レシピと調理場の話(戦略におけるSPとOEとOC)

2020年11月27日 金曜日

早嶋です。

戦略という言葉や議論は普段はあまりなされないと思います。従業員の人数が500名以上いる企業では戦略会議や経営会議の中で戦略の見直しだの、戦略の理解が無いのか?など聞こえてきそうですが、小さな会社の中ではあまり使われない言葉でしょうか。しかし、戦略はなにかをする際の大きな方針で、それを守りながらブラッシュアップして組織を動かした時に結果が伴ってくるので、実は非常に大切な概念だと思います。

例えば、店舗展開しているレストランがあったとします。そしてその店舗の伝統的な料理のレシピが有りました。そのレシピは通常作るやり方と若干違い、食べた人によっては好き嫌いが明確に別れます。そしてそのレストランはそのレシピを武器に店舗展開を行ってきました。当然、店舗にいる店長は客の声を聞きながらレシピを手直しすることはできます。しかし戦略は正しいか否かではなく、企業として決めた方針を貫き通すことが大切です。

もし、店舗毎にその伝統的なレシピのアレンジをすることが戦略であれば、店舗毎に違った味を楽しめることを良しとします。もし、もっとそのレシピを美味しく、つまり万人受けする味にするならその味を追求します。しかし、上述の店舗は”あえて”特定の人が好む味にしているのです。その場合、大切になってくるのがその方針を理解して現場が守り通せるか、になります。

つまり戦略を理解した店長が、その”あえて”のレシピをそのまま再現して顧客に提供することが大切になります。しかし、多くの場合、なぜその戦略を決めたのか?つまり、なんで敢えてそのレシピにこだわるのか?の背景を理解していなくて、売上や利益が独り歩きする結果になります。そのため現場ではレシピが勝手に改良されていくのです。当然、現場は顧客のニーズを聞きながら良かれと思って改良しているので罪の意識はありませんん。

戦略を議論する界隈では、大きな方針をSPと言っています。Strategic Positioningの略称で戦略的な立ち位置と約する事ができるでしょう。上述ではどんなレシピに”あえて”するか、です。自社が進むべき方向を明確にすることが戦略そのものの意図です。一方で、そのような意思がなく、店舗がそれぞれ一生懸命に頑張る取り組みを日本では多数観察できます。戦略界隈の用語では、このことをOEと言っています。Operational Effectivenessの略称で、要は”がんばる!”と言ったニュアンスです。勿論飲食店や個人事業主や中小企業で実質的に社長=トップ営業=製造等の技を持っている等で、数人から数十人の売上を稼ぐ企業はこれで良いでしょうが、組織の規模が100人から300人を超え始めるととても”がんばる”一本勝負では持ちません。

当然に創業者や社長は在る種の特殊な人物で特殊な能力を持つ人達なので、この人達のように組織でも頑張りな晴れでは、規模が大きくなるどころか、俺もできるのだったら辞めて社長になろうってことになりますよね。そこで規模を拡大しながら従業員を増やして行く場合は、やはりその店舗や企業のルールや方針が必要になって行きますよね。それがSPであり戦略になるのです。

因みに、SPを明確にしてOEはしても良いのですが、その範囲をやはりSPを基に”がんばる”組織にしなければバラバラの活動になってしまい統率が取れません。そこで戦略を議論する中でとても重要になるのがOCという概念です。Organizational Capabilityの略称です。上述の事例では、本部が決めた”あえて”のレシピを店舗のシェフが忠実に守り再現することそのものです。以下にレシピが秀逸でも、そのレシピを理解した上で再現できる組織が非常に大切になります。

コンサル業をしていて、優れたSP、つまり戦略を定時できても価値はありません。その戦略を組織で実現できて成果を出して初めて価値が得られます。そしてそれらを実現するのは企業側であり、本来コンサルはその方針を浸透させて組織の中で実現できるようにすることまで行えば結果が出てくるでしょうが、そうなると費用がやはり高いものになります。そのため理解している企業は、コンサルをある程度常駐させてOCを徹底するところまで行っています。一方で成果を出せない企業の多くはSPはあるものの、OCに力を入れないという感じです。

とある企業の話です。その企業は50店舗を有する店舗型の事業です。とある商品を店舗を通じてエリア毎に販売しています。そして商品の顧客を3つの階層に分けて提供することを決めました。1,000万円以下、1,000万円〜1億、1億以上の3つのレイヤーです。入念な分析の基、戦略立案を行った結果、その企業は1,000万円〜1億に資本を集中させそれ以外のレイヤーは徐々に手を引いていくという方針でした。

いざ実行していく段階で、50店舗の各店長は急に1,000万円以下の顧客を諦めることはできないので、少しづつ離れていこうとしながらも、結果的に従来通りの営業を行っていました。また、1億以上の顧客にフォーカスしていた店長は、やはりその顧客からの契約を獲得した経験が忘れられなくて、本部の戦略とは違う行動をとってしまうのです。

戦略を立てている本部も、昔は店長の経験があり、急にそのような方針を打ち出しても、浸透しないだろうな?と内心思いながらも、一方ではその戦略を試してみたいという気持ちがあり、実に宙ぶらりんな感じで組織での運用がはじまるのです。そこで、最終的には成績を上げればよいだろうとなり、また数字(売上や利益や獲得件数)などにゴール設定がされて、結果的に数年経っても最も中止する1,000万円〜1億のボリュームが変化していなかったのです。

このケースでは複数の議論のポイントがあります。
・SPに関して明確であったが、どこかでOEを推奨する声があり、方針を浸透しきれていない。
・そもそもSPを実行するためのOCにフォーカスしていない
・そのためSPは明確だが現場で実行されるための策や行動を行っていない
・戦略を実行するためのKPIがSPと関連していなく従来の数字ありきになっている
・SPを掲げれば店舗毎の店長が理解して動くと勘違いしていた、教育などがかけていた

と上げればキリが無いのですが、結局はSPを掲示してもOCまでフォローしていかなれば現場では日本人ゆえ、OEを目指してしまうのです。



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