新規事業の旅127 行動しないことの考察

2024年7月16日 火曜日

早嶋です。(約2700文字)

“likability limited” この言葉だけでは読み取りにくいし、具体的な文脈を伴わないと理解が難しい。一般的には「限られた好感度」や「好感度の制限」という意味になるだろうか。例えば、人々が他者からの好感度を重視しすぎるあまり、本来の自分を出せない状況や、自分の意見や行動を敢えて制限してしまう場合などに使われる。

新規事業や新しい取組を行う際に、人の行動を抑制する理由は、自分の戦いがあると思う。多くの人が成功を目指して努力するよりも、失敗を恐れて行動を控えることを敢えて選択するのだ。アタマの中ではこのように考える。本当は、自分が行動していたら成功していたかもしれない。でも、実際は行動をしなかったから成功していないのだ。と。自尊心の塊である。が、そのような心理的な抑制が常に我々の行動をストップしているのだ。犯人は分かっている。恐怖と不安。完璧主義。自己効力感の低さ。そして社会的な圧力だ。

失敗に対する恐怖や不安が行動を抑制する要因となり、特に、失敗が自身の評価や他者からの評価に大きく影響する場合、リスクを避ける傾向が強くなる。自分が新規事業の部隊に入り、失敗があたり前と理解してもだ。無理もない、それまでは既存の事業で失敗を殆ど体験していない。むしろ、成功したと勘違いして仕事をしているからだ。既存の仕事の成功は、過去の諸先輩方が作り上げたベースの上にあることをもっと理解すべきなのだ。

何事も100点を取らなければ気がすまない人は、残念ながら向かないかもしれない。そもそも新しいエリアに100点が存在しないのだ。領域や概念がまだ完成されていない。何を持って100点にするかすらわからないのだ。しかし完璧主義の人々は、完璧な結果を出すことに固執するあまり、失敗の可能性を避けるのだ。完璧が存在しないのに、完璧に至らない結果を恐れて行動しない。もう、禅問答バリバリの行動ではないか。リスクを伴う行動を控える。考えてみると、アタマがちょいと良すぎるのかもしれない。

もちろん過信してはいけないが、自分の能力を信頼しないのもいけない。一定の自己効力感は必要だ。はじめての取組だから、誰だって始めから上手くはいかない。取り組む過程で時間はかかるがコツを掴むことができるかもしれない。だから行動してみよう。と考えて取り組むべきなのだ。が、実際は、自分の能力に対する信頼が低いがあまり、成功するための努力をするよりも、失敗のリスクを避けることを選ぶのだ。

とは言え、社会的な圧力は存在する。そもそも新規事業と言いながら一定のノルマがある。それが売上や利益に対して紐づくこともある。既存の事業と異なるので、評価の方法は異なると言いながら、実際は既存の評価と同じ物差しで計られる。アタマが良い人は新規をやれない。新規のリスクがあり、既存の同じ物差しで評価されたらネガティブになる可能性が高いことはすぐわかる。既存のように四半期ごとで評価されたら大きな挑戦はできないのだ。これは明らかに社会的な圧力だ。他者からの期待や評価を重視する文化や環境では、失敗することが恥とされることが多く、これが行動を制限する要因となるのだ。

この4つの犯人、すなわち、恐怖と不安、完璧主義、自己効力感の低さ、そして社会的な圧力から回避し、逆に成功するためにリスクを取ることや失敗から学ぶことが不可欠であり、これを理解し、克服することが重要なのだ。そのための手法も明らかにされている。小さな目標設定、失敗から学ぶ、自己効力感を向上させ、他者のサポートを構築するのだ。

いきなり大きな目標を設定する代わりに、達成可能な小さな目標を設定し、一歩一歩前進するのだ。人の心は慣性の法則と同じだ。止まっている物体を動かすエネルギーは莫大だ。そこで少しづつ勢いをつけるのだ。そして徐々に取り組むことで、逆に止められなくなるのだ。

失敗は成功のもとなのだ。偉大なバカボンのパパが言っている。失敗を避けるのではなく、失敗から学び、改善することを目指すのだ。テストの点数をばかりに目を向けてはいけない。自分が間違った傾向やポイントを理解して、その次に活かす活動を繰り返すことが大切だ。

当然に、このことを行うためには、一定の自己効力感を高めることが大切だ。お前はだめだ!なんでできないのだ!できるまでご飯を抜きますよ!すべて最低のフィードバックだ。このような逆境から立ち上がる人物はごくわずかだろう。人は一定の安全な環境が必要なのだ。その中で自分の効力感を育み育て高めることができる。

そのためには、第三者のサポートが不可欠になるのだ。失敗に対してもタイミング良くフィードバックを与え、それらから学びが得られる環境を与えてあげるのだ。

失敗を恐れるあまりに行動しない。かなり研究された分野だった。専門用語に”Atychiphobia”がある。失敗に対する強い恐怖を指し、この恐怖が原因で行動を控え、リスクを避けたりする状態を指す。また、ビジネスや心理学の文脈では、”procrastination”や”avoidance behavior”も関連する用語として使用される。”Atychiphobia”は失敗に対する極端な恐怖を指す心理学的用語で、行動や決定を先延ばしにしたり、回避したりする原因となる。”Procrastination”はやるべきことを後回しにする行動を指す。”Avoidance Behavior”は不安や恐怖を引き起こす状況や課題を避ける行動を指す。

なんだ、誰もが同じ心を持っており、誰もが恐怖を持っているのだ。そうかそうか。と捉えて、小さく始めるのが吉なのだ。知識は人をアタマでっかちにする場合もある。しかし、この手の学びや考察は知ることによって、行動がしやすくなる場合もあるのだ。

(過去の記事)
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