新規事業の旅123 人事異動の落とし穴

2024年7月10日 水曜日

早嶋です。

国内の企業を利益の大きな大企業と、小さい企業で分けてみる。大企業は普段ニュース等で見聞きし、新卒が挙って入社したい企業だ。その多くは上場している。数として国内では4000社程だ。企業総数が300万社程度あることを考えると、大企業はごく僅か。世の中は中堅中小企業が殆どなのだ。

大企業と呼ばれる企業の多くは、グループ会社を持ち、成長戦略を掲げている。そのため常に売上や利益の拡大を目指す。特に上場している場合、成長はストップできない。株価は将来その企業が稼ぐキャッシュフローの現在価値なので、成長を選択しない企業の株は下がることを意味するからだ。株価が下がれば他の企業から安く買収されるリスクもある。大企業の経営者は是が非でも成長を続けなければいけないのだ。

従い、大企業は一定の数値目標を掲げる。場合によっては明確な根拠がない場合もある。数値目標は売上を●億円、利益を●億円など、結構キリが良い数字を並べることが多い。今売上が270億円だったら来年は300億円とか。今売上が4200億円だったら2030年に5000億円とかだ。この売上や利益は親会社が1社単独で作るのではなく、グループ会社全体で達成する構図だ。例えば、現在グループでの利益を250億から2030年に向けて500億増やすとか、利益率を2倍にするとかなどだ。明確な根拠が先に来るよりは、一定のスローガンをい掲げ、そこに向けて一丸となって取り組むイメージが強い。グループで目標を掲げると、その達成は当然にグループ会社にもノルマとして降りてくる。グループ会社の経営計画も、現在の利益額を2030年に向けて2倍にする。とか、10億の利益を20億に増加するなど、すべてが本店の意思に比例した事業計画を基本に策定していく。不思議なのは、ここにポートフォリオの概念が薄いことだ。

事業ポートフォリオは、事業のカテゴリを、成長軸(高低)と規模軸(大小)で4つに分ける。成長が鈍化したフェーズで規模が大きい事業が最も理屈では実入りが良い。規模が大きくても成長が大きい事業は今後のキャッシュを得る目的で先行的に投資が必要でキャッシュは残りにく。このようなカテゴリ分けをしながらどの事業を伸ばし、どの事業に投資し、どの事業を縮小させるかが企業戦略のポイントになる。当然に、組織の規模が大きくなれば、事業会社に加えて、グループ会社も同様に議論をしなければならない。

が、実際は本店(親会社)とグループ会社のポートフォリオの管理を一緒に行っている企業が少ないように感じる。その理由は、グループ会社の統治と経営者の指名の仕組みにある。本店で一定の能力を持つ社員がすべて本店の出世コースに乗るとは限らない。本店の出世コース枠には当然に限りがある。事業部長や取締役などの役職数を考えてみればイメージできるだろう。そのため本店の出世コース枠と同様に、グループ会社の経営陣の枠も、多くの企業では本店からの人事が多い。

グループ会社にも規模の大小がある。規模が小さければ本店の課長クラスがグループ会社のトップになることもある。グループ会社の規模が大きければ本店の部長や取締役が経営陣になる。ただ、本店で部課長レベル、あるいは役員レベルであっても、既存の事業モデルの中で一定の拡大はできたものの、誰でも経営ができるわけではない。むしろ創造的な動きや経営者としての全体最適の視点は乏しく、結果的に経営者となってもその企業の従来の取組をひたすら管理する方向でしか舵取りを行わない。

グループ会社が既存事業の周辺であればまだ良いが、新規事業の目的で投資した会社であれば話が異なる。新規事業の軸として、将来の事業ポートフォリオのベースを作るべく成長を遂げなければならない。そのために迅速な意思決定や試行錯誤の連続、場合によっては発想を変えた取組など、既存事業の枠組みにハマってはいけないのだ。これらを加味した人選がされていないのだ。というか、本店にそのような人材が既に不足しているので事業の停滞があることを理解していないように思えるのだ。

その結果、どうなるか。本店からグループ会社の経営陣に参画するメンバーの多くが管理に走るのだ。自分が事業の内容を理解していないので、細かいことを突っ込まれないように、ひたすら管理レポートを詳細に上げることをグループ会社の部下に求め、自分は親会社にその内容を説明する役に徹するのだ。

更に本店の経営に参画しているメンバーの多くは、既に一定の事業モデルを管理する仕事がずっと続いた。全く異なる事業モデルや業界に入り、仕組みが殆ど出来ていないところからヒト、モノ、カネ、ジカンを工面して、ゼロベースで計画しながら試行錯誤して成果を出す経験など殆ど行っていない。新規事業の取組で試行錯誤しながら一定期間の産みの苦しみが理解できないし、体験したことがないので話が通じない。既存の管理の仕組みと同様に事業会社やグループ会社を見てしまうのだ。

つまり折角、既存の事業にメスを入れる目的で取得した新規事業やグループ会社が数年も立たない内に、完全に内向きに、管理することがベースの組織に変わってしまうのだ。そのクセ、目標値だけは高まる一方になってしまう。悲しいかなだ。

人事に対しては別の取組も観察できる。グループ会社などの人事は、本店と異なる事業モデルで、新たな成長や新たな分野の開拓をする役割もあっても良い。しかし現実は違う。また、本店からの人事も同じ経営者が3年とか5年以上も続かず、ころころ人事を変えてしまう。前任の社長が礎を作って次の成長に向けて動き出すと思ったら、別の新任の社長が1年間様子を見て、全く異なる計画にゼロリセットするなどが当たり前に行われている。そのためグループ会社の社員は、自分から積極的に動き、新たな提案をするなどは無駄だと思うフシが強く、動かない体質になってしまう。

整理すると、親会社はグループ会社に成長の余白を私て目標を提示する。しかし、実際に実現するためのメカニズムは自分たちが本店で行っているルールと同じやり方で管理するので、革新的だったグループkシアyの仕組みやメカニズムが数年で本店と同じように染まってしまうのだ。革新的な取組を経験したことがない本店の人事、報告に徹するマネジメント以外を知らない役者。更に、コロコロトップを変える本店の人事。すべてが成長をさせない仕組みになっているとしか考えきれない。不思議そのものなのだ。

もちろんグループ会社のプロパーで専務クラスまで上り詰めた方々はみな優秀だ。しかし、立場を考えると、親会社の経営者に迎合せざるを得ない。そして都度都度経営戦略を修正するため極めて短期的な取組でしか事業を動かすことができないでいるのだ。新規事業の取組に関してもだ。現場は思考停止し、眼の前の業務をただただ回すのが仕事になってしまう。提言をしても聞く耳がない、それだけ無駄だと学習してしまうのだ。

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