新規事業の旅122 アントレプレナーとイントレプレナー

2024年7月1日 月曜日

早嶋です。(約4200文字)

(アントレプレナーとイントレプレナー)
続けて発音すると舌を噛みそうになるが、アントレプレナーは起業家でイントレプレナーは社内起業家だ。アントレプレナー(Entrepreneur)は、独立して自分のビジネスを立ち上げる人を指す。今の職を辞めて、新しい事業を開始することが多い。イントレプレナー(Intrapreneur)は既存事業の内部で新しい事業やプロジェクトを推進する人を指す。企業内での起業家精神を発揮し、新しいアイデアや事業を育てる。どちらも新しいアイデアを追求して、リスクを取る時点に置いて共通している。一方で活動の立場が異なる点に差異がある。

(メリットとデメリット)
双方のメリットとデメリットを整理した。参照して欲しい。

アントレプレナーのメリット
ヒト: 自分でチームを選び、自由に採用・組織編成が可能
モノ: 必要なリソースや設備を自分で選定し、投資を得る
カネ: 事業の収益は自分に帰属し、資金調達の自由度が高い(投資家やベンチャーキャピタルからの調達など)
ジカン: 自分のペースで仕事を進めることができ、スケジュール管理も自由

イントレプレナーのメリット
ヒト: 既存組織の内で人材リソースを活用可能、必要に応じて社内の専門家に相談・協力が可能
モノ: 既存の設備や技術を利用できる、新たな投資が不要な場合が多い
カネ: 企業内の予算や資金を活用できる、個人での資金調達のリスクがない
ジカン: 企業のサポートを得ながら進める、比較的安定した環境でプロジェクト進行が可能

アントレプレナーのデメリット
ヒト: チームの立ち上げには時間と労力がかかる、適切な人材の確保が困難
モノ: 初期投資が大きくなることが多く、必要な設備や技術を揃えるのにコストがかかる
カネ: 資金調達が難しい場合や、資金繰りに失敗した場合のリスクが高い
ジカン: 初期段階では長時間労働が必要と、プライベートの時間が犠牲になる

イントレプレナーのデメリット
ヒト: 組織内での人材選定や組織編成に制約があり、自由度が低い
モノ: 既存のリソースや設備に依存するため、新たな技術や設備導入が難しい
カネ: 予算に依存する、資金使用に制約があり、迅速な対応が難しい
ジカン: 企業の方針やスケジュールに従う、自分のペースで進めることが難しい

(アントレプレナーとイントレプレナーの特性)
これらからアントレプレナーとイントレプレナーの得手不得手が見えてくる。業種や業界、事業内容についてある程度法則めいたことが言えないだろうか。

アントレプレナーが成功し易い業種や業界や事業内容は、技術革新だ。スタートアップは、新しい技術やビジネスモデルを迅速に取り入れることが特徴だ。大きな組織はスピードが遅いので難しさを感じざるを得ない。昨今はクラウドの発達で、プログラミングやソフトウェア開発など、小規模でも始められ、迅速な市場投入が可能だ。バイオテクノロジーもAIやクラウドの活用によってスピード感が重要になりアントレプレナーが立ち回りやすい。

資本が小さくても良い業界もアントレプレナー向きだ。例えば、コンサルティングやデザインなど、初期投資が少なくても始めやすい。オンラインショップの立ち上げも比較的低コストで可能だ。それから大企業が狙わないニッチ産業は基本だ。特定のコミュニティや特徴にフォーカスした顧客に特化したサービス提供等は、大きな組織はぼんやりとしか対応しない。アントレプレナーとしては始めやすい領域だ。

イントレプレナーが成功しやすい業界は大規模な資本を必要とする事業だ。何らかのテクノロジーを展開する際、大規模な設備投資が必要になる。製造業などは、既存のリソース活用を行いながら資本利用するほうが有利だ。エネルギー業界なども同様だ。発電施設や配線網の設置には莫大な時間とコストが必要になる。

それから規制が厳しい業界なども、イントレプレナーが向いていると思う。金融、医薬などは規制やコンプライアンスが厳しい。既存の企業内で新サービスを立ち上げ、業界や政府と交渉を進める方が良い。新薬の開発も長い時間と多くの資金が必要だ。既存のリソース活用は有利に働く。

同じ文脈で、既存の経営資源が活用できる事業もフィットする。消費財などは、一定の認知度を得た企業が新商品を投入するほうが市場にリーチし易く初期の購買を誘いやすい。メデイアなども既存のプラットフォームを活用する場合は、展開はしやすくなる。

アントレプレナーは、技術革新が求められる業界や、少ない資本で始められる事業内容がトッカリとしては良い。また、ニッチ市場は大手企業は無視しているので初期の競争優位を築きやすいのだ。一方、イントレプレナーは大規模な資本が必要な業界や、規制が厳しい業界、既存のブランド力を活用できる事業内容で成功しやすい傾向がある。

(資金調達)
ただし、上記は資金調達を無視している。アントレプレナーの醍醐味は出資を受けて資金調達をすることだ。もちろん、イントレプレナーも同様の可能性はあるが積極的に資本政策を活用した発想に及びにくい。理解を深めるために外部の資金を活用するメリットとデメリットを整理する。

メリットは複数ある。まずは資金調達によるリソース確保だ。アントレプレナーが外部から資金を調達する際に、信用が低いので金融機関から大きな金額は引き出せない。そこで一定のリスクを鑑みるベンチャーキャピタルやビジネスエンジェルなどを通じて資金を調達する。当然、出資した個人や組織は、将来その事業が成長して株価が高くなることを期待するので、事業に関する情報や人脈を紹介したり提供したりする。結果的に必要な設備や人材が集まりやすくなる傾向がある。

十分な資金調達は、スケール拡大を促進する。資金を適切に活用して事業を急速に拡大し、大きな市場を狙うことができる。もちろん他に、資金を研究開発や製品開発に投資し、市場投入までの時間を短縮することもできる。既に商品ができていれば、その認知と販促に資金を投じて販売を増やすこともできる。

一方でデメリットも存在する。外部の投資家から出資を受けることで、経営の自由度が制限される可能性だ。投資家は、将来の株価を高める方向で支援をしたがるが、アントレプレナーとして不都合になる場合も想定される。ベンチャーキャピタルなどは、資金を他から集めて、それを投資する。そのため投資した企業のガバナンスを強化する方向性が強まる。経営の透明性や資金使途の具体化は、初期のアントレプレナーにとっては体制整備がコストとなる場合もある。

当然、資金を大規模に投じるとリスクも増大する。事業スケールを大きくすると、従来と異なるオペレーションや体制が求められる。ただこれは成長する組織は必ず通る道でもある。

アントレプレナーが出資を受け大規模な取り組みを行うことで、事業を急速に成長させることは可能だ。出資者のネットワークや経験を活用して事業を加速できる可能性は魅力的だ。一方で、出資を受けることで新たな責任やリスクが発生する。当たり前だが、成長ステージに応じた適切な計画とマネジメントはどの道必要なのだ。

(資金調達を得やすいアントレプレナーの特徴)
実際、出資を外部から受ける際、誰でも彼でも資金調達ができるわけではない。最後に、どのようなアントレプレナーが結果的に出資を受けやすいか特徴を整理してみた。

1つ目は、酷だが過去の成功だ。シリアルアントレプレナーは過去に成功した経験があるので2回目、3回目の起業を連続的に行う。そのため経験が増し、その結果資金調達がしやすくなる。ただ、この条件を持つ人はごく限られるので2つ目以降の王道を参照して欲しい。

まずは概念的な要素で明確なビジョンと戦略だ。一定の資金を人に投資するのは美談だ。やはり一定の頷ける要素は欲しい。その代表が長期的なビジョンと具体的な戦略だ。話を聞いて、投資と将来の可能性がイメージできることは必須だ。ここには展開する事業構造や市場構造の理解も無いよりはあった方が説得力がます。市場、競合、マクロ環境の洞察を行った上で、自分たちの仮説が立証できる可能性を示すのだ。

次は、属人的な要素だ。強烈なリーダーシップとチームを管理する能力を見る。ビジョンが大きいほど、大規模な組織になる。その際に、リーダーシップとチーム管理する能力、あるいはそのネットワークを持っているかを見られる。可能性が大きいと判断するとチームを提供する投資家もいるが、大抵の場合、そこまで手厚いフォローを始めからしない。

そして、何よりも口先、顎先で終わらないことを信じたい。アントレプレナーの行動力と結果を検証して前進するエネルギーに投資する。ビジョンや戦略が秀逸でも、その取っ掛かりはアントレプレナー以外はできない。その一歩目を泥水を飲みながらでも行っているかを見ている。出資が集まれば行います。的な人材には残念ながら可能性を1ミリも感じない投資家が多いと思う。

後はあえて色々書くとすると柔軟性や適応力だ。ただ実行力がある方の多くは、その行動の結果を適宜検証して修正していくので、結果的に柔軟な対応を取れる人材が多い。出資を受け、大規模な取り組みに進む際に、計画通り進まないことが殆どだ。その際の状況対応や戦略変更等は要素として必要だ。ただ、出資をする際に判断ができないので、今、もしくは資金調達の交渉をするまでに、当人がどのように行動したかの過去からしか判断できない。

最後は、コミュニケーション能力だ。当然、投資家にビジョンや戦略を整理して伝えている時点で一定の高いコミュニケーション能力を保有している。少ないチームで試行錯誤してその取組をチームや利害関係に伝え議論が出来ている時点で一定のコミュニケーション能力を担保していることになる。

今回はアントレプレナーとイントレプレナーの特徴について考察した。企業内でイントレプレナーを養成する場合の参考になるのでは無いかと思う。ここまで改めて整理した結果、イントレプレナーにとって、最も重要な要素は、今行動しているか?に尽きると思う。頭でっかちで計画や企画ばかり書き、口八丁、手八丁で上司を口説くだけの人間はあまり役に立たないと思うのだ。

(過去の記事)
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