早嶋です。
新規事業で飛ぶ地を狙う場合、業界の利益構造とバランスシートの構造は理解しておくべきだ。新規事業を立ち上げたい企業の初めの一歩は、アイデア大会だが、本当にアイデア出しに集中し、その事業をビジネスの側面から考えない場合が多い。自社のビジネスモデルも余り理解していない若手を中心とするメンバが、思いつきベースで体裁を整えて紙芝居を作り上げる。新規事業の立案と実行は、様々な経営リテラシーに加え、リーダーシップ、時には不毛と思えるほどの無駄な作業を繰り返す可能性もあるので相当に経験値が上がるの。そのため学びの場としては最適かもしれない。
一方、企業側で企画する場合、アイデア創造に着目し、アイデア実行の視点が無い。既存事業と同じく事業計画やシナリオを描けば成功すると思っているとやけどをするのだ。そのため、事業をマネジメントする際の組織、会計、ファイナンス、マーケティングなどの基礎知識に加え、その業界や参入する可能性のある事業の癖や傾向を把握する努力を怠ってはいけない。ここは喫緊に修正を加え試行錯誤しながら組織知として習得する行いを続けるべきだ。
ゼロイチを自社で行う場合も、新規事業をM&Aで考える場合も、上記は確実に必要だ。特に、M&Aや出資など、資本政策をベースに新規事業を初める検討をする場合、現場の嗅覚というか勘所がなければ、出資額も、出資比率も、業務提携の中身も、最終譲渡契約書の中身も、クロージング要件の交渉も、全てが後手後手になるはずだ。
例えば、事業譲渡で案件を獲得する場合だ。交渉相手は、その事業に関係する資料を開示する。もし買い手候補がその事業エリアに対してずぶの素人、あるいは経験が少なければ、与えられた資料を鵜呑みにしてしまう。が、これは極めて危険だ。例えば、すべての企業が管理会計を明確にして、正しい資料をこしらえているかといえば違う。そのために、買収前調査は重要だし、基本合意前後で相手に対して的を射た質問をしながら内容を精査していくことが通常だ。
店舗事業などは、本来店舗で計上すべき経費を本店管理費として振り分ける。すると店舗の収益は見た目上よくなるのだ。その時に、一定レベルの範囲でその業界業態の収益構造を把握していれば、費用の比率や収益率から、広告宣伝費や教育トレーニング費が極端に少ないので、実際の1年間の運営はどのようにしているのか?などと突っ込んだ質問をして内容を確認することができる。全体の整合性が怪しいと感じたら、事業譲渡であっても他の経営資料を売り手に請求することだって構わない。交渉なので相手が断ることもあるが、こちらが本気で確認すると相手もなんだかんだ言って正しい情報を出してくるのだ。
同業者同士の出資やM&Aでは、このようなポカミスは起きないが、買い手の目的が新規事業の参入でその分野に明るくない場合は注意が必要なのだ。この状況の打ち手は、業界業態に明るいコンサルをビジネスDD目的のアドバイザーとして活用する。業界業態に明るいFAを買い手のアドバイザーとして活用する。新規事業を検討し実行フェーズに入る段階から業界業態に明るい人材を数名ヘッドハンティングし準備を初める。等が考えられる。この作業を無視して、全て自前で行った場合、相当な勉強料を覚悟することになるだろう。というか新規事業を、それも飛び地で自分たちのノウハウが無いからその獲得目的で資本政策を考える。という行為が如何に危険かが見えてくると思うのだ。よく考えて見てほしい。
全ては三性。何も無い状態から見た場合、中性無記の状態に見えるが、視点を持って観ると善性も悪性も存在することに気がつく。ジェントルマンよろしくねバリに、スマートに行くためにも、買い手として観る目を育て言うべき点はしっかり言い、仕事をスマートに進めるほうがカッコいいと思うのだ。
新規事業の旅(その25) キャズムを超える
新規事業の旅(その24) 敵のコトを知りつくそう
新規事業の旅(その23) 道具の使い方
新規事業の旅(その22) 売ってから始まる事業
新規事業の旅(その21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(その20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(その18) アンゾフ再び
新規事業の旅(その17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(その16) キャズムを超える
新規事業の旅(その15) 偶然と必然
新規事業の旅(その14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(その13) ポジションに考える
新規事業の旅(その12) 山の登り方
新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(その10) NBとPB
新規事業の旅(その9) 採用
新規事業の旅(その8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(その7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(その6) 若手の教育
新規事業の旅(その5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(その4) M&Aの成功
新規事業の旅(その3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(その2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(その1) 旅のはじまり