敗などが主な要因だ。これらのリスクを管理し、適切な戦略を持つことが、ベンチャー企業の成功にとって重要なのだ。

ちなみに、シリーズAを通過したスタートアップの約50%が、その後のラウンドで資金調達に成功せずに事業を閉じている。これは、シリーズAを獲得した企業の約半数がシリーズB以降に到達せずに失敗することを意味している。CB Insightsの統計では、シリーズAを受けた企業の約60%がシリーズBに到達、その企業の約65%がシリーズCに進むことができ、シリーズC以降も同様のパターンで減少する。この統計だと、100社がシリーズAに進んでも、シリーズCで残っている企業は39社にとどまる。

他の統計では、すべてのスタートアップのうち約90%が最終的に失敗すると言われている。このうち、シリーズAまで到達するスタートアップは少数で、シリーズA以降の段階で事業が失敗する確率も高い。シリーズB以降にフォーカスした統計でもやはり多くの企業が市場の競争や経営上の問題で失敗している。シリーズBを通過した企業の約30から40%が最終的に成功(例えばIPOやM&A)すると言われている。スタートアップの成功は多くの要因に依存し、資金調達の成功だけではなく、マーケットフィット、競争力、経営の質などが重要な要素となるのだ。

(上場準備:Pre-IPO)
これまで見てきたシリーズA以降の取組は、成長加速、組織拡大、資金の適切な運用、事業モデルの検証と拡張などに焦点をおいた。しかし上場準備では、上場に向けた準備を整え、企業の透明性とガバナンスを強化する。内部統制の整備、監査の実施、IPOチームの結成、証券取引所への申請準備、証券会社との連携などを整えるのだ。

当然創業者や創業チームの役割も変わってくる。シリーズA以降の取組は、リーダーシップ、戦略的意思決定、資金管理等が役割だったが、上場準備ではガバナンスの強化や外部対応、そして組織や事業の透明性の確保が必要になる。そのため多くのベンチャーではこの部分の機能が不足するため専門家を導入する傾向が高い。CFOや法務責任者など、特定の分野に精通した専門家だ。創業者や創業チームは、外部専門家をチームにいれることで従来の企業ビジョンと戦略実現に集中することができる。重要なことは、創業者や創業チームが企業文化とビジョンを維持し続けることだ。専門的な役割を他のメンバーに委任しつつ、自身はリーダーシップを発揮し、企業全体の方向性を示すことが求められるのだ。

上場準備に必要な資金調達の調達手段も変わってくる。プレIPOファイナンスやブリッジローンなどを活用することもあるからだ。

プレIPOファイナンスとは、企業が新規株式公開(IPO)を行う前に行う資金調達を指す。この段階での資金調達は、IPOを成功させるための準備や最終的な成長の促進を目的とする。企業がIPOを実現するためには、一定の規模と成長率が必要だ。プレIPOファイナンスは、この成長を加速させるための資金を提供する。また、IPO前に財務状況を強化することで、投資家に対して安定した企業であることを示すことができる。更に、企業がIPOの準備を進めるためには、多くの運転資金が必要となる。IPO関連の費用(弁護士費用、監査費用、マーケティング費用など)も当然も含まれる。更に、プレIPOファイナンスは、企業の市場認知度を高める目的としても活用される。大手投資家からの資金調達は、企業の信頼性を高め、市場での地位を強化するのだ。

ブリッジローン(Bridge Loan)とは、短期間での資金ニーズを満たすために提供される一時的なローンを指す。通常、次の資金調達ラウンドや特定の財務イベントが完了するまでのつなぎ資金として使用される。ブリッジローンは、数ヶ月から1年程度の短期間で返済されることが一般的だ。そのためリスクは高いと判断され、金利は高めに設定される。ただしブリッジローンは緊急の資金ニーズを満たすため、通常のローンよりも迅速に承認され、資金が提供される。そしてブリッジローンは担保付きで提供されることが多い。担保は、不動産や将来の資金調達による株式などが利用される。ブリッジローンは、従来の調達手段と異なるので、実施についてはCFOや他の専門人材と議論して進めるべきだが、そうは言ってられない時期で、あと少しお金があればIPOできるというプレッシャーが思考の判断を誤らせることも良く聞く話だ。ブリッジローンの存在がIPOでの企業評価に影響を与えることもある。高金利や短期返済の負担が短期的な業績の評価を下げる要因になる場合だ。

上場準備に要する期間はもちろん様々だ。しかし一般的な目安はある。シードラウンド後からシリーズAまでの期間は、通常12ヶ月から24ヶ月だ。更に、シリーズAからシリーズBまでの期間も、通常12ヶ月から24ヶ月。そして、シリーズBからシリーズCまでの期間は、通常12ヶ月から24ヶ月。シリーズA以降、何回もラウンドを回せば良いというものではないが、1年から2年費やせば結果をだせるでしょう!というのが投資家目線の考えなのだ。そして上場準備。上場準備には通常6ヶ月から18ヶ月が必要とされると言われる。予め上場を意識して財務、法務、組織の透明性を高めている企業は1年かからないかもしれないし、それ以上かかる組織もあるかもしれない。そんなニュアンスだろう。

(上場:IPO)
IPOは、公募価格で株式を市場に公開し、大規模な資金調達を行う。活動は、IPO申請の最終手続き、投資家向けロードショー、株式の価格設定、上場初日等だ。公募株式を売却することで資金調達するのがIPOで、企業によっては数百億円から数千億円を調達することもある。

IPOにおける公募価格(オファー価格)は、企業価値を反映し、投資家にとって魅力的である必要がある。この価格を決定するプロセスはとても複雑だ。多くの要因を考慮する必要がある。ここは事務屋の出番だ。

まず、財務分析と企業評価だ。企業の財務状況、成長見通し、業績、収益性などを詳細に分析し、収益の予測やキャッシュフローの分析を行い、企業価値(バリュエーション)を算出する。この分析は、大型のM&Aをする際と同じと考えて良い。その後、DCF法や比較類似会社法、市場乗数法等、複数の評価手法で企業価値のあたりをつけていく。

次に、証券会社(アンダーライター)との協議だ。証券会社は、企業の価値を評価し、公募価格を決定するための助言を提供する。証券会社は市場の動向や投資家の需要を考慮して価格設定を行う。

投資家向けプレゼンテーションをロードショーと言う。企業の経営陣や証券会社の担当者が、主要な投資家が所在する複数の都市や地域を巡回しながらプレゼンテーションを行う形式から言葉の由来が来ている。今でこそZoomで説明などが可能だが、昔は投資家が一箇所に集まるのではなく、企業側が投資家の元へ出向いて説明会を行っていた。ただ泥臭い作業であることはかわりない。直接投資家にプレゼンして意見交換することで、投資家の関心と需要を把握し、公募価格の適正範囲を確認するのだ。

上記の調査や分析を経ながら初期の価格帯(プライスレンジ)を設定する。この価格帯は、最終的な公募価格を決定する際の参考になる。続いて、ブックビルディング(需要積上)を行う。投資家に対して一定期間内に価格帯の中での購入意向を確認し、その需要を集計するのだ。ここでもその意向や結果を踏まえて公募価格の決定の参考にする。そして、最後に、企業と証券会社が協議して、最終的な公募価格を決定する。需要が強ければ価格帯の上限近くで、弱ければ価格帯の下限近くの株価に設定される。

ここで忘れてはならないのが、シリーズA、Bなどの上場準備前に行った資金調達の額やその時の株価だ。当然にIPO時の公募価格に大きな影響を与える。投資家は過去のバリュエーション履歴を参考にして、現在の企業価値を評価するのだ。将来のキャッシュフローは事務屋が描いた餅まではいかないが、実務的な投資家は過去を参考にしたがるのだ。シリーズA、B、C等で高い評価額を受けた企業は、IPO時にも高い評価額が期待されるのだ。

それから既存投資家の持ち分希薄化(エクイティ・ディリューション)の程度がIPOの価格設定に影響する。新規投資家の株式が既存投資家の持ち分をどの程度希薄化するかだ。毎回、適切なバリュエーションを維持するために、各ラウンドでの資金調達額と発行株数を慎重に管理している。これまで説明してきたように、各資金調達ラウンドは、企業の成長ステージを反映している。シリーズAは初期成長、シリーズBは拡大期、シリーズCは成熟期等で、この活動に応じたバリュエーションも加味する必要がある。実際、将来のキャッシュフローを予測するのは極めて難儀なため、過去にフォーカスする傾向が投資家には強いのだ。そのため直前の資金調達ラウンドでの株価が高ければ、IPO時の株価もそれに基づいて高くなる傾向がある。プレIPOファイナンスで敢えてブリッジローンを組み入れるのも高い株価を維持したい目的などが見えてくるだろう。

整理するとIPOの価格設定とこれまでの資金調達の歴史は無視できないのだ。各資金調達ラウンドは連続した評価の過程で、IPOはその延長線上にある。過去の評価額と調達額がIPO時の評価に自然に組み込まれるのだ。それから各ラウンドで発行する株式数と調達額を慎重に管理し、既存株主の持ち分希薄化を最小限に抑えながら成長資金を確保する。これにより、IPO時の株価維持が可能となる。投資フェーズが早いほど、資金の回収リスクが高まる。その理屈から希薄化に関しての意味合いが理解できるだろう。結局、各ラウンドでの成功や成長成果を示すことで、投資家の信頼を維持し、IPO時の高評価を目指すのだ。それが市場の期待に応えることにつながるのだ。

(まとめ)
ベンチャー企業はシード期、シリーズA、B、C、・・・と資金調達を行い、成長と拡大を図る。シード期では、製品やサービスの市場適合性(Product-Market Fit)を確認し、初期の顧客基盤を構築するために資金を調達する。シリーズAでは市場適合性をさらに確認し、シリーズBではスケールアップ、シリーズCではさらなる拡大を目指す。これらの段階での評価額や株価は、IPO時の公募価格に大きく影響する。

IPO前のプレIPOファイナンスやブリッジローンも重要で、これらの資金調達が企業の成長と市場信頼を支える役割を果たす。上場準備段階では財務整備、法的準備、組織の透明性強化が求められ、投資家向けプレゼンテーション(ロードショー)を通じて投資家との信頼関係を築く。ロードショーでは企業の成長戦略や財務状況を説明し、投資家からのフィードバックを得て最終的な公募価格を設定します。IPOの成功は市場環境、企業の財務状況、ガバナンス、投資家の需要など多くの要因に依存するが、慎重な準備と戦略的対応が鍵となるのだ。と考えると、IPOは結果的に確実にコントロールできるものでも無いと思う。まさに神のみぞ知る領域なのでは無いか。

(過去の記事)
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