新規事業の旅 121 必要は発明の母

2024年6月30日 日曜日

早嶋です。

熊本で新規事業の議論をしている際に、「蛸」の話を聴いた。蛸の消費が世界的に増え、環境要因で漁獲高も減り、結果的に価格が高騰しているそうな。将来、たこ焼きが超高級食品になるというのだ。

実際、いくつかサイトを調べて見ると、タコの消費量は世界的に増加している。複数の要因が見えた。まず、タコの需要は特にアジア、ヨーロッパ、北アメリカで高まっているのだ。例えば、アジアでは、日本、韓国、中国などの国々での消費が顕著で、ヨーロッパでは、スペインやイタリアが主要な消費国だ 。アジアの需要は休息な産業の発展と人口の増加で、胃袋が増加していることは想像し易い。

タコの市場は2024年から2029年にかけて年平均成長率(CAGR)3.3%で成長すると予測されている。この成長は、タコが健康的で持続可能な食品としての認識が高まっていることに起因されているようだ。特に、低脂肪で栄養価が高いタコは、健康志向の消費者に人気が出てきたのだ 。

このような傾向が高まれば、タコの養殖も盛んになってくるのだろう。が、タコは難しいようだ。養殖技術一般に言われることだが、タコの生態系を再現するのがハードだ。タコは非常に複雑な生息環境を持つ。彼らは隠れ家や複雑な岩場を好み、こうした環境を人工的に再現するのにコストがかかるのだ。

また、タコは肉食で、特定の種類の甲殻類(エビやカニ)や魚を食べることを好む美食家で、これらの餌を安定供給すること事態コストが高いことを想像できる。更に、タコの成長速度は遅く、繁殖も自然環境下では季節的なので、養殖環境での繁殖を促進する技術がまだ確立されていないのだ。繁殖の成功率を高めるためには、適切な温度、光、栄養の管理が必要なことは分かっているが、まだ道半ばとか。

成長が遅いのと知的能力は比例するのだろう。タコは非常に賢く、パズルを解く能力や物を操作する能力がある。従い、養殖施設から逃げ出す可能性がある。彼らは狭い隙間を通り抜けたり、蓋を開けたりすることなど朝飯前なのだ。更に、知的能力が高いせいか、ストレス環境に非常に敏感だ。ストレスがかかると、自分の足を食べる自己切断(オートファジー)や、他のタコと共食いする行動を取ることがあり、養殖の実現の課題となっている。そして、タコは一般的に単独で生活する生物で、他のタコと一緒に飼育すると、互いに共食いするリスクが発生するのだ。特に、食糧不足や高ストレスの条件で顕著だとか。

タコに関しては、養殖で解決する将来はまだまだ先だと思う。

ところで、タコのように天然資源で獲得等が難しくなると、通常は養殖や代替などの事業が盛んになっていく。これらの理由を整理してみた。過剰な漁獲や環境破壊により、野生の魚資源が減少し、持続可能な漁獲が難しくなること。魚資源を巡る競争が激化し、漁獲量を確保することが難しくなる場合。タコやマグロのように、国際的な漁業権の争いが影響することもある。そして環境。気候変動や水質汚染などの環境変化により、魚の生息環境が悪化し、漁ができなくなることだ。最後にコストだ。天然の魚を獲るコストが上昇し、経済的に養殖の方が有利になる場合だ。

食料資源にフォーカスしたが、エネルギー資源はまた別の視点が加わって面白い。例えば、石油市場では、埋蔵量だけでなく需要と供給のバランスが重要な役割を果たす。石油の価格は、基本的には需要と供給のバランスによって決まり、需要が高まり供給が追いつかないと価格が上昇し、逆に供給が過剰で需要が低迷すると価格が下がる。石油の価格が上がれば、採掘コストが高い油田や技術的に難しい地域での採掘も経済的に実行可能となり、新たな埋蔵量が実質的に増えることがある。これは、価格が上昇することで、高コストの石油資源が商業的に利用可能になるためだ。新しい採掘技術や探査技術の進歩もある。結果、経済的に不可能だった埋蔵量が利用可能になり埋蔵量が増えるのだ。米国のシェールオイルの採掘技術の進歩はまさにこの事例だ。後は市場の期待と投資の関連もある。石油価格の上昇は、新たな探査や採掘プロジェクトへの投資を促進する。そして長期的には供給の増加に繋がる。また、逆に価格が低迷すると、探査や採掘の投資が減少し、将来的な供給に影響を与える可能性も当然あるのだ。

半導体等に用いられるコバルトや他の希少資源も興味深い。供給が特定の国に依存している場合が多く、結果的に、代替品の開発や新しい供給源の発見が進む可能性が高いのだ。技術革新により従来の資源を必要としない代替材料や製造プロセスが見つかることがある。半導体産業では、シリコンカーバイド(SiC)やガリウムナイトライド(GaN)といった新素材の利用が進んでいる。使用済み製品から希少資源をリサイクルする技術が進展することで、新たな採掘に頼らずに資源を確保できる取り組みもある。特に、電子廃棄物からのコバルト回収技術が進んでいる。もちろん、地質調査や新しい採掘技術の進展により、以前は経済的に採掘が難しかった場所から新たな資源を採掘できるようになることも今後あるだろう。特定の国が資源供給を制限すると、その資源の価格が上昇する。この価格上昇は、他の企業や国々にとって新たな供給源の探索や代替品の開発を促進する強力な動機となる。各国政府は、戦略的な資源供給を確保するための政策や規制を導入し、国内の資源開発の奨励や国際協力の促進が進むのだ。

天然資源としてタコ、石油、コバルトなどの希少資源について考察を深めたが、多くの要因が組み合わさることで、特定の資源に依存しすぎるリスクを軽減し、代替品の開発や新しい供給源の発見が進むのだ。これらを整理すると、次のような議論としてまとめることができる。ここは新規事業を生み出す際の着目点としても意味ある視点だ。

(資源依存)
組織が外部の資源に依存する程度が組織の行動や戦略に影響する。特定の資源に対する依存が高い場合、組織はその資源を確保するために特定の行動を取る傾向がある。

(代替効果と価格弾力性)
資源価格の上昇で、その資源の代替品を見つける動機が強まる。価格弾力性の高い市場では、価格の変動が消費者行動に大きな影響を与える。

(技術革新と資源代替)
技術の進歩は、新しい材料や製造プロセスの開発を促進し、従来の資源に対する依存を減らす。これは技術革新や創造的破壊として理論されている。

(サプライチェーン理論)
サプライチェーンの管理と最適化に関する考えだ。特定の資源供給が制約される場合、企業は他の供給源を探したり、供給チェーンを多様化することでリスクを管理していく。

(地政学的なリスク)
資源の供給が特定の国や地域に依存する場合、その地政学的リスクを管理する必要がある。資源の多様化やリサイクル技術の推進が考えられる。そして環境保護や持続可能な資源利用を重視すると、限りある資源を持続可能な方法で利用し、将来の世代のために資源を保護する動きが加速するのだ。

必要は発明の母。ピンチの状況がトリガーになって、新しい物質や概念、代替品や技術が生まれるのだ。



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