新規事業の旅131 台湾事情2024その1物価
2024年7月31日
早嶋です。(約2300文字)
2024年7月31日現在で台湾の状況を報告する。
(マクロ的な数字)
マクロ的なデータを見ると2024年の第1四半期で前年同比で6.56%の経済成長を記録している。台湾の経済は貿易、投資、消費の三つの主要な要素に支えられる。特に貿易は、過去5年間で19%増加。アメリカ、中国、日本、ASEAN諸国との貿易が大幅に拡大している。また、2024年の輸出額は5,230億米ドル、輸入額は4,240億米ドルと予測され、依然として高水準を維持する見込みだ。さらに、台湾の消費は観光業の回復により支えられる見通しもあり、インフレ率も2024年には1.6%に減少する予測が立てられている。今後も消費者の購買力が向上し、経済全体にプラスの影響をもたらすことが期待されている。
では、どのくらい台湾の経済が成長しているかを見てみる。2010年から直近2024年のGDPの変化だ。2010年が4403億ドルで2024年が7900億ドル。倍近い成長を遂げている。
人口のデータは、2010年2,316万人で2,024年で2,395万人。経済の成長スピードと比較して人口はあまり増えていない。一人当たりGDPで比較すると、2010年が18,997ドルで2024年で32,982ドル。この成長は改めてすごい。成長スピードを確認する目的で日本と比較すると2010年は42,823万ドルが2024年は37,722(推定)ドルだ。為替の影響もあるとしても日本は成長が止まっているどころか徐々に衰退していることがよく分かる。
(ミクロ的な数字)
私が最後に台湾に訪問したのは2016年12月。為替の影響で物価が高いと思ったが経済データを諸々調べて見ると、単に台湾の物価が経済成長とともに高くなっていることが理解できる。先に肌感覚でどの程度の価格が上昇したのかを示すために食べ物と交通インフラとホテルの価格の違いを見てみる。
まずは食べ物だ。と言っても僕が個人的に好きな食べ物3つを選んだ。牛肉面、小籠包、胡椒餅だ。どれも台湾名物の屋台やレストランで食べるのだが、2024年7月31日現在で、当時2017年12月の最後の記憶と比較して高い!と思ったが直感は正しかった。
台湾ローカルフードの値段も確実に価格が上昇しているのだ。牛肉麺。2010年頃の牛肉麺の相場価格は約100台湾ドル(約3.2米ドル)だった。それが2024年現在で約160台湾ドル(約5米ドル)だ。次に小籠包。2010年は10個で約80台湾ドル(約2.5米ドル)が2024年は10個で約150から200台湾ドル(約5-6.5米ドル)になっている。そして胡椒餅。2010年は1個で約40台湾ドル(約1.3米ドル)が2024年で約60から70台湾ドル(約2-2.3米ドル)になっている。総じて1.6から1.8倍の価格差と言ったとこだ。
次は交通インフラだ。タクシーと鉄道(MTR)を見てみよう。2010年の台北市のタクシー初乗り料金は70台湾ドル(約2.3米ドル)で、1キロあたりの追加料金は20台湾ドル(約0.65米ドル)だった。2024年現在、初乗り85台湾ドル(約2.7米ドル)で、1キロあたりの追加料金は25台湾ドル(約0.8米ドル)だ。約25%程度高くなっている。MTR(Mass Rapid Transit)は地下鉄やJRのイメージを持って貰えば良い。2010年は台北MRTの基本運賃は20台湾ドル(約0.65米ドル)で、距離に応じて追加料金が課されていた。2024年現在もこの料金に変化は感じられない。
最後にホテルだ。一般的なホテルとラグジャリーホテルを比較した。2010年の一般的なホテル(3つ星ホテル)は1泊あたりの料金は約2000から3000台湾ドル(約65から100米ドル)だった。2024年現在、3000から4500台湾ドル(約100-150米ドル)だ。高級ホテル(5つ星ホテル)も同じように、2010年は約6000から10000台湾ドル(約200-330米ドル)で、2024年現在で8000から15000台湾ドル(約265-500米ドル)になっている。台湾で宿泊するリージェントホテルの相場もおよそ同じ程度の上昇率だった。ホテルも総じて30%から50%程度の値上げ幅だ。
(所得水準)
約15年の間でこれだけの物価が上昇すると所得も増えなければ国民は大変だろう。そこでどの程度の推移になっているか調べた。平均賃金は、2010年で月収は約36,000台湾ドル(約1,200米ドル)が2024年で約57,866台湾ドル(約1,890米ドル)だ。最低賃金ベースで、2010年は月額18,780台湾ドル(約625米ドル)で、2024年は月額27,470台湾ドル(約900米ドル)だ。約15年で台湾の平均賃金は約6割増加している。先に見た屋台やレストランの価格の高騰と賃金の高騰はおよそ同じ水準なので、生活感が苦しくなることは無いと予測できる。ただ、これは平均値なので、実際に台湾での生活は地域によって異なると思う。台湾でも他国同様、地域や業界による賃金差はある。例えば、台北市では平均年収が約882,000台湾ドル(約29,400米ドル)で、台湾全土を見るとやはり高い。また、技術職や管理職など特定の業界では平均以上の収入を得ることができる。
台湾と言っても、私は2017年12月もその前も、基本は台北のしかもかなりの都市エリアしか動いていない。ただそれでもわずか数年の変化が如実に感じられるのはすごい。逆をいえば、日本がどれだけ変化していないのか、どれだけ低迷していることに気が付かないのかを考えるきっかけになる。
(過去の記事)
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キャリアコンサルタントの役割について
2024年7月30日
安藤です(国家資格1級キャリアコンサルティング技能士)
2016年4月に施行された改正職業能力開発促進法により、事業主による労働者の自律的なキャリア開発支援が義務化され、キャリアコンサルティングがキャリア開発支援の中核に位置づけられました。これを契機に、企業が人材戦略に基づき従業員の主体的なキャリア形成を支援する継続的な取り組みを指す「セルフキャリアドッグ」が導入されています。
キャリアコンサルタントの活動範囲は企業によって異なりますが、社員との1対1の個別面談を基本とし、キャリア開発に係る人事制度の整備やキャリア研修のプログラム開発、情報提供や宣伝活動、上司・経営者への介入など多岐にわたる活動をおこなっています。
キャリアコンサルタントの役割は、下記のことがあります。
①社員の自己理解の支援 ②社員のキャリアプラニングの支援 ③上司や職場への介入 ④経営者への情報提供と組織活性化の支援等です。
2020年に、下村英雄著「社会正義のキャリア支援」~個人の支援から個を取り巻く社会に広がる支援へ~が発行されました。
『個人の成長が、組織の成長につながる』「組織と個人の共生」をテーマに、“ワークエンゲージメント” “働きやすい職場づくり” “心理的安全性の必要性”などを投稿させていただいておりますが、故木村周先生が強調する「労働の人間化」が、社会正義のキャリア支援と直接関連していると書かれておりましたので、 その一部を引用いたします。
「労働の人間化は」は古い概念ですが、おもに1970年代にヨーロッパを中心に広がりを見せた国際的な動向で提唱された言葉です。労働の内容や質をより人間的にしようという運動で、当時のいいかたではME化(マイクロエレクトロニクス化)によって細分化された職務を、より人間的な労働に再編成することなどを議論していました。この時、労働の内容は次のような要件を備えなければならないとされました。
1.【変化】労働の内容に手応えがあること。単に忍耐をようするというだけでなく、適当な変化があること。
2.【学習】仕事から学ぶことがあること。継続的に妥当な量の学習があること
3.【自立性】自分で判断する余地があること。自分の責任で決められること。
4.【他人との協調関係】人間的なつながりがあること。同じ職場の人々が互いに他人を認め合う関係にあること。
5.【社会的意義】仕事に社会的意義があること。自分の労働と社会をつなげて考えらえること。
6.【成長】将来にとってプラスになること。何らかの意味で良き将来につながること。
「労働の人間化」の考え方は、現在の日本の職場環境、キャリア環境をより良いものにするために不可欠のものです。そのことが、離職防止、企業の成長につながることになると思います。昨今は、人事・労務の部署の方々がキャリアコンサルタントの資格を取得し、企業内キャリアコンサルタントとして活動されている方も増加傾向にあります。
クレームは宝の山⁉グッドマンの法則
2024年7月25日
高橋です。
私がコンサルティングをしている『営業プロセス研修』のエッセンスを、毎回お伝えしています。
今月のテーマは「クレームは宝の山⁉グッドマンの法則」です。前回、前々回と顧客満足、顧客感動をテーマとしてきました。今回は顧客対応が企業の長期的な業績を左右するお話しです。
さて、どのような仕事でも、常にお客様にご満足いただけるわけではないですね。時にはお客様からお叱りの声をいただくこともあるでしょう。そのお叱りの声、いわゆるクレームは貴重なものです。クレームは宝の山であることを、グッドマンの法則が教えてくれます。
グッドマンの法則(厳密にはグッドマンの第一法則)とは、『不満を企業に伝えてくる顧客のうち、対応に満足した顧客の再購入決定率は申し立てなかった顧客に比べて高くなる』というものです。
詳しく見てみましょう。まず、企業に不満を感じた顧客のうちクレームを言ってくれる顧客はわずか4%、残り96%は不満を感じてもクレームを言ってくださいません。まずはクレームを言ってくださることがいかに貴重なことか、分かります。そして、そのクレームを言ってくださらない96%の顧客のうち、再購入してくださるのは9%のみ、あとの91%のお客様とはそれきりとなります。
クレームを言ってくださった4%の顧客に対して、企業側が迅速に対応した場合の再購入率82%、解決に満足した場合の再購入率54%、不満だが納得した場合の再購入率19%という結果になります。
企業側の対応いかんで、お客様とのご縁(再購入)が続くか、それとも縁が切れてそれまでとなるかが変わってくるのです。きっと対応に満足し再購入してくださるお客様なら、これからもお客様であり続けてくださるだけでなく、他のお客様も呼んできてくださるのではないでしょうか。口コミや評判というのは、そのようなものでしょう。クレームへの対応が信頼を生むのです。
先日、ある大手化粧品会社を見学させていただきました。その企業は顧客感動のトップ企業だと私は思っているのですが、そのこだわりは並々ならぬものがあります。お客様の肌の悩み相談に2時間かけるのは当たり前(しかもコールセンターで)、ご本人よりその人の肌の履歴を知っていたり(記録している)、手が不自由なお客様がいらっしゃれば開けやすい容器を特別に用意したり、普通の企業ではとてもできないことを長く実践しておられます。
今では顧客感動のトップ企業ですが、しかし、その取り組みのスタートはクレームだったそうです。以前強引なセールスが不評をかい、返品の山ができたそうです。その時に販売を3か月間全てストップして徹底的に社員で議論し、自社の理念から見直したそうです。そこから生まれたのが今の顧客対応の体制です。「100人のお客様に買っていただくより、1人のお客様に100回買っていただく」ことを目指しておられます。
いかがでしょう、まさに「クレームは宝の山」を実践しておられます。どの企業でも顧客満足を言われますが、それをどのような行動(企業の取り組み)にしているのかで結果は違うモノです。今一度、自社の顧客満足・顧客感動を考えてみましょう。
営業プロセス、営業研修、人材育成、セールスコーチなどをご検討の経営者・経営幹部・リーダー・士業の方はお気軽に弊社にご相談ください。
新規事業の旅130 設立から上場までの物語
2024年7月24日
早嶋です。(今回も超長文です。約11,500文字)
ベンチャー企業が上場するまでの流れ。メモ的内容。設立、プレシード、シード、シリーズA、B・・・、上場準備、上場。資金調達を軸に整理している!
(設立:Founding)
設立時。企業のビジョンやミッションを確立し、基本的なビジネスモデルや製品アイデアを定義する。主な活動は、創業メンバーを集め、会社を登記し、初期市場の調査や商品(製品やサービス)の初期コンセプトを開発する。会社を登記する前に、創業者やメンバで集り、コンセプトを固め、ワイガヤで議論する期間。夢と将来しか無い楽しい時間だ。このステージの資金調達は、ブーツストラッピングと言い、創業者やメンバの自己資金や友人・家族から調達することが多い。予め将来的にIPOやM&Aなどの出口を考えているのであれば、設立段階から資本政策は考えておくべきだ。タダよりも高いものは無い経験が待っている。
設立時に調達する資金額は、事業の種類や規模、ビジネスモデル、創業者の目標により大きく異なる。テクノロジー関連のスタートアップ(例えば、ソフトウェア開発、ハードウェア製造、バイオテクノロジーなど)は、研究開発や初期プロトタイプの作成に多額の資金が必要だ。この場合、設立時に数百万円から数千万円、場合によってはそれ以上の資金調達が必要になることもある。一方、比較的少額の初期投資で始められるサービス業や小売業では、数百万円程度の資金で始めることができる。
スケールできるビジネスモデル、つまり急成長を目指すビジネスモデル(例:サブスクリプションサービス、オンラインプラットフォームなど)は、初期段階での市場投入やマーケティングに多額の資金が必要となるため、設立後に数千万円以上を調達することもある。一方で、地域密着型のビジネスモデル(例:カフェ、レストラン、小規模製造業など)は、初期投資が比較的少なく済む。数百万円から多くても数千万円程度の資金で十分だ。
多くのスタートアップは、初期段階で創業者の自己資金や家族・友人からの資金提供を受ける。事業に精通している人が起業する際は、エンジェル投資家にアプローチして資金を調達することもある。その場合、数百万円から数千万円が一般的だ。もちろん、初めの時期に高いシェアを与えないように資本政策についての知識はあったほうがよい。近年はインキュベーターやアクセラレーターが主催するプログラムに参加し、数百万円程度のシード資金と、ビジネス支援やメンタリングが提供されることもある。随分と環境が良くなったと思う。
もちろん資金調達額は、地域や国によっても異なる。例えば、シリコンバレーやニューヨーク、ロンドンなどのスタートアップエコシステムが発達した地域では、設立時に調達される資金の額が比較的大きくなる傾向が観察できる。
(プレシード:Pre-seed)
プレシードは、ビジネスアイデアの検証、初期プロトタイプの開発、初期市場の反応を確認する。詳細な市場調査を行い、プロトタイプの開発とテスト、初期の顧客やパートナーの獲得を目指す。この時期の資金は、エンジェル投資家やインキュベーターからの小規模な投資だ。規模や内容によっては、設立とプレシードを重ねて行う場合もある。
少額のプレシード投資は、数十万円から数百万円程度で、一般的なプレシード投資は数百万円から数千万円だ。テクノロジー関連(ソフトウェア、ハードウェア、バイオテクノロジーなど)の事業は研究開発やプロトタイプの作成に多額の資金が必要だ。従い、数百万円から数千万円のプレシード資金が必要になる。サービス業や小売業などは、比較的少額の初期投資で始められるため、数十万円から数百万円のプレシード資金で十分な場合もある。資金調達が少額で良い場合は、設立とプレシード、もしくはシード時期の資金調達を一気に行う場合もある。逆に、テクノロジー関連の事業は、設立時にビジネスプランやチームを整える構想を得て、プレシードでその実現の一歩を踏み出す。創業経験が過去にある場合、スタートアップで会社を設立した後、ビジネスプランを片手に投資家を口説きまわって資金を調達する。そして、プレシード段階でアイデアを固めて、より多くの資金を調達するのだ。
(シード:Seed)
シード時は、製品やサービスの市場適合性(Product-Market Fit)を確認し、初期顧客基盤を構築する。商品(製品やサービス)のプロトタイプの改善とフィードバック収集を行い、マーケティング活動を開始する。それから初期の売上獲得を画策する。資金調達はエンジェル投資家、シードファンド、クラウドファンディングなどから探す。
少額のシード投資だと、数百万円から数千万円程度。一般的なシード投資だと、数千万円から数億円程度だ。ただ繰り返すが、テクノロジー関連(ソフトウェア、ハードウェア、バイオテクノロジーなど)は研究開発やプロトタイプの作成、市場投入に多額の資金が必要で、金額は高くなる。サービス業や小売業など、は必要な資金も少ない場合が多い。
スケーラブルなビジネスモデルで急成長を目指す印象が強ければ、調達額も大きくなるし、創業者や創業メンバーに経験者がいる場合も同様の傾向だ。ただし、金額が大きければ良いものではない。シリーズA以降で、シード期に出資した企業や個人、つまり誰が株主になっているかは極めて重要だ。シード期に、著名なエンジェル投資家やシードファンドが既に投資している場合、それが新しい投資家にとって信頼性を高める要因になるからだ。これらの投資家が投資していること自体が企業のポテンシャルを示すサインとして受け取られる。また、シード期は他の投資家が持つ専門知識やネットワークが、企業の成長に役立つ可能性もある。既存の株主や投資家が業界に精通している場合、その知識やネットワークが企業の成長アクセルになる。信頼できる共同投資家の存在は、新たな投資家にとって安心材料であり、次のシリーズA以降で有利になる場合が多いのだ。
シード期のマーケットフィットはとても重要だ。企業が提供する商品(製品やサービス)がターゲット市場のニーズや要求に適合している状態がマーケットフィットだ。顧客がその商品を強く求め、満足し、積極的に購入や利用を続ける状態が理想になる。理想的なマーケットフィットの特徴は、顧客の需要を発掘し、高い満足度を提供する。そして持続可能な成長の糧になり、顧客からもポジティブなフィードバックを得る要因にもなる。
マーケットフィットは、製品やサービスが顧客の問題を効果的に解決し、顧客がその価値を認識している状態。すなわち顧客の需要を発掘したことになる。顧客はその商品を使いたいと思い、購入意欲が高くなる。顧客が商品に満足することで、リピート購入や利用を継続する。そして口コミや紹介を通じて、新たな顧客を自然に引き寄せる力も持ち合わせる。広告費をかけて企業が宣伝するよりも満足度が高い顧客が直接推奨している商品に信頼度は上がることは明らかだろう。これらのサイクルは商品の売上や利用者の増加をもたらし、持続可能なビジネスモデルを形成することに欠かせない。顧客基盤の拡大が見込まれるのだ。商品が市場に浸透するにつれて顧客からのフィードバックはありがたい。ポジティブなものは、改善点を反映させることでさらに満足度を高める要因につながり、開発サイクルが効果的に回りはじめる。
もちろん簡単ではない。マーケットフィットを見極めるためには地道な取組が必要だ。ベースはユーザーインタビューと調査だろう。顧客の声を直接聞くことで、製品の強みや弱み、改善点を明確にできる。アンケートやフィードバックセッションなども活用する。ただあまりにも革新的な商品やイノベーションの場合は、顧客がまだ商品の概念を理解できていない。そのような場合はしばらくは顧客の声を度外視して進めるのが良い。
既に一定のテストマーケティングにより購買する顧客がいる場合は、新規と既存顧客の行動パターンを分析する。リピート率や解約率などの基本的なデータを基に試行錯誤を続けるのだ。近年は満足度の代わりに、NPSを用いることも多くなった。顧客がどの程度商品を他者に推薦する意向があるかを測る指標だ。高いNPSは顧客満足度が高く、マーケットフィットを示す一つの指標となるし、NPSは満足度よりも利益との相関が高いことが分かっている。
マーケットフィットの重要性は理解できたと思う。この取組をプレシード期に行う理由を議論したい。プレシード期は、ビジネスアイデアの検証、初期プロトタイプの開発、初期市場の反応を確認する。この段階で、アイデアが市場に受け入れられるかどうかの仮説を立て、初期の顧客インタビューや市場調査を通じて仮説を検証することはもちろん重要だ。しかし、完全なマーケットフィットの確認は難しい。まだベンチャー自体の仮説が固まっていないからだ。
そのためにシード期で商品(製品やサービス)のマーケットフィットを真剣に考えるのだ。製品やサービスが顧客の問題をどれだけ解決できるか、顧客がその価値をどれだけ認識しているかを評価するのだ。顧客インタビュー、プロトタイプのテスト、市場調査などを通じてフィードバックを収集し、製品を改善していく。
シリーズA以降は、商品の市場投入後の成長加速、マーケティングとセールスの強化、チームの拡充が目的になる。この時期以降は、一定の程度のマーケットフィットが確認できていることが前提になる。シリーズA以降は、製品のスケールアップや市場シェアの拡大が主な焦点で、マーケットフィットが確立されていることで、投資家からの信頼を得る。従い、マーケットフィットを考えるべき段階は、シード期が最も重要なのだ。
(シリーズA:Series A)
シリーズAは、ビジネスモデルを拡大し、持続可能な収益を確保する、つまり商売に結びつけるための取組だ。製品やサービスのスケールアップを行うために、マーケティングと営業の強化を進める。ベンチャーキャピタル(VC)やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)からの投資を積極的に受け成長を目指す。そのため調達する金額は少なくても数千万円、通常は数億から数十億程度を集める。
シリーズBでは、2回目の資金需要として、更なるビジネスモデルの拡大、市場シェアの獲得、新市場への進出などを行う。回数が増えてC、Dと続く度に資金は大きくなる。より大規模なVCやCVCなどと関係を密にして展開する。規模が大きなベンチャーなどは、大規模な事業拡大、国際展開、新製品ラインの追加、M&Aなどの計画を実行するための資金として数十億から数百億を集めることもある。ここまでくるとグローバルVC、大手金融機関、戦略的投資家、プライベートエクイティ(PE)なども調達候補として上がってくる。
ところでシリーズAから一気に上場準備に進めない理由もある。ベンチャー企業は急成長を目指し、革新的なアイデアや技術を活用して新市場を開拓することが多い。初期段階のシリーズA前後で、製品やサービスの市場適合性(Product-Market Fit)を確認し、初期の顧客基盤を構築する。シリーズB以降では、事業の大規模な拡大が必要となり、さらなる資金調達が求められる。前に入れた金額を凌駕するための企業価値にしなければ、投資家もリターンを得られない。得たとしても十分な金額にならないという投資家再度の理由もある。
もちろん、市場シェアとの戦いに一定の目処をつける目的もあるだろう。ベンチャー企業といえども、同じような製品やサービスが育ってくれば、やがてその事業は一定の市場を成し成長市場と化す。その中で競争が激化する。市場シェアを迅速に拡大するためには、マーケティングや営業、製品開発に多額の資金が必要となるのだ。各シリーズでの資金調達は、この成長を支えるためのガソリンになるのだ。
さらなる企業価値を高めるためには、新市場への進出や新製品ラインの追加が重要な場合もある。ここにも大規模な資金が必要となり、シリーズC以降の資金調達が行われる。各資金調達ラウンドでは、企業価値(バリュエーション)が上昇することが期待され、投資家は次のラウンドでの高い評価額を期待して投資する。成長期待には天井がなく、大規模な事業拡大、国際展開、大規模な設備投資、新規M&Aなどをすることで確率が高まるのであれば、シリーズEやFと続くこともあるのだ。近年のユニコーン企業(評価額が10億ドル以上のスタートアップ)は、シリーズEやFまで資金調達を行うことも多い。上場前にさらなる成長資金を確保するためただ。
シリーズA以降の資金調達をしたものの、目的を達成できない企業も数多く存在する。というかベンチャー企業の特徴を鑑みたら珍しくもない。いくつか理由を整理してみる。
まずは、需要不足だ。要は売れると思ったが、そこまで売れなかった場合だ。企業が提供する製品やサービスに対する市場の需要が予想よりも低かったのだ。Quirky(クワーキー)は2009年6月にベン・クウフマン(Ben Kaufman)によって創業された。GEや大手VCなどから合計185万ドル(当時約222億円)の投資資金を調達していた。しかしその年の9月22日、Quirkyは、米国破産法第11条に基づく倒産手続処理の申請をした。Quirkyは社名の通り、誰でも自分の商品アイデアを提案でき、コミュニティと改善しながら支持を集めて、商品化されればロイヤリティを得られることで人気を集めたプラットフォームだった。実際、登録ユーザーは113万人で400以上の商品が生み出された。しかし思うような需要がなく、最終的に破産したのだ。
競争激化もある。同業他社や新規参入者との競争が激化して、市場シェアを思うように獲得できなかった場合だ。現在でもウェアラブルデバイスはポジションが曖昧でこれと言った目立った企業が無いと思う。そのウェアラブルデバイスでは老舗的存在だったJawbone(ジョーボーン)も1999年の創業からポジションを取ると思われたが、2017年6月に資産売却が報じられ、既存ユーザーへのカスタマーサービスやアフターケアがなおざりになり結果的に、Fitbitなどの競合にも対抗できずに事業を閉鎖した。
経営上の問題もある。経営陣の戦略ミスや運営上の問題が原因で事業が息詰まった場合だ。血液検査スタートアップとして有望視されたTheranos(セラノス)は、内部の経営問題や技術の信頼性に関する問題が原因で失敗した。創業者兼CEOだったエリザベス・ホームズと元COOのラメシュ・バルワニは、投資家、医師、患者を騙した詐欺罪で起訴されたのだ。
資金管理からの失敗もある。調達した資金の使い道が不適切で、資金不足に陥った場合だ。バッテリー交換式の電気自動車の普及を目指したイスラエルのスタートアップ、Better Place(ベタープレイス)。2007年に創業のベタープレイスは、これまでに8億5,000万ドルもの資金を調達していた。しかし、2013年に破産申請を行っている。ビジネス展開の読みが甘く、10年かかると考えられた事業をわずか1年で実現しようとして急激な投資と資金ショートに陥ったのだ。資金の管理がうまくいかず、破産に追い込まれた。
技術的な問題もある。商品(製品やサービス)の技術的な問題が解決できず、顧客の期待に応えられなかった場合だ。2011年8月米国カリフォルニア州に本社を置く、太陽光発電パネルメーカーのSolyndraは、連邦倒産法第11章に基づく申請を行い倒産した。同社は、CIGS型薄膜太陽光パネルメーカーとして2005年に創業。クリーンエネルギーの担い手として、オバマ大統領からも絶賛されていた。VCからは10億ドル以上の資金を調達し、米国エネルギー省からも債務保証を受け、仮に債務不履行となった場合に、エネルギー省が負担をする契約もとりつけていた。しかし中国メーカーや他の企業のコスト競争と技術に追従することができずに競争力を失ったのだ。
規制や法律の変更に追随できず失敗した事例もある。Aereoはテレビ番組をパソコンや携帯端末で見れるサービスを展開した。従来Apple製品などに限定していたサービスを主要ブラウザに拡大し、多くの人が主要テレビ局(ABC、CBS、NBC、FOXなど)の番組をパソコン等でストリーミング視聴できるようになるサービスだ。しかし、時期が早いのと、エスタブリッシュメントからの反撃と法的問題で事業を継続できなくなった。
ハイリスク・ハイリターンにかけるベンチャー。シリーズA以降の資金調達を成功した企業でも、様々な理由で目標達成できなかった事例を紹介した。市場の需要、競争、経営、資金管理、技術的な問題、規制の変更、顧客獲得の失敗などが主な要因だ。これらのリスクを管理し、適切な戦略を持つことが、ベンチャー企業の成功にとって重要なのだ。
ちなみに、シリーズAを通過したスタートアップの約50%が、その後のラウンドで資金調達に成功せずに事業を閉じている。これは、シリーズAを獲得した企業の約半数がシリーズB以降に到達せずに失敗することを意味している。CB Insightsの統計では、シリーズAを受けた企業の約60%がシリーズBに到達、その企業の約65%がシリーズCに進むことができ、シリーズC以降も同様のパターンで減少する。この統計だと、100社がシリーズAに進んでも、シリーズCで残っている企業は39社にとどまる。
他の統計では、すべてのスタートアップのうち約90%が最終的に失敗すると言われている。このうち、シリーズAまで到達するスタートアップは少数で、シリーズA以降の段階で事業が失敗する確率も高い。シリーズB以降にフォーカスした統計でもやはり多くの企業が市場の競争や経営上の問題で失敗している。シリーズBを通過した企業の約30から40%が最終的に成功(例えばIPOやM&A)すると言われている。スタートアップの成功は多くの要因に依存し、資金調達の成功だけではなく、マーケットフィット、競争力、経営の質などが重要な要素となるのだ。
(上場準備:Pre-IPO)
これまで見てきたシリーズA以降の取組は、成長加速、組織拡大、資金の適切な運用、事業モデルの検証と拡張などに焦点をおいた。しかし上場準備では、上場に向けた準備を整え、企業の透明性とガバナンスを強化する。内部統制の整備、監査の実施、IPOチームの結成、証券取引所への申請準備、証券会社との連携などを整えるのだ。
当然創業者や創業チームの役割も変わってくる。シリーズA以降の取組は、リーダーシップ、戦略的意思決定、資金管理等が役割だったが、上場準備ではガバナンスの強化や外部対応、そして組織や事業の透明性の確保が必要になる。そのため多くのベンチャーではこの部分の機能が不足するため専門家を導入する傾向が高い。CFOや法務責任者など、特定の分野に精通した専門家だ。創業者や創業チームは、外部専門家をチームにいれることで従来の企業ビジョンと戦略実現に集中することができる。重要なことは、創業者や創業チームが企業文化とビジョンを維持し続けることだ。専門的な役割を他のメンバーに委任しつつ、自身はリーダーシップを発揮し、企業全体の方向性を示すことが求められるのだ。
上場準備に必要な資金調達の調達手段も変わってくる。プレIPOファイナンスやブリッジローンなどを活用することもあるからだ。
プレIPOファイナンスとは、企業が新規株式公開(IPO)を行う前に行う資金調達を指す。この段階での資金調達は、IPOを成功させるための準備や最終的な成長の促進を目的とする。企業がIPOを実現するためには、一定の規模と成長率が必要だ。プレIPOファイナンスは、この成長を加速させるための資金を提供する。また、IPO前に財務状況を強化することで、投資家に対して安定した企業であることを示すことができる。更に、企業がIPOの準備を進めるためには、多くの運転資金が必要となる。IPO関連の費用(弁護士費用、監査費用、マーケティング費用など)も当然も含まれる。更に、プレIPOファイナンスは、企業の市場認知度を高める目的としても活用される。大手投資家からの資金調達は、企業の信頼性を高め、市場での地位を強化するのだ。
ブリッジローン(Bridge Loan)とは、短期間での資金ニーズを満たすために提供される一時的なローンを指す。通常、次の資金調達ラウンドや特定の財務イベントが完了するまでのつなぎ資金として使用される。ブリッジローンは、数ヶ月から1年程度の短期間で返済されることが一般的だ。そのためリスクは高いと判断され、金利は高めに設定される。ただしブリッジローンは緊急の資金ニーズを満たすため、通常のローンよりも迅速に承認され、資金が提供される。そしてブリッジローンは担保付きで提供されることが多い。担保は、不動産や将来の資金調達による株式などが利用される。ブリッジローンは、従来の調達手段と異なるので、実施についてはCFOや他の専門人材と議論して進めるべきだが、そうは言ってられない時期で、あと少しお金があればIPOできるというプレッシャーが思考の判断を誤らせることも良く聞く話だ。ブリッジローンの存在がIPOでの企業評価に影響を与えることもある。高金利や短期返済の負担が短期的な業績の評価を下げる要因になる場合だ。
上場準備に要する期間はもちろん様々だ。しかし一般的な目安はある。シードラウンド後からシリーズAまでの期間は、通常12ヶ月から24ヶ月だ。更に、シリーズAからシリーズBまでの期間も、通常12ヶ月から24ヶ月。そして、シリーズBからシリーズCまでの期間は、通常12ヶ月から24ヶ月。シリーズA以降、何回もラウンドを回せば良いというものではないが、1年から2年費やせば結果をだせるでしょう!というのが投資家目線の考えなのだ。そして上場準備。上場準備には通常6ヶ月から18ヶ月が必要とされると言われる。予め上場を意識して財務、法務、組織の透明性を高めている企業は1年かからないかもしれないし、それ以上かかる組織もあるかもしれない。そんなニュアンスだろう。
(上場:IPO)
IPOは、公募価格で株式を市場に公開し、大規模な資金調達を行う。活動は、IPO申請の最終手続き、投資家向けロードショー、株式の価格設定、上場初日等だ。公募株式を売却することで資金調達するのがIPOで、企業によっては数百億円から数千億円を調達することもある。
IPOにおける公募価格(オファー価格)は、企業価値を反映し、投資家にとって魅力的である必要がある。この価格を決定するプロセスはとても複雑だ。多くの要因を考慮する必要がある。ここは事務屋の出番だ。
まず、財務分析と企業評価だ。企業の財務状況、成長見通し、業績、収益性などを詳細に分析し、収益の予測やキャッシュフローの分析を行い、企業価値(バリュエーション)を算出する。この分析は、大型のM&Aをする際と同じと考えて良い。その後、DCF法や比較類似会社法、市場乗数法等、複数の評価手法で企業価値のあたりをつけていく。
次に、証券会社(アンダーライター)との協議だ。証券会社は、企業の価値を評価し、公募価格を決定するための助言を提供する。証券会社は市場の動向や投資家の需要を考慮して価格設定を行う。
投資家向けプレゼンテーションをロードショーと言う。企業の経営陣や証券会社の担当者が、主要な投資家が所在する複数の都市や地域を巡回しながらプレゼンテーションを行う形式から言葉の由来が来ている。今でこそZoomで説明などが可能だが、昔は投資家が一箇所に集まるのではなく、企業側が投資家の元へ出向いて説明会を行っていた。ただ泥臭い作業であることはかわりない。直接投資家にプレゼンして意見交換することで、投資家の関心と需要を把握し、公募価格の適正範囲を確認するのだ。
上記の調査や分析を経ながら初期の価格帯(プライスレンジ)を設定する。この価格帯は、最終的な公募価格を決定する際の参考になる。続いて、ブックビルディング(需要積上)を行う。投資家に対して一定期間内に価格帯の中での購入意向を確認し、その需要を集計するのだ。ここでもその意向や結果を踏まえて公募価格の決定の参考にする。そして、最後に、企業と証券会社が協議して、最終的な公募価格を決定する。需要が強ければ価格帯の上限近くで、弱ければ価格帯の下限近くの株価に設定される。
ここで忘れてはならないのが、シリーズA、Bなどの上場準備前に行った資金調達の額やその時の株価だ。当然にIPO時の公募価格に大きな影響を与える。投資家は過去のバリュエーション履歴を参考にして、現在の企業価値を評価するのだ。将来のキャッシュフローは事務屋が描いた餅まではいかないが、実務的な投資家は過去を参考にしたがるのだ。シリーズA、B、C等で高い評価額を受けた企業は、IPO時にも高い評価額が期待されるのだ。
それから既存投資家の持ち分希薄化(エクイティ・ディリューション)の程度がIPOの価格設定に影響する。新規投資家の株式が既存投資家の持ち分をどの程度希薄化するかだ。毎回、適切なバリュエーションを維持するために、各ラウンドでの資金調達額と発行株数を慎重に管理している。これまで説明してきたように、各資金調達ラウンドは、企業の成長ステージを反映している。シリーズAは初期成長、シリーズBは拡大期、シリーズCは成熟期等で、この活動に応じたバリュエーションも加味する必要がある。実際、将来のキャッシュフローを予測するのは極めて難儀なため、過去にフォーカスする傾向が投資家には強いのだ。そのため直前の資金調達ラウンドでの株価が高ければ、IPO時の株価もそれに基づいて高くなる傾向がある。プレIPOファイナンスで敢えてブリッジローンを組み入れるのも高い株価を維持したい目的などが見えてくるだろう。
整理するとIPOの価格設定とこれまでの資金調達の歴史は無視できないのだ。各資金調達ラウンドは連続した評価の過程で、IPOはその延長線上にある。過去の評価額と調達額がIPO時の評価に自然に組み込まれるのだ。それから各ラウンドで発行する株式数と調達額を慎重に管理し、既存株主の持ち分希薄化を最小限に抑えながら成長資金を確保する。これにより、IPO時の株価維持が可能となる。投資フェーズが早いほど、資金の回収リスクが高まる。その理屈から希薄化に関しての意味合いが理解できるだろう。結局、各ラウンドでの成功や成長成果を示すことで、投資家の信頼を維持し、IPO時の高評価を目指すのだ。それが市場の期待に応えることにつながるのだ。
(まとめ)
ベンチャー企業はシード期、シリーズA、B、C、・・・と資金調達を行い、成長と拡大を図る。シード期では、製品やサービスの市場適合性(Product-Market Fit)を確認し、初期の顧客基盤を構築するために資金を調達する。シリーズAでは市場適合性をさらに確認し、シリーズBではスケールアップ、シリーズCではさらなる拡大を目指す。これらの段階での評価額や株価は、IPO時の公募価格に大きく影響する。
IPO前のプレIPOファイナンスやブリッジローンも重要で、これらの資金調達が企業の成長と市場信頼を支える役割を果たす。上場準備段階では財務整備、法的準備、組織の透明性強化が求められ、投資家向けプレゼンテーション(ロードショー)を通じて投資家との信頼関係を築く。ロードショーでは企業の成長戦略や財務状況を説明し、投資家からのフィードバックを得て最終的な公募価格を設定します。IPOの成功は市場環境、企業の財務状況、ガバナンス、投資家の需要など多くの要因に依存するが、慎重な準備と戦略的対応が鍵となるのだ。と考えると、IPOは結果的に確実にコントロールできるものでも無いと思う。まさに神のみぞ知る領域なのでは無いか。
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新規事業の旅129 ベンチャー企業と中小企業
2024年7月23日
早嶋です。(約1700文字)
ベンチャー企業と中小企業は、似て非なるもの。とまではいかないが、いくつかの観点から異なる。ベンチャー企業は急成長を目指し、革新的なアイデアや技術を活用して新市場を開拓することが多い。ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家から資金調達を行い、短期間で大規模な成長を実現しようと試みる。一方で中小企業は地域密着型や特定のニッチ市場に焦点を当て、安定した経営を重視する。持続可能な維持、もしくは成長を目指し、自主資金や銀行からの融資を主な資金源としている。
株主の特徴からもわかる通り、ベンチャー企業はリスク耐性が高い。一般的にハイリスク・ハイリターンな事業モデルのため、経営者が金融機関などから貸付を行うにはリスクが高い。そのため一定の経験値と理解を示すVCやエンジェル投資家が理解を示しながら投資を行う。ただVCや個人投資家はお金を出すだけではなく、その事業の成功を加速させるため初期段階では、経営支援やネットワークの提供も行う。
株主は、短期間での急成長を重視し、早期の利益よりも、市場シェアの拡大や技術開発に焦点を当てることが多い。そのためにVCやエンジェル投資家は、企業の戦略的方向性に積極的に関与し、取締役会に参加し、企業の成長をもサポートする。そして、IPO(新規株式公開)やM&A(企業の合併・買収)などの流動性イベントを通じて、投資資金の回収を期待するのだ。
一方で中小企業は、銀行からの融資や自己資金で運営されることが多く、外部からの大規模な資金調達は行っても稀だ。中小企業に投資する投資家がいた場合は、頼まれて投資をするか、たまたま知っていて半ばドネーションのような感覚で出資をする。成長よりも安定した収益と長期的な経営を重視する中小企業が多い。中小企業はリスクを最小限に抑え、安定したビジネスモデルを追求する。地場のネットワークや知名度を活かして、既にナショナルブランドが開発した事業モデルをFC等を通じて行う中小企業も多い。明らかにマージンを抜かれるナショナルブランドのFCを敢えて行う傾向を見てもリスクに対して耐性が極めて低いことが納得できる。
ベンチャー企業の風土は若く、ダイナミックな組織文化を持つ。迅速な意思決定や柔軟な働き方を重視し、創業者やリーダーのビジョンが強く組織や経営に反映されることが多い。中小企業はまちまちだ。安定した組織構造でも、従業員の雇用を重視しているとはいえ、制度が充実していない場合も多く、福利厚生も教育耐性もまちまちだ。地理的な拡大をすることもないので、結果的に地域に根ざす場合も多い。地域社会との関係を大切にし、伝統や文化を尊重している企業も多いが、結果的にその状態を維持している場合も見受けられる。
ベンチャー企業は新しい市場やグローバル市場への進出を目指し、革新的なアプローチを取る。ハイリスク・ハイリターンの事業モデルを多く取ることと、資本家から集めた資金を元手に企業価値を高める必要もあり、結果にスケーラビリティを追求し、急速な市場拡大を目指す状況に追い込まれるのも事実。中小企業は、大きな成長は望まず、結果的に地域密着型のビジネスを展開している。戦後起業した事業で、ファミリービジネスで規模が大きく変化していない企業は、拡大よりも安定した顧客基盤の維持に力を入れている。その結果、2代目、3代目が引き継ぐ頃には、事業規模が縮小する傾向も良く観察できる。
初期のベンチャー企業は、組織や仲間に対して、将来の企業価値を配分することで人材を調達する。中小企業は、給与レベルは高くは無いが、一定の安定とその地域から出る可能性が低いため、人口が一定数増加している時は採用もそこそこ実現できていな。現在は、中小企業を中心に人手不足が慢性的に続いている。企業のビジョンや教育体制が整っておらず、業務フローも昔ながらのアナログ。そのため、SNS等の影響で情報が民主化された今、人手不足の企業に人材が慢性的に流出する傾向に歯止めをかけれない状況が続いている。
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【動画】2024年度 QTnetインターンシップ
2024年7月22日
本ページは、2024年度QTnetインターンシップ体験WS向けのページです。
『新規事業を考えるインターンシップ体験ワークショップ@QTnetgroup』
2024年8月29日、9月18日のインターンシップ体験ワークショップに参加される関係者は、以下の動画を視聴下さい。
事業チャンス(社会課題)の発見(約25分)
新規事業を考える際のヒントを社会課題からみつけます。本動画は、事業を取り巻く環境変化から将来のビジネスチャンスを発見する方法について説明しています。新規事業を考えるワークショップに参加する関係者は、動画のフレームを使って社会課題や事業環境の変化からビジネスチャンスを自分なりに整理した上で参加ください。
新規事業の基礎(約40分)
新規事業のアイデアの出し方、ビジネスモデルの考え方、計画立案の考え方を整理しています。インターンシップに参加する皆さんに取って、新規事業を創り出す力や考え方は、多くの企業から求められる能力です。今回の2日間の体験ワークショップで実際にどのように新規事業を生み出すかを考え、その流れを体験下さい。こちらの動画は、全体のイメージを持っていただくために視聴ください。
新規事業の旅128 先延ばし
2024年7月22日
早嶋です。(約2400字)
Procrastination. プロクラステイネーション(先延ばし)は、タスクや行動を遅らせ、先延ばしにする行為だ。ストレスや締め切りを逃す原因となる。生産性や健康に影響を及ぼすこともある。
一方で、プロクラステイネーション(先延ばし)には思考を熟成させる側面がある。適度な先延ばしは、アイデアを深め、新しい視点を見つけたりするための時間を提供する。
利点として、創造性の向上がある。時間をかけて熟考することで、より創造的で斬新なアイデアが生まれる場合がある。問題解決能力の向上もある。一旦タスクから離れて再び取り組むことで、異なる視点から問題を捉え、新たな解決策を見つけることがでる。ストレス軽減にもつながる。急いで取り組むよりも、じっくり時間をかけることでストレスを軽減し、冷静に対処できるようになるからだ。そして直感も活用できる。時間を置くことで直感が働きやすくなり、より良い判断ができるのだ。
そもそも、プロクラステイネーション(先延ばし)は多くの人が経験する現象だ。ということは、その背後にはいくつかの心理的および神経学的な要因があるはずだ。いくつか、先延ばしする主な理由を示してみる。
まずは感情的な理由だ。不安やおそれが考えられる。失敗への恐れや、タスクが困難だと感じることが先延ばしの原因になる。人はこのネガティブな感情から逃れるために、タスクを避けようとする。また完璧主義も邪魔をする。完璧に物事を行いたいという欲求が強いと、ミスを避けるためにタスクを先延ばしにすることがあるのだ。
動機づけの欠如もある。タスクがつまらない、興味がないと感じると、取り組むモチベーションが低くなり、先延ばしをするのだ。脳科学的には報酬の遅延などと呼ばれる。即座に報酬が得られないタスクに対しては、モチベーションが低くなり、先延ばしが起きやすくなるのだ。
自己制御の問題もある。短期的な快楽を求める衝動が強いと、長期的な目標よりも目先の楽しさを優先してしまい、先延ばしをしてしまう。自己効力感が低い場合もだ。自分がタスクを完了できるという自信がない場合、タスクに取り組む意欲が低下し、先延ばしに繋がるのだ。
脳の構造と機能も関係する。脳内の報酬システムが関与して、即座に得られる報酬を好む傾向があり、長期的な利益よりも短期的な満足を求めることが多い。これは前頭やの役割として近年研究されている。前頭前野は計画や意思決定、自己制御を担当しているが、この部分の機能が低下すると、先延ばしの傾向が強くなるのだ。
もちろん環境にも左右される。周囲の環境に気を散らすものが多いと、集中力が低下し、タスクを先延ばしにしやすくなる。更に、適切なサポートやフィードバックがないと、先延ばしの傾向も強くなる。
先延ばしは、悪のように見えるが、活用することで脳の創造性を活用できる。ポイントはバランスをとることだ。無計画な先延ばしは避け、あらかじめ計画を立てた上で適度に時間をかけるのが良い。例えば、期限の少し前に一度タスクから離れ、その後再度取り組む時間を確保するなどだ。そのためには、タスクに対して明確な期限を設けることだ。先延ばしが無期限に続くのを防ぐことができる。そして休憩のテクニックも必要だ。長時間集中するのではなく、適度に短い休憩を取る。すると思考をリフレッシュでき、アイデアを熟成させる時間を持つことができるようになる。更に、進捗の確認も有効だ。定期的に進捗状況を確認し、先延ばしが生産性に悪影響を与えていないかチェックするのだ。最後に、適度なプレッシャーを与える。ある程度のプレッシャーはモチベーションを高め、効率的にタスクを進める助けになる。自分に合ったレベルのプレッシャーを設定するのだポイントだ。
上記を踏まえて、先延ばしをいい感じに取り入れ克服するための方法論をまとめてみた。
まずは、タスクを小さなステップに分けること。大きなタスクは圧倒されることがあり、先延ばしの原因になる。そこでタスクを小さく分け、取り組みやすくする。
次に、具体的な目標を設定する。明確で達成可能な目標を期限付きで設定するのだ。これにより、緊急性と方向性が生まれる。もちろん、タスクの優先順位をつけるのがよい。予定表や優先順位マトリックスを使用して、最も重要なタスクから取り組みくむ。
そして、気を散らす要因を排除しよう。ソーシャルメディアや騒がしい環境、不必要な中断など、気を散らす要因を特定し、排除するのだ。職場は、強制的にこの手の環境要因を排除しているため集中力が持続するのも納得できるはずだ。そのために時間管理も大切だ。ポモドーロ・テクニック(集中して作業し、休憩を取る方法)などのテクニックを使用して、生産性を維持し、燃え尽きを防ぐのだ。職場や学校が時間を管理して休憩を与えるやり方は、ここから来ている。
これらを習慣化する。一貫したルーチンを確立することで、習慣を築き、先延ばしの傾向を減らす。一人でできない場合は、友人や家族、同僚と目標を共有し、彼らに進捗を確認してもらうことで責任感を持たせる。
報酬による管理も良い。タスクを完了した際に報酬を設定し、モチベーションを高め、達成感を与えるのだ。
もちろん、今回記述した根本的な原因を理解することも有効だ。なぜ先延ばしをするのかを考える。失敗の恐れ、完璧主義、興味の欠如などの原因を特定し、それに対処することだ。先延ばしをしてしまったとき、自分に対して優しく接してよい。先延ばしは誰にでもあることだと認識し、自己批判ではなく、前向きな変化に焦点を当てるのだ。
プロクラステイネーション(先延ばし)は必ずしも悪いことではなく、適度に取り入れることで思考の熟成や創造性の向上につながることがある。重要なのは、無計画な先延ばしを避け、計画的に取り入れることでバランスを保つことだ。
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新規事業の旅127 行動しないことの考察
2024年7月16日
早嶋です。(約2700文字)
“likability limited” この言葉だけでは読み取りにくいし、具体的な文脈を伴わないと理解が難しい。一般的には「限られた好感度」や「好感度の制限」という意味になるだろうか。例えば、人々が他者からの好感度を重視しすぎるあまり、本来の自分を出せない状況や、自分の意見や行動を敢えて制限してしまう場合などに使われる。
新規事業や新しい取組を行う際に、人の行動を抑制する理由は、自分の戦いがあると思う。多くの人が成功を目指して努力するよりも、失敗を恐れて行動を控えることを敢えて選択するのだ。アタマの中ではこのように考える。本当は、自分が行動していたら成功していたかもしれない。でも、実際は行動をしなかったから成功していないのだ。と。自尊心の塊である。が、そのような心理的な抑制が常に我々の行動をストップしているのだ。犯人は分かっている。恐怖と不安。完璧主義。自己効力感の低さ。そして社会的な圧力だ。
失敗に対する恐怖や不安が行動を抑制する要因となり、特に、失敗が自身の評価や他者からの評価に大きく影響する場合、リスクを避ける傾向が強くなる。自分が新規事業の部隊に入り、失敗があたり前と理解してもだ。無理もない、それまでは既存の事業で失敗を殆ど体験していない。むしろ、成功したと勘違いして仕事をしているからだ。既存の仕事の成功は、過去の諸先輩方が作り上げたベースの上にあることをもっと理解すべきなのだ。
何事も100点を取らなければ気がすまない人は、残念ながら向かないかもしれない。そもそも新しいエリアに100点が存在しないのだ。領域や概念がまだ完成されていない。何を持って100点にするかすらわからないのだ。しかし完璧主義の人々は、完璧な結果を出すことに固執するあまり、失敗の可能性を避けるのだ。完璧が存在しないのに、完璧に至らない結果を恐れて行動しない。もう、禅問答バリバリの行動ではないか。リスクを伴う行動を控える。考えてみると、アタマがちょいと良すぎるのかもしれない。
もちろん過信してはいけないが、自分の能力を信頼しないのもいけない。一定の自己効力感は必要だ。はじめての取組だから、誰だって始めから上手くはいかない。取り組む過程で時間はかかるがコツを掴むことができるかもしれない。だから行動してみよう。と考えて取り組むべきなのだ。が、実際は、自分の能力に対する信頼が低いがあまり、成功するための努力をするよりも、失敗のリスクを避けることを選ぶのだ。
とは言え、社会的な圧力は存在する。そもそも新規事業と言いながら一定のノルマがある。それが売上や利益に対して紐づくこともある。既存の事業と異なるので、評価の方法は異なると言いながら、実際は既存の評価と同じ物差しで計られる。アタマが良い人は新規をやれない。新規のリスクがあり、既存の同じ物差しで評価されたらネガティブになる可能性が高いことはすぐわかる。既存のように四半期ごとで評価されたら大きな挑戦はできないのだ。これは明らかに社会的な圧力だ。他者からの期待や評価を重視する文化や環境では、失敗することが恥とされることが多く、これが行動を制限する要因となるのだ。
この4つの犯人、すなわち、恐怖と不安、完璧主義、自己効力感の低さ、そして社会的な圧力から回避し、逆に成功するためにリスクを取ることや失敗から学ぶことが不可欠であり、これを理解し、克服することが重要なのだ。そのための手法も明らかにされている。小さな目標設定、失敗から学ぶ、自己効力感を向上させ、他者のサポートを構築するのだ。
いきなり大きな目標を設定する代わりに、達成可能な小さな目標を設定し、一歩一歩前進するのだ。人の心は慣性の法則と同じだ。止まっている物体を動かすエネルギーは莫大だ。そこで少しづつ勢いをつけるのだ。そして徐々に取り組むことで、逆に止められなくなるのだ。
失敗は成功のもとなのだ。偉大なバカボンのパパが言っている。失敗を避けるのではなく、失敗から学び、改善することを目指すのだ。テストの点数をばかりに目を向けてはいけない。自分が間違った傾向やポイントを理解して、その次に活かす活動を繰り返すことが大切だ。
当然に、このことを行うためには、一定の自己効力感を高めることが大切だ。お前はだめだ!なんでできないのだ!できるまでご飯を抜きますよ!すべて最低のフィードバックだ。このような逆境から立ち上がる人物はごくわずかだろう。人は一定の安全な環境が必要なのだ。その中で自分の効力感を育み育て高めることができる。
そのためには、第三者のサポートが不可欠になるのだ。失敗に対してもタイミング良くフィードバックを与え、それらから学びが得られる環境を与えてあげるのだ。
失敗を恐れるあまりに行動しない。かなり研究された分野だった。専門用語に”Atychiphobia”がある。失敗に対する強い恐怖を指し、この恐怖が原因で行動を控え、リスクを避けたりする状態を指す。また、ビジネスや心理学の文脈では、”procrastination”や”avoidance behavior”も関連する用語として使用される。”Atychiphobia”は失敗に対する極端な恐怖を指す心理学的用語で、行動や決定を先延ばしにしたり、回避したりする原因となる。”Procrastination”はやるべきことを後回しにする行動を指す。”Avoidance Behavior”は不安や恐怖を引き起こす状況や課題を避ける行動を指す。
なんだ、誰もが同じ心を持っており、誰もが恐怖を持っているのだ。そうかそうか。と捉えて、小さく始めるのが吉なのだ。知識は人をアタマでっかちにする場合もある。しかし、この手の学びや考察は知ることによって、行動がしやすくなる場合もあるのだ。
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新規事業の旅126 toleranceと遊び
2024年7月15日
早嶋です。(※約5100文字)
英語の表現に、”tolerance”がある。許容範囲や寛容さ、忍耐などを指す言葉だ。文脈により異なる意味を持つ。一般的な使い方について調べた。技術的な意味合い、社会的な意味合い、心理学的な意味合いがありおもしろい。
(技術的な意味合い)
製造や工学では、部品の寸法の許容誤差を指す。例えば、設計図には部品の寸法とともにその寸法がどれだけ誤差を許容するかが記載される。この許容範囲がトレランスだ。好きなアーティストにイサムノグチがいる。彼が35年間生み出し続けた竹の照明、AKARIがある。実に200種類以上のラインナップだ。現在、彼の商品は製造中止になっている。人気があり要望が多いのになぜと思う。彼のAKARIを再現する際の竹の品質、節の大きさや位置の指定。これらが設計の中に事細かく記載されているという。トレランスが小さく再現が難しいのだ。
技術の世界では、熟練する過程で、このトレランスが小さくなる場合がある。熟練した職人や技術者は、経験を積むことで作業精度が向上し、設計図通りに製品を製造する能力が高まる。彼らは、微細な調整や感覚を駆使して高精度な作業を行うことがでるようになる。ただ、この進化は諸刃の剣で、職人がいなくなれば、同じような仕様の商品が作れなくなるの。イサムノグチのAKARIでおきているの現象だ。
もちろん、CNC(コンピュータ数値制御)機械やロボットアームなどの進化により、機械加工の精度が飛躍的に向上している。これにより、設計図通りの精密な製品を一貫して製造することができるようになる。高度な測定技術や機器(例えば、三次元測定機やレーザー測定機)の導入により、製品の精度を正確に測定し、トレランスを厳密に管理することが可能になったのは事実だ。これが進めば、コピペが大量にできるようになる。でも面白いのは、コピペで作れば作るほど、1つあたりの価値が下がることだ。
熟練工は、長い時間の中で、自分たちが行う工程に工夫を凝らしてきた。現在の技術では統計的にプロセス制御を行う。製造プロセスにおいて統計的手法を用いて品質を管理することで、ばらつきを減らし、トレランスを小さくするのだ。有名なのはトヨタの生産方式だ。リーン生産方式は、無駄を排除し、効率を高める生産方式で、プロセスのばらつきを減らし、高精度な製品を製造することができる。
当然、複合的な要素もある。素材の向上だ。材料の品質が向上することで、製品の寸法安定性や加工精度が向上し、トレランスを小さくすることができる。ただ、ここは同じ商品を製造する関係者が、完成形を認識して、図面の中身を熟知する等が必要なので、上段でコメントしたことが効いて出来上がった結果だ。
同じ技術の世界でも、製造工学と薬理学では異なる。薬理学では、薬やアルコールの物質に対する身体の耐性を指す。使用者が同じ効果を得るために徐々に多くの量を必要とする状態だ。薬物に対するトレランス(耐性)が増加する理由は、身体が薬物に順応し、同じ効果を得るためにより多くの薬物が必要になるためだ。これは主に次のようなメカニズムがある。
薬物新陳代謝だ。長期間の薬物使用により、薬物を代謝する肝臓酵素が増加する。これにより、薬物が体内でより迅速に分解されるため、効果が減少し、より高い用量が必要になる。また、長期間の薬物使用で、神経細胞の受容体の数が減少する。業界では、ダウンレギュレーションと呼ばれ、これにより、同じ量の薬物では受容体に十分に結合できず、効果が減少するのだ。更に、脱感作という概念も説明される。受容体が薬物に対して敏感でなくなる現象だ。これにより、同じ量の薬物でも効果が薄れ、より多くの薬物を必要とするのだ。
他には、長期間の薬物使用により、神経伝達物質の放出や再吸収のメカニズムが変化する。例えば、薬物が神経伝達物質の過剰な放出を引き起こす場合、体はそれに対抗して神経伝達物質の合成や放出を減少させる。このため、同じ効果を得るためにより多くの薬物が必要になるというわけだ。後は、体が薬物の効果に慣れることで、行動的な適応が起こる。例えば、鎮痛剤の使用者が薬の効果に慣れると、痛みを感じにくくなる代わりに、薬物の用量を増やさなければならないことがある。最後に、1つの薬物に対する耐性が、同じカテゴリーの他の薬物に対しても耐性を引き起こすことがある。例えば、アルコールに対する耐性がある人は、他の鎮静剤や睡眠薬に対しても耐性を示すのだ。
技術的なトレランスは、熟練するとともに小さくなる。多くの要因が相互に作用した結果だ。熟練工の技術向上、機械と測定機器の進化、プロセスの改善、材料の品質向上、デジタル製造技術の発展などが、全てトレランスの縮小に寄与する。一方で、薬物に対してのトレランスは増加するのが面白い。身体が薬物の影響に適応するための生理学的および生化学的な変化が関与しているからだ。これにより、同じ効果を得るために薬物の用量を増やさなければならない皮肉がある。場合によっては、薬物乱用や依存症のリスクを増加させる。非常に興味深いのだ。
(心理的な意味合い)
心理的な意味合いでは、ストレスフルな状況や困難に対する耐性を指す。高いトレランスを持つ人は、ストレスに対してより適応的に対処することができる。心理的な側面でのトレランスはいくつかの視点がある。
大枠ではストレス耐性だ。個人がストレスフルな状況や逆境にどれだけうまく対処できるかを示す。高いストレス耐性を持つ人は、プレッシャーや困難な状況でも冷静に対応し、効果的な解決策を見つける能力がある。ストレス耐性は、心理的トレーニングやストレス管理技術を通じて向上させることができると言われる。
ストレスの中身を細分化すると、情緒的なストレスがある。強い感情や不快な感情に対する耐性だ。例えば、怒りや悲しみ、恐怖などの強い感情を感じたとき、それらを適切に認識し、コントロールし、破壊的な行動に走らずに対処する能力だ。情緒的トレランスは、自己認識や感情調整のスキルを通じて強化する。
未来に対する不確実性や予測不可能な状況に対して耐性を持つ不確実性を指すこともある。高い不確実性トレランスを持つ人は、変化や未知の状況に柔軟に適応し、不安や恐れを感じずに前向きに対処することができる。
目標と現状のギャップに対してのストレスもある。フラストレーションとする。目標達成に対する障害や失敗に対してどれだけ耐性があるかを示し、高いフラストレーショントレランスを持つ人は、失敗や困難に直面しても諦めずに努力を続けることがでる。
(社会的な意味合い)
社会的な意味合いでのトレランスは、他者の意見、行動、信条などを尊重し、受け入れる能力を指す。多様性のある社会ではトレランスが重要とされる。心理的なトレランスと社会的なトレランスは似たような概念にも聞こえるが、異なる。心理的なトレランスは、個人の内面的な耐性にフォーカスする。ストレス。つまり、感情、不確実性、フラストレーションなどに対する個人の対応力や耐性だ。一方で、社会的なトレランスは、他者や社会に対する寛容さにフォーカスする。他人の意見、信念、行動、文化、背景などを尊重し、受け入れる能力だ。
他人の意見を尊重するトレランス。他人が自分とは異なる意見を持つことを理解し、その発言の自由を尊重する。例えば、政治的な意見や社会問題に対する見解が異なる場合でも、その人の意見を尊重し、対話を通じて理解しようとする姿勢でだ。傾聴が得意な人は、自然とこのトレランスの許容が高くなると思う。他人の意見をしっかりと聴き、理解しようとする姿勢が求められるからだ。相手の話を遮らず、先入観を持たずに耳を傾ける。書くのは簡単で実践するのは一生かかる技術だ。
他者の信念を尊重するトレランス。他人が持つ宗教や信仰を尊重し、その信仰を受け入れる。異なる宗教を持つ人々が共存し、互いの信仰を尊重し合う社会だ。過去、縄文時代の日本社会はこのような文化の中、様々な価値観や文化や信仰を受け入れてきた。日本の神道のベースとなる信仰は、太陽信仰からはじまり、自然の畏怖を恐れ感謝し、受け入れた。自然とアニミズムが浸透して、結果的に多神教的な発想になったのだ。
ライフスタイルを尊重する考えもある。他人が選択するライフスタイルを受け入れることだ。結婚や子育て、キャリアの選択など、個人の生き方に対する尊重だ。ポイントは、法や倫理に反しない限り、他人の行動の自由を尊重し、干渉しないことだ。一方的に法を根拠にライフスタイルを尊重する輩は嫌いだ。重要なのはモラルで他者に迷惑をかけない範囲で自信のライフスタイルを尊重すると自然に周りに対しても、周りからも寛容にされると思うのだ。
異なる文化や習慣を持つ人々が共存する社会では、互いの文化を尊重し、学び合う姿勢もあってよい。異文化交流や多文化教育の推進は理にかなっている。他人の文化や伝統を理解し、それに対する敬意を持つことで、はじめて共存がスタートされる。自分が正しいと捉えるのではなく、それぞれが正しい。そのため、それぞれの視点や考える背景に理解や興味を示すことが大切だ。経済的な状況や社会的な地位に関わらず、すべての人を平等に扱い、その背景を理解する姿勢だ。これには異なる教育や家庭環境を持つ人々の背景を尊重し、理解しようとする行動も含まれる。
社会的なトレランスは、異なる意見、信念、行動、文化、背景を持つ人々を尊重し、受け入れる能力だ。多様な社会の中で互いに理解し、平和に共存することが可能になり、そのために、個々人が意識して他人の違いを尊重し、理解しようとする努力が求められるのだ。
(考察)
心理的トレランスと社会的トレランスには共通して寛容さを含む。心理的なトレランスは個人の内面的な寛容さを指し、社会的なトレランスは他者に対する寛容さを指す。そして、どちらも困難や違いに対する対応力を強調する。心理的なトレランスは個人的な困難に対する対応力を、社会的なトレランスは他者の違いに対する対応力を示す。
逆に異なる部分もある。心理的なトレランスは主に個人の内面的な問題や困難に対するものであり、社会的なトレランスは他人や社会に対する態度や行動に関わる。心理的なトレランスはストレス管理、感情調整、適応力などのスキルに依存し、社会的なトレランスはコミュニケーション、共感、多様性の理解などのスキルに依存する。
技術的なトレランスは、デジタルのように、完全に一致しなければ完成しないし、価値を生まない。アナログの良さは、そのトレランスの許容があるがゆえに、なんとなく相互依存している関係があるのではないか。人は元来、すべてを受け入れながらも、自分の領域を一定確保して均衡を図ろうとしているのではないだろうか。薬理学でみたように、徐々に受け入れの許容を増やしてしまう能力を持っている(薬の場合は、これがネガティブに働くことも多いが)。
0と1などの記号で定義される世界。すべてをアルゴリズムで規定され、完全に再現される世界。それよりも、元来自然を崇拝して、困難があるからこそのたまの幸せ等に価値をおきてきたアナログの世界が人の生きるべき方向ではないか。
兼ねてから、「あそび」という言葉が好きだ。トレランスの概念を日本語で表すに相応しいと思う言葉だ。ニュアンスとしては、余裕、許容、余白などを含む。技術的な文脈では、部品の寸法や仕様に対して多少の誤差を許容する余地があそびだ。あそびがあることで、現調でトラブルが生じても臨機応変に対応できるのだ。
機械的な文脈では、部品同士の接合部や可動部分において、動きやすさを確保するために設けられるわずかな隙間や緩みを指す。デジタルにあそばはないが、機械の動作を滑らかにするために必要な微小なスペースがあそびだ。あそびをもたせた機械の動きは非常に美しいと思い、時計を作ってみたい動機が生まれた。
一般的な文脈では、ある基準や範囲内で許される変動や誤差を指す。技術的な仕様や品質管理において、設計図や標準に対してどれだけの誤差が受け入れられるかを示す。スケジュールや計画にもあそびをもたせる。計画通りいってほしいが、なにか発生することを前提にする概念だ。ゆったりとしてよいでは無いか。
”tolerance”の翻訳がすっとはいらない理由が分かった。文脈に応じて適切な言葉や概念が逆点することもあるからだ。が、それらをあそびとすることで、私は一定の理解を得たと思う。
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新規事業の旅125 高尚なパーパスの落とし穴
2024年7月13日
早嶋です。
スタートアップでも既存事業でも、優秀な人材、特に若手人材を欲しいところだろう。そのような企業は高尚過ぎるぐらいのパーパスを設定しているが、結論から言えば、優秀な若手には響かないのだ。
For start-up seeking talent, a lofty purpose can backfire; by Murat Tarakci によると、応募者はバリューフィットよりも自信のキャリアアップのチャンスに重きを置いているのだ。新規事業周りの採用やスタートアップ周りの人事と仕事をしている中での肌感覚とも合致する。
「世界をより良い場所にしたい!」「●●な社会課題を解決する!」と言っても実際のスタートアップや新規事業の現場は超過酷だ。カオスだ。大変だ。市場や技術が不確実な中、かなり長い時間働く。それでも仕事をしたい人の理由は、あり得ない見返りか、そこで得られる自信の成長だ。綺麗事としてはバリューフィットと言いたいところだが、現実はやっぱり想像通りなのだ。
端的な話、スタートアップや新規事業での募集の際に、社会的な指名をあまりにも強調すると、候補者からは成長が遅く、しばらく成功する可能性が限られているな。と判断されるのだ。当然に、キャリアの機会や迅速な経済リターンを求める求職者からすると魅力が半減する。また、社会の訴求をためすぎると、個人の動機や欲求を脇に置くような企業と認識される可能性もあるのだ。
もちろん既存のキャッシュカウの事業を行っている企業はビジョンを謳うことはプラスだ。既に多くの従業員が働き、既に認知がある。一定の働きがいがある企業と捉えられ、一定の余裕があり、競争力や福利厚生が充実しているという印象を与えることだろう。
この論文は、事業会社が新規事業の人材に特化した場合に朗報だ。給与と成長機会をベースに、人材を探すというシンプルなルールが見えてくるからだ。
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