◇人材育成プログラムの前に…
コロナ禍の中、オンラインでの人材育成が盛んです。各社が競い合って様々なプログラムを作成しています。わざわざ東京まで行かなくても、著明な講師のレクチャーを受けることができます。その魅力的なプログラムを受けると、社員の能力が高まりそうな気がします。しかし、中小企業の現実はどうかというと、そのようなプログラムを受ける前の段階で大きな壁があります。
現実の中小企業の人材育成には大きく3つの壁があります。以下の文章は、多少、言葉遣いが悪いですが、ご了承ください。
◇ ①興味がない
そもそもビジネスに興味がない。これは、中小企業だけでなく、大企業にも言えることです。
まず、中小企業の社員の多くは、入りたくて入った会社ではありません。当然、自社のビジネス、業界には全く興味はありません。プライベートの時間は、仕事のことは考えたくないという人がほとんどです。もちろん勉強、読書の習慣もありません。なので必要最低限のことしか頭に入りません。研修で良い話を聞いても、家に帰れば忘れます。
では、大企業はどうかというと、こちらも同じく多くの人は、ビジネスそのものに、興味がありません。興味があるのは、会社での自分の評価です。賢明に働くのは同期が100人くらいいて、その中で、強烈な競争意識があるからです。なので必要なことは必死に取り組みます。
この興味がないというのは大きなハードルです。人は興味がないことは理解しません。大企業の場合は、すでにシステムが出来上がっています。与えられたコマンド(命令)をこなせばいいです。何かあれば取引先に圧力をかければなんとか帳尻があいます。しかし、中小企業は目の前のプロブレム(問題)を解決しなければ、企業は存続しません。成長もしません。
◇ ②読解力がない
次に、文章、グラフ、図形の基礎的な読解力がないことです。
「AI VS. 教科書が読めない子供たち」を読むとわかります。学力中位の高校でも、大半は教科書が読めません。高校生の大半ではありません。学力中位の、つまり偏差値50くらいの高校生が読めないということです。
偏差値50くらいだと、大企業のグループ会社や、地方の中堅企業に入るくらいのレベルです。そういう人たちの半分が文章をまともに読めません。さらに、今の若い人たちは圧倒的に語彙力が足りません。なので日経新聞を読むことができません。
そして、中小企業に入る人材は失礼ながら、それよりもひどいということです。
◇ ③知的・精神的・肉体的な安定性がない
ちょっと身もふたもない書き方ですが、私が経験してきたリアルな現実です。中小企業の社員の少なからずが、知的・精神的・肉体的な不安定さを抱えています。
日本の教育システムの設計思想は、社会に適合できるかスクリーニング(選別)することです。スクリーニングを無事潜り抜けたひとは、いい大学に入って、いい会社に入ります。当然、中小企業にはそのスクリーニングで引っかかった人が入ります。
たまに中小企業に、中途採用で立派な学歴、職歴の人が入ったりします。経営者は大喜びです。しかし残念ながら、そういう人は多くの場合、何らかの形でスクリーニングに引っかかったということです。多くの場合、期待したような活躍はできません。そして予想もしなかったような問題を起こしてくれます。
中小企業は一人の人で失敗すると大打撃です。問題ある人に時間とお金をかけて、責任のある地位につけて組織がガタガタになったことを何度も見てきました。おとなしくこつこつと働いていた人が、人の上に立って豹変したこともありました。
◇前提の確認
こうしてみると、人材育成プログラム云々ではなく、その前提で壁にぶち当たっています。
御社の人材は、①ビジネスに興味がない、②読解力がない、③なんらかの不安定さがある。この壁をクリアしているでしょうか?
御社の社員に、最近、ビジネスに関する本を読んだか聞いてみてください。もし読んだのならその内容を聞いてみてください。たぶん最初の「本を読んだか?」という質問で全滅すると思います。多くの人は、ビジネスに興味がないし、読書の習慣がありません。読書の習慣がなければ、語彙は増えません。
そういう人間が、デジタルトランスフォーメーションなど聞いても、何もわからないと思います。
あと360度評価を実施することです。匿名で部下や同僚の評価をとってみてください。かなり、いろいろでてきます。経営者よりも、周りの人たちのほうが、その人の真の姿をわかっていることが多いです。
また、社員の生活習慣を把握したほうがいいです。食事・睡眠をしっかりとっているか、生活リズムは整っているかはかなり重要です。
◇壁(問題)への対策
前述の通り、人材育成には、3つの壁(問題)があります。しかし、問題があれば対策はあります。
まず興味がないと言うことに関しては、ビジネスの全体像を理解させること、そして自分の役割を与えることです。人は自分が理解できないものには興味を持ちません。なので、自社のビジネスモデルや、社会的役割を、わかりやすく根本的なことから理解させる必要があります。また、仕事に興味を持ってもらうためには、役割を与えて、裁量を与えて、承認を与えることです。このことは、会社が成長していくという物語を共有すること、そして、自分自身がその物語の登場人物の一人であるという認識を持たせることです。
次に、読解力を向上させることは、簡単ではありません。基本は、インプット、アウトプットを繰り返すことです。もちろんフィードバックも必要です。仕事のなかで読む、聞く、書く、そしてフィードバックを受けるというサイクルを定着させましょう。読解力が上がれば、自ずと他の能力も上がっていきます。
読書の習慣をどうやって定着させるといいかはこのブログに書いてます。
【職場の読書論 〜読書の習慣を定着するには〜】
https://www.biznavi.co.jp/blog/archives/7381
最後に、面接や、試用期間でスクリーニング(選別)は必要です。小さな組織ほどスクリーニングができていません。採用担当者は自分のノルマさえこなせばよく、現場もとりあえず人がいないよりはいたほうがいいという感じで、スクリーニングできていません。面接で適正テストをする。試用期間中も、業務の理解度をテストをする、面接をする、周囲の評価を取るなど、スクーリングをしたほうがいいです。
◇人が育つ条件
中小企業の社員で、学歴などなくてもバリバリ仕事ができる人がいます。会社の全体像がわかっていて、論理的な思考ができて、問題解決力があります。このような人を何人か見てきました。
どのようにその人たちは成長したのか?それは、会社と一緒に成長したということです。カリスマ社長のもと、会社が急速に拡大するなかで、様々なタスクをこなしていったからです。会社の成長という物語と、自分の役割があったからです。最初の興味がないをクリアすると、人材育成はほぼ成功です。
環境が変われば、認識も変わります。そして成功体験を積めば、人は劇的に成長します。小さな組織のメリットはトップの経営者と社員の距離が近いことです。さらに人事に柔軟性、俊敏性があることです。業績のいい中小企業の経営者は社員と密にコミュニケーションをとっています。そして目をつけた人材はすぐ抜擢します。
人は、他者からの承認、そして人生の物語を必要とする社会的存在です。小さな組織はトップからの承認を得られます。面倒だなどと言わず、社員との距離を縮めましょう。良い人材は会社にとって一番のお宝です。
以上、最後までご精読ありがとうございました。