新規事業の旅 その9 採用

2022年6月30日 木曜日

早嶋です。

企業戦略の中で、既存事業を確保しながら新規事業を開発する、いわゆる両利きの経営を掲げる企業は多いです。その際の人的資源ですが、
・既存のトッププレーヤーを新規に振り分ける
・既存の通常プレーヤーを新規に振り分ける
・既存から一定割合新規に振り分ける
・新規ように調達する
となると思いますが、多くの場合既存のプレーヤーの配分を変更しながら新規に振り返るということを行っています。

その場合のメリットは、既存の人員リソースで上手く資源分配を行うので、新規事業の人材を確保しやすく自社の人件費バランスは変わらない。です。一方でデメリットとしては、そもそも既存事業を行っている方が、新規の取り組みができるかは不明ということです。むしろ経験則としては、新たなチャレンジに時間がかかり机上のみの空想や計画書作りを仕事と捉えて、成果が出ずに人件費ばかりを垂れ流すことです。

本来、新規事業はトップマターで動くべきです。例えば、ネスレジャパンのキットカット復活劇は、まさに社長がプロジェクトを横断的に作り、70名程度だったと思いますが、既存の社員から、決して成果が高いとは言えなかった社員をまとめ、見事復活させたことは有名です。この時のポイントは、トップが自ら旗振りをして、社員に対して役割とミッションを強烈に認識させて行動変容を徹底したことでしょう。

しかし、多くの企業ではトップのコミットは新規事業の必要性を掲げるのみで、方向性を示さず、具体的な取り組みに関与することが薄いです。そして事業部のトップやその下の役割にボールを投げて新規が誕生すると勘違いすることでしょう。ご想像の通り、上手くいかないです。

既存のリソースを活用して、新規を立ち上げる場合は、理想はトップがチームを組成。それぞれの部隊から何名か拝借してプロジェクトチームを創る。そして、方向性の議論は社長がはいり、同じ役割認識で立ち上げていく。少し規模が大きい場合は、0⇒1を全て自分たちで行うのではなく、適宜ベンチャー投資をしながら自社の経営資源やペインを解決する素材を社外からみつける。いきなりM&Aするのではなく、マイノリティ投資や業務提携をベースに、一緒に事業シナジーを確立する。そして更に余力があるのであれば、新規事業の方向性を共有したチームにM&A部隊を掲げ、そのエリアや方向性でM&Aしたら良さそうな企業を常にロングリスト掲げて、利害関係者にアピールしておく。ということでしょうか。

上記が初歩の取り組みとしたら、はじめは既存のリソース配分で上手く仕事が機能するでしょうが、徐々に人手が不足すると思います。そしてその次の一歩として、

・更に既存のメンバから新規チームに配分する
・中途で人材を確保する
・新人を事前に採用して新規チームに割り振る

という3つの方向性があります。

既存メンバから新規に配分する場合、既存の仕事のリソースが減少することになりますので、通常はその事業責任者が難色を示します。そのため、新規事業チームの方向性として既存事業をサポートあるいは関連するエリアでの新規を立ち上げた方が、結果自社のシナジーを強く、既存の領域とタッグを組みやすくなります。そしてこのエリアで成果を出せば、既存事業部のトップもチームを送り込んでも自分たちの事業部の事業シナジーが見込めるので前向きに検討します。

しかし、全くの飛び地の事業を新規事業チームが計画している場合、内部であっても人材の再配置は上手くいきません。当然、ここに強烈にトップが関与できる組織であればよいのですが、ある程度の規模になると、事業部のトップも本気で自分たちの事業を守りにいくので、結果的にしょうもない内ゲバがはじまるのです。

従った、新規事業の方向性によっては、その事業が順調になる手前ころから中途での新規部隊の採用と新人を新規部隊に配置する計画を立てておくことが正解です。

ただし、中途の採用の場合、本体の人事部はあまり関与することが少ないです。一方で、事業部は中途をする経験を持つ人と全く検討もしたことが無い組織に二分します。大切なことは早めに、自社の新規事業の人材として不足する能力と該当する人物を整理しておき採用が必要になる前から動くことです。

欧米の企業では、必要な人材を確保する仕事は事業部のトップやマネジメントの役割です。日本の場合は、先に人を採用して、その能力を確認しながら配置を決めます。ので既存の成長している事業に対してはフィットしますが、新規でこれからの即戦力を確保するには制度が脆弱なのです。そういう意味で、ジョブ型の雇用を新規事業においては検討して試していくことが大切です。

本体の人事部も、従来のメンバーシップ型の採用からジョブ型の採用を検討しているので、その実験をまずは新規事業のエリアで様々にテストすることをおすすめしています。

最後に新人に対しての考え方です。基本、企業の規模が大きな会社にやってくる新人は、新規事業にとっても興味がありますよ!的な面構えで面接してきて入社されますが、実際は、大きな企業で安定したいというガチガチのマインドが多いです。ですので新規を行う部隊として将来の人材を確保したいのであれば、やはり人材像を人事とすりあわせて採用をすすめることをおすすめします。

私の経験で、新規事業に系統して実際に資源を投下している企業出会っても、新人の採用は基本的には20年くらい前のルールで手法も大きく変わっていません。極端な話、会社がDXを標榜していても、理系の採用をおこなわず、従来通りの文系中心の採用を進める企業もたくさん観察できます。人事にそもそものルートがなく、人事の評価は誰をどのような目的で採用したか?で問われるのでななく、エントリーが何人だったか?その中から何人採用したか?という数にKPIが置かれているがのごとくの企業がおおいのです。

一言でいうと、両利きの経営をしていく中での人事の戦略のすり合わせと実際の行動がずれているのです。従い、新人が数年立った場合、新規の部隊に異動しても、全く役に立たない社員に育て上がってしまうのです。

ただ、両利きの経営をする場合、かならず既存の事業をより効率的に運営する必要があります。従来10人で回していた部隊を1人とか2人で回すという感覚です。あるいは、かならず一定数のあまり考えない未来を思考しない社員を必要とする仕事も一部はあります。このような仕事を将来行ってもらうための採用、少し頭を使ってもらいたい仕事、そして全く0⇒1をこなす仕事など、3年、5年の事業計画に基づいて人材のバランスと能力のバランスを考えることが大切です。その意味では一部は従来通りのスペックとやり方での採用は必要になると思います。



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