新規事業の旅その23 道具の使い方

2022年10月19日 水曜日

早嶋です。

新規事業をはじめる前に戦略を整えておくこと。これは本稿でも度々主張してきた。今回は、その戦略を実現するための手段として、自分たちで行う(0⇒1:ゼロイチ)、提携、M&Aの3つのオプションをどのように使いこなすと良いか概説する。

その前に、売り手の視点から事業売却を考える。通常、M&Aの売り手の目的は出口だ。つまり、何らかの理由で事業を継続できなくなった等を含め、事業の成長が鈍化する、あるい衰退する可能性を感じた時だ。事業の成長がまだ続くタイミングで売却すると高く売れるが、その場合、通常の経営者であれば売却など考えない。そのためM&Aは成長しない会社の値段となる。

まず新規事業をゼロから自社で行う場合だ。結論を先に言うが、なかなかうまくいかない。しかし、自助努力を一定の割合で続けることは良いことだ。若手の経験を積ませること、既存の事業を見直すなど、副次的な効果が得られることもある。

では、M&Aで新規事業を行うことを考えよう。売り手がM&Aを考えるタイミングは、成長が途絶えたと感じた時だ。そのためM&Aが成功した時点では売り企業の成長は鈍化もしくはストップしている。更に買い手がその企業を上手に経営できなければ、M&Aをしたときが最も時価総額が高いことになる。経営ができなければ日々時価総額を目減りさせることになる。買い手の目的が新規事業の獲得で、その方向性が全くの飛び地であれば、大概マネジメントできる人材がいない。当然、そのM&Aからシナジーなど生まれない。

現況のM&A市況を考えて見よう。ほとんどの大企業や中堅企業は成長戦略を掲げるも、成長できなくて苦しんでいる。そこで不足する売上を新規事業と意気込む。しかし数年経過してもなかなか成功しない。そしてM&Aという概念を持ってくる。そのためM&Aしたい経営者は世の中無数に存在する。ということは、通常の売り案件が出れば、買い手同士で取り合いになるのだ。

中堅企業の案件でも、プラットフォームに売り案件の情報を乗せると掲載から2週間程度で10社から15社の問い合わせがあり、1ヶ月の間で20社から30社の反応がある。そして実際に交渉に進む企業が数社に登る。ということは今M&Aとして市場に出せば売り手からするとラッキーで高く売れる可能性があると言うことになる。一方、買い手からすると高く買うことになるのだ。

新規事業をM&Aするという発想の経営者の多くは、M&Aの価格をその企業の価値のみと判断する。そのため高いか安いかの判断をその企業を見て決める。でもこの決め方は100%NGだ。なぜならば売り手1社に対して複数の買い手がいる場合、必ず合理的な価格よりも高く支払いと交渉できないからだ。例えば、売り手の本来の合理的な価格をXとする。複数の買い手が興味があるとすれば、売り手はXよりも高く売る。例えばX+αだ。そして買い手はX+αの金額が最低金額になり、複数の買い手よりも優位に立つためにはそれよりも高く買う可能性がある。例えばX+α+βだ。

売り手の価値だけ考えたら、α+βだけ高く買ったことになる。M&Aは成長がストップしたときの金額だと考えるとこのα+βは回収できない。そのため買い手は、自社の事業シナジーを考えて、α+βよりも大きなシナジーを生むと考えた時に、そのM&Aが正解になるのだ。そのため売り手の価値だけ判断して高いとか安いとかいう経営者はM&Aアドバイザーにカモられやすい。逆に、常に戦略を持ち、自社のM&Aの条件を設定している企業は他の買い手よりも売り手の価値とシナジーを考えている。結果、買収した後にシナジー出す確立がたかまるのだ。

ということで新規事業で、かつ全くの飛び地でM&Aを考える場合、そもそも自分たちでその領域のマネジメントができないのだからM&Aなんて考えないほうが良いということになるのだ。お金を出して買うことができても、それ以上の価値を確保することなど不可能だからだ。

もし、ベンチャー企業をM&Aしようと思うならば、なおさら間違いだ。ベンチャー企業は通常は利益が未だ出ていないし、その割にやたらと高い株価がついてくる。それもそのはず、当人たちは真剣に将来の成長性に挑戦しているため自社を売るつもりがそもそも無いのだ。仮に買ったとしても新規事業を自分たちでマネジメントできないでM&Aだと発想するような企業が経営できるわけが無い。

ただし、自社の事業をベンチャー企業の技術やイノベーションを活用して大きく変革できるイメージがある場合。ベンチャー企業の営業支援や品質の安定等を提供できる自信がある場合は、シナジーを提供することが可能だ。そのような場合は、ベンチャー企業に寄り添って提携を申し出ると良い。つまり通常の営業範疇で、ベンチャー企業が持つ技術を使って自社の改善をしたいとか、自社のこの資源を使って一緒に挑戦したいとかいう理由で近づくのだ。これはベンチャー企業にとっても嬉しいはずだ。その際に、ベンチャー企業が苦しそうだったらマイノリティで1%から3%程度のシェアをもらって運転資金を提供するなどするとマイノリティ出資+提携で業務資本提携という形になる。これは両者にとってWinWinになる可能性が高いのだ。

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