働きやすい職場づくりを目指して~ハラスメントの観点から~

2020年7月7日 火曜日

安藤です。

パワハラについて法律で規定されました。施行は大企業2020年6月、中小企業は2022年4月から施行となります。企業側に相談窓口の設置や再発防止対策を求める他、行政の勧告に従わなかったときは、企業名が公表されることになります。

この法律の背景に関するものとして、「仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶に関する条約」ILO第190号条約 2019年採択、第1条(定義)仕事の世界における「暴力とハラスメント」とは、一回性のものであれ繰り返されるものであれ、身体的、精神的、性的または経済的危害目的とするか引き起こす、またはそれを引き起こす可能性のある、許容しがたい広範な行為と慣行、またはその脅威をいい、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含む。とあります。

ハラスメントの影響について以前もお書きしていますが、4点あります。被害者への影響、行為者への影響、 周囲への影響、企業への影響です。詳しくは省略致します。

*EAP(文末に説明)として現場活動を担当しています。その際に、パワハラの原因となる要因として考えられるのは、互いの「心理的安全性」の欠如です。相手を大事にする・理解する・尊重するという姿勢が欠落していることによって起こりえると考えられます。相手を尊重しないことは、「偏見、偏見による行為、差別、暴力、虐殺につながる」とも言われています。引用:前田朗「なぜ、いまヘイトスピーチなのか」

アンガーマネジメントの視点からすると、“怒り”は第二感情であり、“怒り”になる前に相手への第一感情があるとしています。その第一感情は“期待”であり、自身の“価値観”と合わない等から生じています。
その第一感情が何なのか、自身の感情と向きあうこと、そしてそれを相手と話し合うことが必要ではないでしょうか。

「心理的安全性」については、以前も書かせていただきました。チームにおいて、他のメンバーや自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰を与えるようなことをしないという確信をもっている状態。チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態のことです。そして、「心理的安全性」のある職場は、組織側のメリットとして⓵生産性の大幅な向上 ②ホウレンソウ(報告、連絡、相談)の徹底 ③成功や目標達成を阻む障害の排除 ④円滑なコミュニケーションによる作業効率の向上⑤各メンバーの積極的な活動参加 ⑥各メンバーの思考や将来ビジョンの明確化 ⑦人材の持つポテンシャル最大化⑧学習する組織(チーム)の構築 ⑨イノベーションが生まれやすい環境の構築⑩建設的な議論を行える環境の構築 ⑩優秀な人材の流出や退職の抑制が挙げられています。
引用:エイミー・C・エドモンドソン(Amy C. Edmondson)教授

要は、働き易い職場づくりは、「心理的安全性」のある風土づくり、環境づくりであり、相互に信頼関係を構築できるように、「信頼」とはなにかを互いに認識をもつことで、互いの能力を引きあがることにつながり、ハラスメントのない組織にもなりえると考えます。

*EAPの役割:単なる匿名相談でもなければ、ストレスや病気を抱えた個人のケアに留まるものではありません。 パフォーマンスを下げる要因(ストレス、精神疾患、ハラスメント問題、トラブルなど)への関わりと共に、パフォーマンスを高める要因(キャリアデザイン、ワークライフバランス、コミュニケーションスキル、マネジメントスキル)への取り組みも行います。どのような問題に対しても、社員と組織の両者のパフォーマンスの改善・向上を最終目標としています。

余談ですが、社会学の領域では、“信頼”は、相手の能力に対する確信(効率性・正確性)と「相手の意図に対する確信(公正さ・正直さ・好意)という2つの意味があるとされています。(Andaleeb, 1992;山岸,1998;久保田,2003)。

ここ数年前から人事担当者から相談を受ける中で一番多いのは、職場内でのコミュニケーションの問題です。 そこで、今回は、「心の理論・メンタライジング」についてお書きします。

『心の理論』とは、他者の行動の背後には「心」の存在があるとする理論です。Premack&Woodruff(プリマックとウッドラフ)が示しました。彼らは、チンパンジーが餌を持っていないように振る舞う欺き行動から 「心の理論」の存在を仮説化していきました。つまりは「心の理論」とは、ヒトや類人猿などが、他者の心の状態、目的、意図、知識、信念、志向、疑念、推測などを推測する心の機能のことです。他者の目的・意図・ 信念・推測などの内容が理解できていれば「心の理論」を持っていると見なします。

Dennettは子供が「心の理論」を持つと言えるためには、他者がその知識に基づいて真であったり、偽であったりする志向や信念をもつことを理解する能力、すなわち誤信念を理解することが必要であると指摘しました。これに基づきWimmer&Perner(ヴィマーとパーナー)は心の理論の有無を調べるための課題、すなわち誤信念課題(False-belief task)を行いました。この課題を解くためには、他人が自分とは違う誤った信念(誤信念)を持つことを理解できなければなりません。

また、「メンタライジング」は、自己と他者の精神状態に注意を向けることを指します。
Allenら(アレン)は、「行動を、内的な精神状態と結びついているものとして、想像力を働かせて捉える・ 解釈すること」としています。自分や他者の精神状態に注意を向け、その精神状態についての認識を心にとどめおいて、考えたり吟味したり感じたりすることであり、この自分自身や他者の感情について注意を向けて考えている時(精神状態を認識している時)に「メンタライズしている」と表現します。
①「心で心を思うこと」②「自己や他者の精神状態について注意を向けること」③「誤解を理解しようと
すること」④「自分自身をその外側から眺めること、他者をその内側からみつめること」⑤「(何か/誰かに)精神的性質を付与すること、あるいは精神的に洗練させること」などが重要とされています。

もうお分かりだと思いますが、「心の理論・メンタライジング」は、人が円滑な社会的生活を営む上で重要な能力です。メンタライジングの始まりは、乳児期初期の社会的知覚だと考えられています。すなわち、人に対する志向性から始まり、母子関係に代表される二項関係、さらに第三者もしくは対象物を含む三項関係の成立(共同注意などがその代表的現象です)、そして他者の誤信念を理解する「心の理論」の成立へと続いていくとされています。上記の①から⑤が不足すると基本的な人と人関りが苦手になり、他者とのコミュニケーションが円滑にいかないことに繋がっていくと考えられます。

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