新規事業の旅その17 既存事業の市場進出の場合

2022年9月2日 金曜日

早嶋です。

新規事業の獲得目標についてです。全体の15%から17%のシェア獲得が理想です。その後、キャズムが待ち構えていることは前回整理しています。今回は、既存商品を新規市場に進出した場合のシェア獲得の考え方です。

特定の市場で1位や首位の企業が事業拡大のために別の市場に進出。その際の獲得シェアや目標の設定、戦い方の参考になります。

まずは、多くあるパターンで特定のエリアで首位だったがゆえに勘違いされる現象です。既に特定の市場で高いシェアを獲得。その市場では全方位戦略で廉価品から高価格帯、小規模向けから大規模向けなど、一定のセグメント毎に戦略商品を持ち、ほぼ全てのセグメントで活動しています。その事業は特定のエリア(市場)において高い認知度が在り、競争優位性も備えています。その企業が別のエリアに進出する際、別のエリアでも自分たちの知名度があると勘違いしてしまい、既存市場と同じ戦い方を選択します。しかし、時間が経過してもシェアを伸ばすことができずに、収益性も悪い状況が続くケースです。

例えば九州で30%から40%のシェアを持つA社が、新規市場として関東を目指しす。九州の市場規模が10としたら関東の市場規模は30から40くらいは在るでしょう。成長したくてウズウズしている経営者としては魅力的です。A社は九州においてX顧客向けの商品、Y顧客向けの商品、Z顧客向けの商品と3つの異なる顧客層に対して高いシェアを有し全体として30%から40%の販売を長年確保しています。このように複数の商品を複数のターゲット顧客に提供することを全方位戦略と呼びましょう。

A社が取る過ちは関東の市場においてもはじめから全方位で攻めることです。つまりX、Y、Z向けの商品を展開して営業します。結論としては、1%とか2%程度の営業は出来ますが、関東の市場においては、九州におけるA社に相当する立ち位置の企業がいるため、いつもそこにけちょんけちょんに負かされます。結果、何年経過しても成績と獲得シェアが高まりません。

理由は、関東においては圧倒的にA社は弱者だということです。関東におけるシェア20%から40%を取る企業をB社とします。B社は九州においても何らかの売上を確保しているでしょうが、関東では圧倒的に認知度があり、営業部隊が充実しており、昔からの取引先との関係も、協力会社の体制も全てが揃っています。その状況はA社の九州における状況と同様です。A社も九州では、B社からすると手がでない状態です。そのことを関東に進出する際に忘れてしまい、勘違いして関東(つまり、新市場)においても同様の戦い方(いきなり全方位戦略)でシェアを取れると大きな勘違いするのです。そのため営業経費をかけてもかけてもシェアが取れません。

打ちてとして考えられる方法は、関東に対しては商品と顧客を絞ることです。場合によっては関東のエリアを少し細分化して、関東の首位の企業が比較的力を入れていない、売上が低い商品や顧客を探し、その部分を一点突破していく戦略を取ります。所謂ニッチの戦い方です。

例えば、戦略的にその商品がZ顧客向けで、関東全体ではななく、例えば埼玉にフォーカスします。そして、はじめは徹底的にその市場で3%程度の売上を上げるまで、首位の企業が行わないようなきめ細かいフォローを続けます。すると必ず市場にはアンチ首位企業の顧客が存在するので、その顧客層を中心に3%は獲得できます。そして、その取組をまだじっくりと続け、競合にようやく認識される7%程度のシェアを獲得していきます。この時のポイントはまだじっと我慢して埼玉からエリアを広げないことです。すると、首位の企業や2位の企業は埼玉の戦闘力を強化することは無く、ある程度儲からないエリアだとして割り切ります。すかさずA社としてはエリアや商品をまだ拡充することなく、徹底してニッチ営業を続け、顧客フォローもきめ細かくすることで7%のシェアを10%程度にまで広げていきます。

まだ我慢は続きます。10%くらいのシェアと言って関東全体ではまだまだ1%とか数%です。つまり全体としては、A社は関東では認知されません。ここでも我慢です。間違ってもエリアを広げないことです。もし我慢が出来ないのであれば、埼玉のエリアのZ顧客層以外のX顧客層かY顧客層に展開を広げ、これまで培ってきたエリアの強みを更に活かすことにフォーカスします。するとZ顧客と同様に、埼玉のエリアに限ってはX顧客層もY顧客層も3%程度のシェアが7%、そして10%程度まで成長するでしょう。そして、埼玉エリアで全ての戦略商品が10%程度を超え、利益が確保出来ている状態を確認してから次の展開するエリアを決めるのです。

ここでも我慢が続きます。きっと、本丸の東京を狙いたいとウズウズするでしょうが、弱者としては、ニッチャーとしては、エリアを広げる場合は、埼玉に隣接する群馬、もしくは茨城です。そして戦い方もいきなり全方位ではなく、そのエリアで競合が力を入れていない戦略顧客をニッチに選択するのです。

というのがかっこ悪い弱者の戦い方です。しかし、その戦い方でメインディッシュのエリア以外で10%から20%のシェアを超えることが出来て初めて本丸を取りに行くというのが成功パターンなのです。この戦い方はとある特定のエリアで首位を取り、しかも長年全方位戦略で勝ちパターンを経験している企業にとっては、絶対にダサい、時間がかかりそうと思うでしょうが、結局は地場の首位には絶対に真っ向勝負ができないのですから、一気に攻めても自社のリソースを食いつぶすだけなので、はじめからニッチにしずしずと戦うことが成功法なのです。

新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
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新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
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