バイト・パートの賃金上昇が生み出す結果

2019年4月2日 火曜日

早嶋です。

ーー 日本経済新聞 記事抜粋 ーー
オリエンタルランドは1日、2018年度の東京ディズニーリゾート(TDR、千葉県浦安市)の入場者数が4年ぶりに過去最高になったと発表した。前年度比8%増の3255万人だった。新エリアの開業などを控え、入場者数は増加を続ける見込み。19年度からアルバイトに業績連動の賞与を支給するなど、人手不足を受けて人材への投資を拡大する。
ーー 2019/4/2 ーー

オリエンタルランドが、業績連動型の賃金をバイトやパートにも適用します。このニュースをきっかけに、パート・アルバイトを含む従業員への働き方に対しての考え方が変化していくと思います。

仕事に関しては、医療や企画などのように、専門的な技能を持つ仕事や、構想力や企画力を駆使してアタマを使う仕事などのような付加価値型の仕事と、ある程度慣れると誰でも一定レベルの作業が行えるような作業型の仕事に大きく分類できます。

付加価値型の仕事は、コンピューターやロボットやAIなど(以下、機械)に置き換えることがなかなか難しく、今後もヒトの手で取り組むことが主流になるでしょう。加えて、ヒトを介在することで、対象である顧客に対してより高い価値を提供できるサービス業などもヒトの手での取り組みが重要になっていきます。

一方、作業型の仕事は、ヒトが行うことでストレスが溜まり、作業効率が悪いため徐々に機械に置き換わっていくでしょう。ただし、この作業が全て置き換わるのではなく、全体の6割から7割り程度の標準的な作業は機械が担い、残りの例外的な処理はこれで通りヒトの手で行うようになるでしょう。

作業型の仕事の多くは2:6:2の法則に従います、例外処理を含む標準的な仕事が2割、標準的な仕事が6割、その他の仕事が2割です。機械は繰り返しの作業などが最も得意なので、この6割が機械に置き換わる対象です。一方、例外処理の2割の仕事は、しばらくはヒトの手で行う選択をしたほうが効率良いのです。したがって、機械とヒトが協業する世界が今後当たり前の景色になっていくでしょう。

現在、多くの業種業界において人手不足が深刻な社会問題になっています。オリエンタルランドの仕事のように、これまで多くのキャスト(オリエンタルランドで仕事に従事する方の呼称)が仕事をしたいと思っていた仕事でも状況は同じです。これまでは特段時給が高くなくても人が集まっていました。しかし、昨今の人で不足により、働きたい人の母数が減っており、オリエンタルランドのような企業でも人を集めるのに工夫が必要になってきたのです。

作業型の仕事ではもっと深刻です。成長期は働きたい人の母数が多かったので、それでも十分に人手が集まっていました。しかし少子高齢化になるにつれて、働く母数が減少するに連れて、人手を確保することが厳しくなります。そのために企業は人件費を上げることで人の確保を行っていました。

しかし人件費にも上限があります。そもそも作業型の仕事は利益率が付加価値の仕事と比較して低く、人件費に転換する原資が少ないのです。それでも人手を確保しなければならない。そのような状況が続くと、企業の選択肢はどちらかになります。廃業含め仕事の規模を縮小する方向か、人手の仕組みそのものを機械化する、あるいは省力化する、あるいは事業モデルそのものを見直すことです。

地方でほそぼそと事業を営む零細企業は、経営者自身やその家族の労働力を充てにして作業型の仕事を継続してきました。しかし、高齢化に伴い、いよいよ仕事を続けることが難しくなります。小さな企業も同様で、これまでなんとか確保できていたパート・アルバイトが集まらなくなり、事業自体が成り立たなくなります。だからと言って、事業モデルを根本から変化するための資本も時間も余裕もアイデアもありません。選択肢は縮小か撤退になります。

一方、業界の中で規模が大きい、ある程度の地位を占める企業は、人件費を増やしてでも人手を確保して事業を継続、拡大する動きを見せていました。しかしある一定レベルの人件費が高騰すると根本的に事業モデルを変える方向に舵を切り始めます。そして今はまさにその過渡期と言えると思います。

ーー 日本経済新聞 記事抜粋 ーー
ローソンは利用客が自ら精算する「セルフレジ」を導入する。4月から始め、10月の消費増税までに全1万4000店で利用できるようにする。店内にあるレジの一部で利用客が専用端末を使って商品のバーコードを読み取り、精算する。24時間営業を見直す声が加盟店から上がるなど人手不足が深刻さを増すなか、店舗運営を省力化して生産性を高める。
ーー 2019/4/1 ーー

例えば、ローソンは全店舗においてセルフレジの導入を今年の10月から開始します。加盟店の切実な問題を規模の経済によって解決するのです。セルフレジの導入と聞くと、従業員のレジ打ちが無くなるイメージを持つかもしれませんが、そうではありません。セルフレジの対象は簡単な作業のもので、セキュリティや金銭管理を簡単にするために電子マネーやクレジット支払いに限定します。やや複雑な処理などはこれまで通り従業員が行うのです。

ローソンの計画では、それでも1日の平均的な業務の内役3割の仕事、時間にして5時間程度の時間を削減できると目論んでいます。機械とヒトの手を融合した取り組みが始まるのです。

付加価値型の仕事は今後、ますますヒトの教育に投資を増やす方向性に進むでしょう。オリエンタルランドのようにヒトに付随する仕事で、人間が出す付加価値を商品の一部として捉えている企業は、よりヒトの手に価値を見出すようになるでしょう。一方で、大衆向け、一般向けの広く普及する商品に対しては、標準的な仕事は機械がこなし、例外的な処理をヒトがサポートするという仕組みが定着していくでしょう。この取組によって、人で不足を解消して、働いているヒトもより楽に豊かな時間を過ごせるようになるのです。

結果的に規模が大きい組織に務めている従業員は大量の事務ワークや、繰り返しの仕事、誰でもできるけど人が不足しているから自分が行わないと行けない仕事などから開放されるようになります。本来価値を生み出しにくい、しかしそのためには必ず取り組まなければならない作業はすべて機械が行うようになります。ヒトは、機械ができない標準的な仕事のなかでも例外の取り組みや、創造的な時間に仕事を費やせるようになるのです。

ここ数年は過渡期で、考え方によっては機械に仕事を奪われると恐怖心を抱くヒトも居るでしょう。しかし、実際はまだまだ人間しか行えないことはたくさんあり、むしろその部分で活躍できる時代がやってくるのです。作業は時間で管理されるようになり、ヒトしか行えない仕事は結果や質で評価をされるようになる。そのような変化がここ数年で一気にやってくることと思います。



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