新規事業の旅40 サービス業の苦悩

2023年3月20日 月曜日

早嶋です。

コロナ後の日本、サービス業、特に人流を伴う業態で現場が回っていないシーンが観察できる。鉄道、空港、宿泊施設などだ。

2019年12月、武漢より広まったパンデミックは、2020年5月頃より国内に本格的な影響を与えた。構造的に打撃を食らった産業は人流を軸とする鉄道、空港、宿泊、海運等でどうにもできない状況が続く。数年で収まるだろうが、止血を押させるには現場を維持するコストを止めるしか無い、そしてそれは人員カット以外の選択肢は無かった。コロナの期間は1年以上続き、カットされた人材は別の仕事につき新たな生活を取り戻している。そして「コロナが終わりますよ」、「マスクは個人の判断ですよ」、となり、「再び戻ってきてほしい」と言われても、最早、2年前の環境とは違い、戻ろうにも戻れない状況が出来上がったのだ。

ということで、2019年12月と同じ、或いは少ない人流でも現場が上手く機能せず混乱が続いているのだ。そのような業界では、新人を多く採用して対応しようとするだろうが現在、3月。4月から入社式を迎えて、トレーニングをしても半年そこらはトレーニングに必要で有ることを鑑みると、この状況は年内は続くと見て良いだろう。

更に突っ込んで考察すると、DXならぬデジタル化が中途半端に進んでいることも因果があると思う。例えば鉄道。ここ数年、スマフォを使って事前に乗る列車の予約ができる仕組みが定着した。しかし、主要駅はどこも発券機で行列ができているのだ。従来の予約から乗車までの業務フローは、予約⇒発券⇒改札⇒乗車だった。

スマフォを使って、時間と場所をずらして予約ができても、結局は券売機相当の機械に並んでアナログの紙の切符を発見しないと電車に乗れないのだ。前述した人手不足と重なって窓口も券売機も発券機も混雑しており、昔のように予約無しで新幹線に乗るなど非常に勇気のいる技となったのだ。

ここに対しての解決は、きっぷそのものを無くして、スマフォで予約したら、そのスマフォを改札機にかざすなりすることで改札できるような仕組みを見直すべきなのだ。ただ、改札機を改造するためのコストなどは投資になるので、すぐにできない状況もわかるので、なんとも大変な状況なのだ。

空港の場合は、予約と発券は紙ベースと同時に、スマフォをかざして搭乗する仕組みは既に整っていた。しかし、業務フローの中で混雑が緩和できない流れは、手荷物チェックだ。手荷物検査の流れはここ数十年変化していない。基本は、レントゲンマシンのような機械に手荷物を通して、モニタに映し出された荷物を人間の目でチェックして、その後かかりの人がそれらを再度確認する。人は、ゲートを潜り、金属探知機にかけられる。

混雑のポイントは、手荷物検査だ。検査前に、手荷物の中を取り出しトレーに置く。検査が終わると再びトレーから荷物を取り手荷物に収納する。バック毎そのまま機械に通す作業であれば、手間はかからないのだがいちいち出さなければならない。これらは機械の工夫等でなんとか改善できるものだと思う。ただ、ここに関しても一定の資金が必要で、コロナで傾いた業界にはとても酷な話なのだ。

最後は、宿泊施設。ここもまたチェックインの時に行列が出来ている。ビジネスホテル。シティホテル。リゾートホテルなどのジャンルで、リゾートホテルなどは、待ち時間にもいろいろなエンタメがあるので良いとして、ビジネスホテルやシティホテルは考えものだ。多くの場合、受付は機械に変わりつつあるが、人が行っている業務フローをそのまま機械化しているだけなので、効率が良いのか不明だ。スマフォ等で予約した後、チェックインの際に再びデータを登録する場合が多いのだ。チェックインした際にコードやQRコードを発行し、それらを読み込む等してデータを反映する仕組み等だとよいのだが、独自のハウスカードを持たないとそのような機能は望めない。鍵の受け渡しも、宿泊予約期間は、そのコードかQRコード等を鍵の代わりにすれば、受け渡し機能そのものが不要になる。一部オフィス等は実現できている仕組みなので具体化するのは難しくない。が、やはり投資が必要なのですぐには難しい。

鉄道、空港、宿泊施設。全て人手をベースに考えられた業務フローだった、その一部は機械化されたが、じつは大量の人材で何となくカバーできていたのだ。それが3年間の空白期間を明けて、いよいよトランスフォーメーションできていないことが露呈された。今後、思うように人では戻らないだろう。従い、上記のサービス業は電子化を更に進めるしか対応ができない。外国の労働者を期待しても世界中で人手が不足しており、国力が低下している日本よりも他の国を選ぶという行動が既に起き始めている。

ということで今年は、全てがようやくトランスフォーメーションする1年目になると思う。流石に、この状況を1年以上も続けることは無いだろう。その間に単にデジタル化を行うのではなく、根本の仕組みを見直して人が介在しないでも従来以上の顧客体験ができる仕組みが出来上がることだろう。

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