新規事業の旅54 サーキュラーエコノミー

2023年7月13日 木曜日

早嶋です。

(循環型経済)
サーキュラエコノミー。日本語では循環型経済、ご存知だろうか。昨今の資源不足、環境リスクが高まるなか、持続可能な経済成長を目指し社会問題の解決を図る動きが加速している。そのような中、経済社会は、大量生産、大量消費、大量破棄を前提とした直線型経済(リニアエコノミー)からリサイクルを活用し、廃棄までの寿命を短くするリサイクル経済を経て、資源の効率的・循環的な利用により廃棄物ゼロを目指す循環型経済にシフトしている。

循環型経済の原則は、「廃棄物や汚染を生み出さない設計を行う」こと、「製品や原材料を使い続ける」こと。そして「自然のシステムを再生する」ことの3つだ。廃棄ゼロを目指すため、製造の超上流工程にもメスが入る動きが従来と全く異なる。ここからも西欧諸国の本気度合いが分かると思う。

(背景)
経済産業省の各資料から「資源制約・リスク」には次の主たるファクトがある。
1.世界人口は22年に約80億人で50年に向けて97億人に
2.世界の資源採掘量は15年の約880億トンが50年1,830億トンに
3.地政学問題による調達リスクが増大
4.上記関連の児童労働は5歳から17歳で20年時点で約1.6億人

同様に、「環境制約・リスク」には次の通りだ。
1.11年から20年で1.09度の地球温暖化が進む
2.世界の廃棄量は20年に141.2億トンで50年に320.4億トンに
3.海洋プラスチックは50年に生息する魚の量を超える推計がある
4.脊髄動物の個体群が地球全体で1970年から2018年の間に平均69%減少

一方、個人や地域、国家は成長機会を探り、コロナ後の成長産業の模索や技術革新の活用によるビジネスモデルを活用した機会を探っている。環境省の各資料では持続可能な経済成長の取組は欧州が先行し、同時に環境ビジネスにおいて国際競争力の獲得を目指していることがわかる。

欧州では、10年に成長戦略「Europe2020」で資源効率性向上のためのロードマップを作成。15年にサーキュラ・エコノミーパッケージで廃棄物の65%をリサイクルする、関連雇用を200万人うむ、6000億ユーロの経済価値を目標に掲げた。18年にプラスチック戦略で30年に使い捨てプラスチックを廃止とする。20年にサーキュラエコノミー行動計画で廃棄物のでない製品設計を目指している。

これに対して国連は15年にSDGsで持続可能な開発目標を発表。20年に海洋プラスチックごみ対策実施枠具に合意している。日本では1990年から2000年代に容器包装や家電などのリサイクル法を施行。19年にプラスチック資源循環戦略を発表。21年に循環経済への移行を投資家が評価する指針を経済・環境省で発表した。中国では17年に環境発展引領行動で資源生産性を対15年比で15%向上させ、資源リサイクル産業を3兆元(約60兆円)などの目標設定をしている。米国は21年に国家リサイクル戦略で30年までに固形廃棄物のリサイクル率を50%に高める。

上記の背景の中、アクセンチュアなどの資料では、30年の循環型経済の市場規模は4.5兆ドル(約500兆円)と見込まれ、関連するベンチャーやスタートアップ投資の伸長を予測している。

(欧州の事例)
循環型経済の先進事例は欧州に多数あり、地域ごとに推進しているのが特徴だ。

グラスゴー(スコットランド)では、企業の循環経済戦略によるサーキュラー指定の実現を目指す。都市のマテリアル・フローを可視化する取組をすすめている。

アムステルダム(オランダ)では、50年に100%循環経済への移行を目指す。市と先進メトロポリタン研究所が推進し、土地開発における循環基準を策定、公共調達の要件を見直している。

ブリュッセル(ベルギー)では、資源効率を高める経済の刺激策と起業家精神の向上により雇用創出を目指す。15にも及ぶ政府部門と60の産学官連携機関が都市の代謝に関する調査を実施、食品廃棄物や小売業等のワークショップを頻繁に開催している。

オスロ(ノルウェー)では、30年までにCO2排出量を対90年比で95%削減する。ゼロエミッションの公共交通ネットワークを構築し、EV普及、公共バスの30%に代替燃料を使用、市内中心部の700箇所の駐車場を廃止している。

ストックホルム(スウェーデン)は、01年に残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約を採択、16にも及ぶ分野で環境目標を設定。食品廃棄物の義務化を行い、市内バスはバイオ燃料を使用する。

欧州ではマテリアル・フローの分析が進み、上流から下流にかけて、どの業界からどの程度廃棄物が排出されるかを可視化する。これによりボトルネックとなる費用対効果が高い取り組みに優先順位をつける準備ができている。

小さな事業として、食品廃棄物を中心とした食品レストランの展開、消費者が部品を交換して利用ができるスマフォメーカーの台頭などもある。更に、ブロックチェーンとAIを活用した廃棄物コンサルを行う企業もいる。

オランダの大手金融機関のAMROは施設建設を行う際、使用後の解体を前提とした工法を取り入れている。廃棄する将来を考え、バックキャストの手法で設計レベルに影響を与えたのだ。

商品購入後は廃棄等の動きが把握できなくなることから、サブスクの仕組みを使った月額利用の事業モデルが急速に普及している。スウェーデンの家電メーカーのエレクトロラックスはサブスクを普及させることで部品の交換、修理、使用後の破棄から部品の回収とリサイクルまでをメーカー主導で実現させている。オランダの電機メーカーフィリップスは、法人向けの照明でLEDライトを無償交換し、10年間のメンテナンス契約を結ぶことで、削減した電気量を按分する事業を展開している。

大量生産、大量廃棄が問題視されるアパレル産業も動きが加速する。ZARA(スペイン)は自社商品の補修サービスを開始し、店頭で不要な衣服を回収している。H&M(スウェーデン)は修理用の当て布やワッペンを販売し25年までに全ての包装とパッケージをリユース、リサイクル、または堆肥可能な素材に変更する。

アディダス(ドイツ)は21年に発表した100%再生可能なランニングシューズで熱可塑性ポリウレタン(単一樹脂)を材料に全パーツを作成。使用済の靴を回収、洗浄、分解、粉砕、溶解することで再樹脂化でき、再び商品の原料として利用する。

イケア(スウェーデン)は、製品を使い捨てる発想から寿命延長させる取組を行う。一人暮らしで使用した棚を、家族が増えたら追加購入する。組み合わせて使用できる設計で、ライフスタイルに合わせて家具を調整することで長期間使用する思想を取り入れたのだ。

今後、所有から利用にフォーカスした事業が加速し、稼働しない商品をシェアし、無駄に購買させない取り組みも普及する。製品はファッションから廃棄を無くす機能にフォーカスされ、超上流工程の現在料調達や製造、そして超下流工程の使用後の廃棄、回収までを俯瞰したフローが重視される。これが出来ていない企業は、将来的に課税や何らかの制裁を与えて、先行している欧州企業が優位に立てる状況を確立するのだ。

参考:2023年6月向研会定例勉強会サーキュラ・エコノミー

(過去の記事)
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