新規事業の旅その18 アンゾフの活用

2022年9月22日 木曜日

早嶋です。

新規事業の旅先を決めることは戦略だ。先のブログでは山の登り方としてアンゾフモデルを紹介した。横軸に、商品(製品・サービス・技術)を取り、縦軸に市場・顧客を取る。ここに既存と新規の概念を入れると、4つの箱ができる。

初めて新規事業を企画する企業の多くは、いきなり新規新規を目指す。しかし、すぐに太刀打ちいかなくなる。既存部隊の協力が得られないし、そもそもノウハウもない。闇雲に行動するが行き先が不明で手がつかないのも事実だ。従い結果が出ない。そこで新規の山を登るには既存既存でまず成果を出すことを良しとする。その際の考え方には次の2つを取り入れてみる。

(既存顧客✕新商品)
既存顧客に対して、新商品を提案する。と言ってもこのやり方は、炊飯器の機能に時短機能を追加するなど、製品にフォーカスするやり方ではない。どちらかと言えば、その商品を提供する際の、自社の組織的な連携における機能を見直し、場合によってはそれ自体を提供する考え方だ。

例えば、JTBが修学旅行などの団体旅行を商品として取り扱っていた。この際、各地域や各エリアでは担当の店舗が各々団体の旅行担当者とやり取りをしている。顧客からすると団体旅行の企画や打ち合わせは楽しいものではない。そのため、JTBはこの部分を取り入れて、旅行パッケージそのものを引き受けて提供する。

例えば、電力会社が一定期間の電力の受給予測をして、その発電を実施するために地場の工事会社や施工会社に依頼して発電がまかなえるメンテナンスや現場の運転を依頼する。地場の工事会社は従来、電力会社からの依頼を待って工事計画を立てていたが、近年の人で不足で計画通り進みにくくなっている。これは電力会社と工事会社が実質別の機能として動いているからで、受給予測と工事の計画を一つの組織が行うことでより予測的に準備できることから価値が向上する。

例えば、車は新車で3年、中古で2年おきに車検が必要になる。車検のタイミングで車検会社が自動車の中身をゼロから整備して調べている。仮に、車会社が日頃から車の使用状況を把握していれば車検のタイミングの通知も、点検するポイントも迅速になり車検そのものが簡略化できる。

既存顧客に対して、新商品を提案する場合、先ずは業界のサプライチェーン、バリューチェーン、対顧客に対してはカスタマーエクスペリエンスを整理する。そして、各々の機能を吟味して複数の企業で重複して行われている機能を発見する。そこに対して集約、デジタル化、別の方法で置き換えることが出来ないかを考え商品として提案するのだ。

電力の事例は、親会社と受会社という発想を捨て、互いにパートナーとしてより効率的に安全に提供するための本来のミッションに戻るべきだ。が、実際は、受会社は親会社に対して提案どころか一言も発していない状態が数十年続いている。明らかにチャンスの山がある。

自動車の事例は、車検は自動車会社が行っていない。車検のタイミングで買い替えを促進したいせこい気持が見え見えなのだ。自動車を売ることしか考えていない。しかし、昨今自動車は売れない。モノありきの発想は今は懸命ではない。コトありきの発想で考えると車の使用を提供することになる。当然に、日常のメンテナンスや車検までをサービスに入れた方が、顧客の利便性は一気に高まる。金額の提供の仕方をどうするかはビジネスモデルで検討する。

(既存商品✕新市場)
2つ目は、既存商品を、新規顧客や市場に提供する考え方だ。多くの場合、すでにやっているという声がする。が、ほぼ100%その取組は市場や顧客をエリアで捉えている。地理的なシフトにしかすぎない。それは例えば九州で販売している商品を本土に提供する。日本で提供する商品をアジアに提供するなどだ。ここでの新市場の捉え方は、これまで企業としても提供先として考えていなかった場(顧客や業界)だ。

例えば、ユニ・チャーム。元々女性の生理用品からスタートしている。コアな技術は吸収で、生理時のおりものが対象だった。市場は大人の女性。ここでシェアを取ったユニ・チャームは次の成長を考える。そこで女性から子供にシフトする。織り物からうんちやおしっこを対象にして吸収の技術を活かすのだ。

ここでもシェアを高めたユニ・チャーム。次はどうしたものか。子供からシニアにフォーカスし、同じおしっこを吸収するもアクティブパンツの需要を創造する。そして次はどうだ。同じおしっこやうんちではあるが、人間から犬・猫の動物にシフトした。ペット用のケアグッツだ。そして今、動物から植物にシフトしている。吸収の概念をかけ合わせて砂漠の緑化事業にチャレンジしているのだ。

既存商品で展開する際、具体的な商品にフォーカスせずに、一度その商品を抽象化することがポイントだ。生理用品とせずに、何かを吸収する。液体や個体が混ざる何かを吸収して快適なつけ心地を提供する。等々だ。するとその核となる概念を活用した場合、今まで発想していない市場を想定して組み合わせるのだ。ユニ・チャームの場合は、

・大人の女性✕コア
・子供✕コア
・シニア✕コア
ここまでは人間にフォーカス
・犬・猫✕コカ
人間から動物にフォーカス
・植物✕コア
動物から植物にフォーカス

というように所謂、その商品を核とする強みや技術や概念を抜き出し、それが活用できる今想定していない場を探すのだ。

例えば、空調メーカーは室内やオフィスや工場の温度や湿度にフォーカスしているが、概念は熱交換や空気の交換を通じて空気を快適にすることだ。仮にその核となる技術を使ってCo2 の除去やVOCに除去など出来ないか?と考えた場合、どうだろう。この手の技術を持ち合わせる企業は現在ニッチで競争相手がほぼいない。しかし、このエリアは今後も市場が拡大して莫大な市場となることは予測できる。

既存商品を新規市場に持込むということは、すなわち自社の強みを徹底的に知り、再解釈する技術だと思う。全社で共通の強みを持つものは何か?特定のエリアだけで活用しているが、そのエリアを業界や異なる顧客にかけ合わせたら、どのような科学反応が起こるか。それを徹底的に考えるのが大切なのだ。

新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
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新規事業の旅(その17) 既存事業の市場進出の場合
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新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
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