原です。
顧客中心に考える上で、人間が本来どのような欲求をもっているのかを理解することは重要です。
「人間は何を求めているのか」についてエイブラハム・マズローは人間の欲求を5段階に分けました。マズローの理論は、経営学にも応用されており、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」という仮説をもとに作られた理論です。一般には、欲求は下層から順を追って満たされると考えられてきました。
しかし、マズロー自身は、欲求の充足にはさまざまな形態があることも説いています。
マズローの欲求5段階を製品やサービス向けに拡大・発展したのが、ハーバード・ビジネスレビュー(2017年3月号)に記載の「顧客がほしいと思う30の価値要素(価値要素ピラミッド図)」です。
製品やサービスは本源的な価値要素を備えています。それらの価値要素は、「①機能、②感情、③人生の変化、④社会への影響」に関係する4種類の顧客ニーズに対応しています。そして、最も影響力のある価値要素が最上層を占めます。但し、重要度の高い価値要素を提供するには、製品カテゴリーに求められる機能面の要素を少なくともいくつかは揃える必要があります。
例えば、入院患者用の「おしゃれな入院衣」の製品開発事例です。
生産者は、ご家族の介護経験から、できるなら入院している患者さんにも「おしゃれな入院衣を着せたい。おしゃれにより元気になってもらいたい」という想いがありました。地味な入院衣から明るいカラー、花柄のデザインなど「②感情」や「③人生の変化」を重視して入院衣を試作していました。しかし、顧客からは、おしゃな入院衣は着せたいけれど、「①機能」について不満の声が多かったです。おしゃれ以前に、入院患者が着やすく、肌にやさしく、動きやすく。介護者が着せやすく、洗濯しやすい入院衣である「①の機能性」を少なくともいくつかは揃えることが期待されていました。
また、最近の人気商品は、複数の価値要素がさまざまな形で組み合わさっている傾向があります。
例えば、シェアリングエコノミー分野の空き家活用ビジネスは、人気が出てきています。
筆者は、数年前に古民家(空き家)の遺贈を受けたことで、「③人生の変化」が起こりはじめました。
最初は、床下改修、電気・水道の設置、部屋の整理整頓により、複数の「①機能」を満たしました。続いて、平日は都会でビジネス、休日は田舎の古民家の2地域で暮らすライフスタイルにより、自然の癒しや家族と過ごす時間も増え「③感情」を満たしています。更に2地域で暮らすライフスタイルが地域創生などの成功モデルとなることで「④社会への影響」につながるのではないかと思っています。
このように、下層から上位の順番でもなく、上位の価値要素が満たされれば良いというわけではないのです。複数の価値要素の組み合わせが必要なのです。