新規事業の旅105 経済的なインセンティブの大切さ

2024年4月23日 火曜日

早嶋です。

この10年。スタートアップやベンチャー企業は、国内でも一定の認知を得られる仕事になった。学生や脱サラした人が、自らの志と事業アイデアを試すべく起業し、そこにジョインする人材も後を絶たない。一方、国外でのスタートアップの成長や時価総額を見ると、量と質の両方から日本のベンチャーの勢いはが少ない。質と量のさにインセンティブはないだろうか。スタートアップは自社の企業価値の向上とともに、その組織で初期に活躍する人材の経済的なリターンを提供する取り組みだ。

20年、30年前には存在しない企業で、現在では時価総額が高い企業の多くは、企業価値をベースに巨額の資金調達を実施している。そして、他のスタートアップを内部に取り入れ、従業員にもストックオプションを付与し、企業の成長果実を利害関係者にバックする仕組みを構築し勢いを加速している。

一方、20年、30年前は時価総額ランキングで上位にあった企業の多くは、ストックオプションの制度が無い。またM&Aは近年こそ活発になりつつあるが戦略的に仕掛けている企業も少ない。資金調達の手法は、金融機関から融資を受ける取り組みもあれば、株式で資金調達する手法もある。しかし株式を活用したエクイティファイナンスの醍醐味は、資金調達目的に加えて、起業家、経営陣、従業員、投資家、買収候補先、取引先を強烈にモチベートさせる経済的なインセンティブの側面も忘れてはいけない。

このインセンティブを取り入れた企業とそうでは無い企業の比較は、三輪車で漕いでいるそばを911で爆速するくらいの違いを発揮すると思う。実際、米国ではVCの投資額はもちろんのこと、未上場企業を買収する目的で設立されたペーパーカンパニーを上場させ、そのSPACを活用したM&Aも盛んだ。ここにも強烈なインセンティブがバックに潜んでいるのだ。そして、日を追う事に新しいファイナンス手法も生み出され、進化が止まらない。

これは何らかのマネーゲームに見えるかもしれないが、成長したスタートアップは、上場した元スタートアップやM&Aでイグジットしたスタートアップの役員が手に入れた資金で、新たにスタートアップを起こし(シリアルアントレプレナー)、あるいはエンジェル投資家やアントレプレナーのメンターになりベンチャーにおけるイノベーションを加速するエコシステムの源泉になっている。

この急速なスタートアップの成長、M&Aによる出口における資金回収は、投資家の期待利回りを向上させることにもつながり、VCなどのファンドにさらに資金を集める仕組みにもつながる。そして投資額も巨大化しているのだ。本来スタートアップの成長はすべて将来の話。何の確実性も存在しない期待のみの世界だ。スタートアップの時価総額も将来の期待キャッシュフローを現在価値に割り引いた金額に過ぎず、あるいみ虚構で、極めて自由な市場で、個々人の欲望と期待が交錯する世界だ。

国内では、このような不確実な世界に政府が介入し、税制を優遇し、コントロールしようとしている。しかしナンセンスだ。そもそも不確実な世界を確実にコントロールできると思う発想がのっけから間違っているのだ。そのために、将来のとてつもないインセンティブをベースに事業を爆速させる仕組みがファイナンスの手法にはあるのだ。

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