大型M&Aに潜む罠

2017年3月29日 水曜日

早嶋です。

企業買収で近年、損失を出している企業が目立ちますね。例えば東芝。2006年に買収した原子力事業の会社であるウエスチングハウス(WH)。一連の不正会計に加えて、この買収に関連する巨額の損失が発生したため今期の決算発表を2度も遅らせています。

各社の報道紙面では、
– 2011年3月に発生した東日本大震災を受けて世界の原発規制が強化される
– WHが手がけている原発新設工事が想定より大幅に遅れ費用が膨らむ
– WHが買収した米国の原発関連工事会社でも想定外の巨額な損失が発生
– 結果、東芝が資産として計上したのれんの価値を引き下げる必要が出た

これらの一連の流れは会計の世界では減損です。2016年3月に約2500億の減損損失が発生し、2017年3月にも7000億位上の損失を発生する見込みです。

通常は会社の資産を正味の価値で評価して、そこから負債の金額を差し引いた部分が株主価値になります。しかし、これは単に資産の評価にしか過ぎないので、ブランド力やこれから稼ぐであろうキャッシュ・フロー、またこれまで培ってきたノウハウなどの価値を評価していないことになります。従って、企業の価値としては、それを超過することが一般的です。

会計上ではこの超過部分をのれんとして無形固定資産に計上します。そして企業買収を行って一定期間を置いて想定どおりの利益が出ない、事業の前提が崩れた場合は実際の価値が下がることになります。その場合、帳簿上ののれんの価値を下げ、それに伴って損出も出るのです。

大企業のM&Aは、
– 会社が保有する資産に着目して評価する
– 会社のキャッシュフローを推定して評価する
– 類似会社と比較して相場を評価する

の3つの方法が主にあり、更に幾つかの方法を総合的に判断して価値を算出します。しかし、その際にどうしても合理的な価値よりも価格プレミアムが乗ってしまうことが多いです。つまり、価値評価の求め方や慣習からしてもM&Aは買い手にとっては価格プレミアムを付けて高く買うため、当初よりマイナスのスタートをしているのです。

また、通常は資本を入れた先が役員や社長を送りこみ経営をマネジメントすることになります。東芝のように大きなM&Aの場合は、当然ながらそのビジネスのクセを理解しているマネジメントを送り込む必要があったのですが、その役者が買い手企業に少ない場合、或いはいない場合が多いようです。

元々ノウハウと時間、或いはシェアやチャネル、人材をお金で買うという発想のM&Aでは、その分野での経験者や明るい人材が買い手側に不足しています。従って買収することができてもその後のマネジメントが上手くいかない場合も多いのです。WHの場合はダニー・ロデリック氏に任せ、信じ切ったことも今回の損失の原因だと思います。

更に、買収した企業が子会社、孫会社を持っている場合は、買収前調査が非常に複雑になります。今回の東芝の事例ではM&Aした会社の子会社や関連会社が火を拭いた結果になっています。

日本の多くの企業が成熟ビジネスを抱え、そこから得られるキャッシュをベースに次の一手を模索しています。しかしこれまで既存事業のベースにどっぷり使っているから新規事業開発の企画は行えても実際の行動がついてきません。そこで近年、新規事業や地域展開、事業拡大のためにM&Aが流行っていますが、自分たちでその領域を泥水飲んで経験したことが無ければ、M&Aとしての成功はありますが、その後のマネジメントを行う、あるいは管理監督する人材が不足するため失敗する可能性が高いのです。

現在の日本企業は、まだまだM&A経験が少ないため買収そのものをゴールと勘違いしている事例が目立つような感じを受けます。従って、近年の日本企業ののれん代が増加傾向にあります。日経新聞の集計値では昨年末の上場企業が持つのれんの合計値は約29兆円強。これは同企業の純利益の総額に相当する金額です。

のれんの減損は今後も複数の企業で起こると考えられます。買収後のマネジメントができない企業が大型のM&Aを行っている可能性が高いからです。



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