早嶋です。
コカ・コーラボトラーズジャパン(CCBJ)は自動販売機でダイナミックプライシングの導入を検討している。夜間に価格を上げる実験から始まり、立地や需要期に応じて価格を調整する方針だ。筆者は再び失敗すると考える。
コカ・コーラ社は1990年代後半に、米国の自動販売機でダイナミックプライシングの導入を計画していた。しかし、マスコミや競合他社から強烈な批判を浴びることになり計画は実行されなかった。当時の計画は気温が高いタイミングで価格を上げる作戦。しかし、商品の価値自体は変わらないので本当に飲みたい時に価値が上がる仕組みが消費者に受け入れられなくて批判の対象になったのだ。
昨今、IoTとクラウド、そしてAIを活用した予測で、全国に70万台ある自動販売機のデータを管理しコントロールするのは容易だ。しかし、コカ・コーラの自動販売機は、その瞬間を逃したら二度とこないような体験を売っているわけではない。街中、どこにでも設置してコカ・コーラのコンタクトポイントを増加する作戦がベースだからだ。従い、需要期に値上げをしようものならモラル的に「おかしいぞ!」的な攻撃を受け、しずしず企画を中止する姿が推測できる。
立地条件で価格を変える場合、一定の僻地(山の中、山奥、ホテルの廊下やロビー、スタジアム等)では高い金額が定着しているので、消費者は疑問を呈さないだろう。その場合は、リアルタイムではなく、通常値段が違うのだ。それが、状況に応じて金額が変化することを理解した多くの消費者は嫌気をさすだろう。
コカ・コーラの自動販売機は全国に約70万台あり、台数ベースではシェア3割を超える。つまり、特定の顧客を狙ってブランド展開を行っているわけではない。あくまでもマスマーケティングで全国民をターゲットとして様々な商品を展開している。となると、コカ・コーラのことを考えて理解して商品を買うという層がいたとしても、コカ・コーラの商売を満たすだけのパイは無い。
ならばポイントを付与するのはどうか。既に導入はある。15本買えば、1本無料で手に入るというプログラムだ。アプリをDLして該当の自動販売機で購入時にポイントを貯める。DL数自体は2022年6月時点で3700万件を超えている。しかし、金額が高い時に、ポイントが付くからと言ってわざわざ買うだろうか。これも考えにくい。むしろコカ・コーラはCoke ONアプリを活用してサブスクの事業を展開したいはずだった。Coke ON Passだ。月学2,700円で毎日1本、上限毎月31本まで買えるプログラムだ。このプランは1日1本の引き換えで制限があった。ケータイのデータ量のように持ち越しが出来ない部分と1日に1本しか買えないことが不満になり解約に繋がった。そこで新たにお得プランMAXなるプログラムを導入して1日2本までの引き換えに変更している。
ここまでの結果を見ても、コカ・コーラのマス層の顧客は金銭にやかましのだ。というより安いからと言って買うことはなく、高い場合は、一定の嫌悪感を示すのだ。仮に夜に10円安いから買うのではなく、たまたま通りがかって買う。しかし、立地や需要に応じて明らかにいつもよりも高いことが分かれば、わざわざ自動販売機で買わないだろう。コンビニやスーパーで買う購買行動にシフトするだけなのだ。自動販売機はコカ・コーラの努力でコモディティにしている。それらを今更理屈では可能なダイナミックプライシングに変えたとてうまくいかないのだ。
アパホテルのダイナミックプライシングが成功している理由と比較してみよう。アパの場合、特定のビジネスパーソンを相手にしている。その立地にどうしても泊まりたい一定数の理由を持つ人が、多少の価格の乱高下を気にせずに利用する。その理由は、金銭を払うのは宿泊する人ではなく、会社だからでる。さらに、支払い金額に応じてポイントが宿泊者に溜まり、宿泊者に定期的に現金で還元される。ダイナミックプライシングの上限も法人が許容する金額を見据えて設定している徹底ぶりだ。ダイナミックプライシングが適応できる商品や業界があるのだ。少なくともコモディティで、直接購買する人と消費する人がイコールの商材は適用しづらいのだ。
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