2010年 有田陶器市に想う

2010年5月4日 火曜日

『残念なことに、私たちの多くは大人になる前に澄みきった洞察力を鈍らせ、あるときは全く失ってしまいます。もしも私が全ての子供の成長を見守る善良な妖精に話しかける力を持っているとしたら、世界中の子供に、生涯消える事のない「センス・オブ・ワンダー=神秘さ・不思議さに目を見張る感性」を授けて欲しいと頼むでしょう。』

この一節は、農薬による環境汚染の問題を最初に告発した書物で名高い『沈黙の春』、レイチェル・カーソン著です。

ゴールデン・ウィークを利用して佐賀県の有田陶器市に出かけました。皆、帽子に軍手、リュックかガラガラ(キャスター付きのバック)を持って、で思い思いに自分の好きな焼き物を探しています。

定期的に有田の陶器市に参加していますが、今年はタジン鍋が多くみられました。タジンは、北アフリカのマグリブ地域の鍋料理や鍋を指します。とんがり帽子の形の蓋が特徴的な鍋です。水が貴重な地域で羊や鶏肉や野菜や香辛料などの持つ水分を使って煮込みができる優れ物です。近年、通信販売やテレビショッピングを通じて普及しているのが背景にあるのでしょう。有田でちょいとひと稼ぎしよう!という的屋さんが品ぞろえしているのです。

有田の陶器市は、JR有田駅と上有田駅を結ぶ通り沿いの店頭に、特化商品や新商品が定価をはるかに下回る価格でところせましと陳列されています。大処分、2枚で1000円、半額などの宣伝が店を飾ります。多くの人は、その中から掘り出し物を買っていくのです。

毎年のニュースでも話題になりますが、有田の陶器市は、期間中の人出が100万人くらいのイベントです。今年も初日の人出が21万人でした。上海で開催されている万博の初日の人数が20万人7000人くらいなので、はるかに効率的に集客が出来ているイベントである事がわかります。

さて、そんな陶器市ですが、近年はまとめて購入している人の姿が減っているように感じました。がっつりと買うぞ!と意気込む人よりも、何かその雰囲気を楽しむレジャー感覚のお客さんが多いようです。

有田焼の売上統計を調べて見ると、1991年がピークで249億円の売上がありました。それから緩やかに売上が減少し、2002年に200億円を割り込みます。現在は50億円程度で、実にピーク時の2割まで落ちています。

顧客が考える陶器市の変化は、焼き物からレジャーに変遷しているのでしょう。所々、有田や佐賀の魅力を押し出す物産展や有田の観光をPRしている場所がありました。しかしまだまだ、洗練された感じが無く、地元のおじちゃん、おばちゃんがお店を出した雰囲気でとどまっています。もう少し、買いたい雰囲気、食べたい雰囲気を作るだけで、購買意欲がかき立てられるのに!おしいと思います。

ただ、メインは焼き物。香蘭社や青花、源右衛門などの窯元をめぐっる体験や作家さんの工房や展示を見て回るのは非常に楽しいです。1点が高いが故に、色々悩んだ挙句、自分に買う理由を見つけて購買している人の姿も多く見ました。

今後、過去のように陶器の売上が急増する事は考えにくいでしょう。景気が悪くなり旅行や外食を控える傾向が強まり、旅館やホテル、飲食店など業務用の買い替え需要が低迷しているからです。しかし、購買する人の気持ちを考えて、有田を前面に出す事によって単価を高めていく事は十分に可能だとおもいます。B2BからB2Cに展開するのであれば、有田の歴史や雰囲気をベースに、個々の作家の魅力を表現する焼き物を提案しても良いと思います。

ともあれ、来年もあの雰囲気の中、1つか2つ焼き物を購入しに行きたいと思います。センス・オブ・ワンダー、まいとし継続して観察する事で見えない物を見る事もできるかもしれません。

早嶋聡史



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