新規事業の旅139 やり抜けない人材排出の背景と打ち手
2024年9月13日
早嶋です。8,000字です。
スタートアップ界隈では、グリッドややり抜く力、簡単な言葉では行動力や実行力が必要とされている。当たり前の取組なのに、何故にここまで企業で必要とさるのだろう。複数の視点から掘下げたいと思う。アナログとデジタル、日本における過度な平等主義、地理的影響と経済規模が及ぼす影響等から、挑戦しない人々を増産する日本があるのでは無いかと思う。
(アナログとデジタル)
アナログの特徴は、何かを習得するためにも膨大な時間と労力がかかり、全体像を把握するのが難しい。試行錯誤を繰り返し、手作業で何度も修正することで成果に到達する過程が重要視される。そう、下積みや忍耐が成果の基盤となる特徴があるのだ。一方で、デジタル技術は、アナログのデメリットを補い、時に破壊する。失敗した場合はリセットすると基に戻る。良いものがあればコピペが可能。時間が足りなくなれば、途中保存ができ、時差をおいて、そこから継続が可能だ。既存の仕組みをコピペして、更に改善できる。アナログでも同様の取り組みは可能だが、一定の時間と労力がかかった。デジタルはそれと比較して、圧倒的に手間暇がかからない。開発や成長が劇的に早なるのだ。効率的かつ迅速に成果を得れるのが特徴だ。
夏の終わり。小学生の夏休み自由研究展を見に行った。毎日、気温をつけて何処かの定点観測をする。その結果をパワポで作成してデジタルデータとして提出する。デジタルで行えば、場所と日時を指定すると過去の気温や天気データはすぐに手に入り、それらを表形式にまとめて印刷すれば出来上がる。全国にある小学校の中で同じ名前や地名の小学校を調べて、一覧にした研究があった。全てnetで情報を検索して、写真も現地ではなく、net上の写真を借用している。アイデアがあれば、作成の時間はかからない。
大局的に、毎日、アナログの気温計を見て計測している作品もあった。アナログの温度計を定点に置き写真を取る。毎日の天気の推移を朝、昼、夕に記録して写真と共に、毎日の気づきをコメントしている。そして、それらの結果を模造紙いっぱいにまとめた作品だ。他にも、全国の県庁所在地を調べて夏休みが始まった頃から終わりの時期までに、全てを実際に回り、県庁所在地のスタンプを押した作品があった。考察等はなかったが、手間と暇と金がかかった作品に見入った。概念的には同じ取り組みだが、デジタルの取り組みとアナログの取り組みで取り組みと学びのアウトプットが大きく異なる。
(過度な平等主義)
日本社会では、過度な平等主義が強調され、努力やスキルの違いに関わらず、全員に同じ機会や結果を与える傾向が強まっている。結果、成果よりも公平さが優先される文化が形成され、挑戦や努力を避ける風潮が生まれている。
現在の小学生の日常は、そこら辺の大人よりも忙しいかもしれない。習い事のオンパレードで学校から帰って「ぼーっ」とする時間がない。しかし、その習い事をみてみると、何のために行っているのかが意味不明な取組が多い。大人の満足、親の自己満足の結果ではないかと思う。スポーツではサッカーやバスケが人気だ。昔は子どもの習い事は親の関与があって成立していたのもある。いまのは、親は何もしないで良いクラブが人気だ。練習も優しく、誰でも参加できる。そこに属する限り、厳しいことも、嫌なことも言われない。指導者は専門の教育を受けていて、スポーツ心理学等に精通するも、親の満足を得ることに重きをおいた事業モデルだ。見た目は、子どもの底力を伸ばすと言っているが、努力と苦しさを伴わないスポーツと勝敗にこだわらない試合から何が得られるのか疑問が残る。そして、子供が取り組んでいる姿を親が見ていない。子供は何が嬉しいのだろうか。
私の子供達はソフトボールにはまっている。軟なクラブでは無いが、自治体のボランティアが軸となるので、練習は土日のどちらかに週に1回程度しかない。それでも勝つ楽しさ、練習して成長する実感を得ている。長男は4年生の終わり頃から、次男は2年生から。チームは人数は少ないが、それでも時々、近くのリーグに参加して20点以上も点差をつけられ負ける日々を経験してきた。始めはキャッチボールもままならない状態が、やがて相手のヒットを捕球して、1塁ベースに投げてアウトを取れるようになる。フライも取れずにランニングホームランになっていた時期も沢山あった。攻撃から守備になると相手バッターは1巡も2巡もして、長い辛い時間が続いた。5年生と3年生になる頃には、対戦相手に勝つことは少なくても、少ない点差での負け。そして、バッティングも守備も一応ソフトボールの体を成す状態まで上達する。時々ナイスプレーが出て、勇気をもらう。練習がない日は、兄弟で試行錯誤してソフトボールを楽しんでいる。今、6年生と4年生だが、遠方のリーグ戦に招待で呼ばれ、準優勝まで勝ち進むようになった。当たり前の練習を繰り返し、練習試合や試合で実際の経験を積みながら失敗を繰り返す。勝ち負けにこだわることで、負けたときの悔しさを次の練習や試合に活かすための取組を考えて行動する。ルールを理解しながら、ミスが出た場合のフォローを互いに行い、声を掛けを合いチームで守りチームで攻める。勇んでバットを全力で空振りし、果敢に飛び込んでエラーした経験が全て身になっているのだ。
練習に参加して、下手でも試合中に道具を整理し、声を出してチームを激する。そのような子供は、必ず試合に出れる。しかし、入って間もない子供や練習に参加しない子供は上手でも試合に出されることはない。これは平等ではなく公平だ。誰でも条件無しにスタート地点に立てる世界は無い。能力の得て増えて。親や何らかの金銭の有無。社会的な地位の有無。様々な障害があってスタートする。いきなり楽する世界はない。全ては地道な意味が無いと思いがちな行動の積み重ねで、その行動と蓄積が後で開花し糧になるのだ。
(ソーシャルメディアの成功と誤解)
世界人口の多くの方々が、WebやSNSにリーチできるようになる。世界中に成功する人々の話が毎日話題にのぼる。SNSでは成功体験や結果だけが強調され、若者は「短期間で簡単に成功できる」と誤解しやすくなっている。デジタルの世界は、途中を早送りして、結果をみて全てを分かったつもりになる。本当に理解し、習得した取組を何かに応用するには、途中の泥臭い試行錯誤の連続に意味があることの体感が得られない。SNSやデジタル情報は、努力やプロセスが見えにくいため、長期的な取り組みや挑戦に対する意欲が低下し、結果ばかりを追い求める風潮が助長されているのではないか。
マラソンを始めた頃。10キロどころか、数百メートル走っただけで、喉が血の味になり息ができなかった。足は重たくすぐに筋肉痛だった。そこでまずは毎日運動する、あるいは動くということから始めた。大学までバスケをしていたが、仕事をしはじめて10年も立てばいいおじちゃんになっている。昔を過信するのは辞め、ゼロから基礎を作るときめた。普段運動をしない成人男性が急激にトレーニングをすると動きに筋肉が追いつかずに、諸々のパーツが破損して怪我する。地味に毎日30分動く。2週間頃から、動く時間を60分に増やす。そして1ヶ月。ようやくカラダが運動するベースになってきて、60分の毎日の運動の中に軽いジョギングを取り入れる。それでも通して走らない。また1ヶ月続ける。その頃から、足やカラダの筋肉が運動できる基盤ができはじめる。そこから軽いジョギングやダッシュを取り入れる。始めは10キロのレースに出て、次にハーフ。そしてフルを完走する。カラダができてきたら定期的にフルに参加して、年に1度のペースでウルトラにも参加できるようになる。走っている瞬間を切り抜くと簡単なようだが、毎日のトレーニングをサボるとすぐに、ペースが落ち、筋力が落ち、取り戻すのに10倍くらいの時間が必要になるスポーツだ。
SNSでブームになると、すぐにできると思ってしまう。悪いことではない。コロナがあけてマラソンブームは終息しつつあるが、その前はすごかった。明らかに練習していない個々人や団体がこぞって大会に参加して、リタイアの繰り返し。途中リタイアは大会関係者に途方もない迷惑をかける。特にウルトラやトレイルのようにコースに用意にアクセスできない場所でのリタイアは危ない。SNSをみて、練習もしないで自分が走れると思うのだろう。試し食いして、やっぱり辞めたと、何か別の取組を始める。このような人たちを一定数観察することが増えたと思う。
(グローバル化と地理的条件)
フィンランド、スイス、韓国、台湾のような小規模な国々は、国内市場が限られている。そのため、国際市場への進出が生存と成長のために不可欠だった。また、これらの国々は技術革新や輸出に力を入れ、グローバルな競争力を高めてきた。一方で、日本は大きな国内市場を持ち、内需だけで一定の経済成長が可能だったため、外部との競争や国際化に対する動機が他国ほど強くなかった。これが、日本の競争意識や挑戦意欲の低下につながった可能性がある。フィンランドや韓国の国際化戦略と、日本のガラパゴス化の対比は諸々比較されうるとおりだ。
更に、日本の地理的条件が競争意識の低さに影響していると考える。日本は島国で、海で囲まれている。他国からの直接的な脅威や侵攻を受けるリスクが比較的少なく、歴史的にも内向きな発展が可能だった。この安全性が、外部との競争を避ける意識を強化してきた可能性がある。縄文弥生にかけて多くの渡来人が日本に来たことが分かっているが互いに喧嘩することなく日本人として交わり温和に暮らした文化を持つのだ。一方で、北欧や欧州の国々は、地理的に隣接し合っているため、常に他国との競争にさらされている。特にEU加盟国間では、協力と競争が共存し、外部とだけでなく、内部での競争も強く意識さざるを得ない。
普段、国内で生活をしていると海外を感じることは少ない。コロナ前頃から国が観光に力を入れてインバウンドを連呼し、都市部や観光エリアには一定の外国人がいるが田舎にはまばらだった。それが、人手不足になり外国労働者が日本で安住の地を求め様々なインフラの仕事を手伝って頂けるようになった。しかしここ数年の日本の国力ダウンと、日本語という障壁の高さから、そのような方々もドイツやフランスなど英語が通じる国にシフトしている。定期的に海外に行き、物価の違いを観察するがコロナ後は加速した。日本は給与は安いと言われるが、安全面、人的資源の教育やモラル等を鑑みて、多くの教育コストや安全コストが不要なため、高い品質で商品を提供できる面もある。それが日本クオリティであることを理解している人はかなり少ない。日本以外の条件や立地、実際の商品レベルを比較することがないからだ。つまりは、国内で仕事をしているだけで一定の経済を保てることができているからなのだ。
(マイノリティへの迎合)
近年、組織内での心理的安全性を確保することが強調されている。自由な空間で知的な仕事をするためにはとても大切な取組だ。しかし、言葉や概念が取り違えられている。失敗やリスクを避ける文化にフォーカスされ、挑戦や新たな取り組みに消極的な傾向を強めているのだ。小学校のリレーは、勝敗がつきにくいような工夫をしている。みんなでゴールして、みんな1位のような体験に美徳をおいている。熱中症のリスクが高まり、小学生は当たり前に学校に水筒を持っていく。給水器やミネラルウォーターを完備する私立も沢山ある。でも、日本の水道水は品質が高くて飲んでも問題ないのだ。ちょっと怪我をすると、すぐに責め立てる親がいる。学校の先生の威厳が下がり、一部の声の強い親の意見が正当化される。
観光地や生活エリアの中で、危ない場所が少しでもあれば、バリケードが張られ、パイロンを立てまくり、壁面はコンクリートで固める。自然の調和など無視して、アスファルト天国とコンクリート天国を作りまくるので、水の逃げ道がなくなり都市部では雨が降るたたびに水浸しを作っている。
危ないところで危ないことをすると怪我をする。当たり前だ。台風が来ている時に、外に出て傘をさすと風で飛ばされる。自分の住んでいるエリアが危ないのかどうなのか。不動産を買う際や、賃貸をする際に、自分の判断で選んでいるはずだ。なのに、政府や自治体の対応が悪いと言い、役人はその声に従う。
住宅地の公園でボール遊びをして、子供がはしゃぐと、近くの老人が文句をいう。「先に公園があり、後で住宅ができているでしょう?」「あなたが同じ年の頃、同じように遊んだでしょう?」記憶が無いのを言いことに、老害に目を向け、将来の子どもの可能性を潰す策に走る。
長いものに巻かれ、声の大きい人に従い、勝手に空気を読んで、行きにくい世界を作る。その中で出来た環境は心理的な安全性とは程遠い。
(変わらぬ教育制度)
日本の教育制度は10年ごとに見直しが行われているものの、戦後の基本的な枠組みが大きく変わっていない。基本は、詰め込み型の知識重視やテスト中心の評価システムに依存し、個々の創造性や批判的思考を育てる面では不十分だ。テストや試験で結果を重視し、プロセスよりも結果だけを評価する傾向。若者は結果だけを重視し、過程や努力が軽視される傾向をインプットされるのだ。社会に出ても同様の文化が続くことで、長期的な取り組みが敬遠されるようになるのだ。
ギブアップ症候群と誰かが名付けた。すぐに辞めるのだ。デジタルの即時性に慣れている若者は、長期的な目標に対しての忍耐力が不足している。目標達成までのプロセスが長いと感じた瞬間に諦めてしまうのだ。挑戦する以前に、そのプロセスを少しでも感じた瞬間に一歩目を踏み出さないのだ。日本は豊かで、外部との競争が少なかった。国内市場での成功だけで生活が成り立っていた。英語苦手意識が影響し、国際的な情報やトレンドにアクセスする機会が限られた結果、日本独自の文化やビジネス慣行が形成され、ガラパゴス化した。地理的・経済的に守られた空間として機能し、外に出なくても生活できる社会が長く続いた。過度な平等主義が広がることで、努力や挑戦をせずとも生活が成り立つ社会が形成され、挑戦意欲や競争力が低下した。30年。
(得意な分野と成長の一手)
アナログからデジタルへの移行、日本における過度な平等主義、グローバル化の影響、教育制度、ソーシャルメディアなどの多様な要因が組み合わさり、若い世代において「挑戦しなくても良い」という風潮が強まっている。日本の地理的・文化的背景が、外部との競争を避けつつも、経済的には一定の成功を収めてきたことで、さらに挑戦意欲が低下している。これらの要因が現代日本社会における挑戦不足の一因となっていると考えられる。
一方で、マイノリティ分野では日本人、特に若者の活躍が著しい。サッカー、野球、バスケットボール、テニス、ゴルフ、卓球、バトミントン、スケボー、ブレイキングダウン等々。皆が顔と名前をすぐに上げられる選手のオンパレードだ。建築や現代アートの世界も、料理やスイーツの世界でも著名な方々が次々に誕生し世の中にインパクトを与えている。アニメや漫画の世界だけではなく、様々な分野で世界レベルで活躍する若者も増えているのだ。
何が因果かわからないが、文科省が絡んでカリキュラムを作り、それを標準化し義務教育で提供した瞬間から得意な成果が出せない人材になるのではないかと思う(ただし、国民のレベルを平均に底上げする取組に関して文科省は大いに成果を出している)。スポーツや芸術などの、クリエイティブの領域では、ラッキーなことに関与が薄い。ゲームやアニメ、料理に至っても同じだ。これらを加味したら、いくつかの打ち手が見えて来る。
まずは、管理からの開放だ。能力の開発は自由の中から生まれるのではないか。という大胆な取組はどうだろうか。文部科学省が管理する教育制度から独立するのだ。私学でも、独学でも、吉田松陰の私塾でも良い。伸ばしたい分野があれば、より自由な環境で子供や若者の情熱を追求させるのだ。そこには他からの強制ではなく、自己主導的な学びや挑戦の場になる。ベンチマークは地域一番ではなく、常に世界のトップレベルをみていく。他者との競争や創造性をも自ら発揮することが可能な領域ができる。個人の才能や努力が伸びやすくなると思う。柔軟かつ個別化されたアプローチが、若者の成長に必要な要素だと思うのだ。
突出する人材を育てるのであれば実力と結果に重きを置くのだ。スポーツや芸術の世界では、なんだかんだ言っても結果が全てだ。そこには実力主義が厳しく適用される。これらの分野は、過度な平等主義よりも、個々の能力が重視されるため、挑戦や努力の価値が明確に評価される環境が整う。一定の分野で秀でた能力を開花させたいのであれば個人の能力や努力が正当に評価される仕組みを取り入れることも考えて良い。挑戦意欲を喚起できる可能性がある。
頂点の視点と柔軟な思考も鍵だと思う。日本人が活躍している分野はどれも世界レベルだ。だとすると、グローバルな競争が前提となる。若者が早い段階から国際的な視点を持ち取り組んでいるのだ。地域の大会で優勝とか眼中にはない。小さなステップとしては大切だが、早い時期からグローバルの環境に身を置き、そこで戦うこと切磋琢磨することを当たり前にするのだ。もちろん道具として、言語や文化の壁を越える力が必要になる。机上や本で学ぶ知識と違って、現場で実践することで役立つ技能になる。特にデジタル時代では、オンラインを通じて世界中に発信することも、世界中とやり取りすることも可能だ。柔軟な教育をカリキュラムで提供するのではなく、柔軟な仕組みを始めから取り入れることだ。
そして最後に、子供が将来を作る。若者が将来の鍵だというのであれば、徹底的に個別のキャリア形成と自由な環境を設計し提供すべきだと思う。1年生のカリキュラムはこれ、これは習っていないからばつなどの発想は終わっている。能力を始めから潰しているようなものだ。もちろん、人間関係や道徳心などの一定の知識に対しては横並びは良いと思うが、突出させたい分については、フルオーダーで組んでしまう。音楽やアート、アニメ、スポーツなどの分野は、固定されたキャリアパスがない。個々人が自分で道を切り開くことが求められる。この自由度の高い環境は、自己表現の場として非常に魅力的で、若者に挑戦の機会を与えていく。その鍵は個別対応なのだ。
なんだかんだ言ったが、日本の教育は全体的に平均的な成果をあげている。そして、個別には世界レベルで活躍する若者を多数輩出している。モラルの高さや品格、礼儀正しさは、This is 日本というべき世界に誇るべき特徴だ。このバランスが、日本の教育システムの一つの成功例だとすると、もっと出る釘が打たれないような、非迎合的な思想と実践のインストールを助長すべきだと思う。
全てにおいて道徳や社会的規範の教育は更に力を入れる。どんなに秀でていても常に上がいると謙虚に考えひたむきに努力する。この背景は、礼儀正しさや高いモラルであり、グローバルな舞台でも好意的に受け入れられる要因となっている。平均的な部分を維持しつつも、特定の分野においては教育制度含めてゼロベースで見直し、そこは個別にキャリアを構築する機会と支援を与えることが次の10年移行を開発する一助になるのではないかと思う。
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新規事業の旅138 LLCとKK
2024年9月9日
早嶋です。
合同会社(LLC: Limited Liability Company)は、日本の会社法に基づいて設立される法人形態の一つだ。比較的新しい形式の会社になる。LLCは、アメリカのLLC(Limited Liability Company)をモデルにしているが、日本の仕組みに適応されている。
LLCは有限責任で、出資者(社員)は、出資した範囲内でのみ責任を負う。つまり、会社の責務に対して個人の財産が差し押さえられることはない。またLLCの特徴として、株式会社と比較すると運営の自由度が高いとされる。社員間で合意すれば柔軟な経営が可能なのだ。出資比率に関係なく利益配分を決めたり、業務執行権を特定の社員に集中させるなどだ。税制面では、法人税が課せられる。米国のように個人の所得税として課税されるパススルー課税ではなく、会社として法人税を支払う。LLCは株式を発行しないため、株式市場での取引や株主総会の開催などは必要ない。非公開の会社で、外部の出資者に対する説明責任も比較的軽いのが特徴だ。
LLCのメリットを整理する。まずは、設立コストが安いことだ。合同会社の設立費用は、株式会社に比べて低く抑えられる。定款認証が不要で、登録免許税も安価なのだ。次に柔軟な経営が取れることだ。合同会社は、社員間で合意があれば自由な経営が可能になることだ。そして意思決定の迅速さだ。株主総会などの形式的なプロセスが不要で、重要な決定も社員間で直接行えるため、迅速に対応ができる。
次に、デメリットを整理する。1つは信用だ。株式会社に比べて、合同会社は知名度がまだ低く、社会的信用力が劣ると言われる。特に取引先や金融機関との関係において、信頼性が低く見られることがある。ただ、出資者の企業がすでに信用を確立している企業であれば、この範囲ではない。大きいのは、資金調達がしにくいことだ。株式会社のように株式を発行して資金を調達することができない。そのため、外部からの資金調達が難しく、事業拡大の際に制約が生じる可能性がある。逆に、出資者が一定の資本を持っていれば、この点もクリアできる。合同会社でも金融機関からの融資による調達は可能だ。ただ信用によっては、代表社員の個人信用や主要な出資者と金融機関の関係などが大切になってくる。最後はデメリットといえば疑問になるかもしれないが、パススルー課税が活用できないことだ。日本の合同会社は、法人税を支払う必要がある。簡単に事業を始める形式として合同会社を選んだ場合、個人事業主やパートナーシップよりも税負担が高くなる場合があるのだ。
合同会社は、比較的少ないコストで設立でき、柔軟で効率的な経営が可能な法人形態だ。しかし、資金調達や社会的信用力の面で制約がある場合がある。企業の成長や外部資金の活用を考える場合は、株式会社との比較検討も必要になる。
合同会社の出口について考えてみる。結論は、合同会社も株式会社と同様に売却可能だ。ただし、特有のプロセスや考慮する点がある。合同会社の出口は3パターンが考えられる。持ち分の譲渡、会社そのものの譲渡、そして吸収合併だ。
合同会社の出資者(社員)は、持分を持つ。この持分を第三者に譲渡することで、実質的に合同会社を売却することが可能だ。譲渡には他の社員の同意が必要な場合が多いが、定款で異なる取り決めがある場合がある。合同会社全体を他の法人や個人に譲渡することも可能だ。この場合、譲渡先が合同会社の全持分を取得し、会社の経営権を引き継ぐことになる。そして、合同会社が他の企業に吸収合併される形で売却されることもある。この場合、合同会社は消滅し、譲受企業にその資産や負債、事業が引き継がれる。株式会社のように、一部を切り出す事業譲渡も可能だ。合同会社が特定の事業を第三者に譲渡することで、部分的に会社の価値を売却することだ。これにより、主要な資産や事業を譲渡して会社を縮小させ、残りの事業を保持することも選択肢となる。
ちなみに、合同会社から株式会社に変更することも可能だ。これは組織変更と呼ばれる。組織変更をする際は、組織変更計画を作成する。株式会社に変更する際の基本方針や手続きを定めたものだ。計画には、新たな定款や、株式の発行方法、資本金の額などを含み検討する。組織変更計画は、合同会社の社員総会で承認される必要がある。通常、全員一致での承認が求められるが、定款で別途定めがある場合はその基準に従う。株式会社に移行するには、新たに株式会社の定款を作成する。ここで、株式の種類や議決権の設定、役員の選任などを決定する。そして、組織変更計画が承認された後、法務局で株式会社としての登記を行う。合同会社から株式会社に変更するための登録免許税が必要になる。その後、株式会社に移行した後、出資者に対して株式を発行し、それぞれの出資比率に応じた株式を割り当てる。これにより、出資額に応じた議決権が与えられる。
株式会社に移行することで、出資額に応じた議決権を設定でき、出資額が多い人がその分大きな影響力を持つことができる。また、株式を発行することで、将来的な資金調達が容易になる。この場合のデメリットは、手続きや費用だろう。また、株式会社は合同会社よりも通常の運営の手続きが複雑で公開義務などがあり、合同会社のメリットを失うことになる。
株式会社と合同会社はメリットとデメリットがそれぞれあり、企業の目的に応じた組織形態を選択することが正解だ。そのため、世の中には、株式会社から合同会社に変更する企業も、逆もあるのだ。
例えば、株式会社から合同会社に変更した事例だ。少し大きな企業を上げてみる。アップルジャパン合同会社は有名だ。かつてはアップルジャパン株式会社として日本で活動していたAppleの日本法人は、2009年に合同会社に組織変更した。今は、合同会社として運営さている。この変更は、アップルがより簡素な組織構造で柔軟な経営を行うことを目的としたとされる。アマゾンジャパンも同様だ。アマゾンの日本法人も、かつてはアマゾンジャパン株式会社として運営されいた。それが、2016年にアマゾンジャパン合同会社に組織変更したした。この変更も、より柔軟な経営と税務上のメリットを考慮した結果だと考えられる。ソフトバンクグループの中核企業のソフトバンクテレコム株式会社も、後にソフトバンクテレコム合同会社に組織変更している。その後、再び株式会社に戻るなど、経営戦略に応じて柔軟に組織形態を変更している事例だ。
上記3事例からもわかるように、大手企業が経営の効率化や柔軟性を求めて、株式会社から合同会社に組織変更するケースがある。ただし、合同会社に変更した後でも、その企業の経営方針や市場での立ち位置が大きく変わるわけではなく、主に内部の運営体制や税務上の理由で行われることが多いと考える。
今度は、合同会社から株式会社に変更した事例をみてみよう。LINE株式会社は、もともとNHN Japan合同会社として設立され、その後LINE株式会社に組織変更している。LINEのサービスが急速に拡大し、成長したことで、株式を発行しての資金調達や企業価値の向上を目指して株式会社に変更したのだ。メルカリも、もともとメルカリ合同会社として設立され、後に株式会社メルカリに変更された。この変更は、メルカリが資金調達や上場を視野に入れての決断で、スタートアップから急成長を遂げた同社にとって、株式会社としての運営が適していたのだ。DeNAは、最初、有限責任中間法人という形態で設立された。その後、有限責任事業組合(LLP)を経て、株式会社ディー・エヌ・エーに組織変更された。成長に伴い、株式会社にすることで資本市場からの資金調達を容易にし、企業価値を最大化するための戦略だった。最後に、ビズリーチだ。最初は、合同会社ビズリーチとして設立された。後に株式会社ビズリーチに組織変更している。同社の成長に伴い、資金調達の必要性や、上場を目指すために株式会社としての形態が望ましいと判断されたことが理由だ。
これらの企業は、合同会社としての柔軟性や簡便さを活かしつつ、成長段階で資金調達や上場などを見据えた株式会社への移行を行っている。特に、スタートアップ企業が初期段階で合同会社を選び、成長に伴って株式会社へ移行するケースが多いのだ。
合同会社と株式会社は、運営、資金調達、税制においてメリットとデメリットが背反し、企業の目的や状況に応じて選択することが正解になる。運営面は、合同会社は柔軟性が高い。簡素な運営が可能だが社会的信用が低い傾向がある。一方、株式会社は厳格な運営が求められ、社会的信用も高い。資金調達は、合同会社は出資者間の合意で柔軟な資金調達が可能だが、外部からの大規模な資金調達が難しい。株式会社は株式を発行できるため、資金調達の選択肢が広がる。日本では、パススルー課税などの適用がないので、大きな違いはない。ただ、アマゾンやアップルなどのグローバルで活躍する企業においては何らかの違いがあったから検討していると考えることができる。
一般的に、合同会社は小規模ビジネスやスタートアップに適しており、株式会社は大規模な資金調達や事業拡大を目指す場合に適しているといえる。
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「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
新規事業の旅 全集
2024年9月6日
こちらは現在連載している「新規事業の旅」の全部のリンクです。
新規事業の旅(1) 旅のはじまり
新規事業の旅(2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(4) M&Aの成功
新規事業の旅(5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(6) 若手の教育
新規事業の旅(7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(9) 採用
新規事業の旅(10) NBとPB
新規事業の旅(11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(12) 山の登り方
新規事業の旅(13) ポジションに考える
新規事業の旅(14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(15) 偶然と必然
新規事業の旅(16) キャズムを超える
新規事業の旅(17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(18) アンゾフ再び
新規事業の旅(19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(22) 売ってから始まる事業
新規事業の旅(23) 道具の使い方
新規事業の旅(24) 敵のコトを知りつくそう
新規事業の旅(25) キャズムを超えるまでのKPI
新規事業の旅(26) M&Aの勘所を押さえる
新規事業の旅(27) 仲介会社のビジネスモデルと買い手の事情
新規事業の旅(28) 動画サブスクの落とし穴と処方箋
新規事業の旅(29) 売り手のトラブルは売り手の無知から
新規事業の旅(30) OEは最早役に立たたない
新規事業の旅(31) ジョブと障害とキャズム
新規事業の旅(32) 需要と供給
新規事業の旅(33) ストレッチ目標
新規事業の旅(34) 複利の効果
新規事業の旅(35) 人間は機械の一部になる
新規事業の旅(36) デジタルの弊害を受け入れる
新規事業の旅(37) 会社を居場所に置き換える
新規事業の旅(38) システム化された社会
新規事業の旅(39) 金融リターンではなく事業リターン
新規事業の旅(40) サービス業の苦悩
新規事業の旅(41) 3つの財布
新規事業の旅(42) グループ企業の試練
新規事業の旅(43) 思考と行動
新規事業の旅(44) デジタルバッジ
新規事業の旅(45) デジタル化とOC
新規事業の旅(46) ジョブ発見のコツ
新規事業の旅(47) 器と魂
新規事業の旅(48) Z世代の高級品
新規事業の旅(49) アニメ界のSPA企業が覇者になる日
新規事業の旅(50) PBR1割れの衝撃
新規事業の旅(51) 新規事業の創造3つの方向性
新規事業の旅(52) 別の視点で見るイノベーションのジレンマ
新規事業の旅(53) 新規事業のベストミックス
新規事業の旅(54) サーキュラーエコノミー
新規事業の旅(55) PBR1割れを考える
新規事業の旅(56) 情報の民主化と経済格差
新規事業の旅(57) セキュリティの今後
新規事業の旅(58) サステイナブル経営
新規事業の旅(59) Z世代のアプローチ
新規事業の旅(60) ドローン事業
新規事業の旅(61) ノンカスタマー
新規事業の旅(62) プランB
新規事業の旅(63) Z世代
新規事業の旅(64) 小売とマーケティング
新規事業の旅(65) 高齢者をターゲットにした事業
新規事業の旅(66) ベンチャーキャピタルの実態
新規事業の旅(67) 新規開発の落とし穴
新規事業の旅(68) 覚悟を持って取り組む
新規事業の旅(69) 売れるモノが良いもの
新規事業の旅(70) 性善説と性悪説
新規事業の旅(71) 保身に走らない
新規事業の旅(72) 中国リスク
新規事業の旅(73) サステナビリティ経営
新規事業の旅(74) ストックオプション
新規事業の旅(75) ゼロイチとM&A
新規事業の旅(76) TAM/SAM/SOM
新規事業の旅(77) 近くと遠く/全体と細部
新規事業の旅(78) 逆境を乗り越えるリーダー
新規事業の旅(79) ラストイチマイルの柔軟思考
新規事業の旅(80) 業務提携と資本提携
新規事業の旅(81) 部下の視点と視野の狭さはあなたの鏡
新規事業の旅(82) バックキャスティング
新規事業の旅(83) ペット保険にAmazon参入
新規事業の旅(84) ベンチャー企業
新規事業の旅(85) 生成AI1年目の誕生日
新規事業の旅(86) スケールする前後の組織
新規事業の旅(87) 無線給電
新規事業の旅(88) よく見る風景
新規事業の旅(89) ダイナミックプライシング
新規事業の旅(90) 提携と出資
新規事業の旅(91) アパホテルのプライシング
新規事業の旅(92) コカ・コーラのダイナミックプライシング
新規事業の旅(93) アップルのゴーグル型端末
新規事業の旅(94) 通年採用のススメ
新規事業の旅(95) 情シス事情
新規事業の旅(96) オープンイノベーションの打ち手としてのCVC
新規事業の旅(97) 今後のマーケティング
新規事業の旅(98) エフェクチュエーション
新規事業の旅(99) 2世と3世
新規事業の旅(100)自分事と他人事
新規事業の旅(101)最近の経営企画
新規事業の旅(102)ドーミーイン
新規事業の旅(103)誰もわからない
新規事業の旅(104)運とリスク
新規事業の旅(105)経済的なインセンティブの大切さ
新規事業の旅(106)スタートアップと採用
新規事業の旅(107)エクイティにおけるインセンティブ
新規事業の旅(108)イノベーションとCVC
新規事業の旅(109)ファイナンス関連の書籍
新規事業の旅(110)30年の停滞
新規事業の旅(111)30年停滞の要因
新規事業の旅(112)30年停滞からの学び
新規事業の旅(113)ワイガヤ再び
新規事業の旅(114)地域を盛り上げる前の分析の視点
新規事業の旅(115)足るを知る
新規事業の旅(116)継続は力なり
新規事業の旅(117)実践の妨げとなる心の豊かさ
新規事業の旅(118)学習性無力感
新規事業の旅(119)学習性無力感を克服するアプローチ
新規事業の旅(120)実践は時間と努力の変数
新規事業の旅(121)必要は発明の母
新規事業の旅(122)アントレプレナーとイントレプレナー
新規事業の旅(123)人事異動の落とし穴
新規事業の旅 (124)マネジメントの共通認識
新規事業の旅(125)高尚なパーパスの落とし穴
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新規事業の旅(127)行動しないことの考察
新規事業の旅(128)先延ばし
新規事業の旅(129)ベンチャー企業と中小企業
新規事業の旅130 設立から上場までの物語
新規事業の旅131 台湾事情2024その1物価
新規事業の旅132 台湾事情2024その2背景
新規事業の旅133 台湾事情2024その3再び物価
新規事業の旅134 北海道事情2024
新規事業の旅135 不祥事の元祖と原因と対策
新規事業の旅136 スタートアップと大企業
新規事業の旅137 提携や資本業務提携の契約
新規事業の旅138 LLCとKK
新規事業の旅139 やり抜けない人材排出の背景と打ち手
新規事業の旅137 提携や資本業務提携の契約
2024年8月30日
早嶋です。1900文字。
スタートアップと提携、あるいは資本提携を結ぶ際に、一般的に締結を検討すべき項目について整理する。もちろん、契約は全てケースバイケースで、適宜専門家のアドバイスと共に進めるのが正解だ。見通しを良くする目的で記述する。
■株式購入契約書(Stock Purchase Agreement, SPA)
スタートアップの株式を購入する際に交わす契約書だ。この契約書は、購入する株式の数、価格、支払い条件、取引が成立するための条件を記載する。ポイントは以下だ。
●価格と条件:株式の価格や支払い条件、購入株式数を明確に記載する。
●表明保証:スタートアップが提示する情報が正確であることを確認し、これを契約書に明記する。将来的なリスクを軽減するために重要だ。
●取引の条件:取引が成立するための条件(例:デューデリジェンスの完了、必要な承認の取得など)だ。
■株主間契約書(Shareholders’ Agreement, SHA)
複数の株主が存在する場合、株主間の権利義務関係を定める契約書だ。この契約書は、株主の権利、株式の譲渡制限、会社の経営方針に関する決定方法などが規定される。ポイントは以下だ。
●株式の譲渡制限:株式を第三者に譲渡する際の制限や優先交渉権(ROFR)を定めることが重要だ。
●株主の権利と義務:各株主の持つ議決権や、経営への関与の度合いを明確にする。
●紛争解決メカニズム:株主間の意見対立が発生した場合の解決方法を定める(例:調停、仲裁)。
■業務提携契約書(Strategic Alliance Agreement, SAA)
スタートアップと大企業が協業を進めるための契約書だ。業務提携の具体的な内容、各社の役割、利益分配の方法などを記載する。ポイントは以下だ。
●提携内容の明確化:どのような業務で協力するのか、具体的な内容と範囲を明確に定める。
●役割と責任:各社の役割と責任範囲を明確にし、曖昧さを排除する。
●知的財産権の取扱い:提携により生じる知的財産権の帰属や利用条件を定めることが重要だ。
■技術供与契約書(Technology Transfer Agreement, TTA)
大企業がスタートアップに技術を提供する場合や、逆にスタートアップが持つ技術を大企業が利用する場合に締結する契約書だ。ポイントは以下だ。
●技術の範囲:提供される技術の具体的な内容や範囲を明確に定める。
●利用権と制限:提供された技術をどのように利用できるか、利用範囲や制限を規定する。
●知的財産権:提供された技術に関する知的財産権の帰属と、その後の管理方法を定める。
■秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement, NDA)
提携前や提携中にやり取りされる機密情報の保護を目的とした契約書だ。ポイントは以下だ。
●機密情報の定義:機密情報の範囲を具体的に定義し、何が保護対象となるかを明確にする。
●情報の管理方法:機密情報をどのように管理し、どのように取り扱うべきかを規定する。
●期間:秘密保持の義務が続く期間を定める(例:契約終了後も一定期間継続するなど)。
■出資契約書(Investment Agreement, IA)
スタートアップへの資本注入を行う際に、出資条件やリターン、権利義務関係を定める契約書です。ポイントは以下だ。
出資条件:出資額、出資方法、出資する際の条件(例:目標達成の基準)を明確にする。
権利と義務:出資者としての権利(例:取締役の指名権など)と、義務(例:追加出資義務の有無など)を定める。
リターンの取り決め:出資によるリターンの計算方法や、将来的な資本の払い戻し条件を明示する。
■オプション契約書(Option Agreement)
スタートアップの将来的な株式購入権を付与する契約書だ。大企業が将来的に株式を追加で購入できる権利を確保するために用いる。ポイントは以下だ。
●オプション行使条件:どのような条件でオプションを行使できるか、具体的な条件を定める。
●価格の設定:オプション行使時の株式購入価格や、それを算定する方法を規定する。
●有効期限:オプションを行使できる期間や期限を定める。
上述した契約書は、スタートアップとの提携や資本提携を進める際に重要な役割を果たす。契約書を作成する際、法務部門や専門家の協力を得て、提携の目的やリスクを十分に考慮しながら、適切な条項を含めることが必要だ。契約書の内容が明確で、双方の理解が一致していることが、成功する提携の基盤となる。
(過去の記事)
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新規事業の旅136 スタートアップと大企業
2024年8月30日
早嶋です。(約1万字)
スタートアップ企業は、経営資源である、ヒト、モノ、カネが常に不足する。大企業も然りだが、それよりも当然に悲惨だ。その環境下、自分たちのアイデアや仮説を検証すべく日々チャレンジしている。しかし、構造的な仕組みから商品(製品・サービス)開発に重きを置き(そうなってしまう)、その後の販売や販促の設計まで目が届かない。更に、販売後の商品のフォローや顧客のサクセスの実装にも常に課題が残る。
(構造的に商品化に資源を注ぐ理由と打開策)
企業のバリューチェーン(VC)を考えると、一定、その理屈が説明できる。VCは上流工程から企画開発や研究開発があり、徐々に調達製造や物流購買、そして販促販売、メンテナンスやサクセスと続く。上流工程は企業側の取組で、下流工程に近づくと顧客側の取組になる。事業はいきなり全ての機能を実装することはできない。規模とともに時間がかかるのだ。従い、上流工程の着手から始まるのが常だ。
VC全体を効率的にカバーすること。スタートアップにとっても重要な問題になるのだ。商品がなければ商売ははじまらない。最もなことだが、事業の成功において販売戦略やカスタマーサクセスの実装は不可欠だ。この問題に対処するため、スタートアップが取るべきアプローチは次のオプションがある。
●リソースの最適化とアウトソーシング
重要な開発段階を自社で行い、販売やカスタマーサクセスの部分をアウトソーシングすることだ。限られたリソースを効率的に活用する。実際、スタートアップのフェーズでは、シードで計画を練り、アーリーで商品化、ミドル頃よりテストマーケティングに進む状況を観察する。リソースを商品化に注いでいるのだ。
●アライアンスやパートナーシップの構築
一方で、実際の販売やマーケティングに強い企業と戦略的に提携を通じて、バリューチェーンの下流部分を強化するアイデアもある。この場合、なんとなく組み立てるよりは、意図的に、どのくらいのフェーズにいくと販売が必要になるかを鑑みながら企業にアプローチを取るなどが大切になる。
●最小限の実装でのカスタマーサクセスのテスト
ただし、一定の成功を収めるスタートアップは、初期段階であっても小規模にカスタマーサクセスを実装している。この目的は商品化を更に強化する目的が強い。顧客のフィードバックを基に改善を繰り返すのだ。協業や連携、外部に任せる場合でも、一定の流れを自社で考え実装した取組は、後のパートナーシップとの交渉にも優位になる。
基本は、上流工程に加えて、下流工程の取組にも注意を図り戦略を立てて置くことだ。戦略自由度を高めるために、自社で行う場合、他社で行う場合、協業の場合などの選択肢を準備して、状況に応じてオプションを選べるようにするのだ。通常は、商品化にリソースを注ぎ、下流工程はテストマーケティング程度は自前で行なう。資本政策をうまく構築して、下流工程の初期の段階は協業で取組、成長とともに徐々に内製化する。という流れが理想だろう。
(理想的なD2C)
一方で、始めから自社に直接アプローチして商品提供を行なうスタートアップも多数存在する。20年程度前は、顧客に直接リーチする手段が乏しく、あったとしても非常に高価だった。そのため販売やアフターメンテナンスについては外部に任せる企業が多かった。しかし、スマフォの普及により状況が変わる。スタートアップとしても、顧客に直接販売することで、コミュニケーションを直接行え、商品のフィードバックも、顧客の購買行動の把握やその後のクロスセルの提案も一連の流れの中で実装することが可能になる。また、決済機能を自社で持つことができれば、今後の事業拡大も可能性が広がる。
このように、近年の優れた商品は、顧客との直接的な関係を築くことを重視している。このダイレクト・トゥ・コンシューマー(D2C)のアプローチは、特にデジタル化が進んだ現代において、大きな競争優位性になる可能性を秘める。インターネットとデジタルツールの発展により、企業が顧客と直接つながることが容易になり、多くのメリットを享受できるようになったからだ。D2Cの主な利点だ。
●直接的な顧客フィードバックの収集
顧客から直接フィードバックを得ることで、製品やサービスの改善に素早く反映できる。また、顧客の声をダイレクトに聞けることで、顧客が何を求めているかを深く理解しやすくなる。
●クロスセルやアップセルの機会
顧客との継続的な関係を構築することで、クロスセルやアップセルの機会が増える。例えば、関連商品やサービスの提案を行うことで、顧客のライフタイムバリューを向上させることが可能になる。
●ブランディングの強化
直接顧客にリーチすることで、自社のブランドメッセージを正確に伝え、顧客に一貫したブランド体験を提供できる。これにより、顧客とのエンゲージメントが高まり、ブランドロイヤルティが向上する。
●データの活用
自社の決済機能や顧客管理システムを通じて、顧客データを集約・分析することで、よりパーソナライズされたサービスを提供できる。これにより、顧客体験を最適化し、事業の成長につなげることができる。顧客体験の最適化を実現できる仕組みが得られればスイッチングの可能性が低くなり、最終的にはサブスクでの商品提供へも誘導しやすくなるのだ。
●コスト削減と利益率の向上
中間業者を排除することで、流通コストを削減し、利益率を向上させることができる。また、顧客との直接取引により、価格設定やマーケティング戦略を柔軟に調整できるため、競争力を高めることができる。これらの実装が可能になれば、売上規模が小さくても収益性や収益額が高まるので企業の価値が向上する。将来に必要な機能を早い段階から設定して企業価値をテコにM&Aを活用して指数関数的な成長を遂げるイメージが描けるようになるかもしれないのだ。
D2Cは、単に商品の販売方法を変えるだけでなく、顧客との持続的な関係を構築し、長期的な成長を目指す戦略とも言える。デジタルプラットフォームの普及により、企業はグローバルな市場に容易にアクセスできるようになった。より多くの顧客に直接リーチする機会が生まれたのだ。加えて、決済機能を自社で持つことで、キャッシュフローの管理がしやすくなり、新たなサービスやビジネスモデルの展開にも迅速に対応できるようになる。これらの要因が組み合わさることで、企業は顧客との深い関係を築きつつ、事業のスケールアップを図ることが可能となる。D2Cモデルは、特にスタートアップ企業や規模の小さな企業にとって、限られたリソースの中で大きな成果を得るための有効な戦略であり、今後もその重要性は増していくと考える。
(オープンソースの活用と大手企業のチャンス)
再び現実の議論に戻る。実際のスタートアップはやはり資源が乏しい。事業計画では、上流工程の企画や研究開発から下流工程のカスタマーサクセスまで網羅的、全視点的な計画を描く。が、どうしても計画通り商品開発は進まず、運転資金が底をつく状況が何度もやってくる。その際に、下流工程にまで資源を配分して準備を進める太い心臓を持つアントレプレナーは極わずかだろう。そう、やはり外部に頼り人の資源を活用する手はないのだ。
これらを鑑みると、一定の商品開発が終える前後のスタートアップは、大企業にとって協業のチャンスとなる。スタートアップのフェーズではアーリーからミドル期頃に商品開発が終わり、数名、あるいは数社にテストマーケティングも終えている段階だ。しかし、販売や販促、あるいはその後のフォローに対しても課題が山積状態で、資金も余裕がないのだ。そこで、黒字を目指すためにシリーズAのラウンドに向かうのだ。その際、出資する企業が、自社サービスの拡販やアフターフォローをしてくれる存在であれば、是非ともパートナーになりたいと考えるだろう。
スタートアップが直面する課題は、計画通りに商品開発を進めることが難しく、資金やリソースが不足することだ。シードからアーリー期で商品開発を完了し、テストマーケティングが行われた段階は、スタートアップにとって重要なターニングポイントだ。このフェーズでの選択肢は、一定のオプションがある。
●専門家の採用
販売やカスタマーサクセスに精通した人材を採用し、次のフェーズでの成功を支える準備をする。特に、スタートアップは、即戦力人材の確保が重要だ。給与で賄えない部分は、ストック・オプションなどの成功に紐づく報酬を検討して彼らの経験や知識を活用するのだ。
●外部パートナーシップの構築
販売チャネルやマーケティングの専門性を持つ企業との提携を通じて、VCの下流部分を強化する。これにより、自社のリソースを商品開発や戦略的な事業展開に集中させ、販売やフォローアップを強化することが可能だ。
●段階的なマーケット投入
フルスケールの市場投入をする前に、少数の顧客や地域をターゲットにした段階的なマーケット投入を行うことで、リスクを分散させることも可能だ。テストマーケティングの延長でもあるが、リアルタイムでのフィードバックが継続的に得られるす。この段階で得たデータや知見を基に、販売戦略やカスタマーサポートの強化を図るのだ。
●資金調達の再評価
商品開発やテストマーケティングが成功しつつある段階で、新たな資金調達を行うことも一つの戦略だ。シード期やミドル期での成果を証明することで、追加の資金を確保し、次のフェーズでの成長に向けたリソースを確保するのだ。
●自社リソースの集中と外部委託のバランス
自社の強みやコアコンピタンスに集中し、その他の機能については外部リソースを利用することで、効率的に事業を進めることができる。何がコアで何を外にだすべきかは、正直良くわからないだろう。そのため小さく倒産しない範囲で、網羅的に行いながら自社のコアを確定していくのだ。
上述のアプローチを選択して行なうことで、スタートアップはリソースが限られた中でも、柔軟に対応することが可能になるのだ。特に、シード期やミドル期以降の成長フェーズへの移行は、リソースの再評価や外部との連携は成功の鍵となるのだ。また、この段階での適切な人材の採用や資源を保有する企業との提携は、商品開発だけでなく、販売戦略や顧客関係の構築においても大きな影響を与えるため、慎重かつ計画的に進めることが重要だ。スタートアップが持つアジリティを活かしつつ、適切なタイミングで外部リソースを活用する。短期と長期の取組を貪欲に推進する、まさにスタートアップの醍醐味なのだ。
(スタートアップの資金調達の目的と活用)
ここまで議論すると、資金調達は単にお金だけを獲得する行為と捉えず、各フェーズで仲間になりたい企業や機能を保有する個人や組織に出資もしてもらうことを並行的に考えることがポイントだ。その戦略は資金と協業支援の両方を獲得することが可能になるのだ。また、業務資本提携のように、一緒に事業開発のスピードと精度を高めることも選択できる。もちろん、その際の株主間契約や出資契約は、経験を積んでいる企業が常に上手なので、スタートアップとしても充分に準備し戦略を立てる必要があるのだ。この視点を踏まえたスタートアップからみた資金調達のメリットと戦略を整理した。
●戦略的な出資者の選定
単に資金を提供する投資家ではなく、自社の成長を加速させるために必要なリソースやネットワークを持つ企業や個人を出資者として迎え入れることが重要だ。これにより、資金だけでなく、知識、経験、ネットワークといった貴重な資産を得ることができる。
●業務資本提携によるシナジー効果
出資者との業務資本提携を通じて、製品開発、マーケティング、販売の各フェーズでの連携を強化し、事業開発のスピードと精度を向上させることができる。例えば、販売チャネルや技術支援、マーケティングノウハウの共有など、スタートアップが直面する課題を補完する形での協力が期待できる。
●株主の支援を活用した成長戦略
戦略的な出資者や提携パートナーは、単なる資金提供者以上に、自社の成長を支えるサポーターとなる。これにより、株主が持つネットワークや影響力を活用して、新規市場への進出や事業のスケールアップをスムーズに進めることができる。
●出資契約と株主間契約の慎重な設計
出資契約や株主間契約は、長期的なビジネスの安定性を確保するために非常に重要だ。特に、業務資本提携のような深い関係を構築する場合、契約内容を慎重に設計し、スタートアップの利益と成長戦略に合致するようにする必要がある。経験豊富なアドバイザーや弁護士のサポートを受け、リスクを最小限に抑える契約を結ぶことが求められる。
●フェーズごとの資金調達戦略の設計
資金調達は、各フェーズで異なる目標やパートナーシップの必要性に応じて戦略的に行うべきだ。例えば、シード期では技術開発やプロトタイプの作成に焦点を当てる一方、成長フェーズではマーケティングや販売チャネルの強化を目指す資金調達が求められる。
資金調達を単なる資金獲得の手段とせず、戦略的なパートナーシップの構築や事業開発の加速装置として活用することで、スタートアップは持続可能な成長を実現することがでるのだ。これにより、資金調達のプロセスそのものが企業の成長を支える重要なエンジンとなり、株主のサポートを受けながら、長期的な成功を目指すことができる可能性が高まる。このアプローチを採用することで、スタートアップは単なる資金不足を補うだけでなく、競争力を高め、より強力な市場ポジションを築くことが可能になる。また、株主やパートナー企業との関係性を深めることで、将来的なチャレンジにも柔軟に対応できる体制を整えることができるのだ。
(スタートアップに出資する大企業のメリット)
一方で、スタートアップに出資する企業のメリットも存分にある。近年の大企業はのみなみ自社の主力事業が成熟期を迎えている。多くの事業がキャッシュカウのポジションで瞬間風速のキャッシュフローは潤沢だが、将来の可能性が乏しい状況だ。その中、どの企業も新規事業の開発に注力するが結果が伴わない。過去10年から20年の間、安定的な事業が複数あり、現在マネジメントする人材にも、新規事業の開発経験が無いのだ。
アイデアを自社で創造し、実際にテストマーケティングまで進む。つまりゼロイチ(ゼロからイチを作る意味)は、大企業は苦手なのだ。しかし、出来上がった商品を販売し、認知を得ることは得意だ。すでに全国、全世界。あるいは特定の業界に対して既存顧客のネットワークを保持しているからだ。そこで自社でゼロイチをしながらも、自社と協業の可能性があるスタートアップとの提携や資本提携で、ビジネスを開発する取り組みには規模が見えると考える。以下、大企業がスタートアップと協業を目的に提携や出資するメリットについて整理した。
●新規事業開発の補完
大企業が自社でゼロから新規事業を立ち上げることは、多くのリソースと時間を要す。スタートアップに出資することで、既にアイデアが具体化され、テストマーケティングまで進んでいるプロジェクトに早期にアクセスできるメリットがある。開発コストを削減し、スピード感のある事業展開が可能になる。
●イノベーションの取り込み
大企業は、既存のビジネスモデルに依存しがちだ。それはイノベーションを起こしにくい環境を意味する。しかし、スタートアップは新しいアイデアや技術に精通しており、大企業が持つ硬直的な組織文化を打破するための刺激となる。スタートアップに出資することで、大企業は外部からのイノベーションを取り込むことができる。
●市場拡大と顧客基盤の強化
大企業は、スタートアップが開発した新製品やサービスを既存の顧客ネットワークに導入することができる。これにより、スタートアップにとっては即座に大規模な市場へのアクセスが可能になり、大企業にとっては新たな収益源を獲得するチャンスとなる。
●リスク分散とリターンの可能性
大企業がスタートアップに出資することで、新規事業におけるリスクを分散しつつ、成功した場合には高いリターンを得ることが可能だ。スタートアップの成長に伴い、企業価値が上昇し、将来的な利益を享受することもできる。
●社内文化の変革と人材育成
スタートアップとの提携や出資を通じて、社内のマネジメント層や若手社員に新しいビジネスやアプローチを学ぶ機会を提供できる。これにより、大企業内部の文化を活性化させ、次世代のリーダーを育成する効果が期待できる。
●競争優位性の強化
大企業が競合他社に先駆けて有望なスタートアップに出資することで、競争優位性を強化することができる。特に、新しい技術やサービスが市場に受け入れられる段階での投資は、将来的な市場シェア拡大に大きく寄与する。
大企業とスタートアップがそれぞれの強みを活かして提携することは、双方にとって大きなメリットをもたらす。スタートアップは、大企業のリソース、ネットワーク、経験を活用することで、市場に迅速に参入し、事業をスケールアップする可能性が高まる。一方、大企業は、スタートアップの革新的なアイデアや柔軟なアプローチを取り込むことで、自社の事業ポートフォリオを強化し、将来の成長機会を確保できるのだ。
また、資本提携や業務提携を通じて、共同で事業を開発することは、リスクを分散し、成功の確率を高める効果がある。このシナジーを実現するためには、両者の戦略的な一致が重要で、協力関係を築く際には、双方が明確な目標を共有し、継続的なコミュニケーションを図ることが求められる。
(スタートアップ協業を活用した人材育成)
スタートアップと協業を進める中で、徐々に不足する業界の知識やゼロイチの感覚などを身につけることができる。通常、大企業の内部の仕事は役割が分断されており、VCの上流から下流工程の全てを理解できる人材は限られる。しかし、新規事業は総合格闘技のようなもので、売上や規模は小さいが、VCの開発や設計、調達や販売、その後のメンテナンスなど、それぞれの業界で事業をする際の取組を総合的かつ網羅的に考える視点が養われる。さらに、法的な仕組み、人事の採用や育成、総務的な感覚、経理やファイアンスの知識も必要になり爆速で動きながら吸収していくのだ。
これは私の仮説だが、大企業の将来を担う若手に取って、スタートアップとの協業の経験は将来の事業開発に加え、次期経営者としての育成にも良い経験になると考える。スタートアップとの協業を通した若手社員の教育メリットについて見解をまとめた。
●総合的なビジネススキルの習得
スタートアップでは、限られたリソースの中で迅速に結果を出すことが求められる。社員は多くの役割を兼任し、バリューチェーンの全体像を把握する必要がある。これにより、若手社員は製品開発、調達、販売、マーケティング、カスタマーサポートなど、多岐にわたるビジネススキルを総合的に習得する機会を得られる。
●ゼロイチの感覚の醸成
大企業においては、既存のビジネスモデルやプロセスに従うことが多く、イノベーションを生み出す「ゼロイチ」の経験が不足しがちだ。しかし、スタートアップとの協業では、新しいアイデアを具体化し、事業として立ち上げる経験を積むことができ、これが将来のビジネスリーダーとしての能力を高めることにつながる。
●起業家精神の育成
スタートアップで働くことで、リスクを取って新しいことに挑戦する起業家精神を養うことができる。この経験は、大企業内での新規事業開発や、革新的なプロジェクトを推進する際に非常に役立つ。
●業界知識と横断的な視点の獲得
スタートアップとの協業を通じて、特定の業界や市場に関する深い知識を獲得しつつ、業界を越えた視点で事業を捉える能力を養うことができる。これにより、若手社員は単なる業務遂行者から、広い視野を持った戦略的なリーダーへと成長する。
●法務、財務、人事といった機能的スキルの強化
スタートアップでの経験を通じて、法務、財務、人事、総務といった各分野での実務スキルも磨かれる。これにより、ビジネス全体を見渡せる「全方位型」の人材が育成され、将来的に経営を担うポジションでの適応力が高まる。
●アジリティと適応力の向上
スタートアップはしばしば変化の激しい環境に置かれる。この中で、若手社員はアジリティ(俊敏性)や適応力を高め、変化に対する抵抗感を減らすことができる。これは、大企業が直面する市場の変化やテクノロジーの進化に対応する際に、非常に有効だ。
大企業がスタートアップとの協業を推進することは、単に新規事業を生み出すだけでなく、次世代のリーダーを育成し、組織全体の成長に貢献する戦略的な投資となる。このような経験を積んだ若手社員は、将来的に企業の中核を担うリーダーとして、より高度な戦略立案や事業運営に貢献することが期待される。さらに、このアプローチは、組織全体のイノベーション文化を醸成し、企業の持続可能な成長を支える力となる。スタートアップとの協業は、組織の硬直化を防ぎ、新しいアイデアやアプローチを柔軟に取り入れる文化を促進する重要な要素となるからだ。これにより、大企業は変化する市場環境に対応しつつ、将来にわたって競争力を維持できるようになるのだ。
(出資者の出口戦略)
大企業として、スタートアップに出資する際、スタートアップの出口戦略は重要だ。スタートアップの多くは、IPOやM&Aを視野に入れた出口戦略と急成長を目指す。しかし中には、外部を取り入れた資本政策を考えず、オーナー家で株式を保有している場合もある。もし、オーナー家で株式を保有している企業と協業を行いたい、将来的に資本業務提携を行なう場合は、出口として株式からのキャピタルゲインを得ることが難しくなる。当然だ。売り買いが制限されるからだ。当たり前だが、企業がスタートアップやスモールビジネスに出資をする際も、出資先の出口戦略を考慮する必要があるということだ。
●IPO(新規株式公開)
スタートアップがIPOを目指している場合、大企業にとってはリスクが低い投資となる。IPOが成功すれば、株式の市場価値が上昇し、大企業はキャピタルゲインを得ることができる。また、IPOによりスタートアップが成長を更に加速させることも期待できるのだ。もちろん日本でのIPOは年に多くても100社程度なので、可能性は低いのだが。
●M&A(買収や合併)
M&Aを出口戦略としているスタートアップに出資する場合、大企業はそのスタートアップを将来的に自社に取り込むことや、第三者に売却することで利益を得ることができる。これは、大企業の成長戦略や新規事業の一部として、スタートアップを吸収する場合に特に有効だ。
●オーナー家による株式保有
オーナー家が株式を保有し、IPOやM&Aを目指さない場合、大企業にとってはキャピタルゲインを得る機会が限られる。このようなスタートアップに出資する場合、大企業はキャピタルゲインを期待するのではなく、他の目的(例えば、戦略的パートナーシップ、事業開発の加速、イノベーションの取り込みなど)を重視する必要がある。
●リテンション型の出口戦略
一部のスタートアップは、株主に対して安定的な配当を行うことを目的とする場合がある。このような戦略では、キャピタルゲインを得ることは難しいが、持続的な収益を得ることができる。この場合、大企業はスタートアップの安定した事業運営と収益性に焦点を当て、長期的な関係を築くことが重要だ。
本稿では、大企業がスタートアップやスモールビジネスに提携や出資する目的を事業開発の一つとして考えていることを前提にしている。従い上述のように、出口を考えなくてもシナジーを出して協業に成功させれば問題ない。しかし、事業の方針が変わり、その領域の事業を整理することなども考えられる。その歳、リスクヘッジとして出資した資金を回収できるかどうかは重要な判断基準になるのだ。いくつか大企業が取るべきアプローチを整理した。
●出資目的の明確化
大企業は、スタートアップへの出資を決定する前に、自社が何を目指しているのかを明確にする必要がある。キャピタルゲインを重視するのか、それとも戦略的なシナジーを期待するのかだ。その出資目的によって適切なスタートアップを選定することが必要だ。
●出口戦略の共有と調整
スタートアップとの間で、出口戦略に関する共通の理解を持つことが重要だ。大企業とスタートアップのビジョンが一致しているかどうかや、特定の分野においての方向性を確認する。そして交渉段階から双方が望む結果に向けて調整を図ることが必要になる。
●代替的なリターンの検討
オーナー家が株式を保有し続けるスタートアップに出資する場合、大企業はキャピタルゲイン以外のリターン(例えば、事業提携による利益増加や技術や知識の取得など)を検討することになる。スタートアップの価値が他の方法で自社に還元される仕組みを構築することも考慮にいれなければならないのだ。
●リスク管理と契約の確立
出口戦略が不明確なスタートアップに出資する際には、リスク管理が重要だ。契約上、大企業が一定の条件下で株式を売却できる権利(プットオプションなど)を確保することや、万が一の場合に備えたリスクヘッジの仕組みを取り入れることが有効だ。
スタートアップに出資する際、スタートアップの出口戦略を理解し、それが自社の目標とどのように一致するかを慎重に評価する。当たり前だが、ここが抜けている企業が跡を絶たない。出口戦略が明確でない場合や、オーナー家が株式を保有し続けるケースでは、出資の目的や期待するリターンを再考し、適切な戦略を立てる必要がある。このステップがない場合は、そもそも出資そのものをするべきでは無いのだ。大企業は出資に際して、短期的な利益だけでなく、長期的な戦略的メリットを視野に入れたアプローチを取ることが成功の鍵になるのだ。
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新規事業の旅135 不祥事の元祖と原因と対策
2024年8月20日
早嶋です。(約3300文字)
不祥事が続く。不祥事としてすぐに想起する企業はエンロンだ。エンロン(Enron Corporation)は、かつて米国に存在した大手エネルギー企業だ。その経営破綻は企業会計における大規模な不正事件として知られた。
エンロンの会計不正はいくつかの不正使用や改ざん、悪用を重ねた。まずはSPEの悪用だ。エンロンは、自社の負債や損失を隠すためにスペシャル・パーパス・エンティティ(SPE)を活用して、独立した会社を多数設立した。これらのSPEを活用して、エンロンの会計上の負債を切り離し、エンロンの財務諸表上では見えなくするためにSPEを活用したのだ。エンロンは実際の財務状況よりも遥かに健全に利益を上げているように見せかけた。
エンロンは、マーク・トゥ・マーケット会計という手法も採用した。これは、将来の契約から予想される利益を、契約が結ばれた時点で利益として計上する手法だ。結果、将来の不確実な利益を現在の利益として計上し、実際にはまだ得られていない利益を膨らませたのだ。
まだある。エンロンは、架空の収益や架空の資産を財務諸表に計上し、投資家や取締役会に虚偽の情報を提供していた。驚くべきは、外部の監査法人アーサー・アンダーセンも、この不正を見逃し、または積極的に隠蔽することにも加担していたのだ。
結局組織的な悪事と隠蔽が継続し、エンロンの幹部は、会社の実態を知りながらも、それを隠すために様々な手段を講じた。内部告発者の警告を無視し、株主や規制当局を誤導したのだ。
エンロンの終焉は皆が知るところだ。2001年にエンロンの会計不正が発覚し、エンロンは破産を申請。この事件により、投資家は数十億ドルを失い、多くの従業員が職を失った。また、この事件を受け、米国では企業の会計や監査に対する規制が強化され、サーベンス・オクスリー法が制定された。エンロン事件は、企業の透明性とガバナンスの重要性を改めて強調する事例となり、現代の企業会計の歴史において非常に重要な出来事とされたのだ。
すべての物事には何らかの因果がある。上述したエンロンの事件がおきた背景について考察する。結論は、一つの事象というより、複数の要因が絡み合った結果、エンロン事件が発生したと言える。
まずは、利益至上主義と企業文化だ。エンロン内部では、短期的な利益を最優先する文化が蔓延していた。経営幹部たちは、株価の上昇と高い利益を出すことが最も重要だと考え、これが不正行為を助長したのだ。エンロンは非常に競争的な職場環境で、従業員は利益を上げるために強いプレッシャーを感じていた。この圧力が、倫理的な判断を鈍らせ、不正に手を染める原因の一つとなったのだ。
当然にガバナンスと内部統制の欠如もある。エンロンの取締役会や監査委員会は、経営幹部の行動を十分に監視し、チェックする役割を果たしていなかった。これにより、経営幹部たちは事実上、無制限に自分たちの行動を決定できる環境にあったのだ。当然、内部告発者の声は無視され、意図的に黙殺されている。その結果、問題が早期に解決される機会が遠ざかっていったのだ。
更に、複雑な会計手法と外部監査の失敗も重なる。エンロンは複雑な会計手法や金融商品を駆使した。結果、不正が外部から見破りにくくなっていた。特に上述したSPEを駆使した複雑な仕組みは、エンロンの財務状況を正確に理解することを難しくしたのだ。外部監査法人であるアーサー・アンダーセンも、エンロンの主要な会計処理に深く関与しており、独立性はすでに欠如していた。従い、不正を見逃すか、積極的に隠蔽する形でエンロンを支援していたのだ。
他には、市場の過信と規制の緩さもあった。当時の金融市場は、エンロンのような企業が革新的なビジネスモデルで急成長することを称賛し、あまりにも過信していたのだ。この過信が、不正行為を見抜く目を鈍らせた結果となった。また、当時の規制環境は企業の会計処理に対して比較的緩やかで、エンロンのような大企業が不正を行いやすい状況にあったのだ。後に制定されたサーベンス・オクスリー法は、こうした規制の甘さを改善するためのものになる。
最後に、個人的な利益とインセンティブの歪みもあったと思う。エンロン幹部たちは、自分たちの個人的な利益やボーナス、ストックオプションに基づくインセンティブを追求するあまり、会社全体の健全な経営を犠牲にしたのだ。株価の上昇に伴う報酬が大きかったため、短期的な株価維持のために長期的なリスクを無視する行動が取られたのだ。
このように要因が複雑に絡み合い、エンロンの大規模な会計不正が発生した。そして長期間にわたって続く結果となったのだ。エンロン事件は、企業の倫理、ガバナンス、そして規制の重要性を強く認識させるきっかけとなったが、喉元過ぎれば熱さを忘れるで、現在の日本でも度々企業の不祥事を耳にする。
以下は、当たり前に言われる取組だが、他山の石として真摯に取り組むことが他説だ。
– 企業文化の改革と倫理の検証
– 内部統制と監査機能の検証
– ガバナンスの検証
– インセンティブの検証
– 透明性とコミュニケーションの検証
– 法律や規制遵守の検証
企業文化と倫理はトップが率先して行う事項だ。すべての因果はトップにあると私は思う。企業全体に健全な文化を根付かせるためには、トップのコミットが欠かせない。そのうえで、定期的な倫理研修と従業員に対して倫理基準を理解させる取組など、当たり前の不正を防止する意識を高めることが大切だ。
エンロンのように内部告発は潰される可能性がある。そのため内部告発制度を整備し、従業員が不正や疑わしい行為を報告できる体制も重要だ。この制度は匿名での通報を受け付け、公正に対応することが保障されるべきなのだ。
内部監査部門の独立性確保は、経営層からの圧力に屈することなく、客観的に監査を行える体制を構築することだ。内部監査部門は、取締役会に直接報告できるようにするなど、ガバナンスの中核に位置付けることが重要だ。
企業規模が大きければ外部監査法人の選定において、独立性と信頼性を重視し、監査法人が企業の影響を受けずに厳格な監査を行えるようにすることが重要だ。また、監査法人を定期的に変更するローテーション制度の導入で監査の質を確保するなどの工夫がある。ただ、過度なローテーションは監査コストを高騰する要因になる。
取締役会は外部取締役の割合を増やし、経営層から独立した視点で企業を監視することが重要だ。特に、専門的な知識を持つ外部取締役が企業の経営に対して健全なチェックを行う体制を整える。コンプライアンスの遵守を監督するための委員会を設置し、企業全体の行動規範やルールが適切に運用されているかを定期的にチェックするなどの取組も浸透している。
経営層の報酬が短期的な利益や株価に過度に依存しないよう、長期的な業績や持続可能な成長を反映する報酬制度を設計する。結果、短期的な不正行為を防止し、企業の持続的な発展を促進することにつながる。これには経営層の業績評価において、ESG指標を組み込み、社会的責任やガバナンスの強化に対する意識を高めることが重要だ。
透明性においては、企業の財務状況や経営戦略に関する情報を開示し、株主や投資家が企業の実態を正確に把握できるようにする。特に、リスク情報や経営上の判断に至るプロセスを明示することが求められる。定期的に株主や他のステークホルダーと対話を行い、企業の経営方針や倫理基準についての理解を深め、信頼関係を築くことも大切だ。
規模が大きい企業はグローバルなビジネス環境や技術の進展に応じて、企業のコンプライアンスやガバナンス体制を見直し、最新の規制や業界基準に適応させることが重要だ。変化が激しい環境に対応し、リスクを管理を徹するのだ。
当たり前と思う取組が、いつしか歯車が狂い、組織的に認識しているけれども、止めることができなくなる。不思議な現象が発生するのだ。そのために、上述のような取組が企業経営の中に必要のなっている。重要なのは、トップからボトムまで企業全体が一丸となってこれらの価値観を共有し、実践することなのだ。
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国家観の再構築
2024年8月7日
早嶋です。
2024年夏。パリではオリンピックが開催され、シンボルカラーの青、黄、黒、緑、赤の輪が毎日お茶の間に登場する。各色は五大陸の象徴だ。古代ギリシャのオリンピック競技の頃から、都市国家間の争いを一時停止させるオリンピック休戦(エケケイリア)という平和の象徴としての意味を持つオリンピック。休戦期間中は、選手や観客が安全に移動できるようにし、競技を通じて平和を推進してきた。オリンピクが平和の祭典と言われる所以だ。
24年現在、世界は戦争に突入している。ロシアによるウクライナ侵攻は法の支配を根底から覆しているし、ハマスによるイスラエル攻撃は力と力をぶつけ合う争いに発展した。日本は、平和を掲げ一見問題ないように思えるが、ここまで不安定な世の中、国家観が不明瞭なままで良いのだろうか。戦後の日本が掲げる平和や民主主義という価値観は素晴らしい。しかし、矛盾も多く見えてくる。国家観における経済的な視点、歴史や文化的な視点、そして国際的な観点においてだ。
まずは日本の国家観について現状を考えてみる。本来、国家観はリーダーがその将来を踏まえて自分の考えや国民の考えを吸い上げながら形成する役割があると思う。国家観がなければその国は不利益を被る。極端な事例だがインドのモディ首相はインドで敵対する中国を強烈に意識した外交ネットワークには積極的に参加している一方で、ウクライナ侵攻では戦略的関係を有するロシアを避難することはしない。インドを軸に考えた国益に沿う外交を展開しているのだ。明確な国家観を感じる。
そもそも国家観は、国家やその役割、目的、機能についての個人または集団の考え方や視点だ。これは政治的、社会的、経済的な要素を含む広範な概念で、さまざまな角度から国家を捉えることを指す。
日本で既に出来上がっている国家観としては政治的観点がある。天皇を象徴とし民主主義で統治し、国家の権力と個人の自由や権利を規定している。国民の国家運営、例えば投票や政治活動も確立している。それから社会的な観点も確立されている。社会福祉と公共サービスで国家がどの程度社会福祉や公共サービスを提供すべきかだ。
不足していると思う点は、経済政策と歴史や文化、そして国際展開についてだ。まず日本として、どのように経済発展を推進し、管理するべきかが曖昧だ。それから歴史的な観点として国のアイデンティティを戦後失ったまま、GHQのWar Guilt Information Programが未だに色濃く残る教育が基本になっている。正月に寺社仏閣にいく方々は多いが、日本古来の考え方や文化や風習の理解が教育現場から取り除かれているままだ。日本のアイデンティティ、つまり国家の歴史や文化に対しての正しい理解と解釈がないまま育っている若者がとても多いのだ。その結果、国家としての愛着や誇りの形成が他の国々と比較して明らかに曖昧な感じを受ける。さらに、国家としての国際的な観点が特に脆弱に感じるのだ。外交政策は未だ米国がすべて正しく我が国の意思が感じられない。本来は、日本として他国とどのような関係を構築して維持すべきかがあり、それを軸にした国際展開を行うべきなのだ。その軸をベースに、国際社会においてどのように役割を果たすべきかなどと議論が続くのが合理的なプロセスだと思う。
国家観を改めて議論して整理するために、今の政治的な観点、社会的な観点を軸に、日本としての経済的な観点、歴史及び文化的な観点、そして国際的な観点を正面から議論することが非常に重要になると思う。本来国家観は、個人の価値観、教育、経験、社会環境、歴史的背景などによって形成され、変化するものだが、多くの国々ではその時々の戦争により、価値観を大きく修正されている。独立国であれば、本来は独立した国家観を明確に形成しなおすべきだ。
1945年9月2日。日本はポツダム宣言を受け入れ、降伏文書に調印した。この日をもち第二次世界大戦が公式に終結し、連合国軍の占領が開始される。1947年5月3日。新しい日本国憲法が施行された。この憲法は、民主主義と平和主義の基本原則を掲げ、日本の統治機構を大きく改革した。1951年9月8日。サンフランシスコ平和条約が調印され、この条約により、連合国と日本は正式に戦争状態を終結させ、日本は主権を回復するための道を歩み始める。1952年4月28日。サンフランシスコ平和条約が正式に発効し、日本は連合国軍の占領から解放され、完全な主権を回復する。この日をもって、日本は再び独立国家として国際社会に復帰したのだ。
ドイツも日本と同じように、敗戦した。1945年5月8日に無条件降伏。ナチス・ドイツは崩壊。戦後、ドイツは連合国(アメリカ、ソ連、イギリス、フランス)により占領され、東西に分割された。西側連合国(アメリカ、イギリス、フランス)は、西ドイツ(ドイツ連邦共和国)の成立を支援し、ソ連は東ドイツ(ドイツ民主共和国)を支援した。
1948年、連合国の支持を受けて、西ドイツの州代表からなる議会評議会が設立。この評議会は、西ドイツの新しい憲法を起草するために集まる。1948年9月から1949年5月までの間に、議会評議会は基本法の草案を作成し、連合国の承認を受ける。1949年5月23日、議会評議会は基本法を正式に採択し、同日、基本法は発効し、西ドイツの憲法としての役割を果たすことになる。基本法は、将来のドイツ統一を前提とした暫定的な憲法として位置づけられ、基本法と呼ばれたが、事実上の憲法として機能した。1949年10月7日、ソ連の支援を受けた東ドイツは独自の憲法を制定し、ドイツ民主共和国が成立した。
1990年10月3日、東西ドイツは再統一された。再統一に際して、基本法は統一ドイツの正式な憲法として維持される。再統一後、基本法の一部条項が改正され、新しい統一国家の要件に適合させるための修正が行われる。そして基本法は制定以来、幾度も改正されている。基本法はドイツの法秩序の基盤を形成し、民主主義、人権の尊重、法治国家の原則を保証しているのだ。
日本とドイツの類似点は、ベースとなる憲法が戦後の占領下で連合国監督のもと行われていることだ。しかし、ドイツは暫定的と捉え、東西の統一後も憲法を改定しながら独自の国家観を構築している点だ。一方で日本の憲法は1947年の施行以来、一度も改正されていない。もちろん改憲に関する議論は戦後一貫して続いており、特に第9条を中心に多くの論争が繰り広げられてる。
論破したい観念として、その改憲を反対するベース、つまり歴史及び文化的な観点はGHQ支配下のときの影響が大いに残っており世論を形成している点だ。結局、ゼロベースの議論というわけにはいかず、かといって戦前の日本の国家観に戻すとすぐに戦争というレトリックを使う対立構造が打ち立てられる。結果的に国内での議論をストップさせ平和ボケした日本が出来上がっているのだ。
この状況を良しと捉えるか悪しと捉えるかは各自の判断だ。ただ、日本の経済成長は戦後から始まり1990年代をピークにストップした。教育もゆるくなり、企業は働かない社員を増産させた。ハードワークを推奨するつもりは毛頭ないが、国際的な競争力が無い社員が努力や啓蒙をすることなく企業価値を高める取組ができないでいる。そして確実にやってくる高齢化に対して打ち手が無い。人手が不足する産業についても10年も20年も前から分かっているのに誰もてを打てていない。デジタルがかなりのスピードで進化しているにもかかわらず積極的に活用する指針が無いのだ。
今後10年、20年。今の延長で捉えた日本は頑張ってもステイ。基本は更に悪くなるだろう。日本は物価も安く安全で清潔。治安も良い。ただどんどんと人の心が貧しくなっている。本来の文化的な価値観や何千年と続いた我々のマインドがわずか50年から100年の間で変わってしまうのはもったいない。ぜひ、2000年以上の日本の歴史や文化を俯瞰しながら我々のマインドを取り戻し明るい将来にむかおうではないか。
そのための一歩は、国家観の打ちの教育と文化的な考えを正しく認識することだと思う。
新規事業の旅134 北海道事情
2024年8月5日
早嶋です。(約4300文字)
北海道銀行が8月1日に発表した「北海道経済の見通し」を基に、札幌で感じた内容をメモする。
日本全体の経済は、所得改善により回復傾向を維持。物価高の影響で消費は抑制されているが、企業収益の増加に伴い大手から賃上げが促進され個人消費と設備投資は増加。実質GDP成長率ぜ前年比0.6%、名目で2.5%のプラス。
次に北海道経済は、設備投資主導で回復基調維持。特にGX関連や次世代半導体製造の工場投資が経済を牽引している。インバウンドの回復も著しい。道内の成長は実質GDPで前年比1.4%増、名目で3.9%増なので、日本平均よりも経済が活性化している。
道内での物価高の背景は国内とほぼ同じくエネルギーコストの上昇、為替だ。原油価格の高止まりに追従して供給チェーンで問題が生じた。部品不足と輸送コストが増加し、同時に円安の影響で輸入品価格は上昇。一方で大手中心に賃上げ促進した結果、企業のコスト負担が増加傾向。結果的に、個人消費は抑制され家計の購買力は低下。企業の生産コストをコロナあけから順次価格に転嫁した影響もある。
一方で、個人消費が復活しつつある。賃上の影響が個人所得に影響している。労働市場も改善しており雇用状況は良い。海外からの観光客が戻り地元の消費を高めている。実際、札幌市内や郊外の観光地を歩くと中国、韓国、台湾からの観光客が多いことに気づく。24年4月に北海道を訪問した外国人の宿泊者数は45万人で前年比で4割程度の増加だ。北海道全体の外国人観光客のピークは2019年度で年間約678万人だった。再びピークを超す勢いに迫っている。
北海道の設備投資は、GX関連、半導体関連、そしてそれらに付随するDX関連が中心だ。グリーントランスフォーメーション(GX)関連は、脱炭素化のための再生可能エネルギープロジェクトで風力発電施設など投資額が大きく、維持メンテナンスコストも続くことが予測できる。具体的な施設は、宗谷管内および日高管内での風力発電施設の建設だ。風力でも洋上風力発電は室蘭港を拠点港(母港)として開発が進んでいる。
半導体関連では、次世代半導体の製造を目指すラピダス社の工場および試作ライン建設に伴い、設備投資計画が数兆円に上ると報じられている。これにより、道内の設備投資を大幅に押し上げることが見込まれている。エリアは、主に千歳市や苫小牧市近辺が中心で、国内外の半導体関連企業が進出するケースが目立っている。2024年度の実質設備投資は前年比+39.3%(名目:同+41.1%)と予測され、先の述べたGX関連や次世代半導体製造の工場関連の大型設備投資が道内経済を押し上げるのは間違い無い。千歳は新千歳空港のお膝元で、苫小牧は洋上のアクセスが良く、広大なエリアが広がっており今後の開発を鑑みると、札幌エリアの不動産が今後も勢いを増すことが想定できる。
ただし、気になることがある。人材の確保についてだ。次世代半導体の仕事を担う人材は、各種専門的なスキルと知識と経験が求められる。
半導体プロセスエンジニア:半導体製造プロセスの設計と最適化を担当する。物理、化学、材料科学の知識が求められる。
設備エンジニア:製造装置のメンテナンスや運用を担当する。機械工学や電気工学の背景が必要だ。
テストエンジニア:半導体デバイスのテストと品質管理を行う。電子工学や計測技術の知識が重要。
材料科学者:新しい半導体材料の開発と特性評価を担当。材料科学や化学の専門知識が必要。
デバイスエンジニア:新しい半導体デバイスの設計と開発ナノテクノロジーやデバイス物理の知識が求められる。
サプライチェーンマネージャー:半導体製造に必要な材料や部品の調達と供給管理を担当。ロジスティクスやサプライチェーン管理の経験が求められる。
生産計画マネージャー: 製造プロセス全体の効率を最適化し、生産スケジュールを管理。製造業務の経験が重要。
ソフトウェアエンジニア:半導体製造装置の制御ソフトウェアやデータ解析システムの開発を担当。プログラミングやソフトウェア開発のスキルが必要。
データサイエンティスト:製造プロセスから得られる大量のデータを解析し、プロセス改善に役立てる。データ解析や機械学習の知識が求められる。
環境エンジニア:半導体製造の環境影響を評価し、環境規制に準拠した運用を確保。環境科学やエンジニアリングの知識が必要。
安全衛生マネージャー:製造施設の安全管理と労働安全衛生を担当。安全工学や労働衛生の知識が求められる。
と一般的な半導体エンジニアの種類と背景を並べた。これらの多様な専門職が協力し合って、次世代半導体の開発と製造を支えることになる。次世代半導体関連の投資による新規雇用は、ラピダス社の工場および試作ライン建設に伴い、直接雇用と間接雇用を含めて数千人規模だ。国内は技術系を中心に人手は不足している。ここの確保と育成が当面の課題になると思う。
国内の半導体関連は熊本が選考している。TSMCが中心になり、主に最先端のロジック半導体(プロセッサやデジタルシグナルプロセッサなど)を製造している。TSMCの工場では、最新の製造技術を駆使した7nm、5nm、さらには3nmプロセス技術を用いた半導体製造が行われる。TSMCの半導体はスマートフォン、PC、データセンター、自動車などの多様な分野で利用される。
TSMCで必要とされるエンジニアのスキルと経験は、プロセスエンジニアは最先端のプロセス技術(7nm、5nm、3nmなど)に関する深い知識と経験。デバイスエンジニアはロジック半導体の設計と最適化の経験。装置エンジニアは半導体製造装置の運用とメンテナンスに関する技術。テストエンジニアは高度なテスト技術と品質管理のスキルが欲しいところだ。
ラピダスの半導体は、次世代半導体の製造を目指している。最新の製造技術を活用した半導体で、特にAIやIoT、5Gなどの新しい技術に対応するための高性能かつ高効率な半導体だ。用途も、AI、IoTデバイス、5G通信、自動運転車などの新興技術分野に重点を置いた製品が多いと予想される。
ラピダスで必要とされるエンジニアのスキルと経験は、プロセスエンジニアでは次世代技術(AI、IoT、5G向け)の製造プロセスに関する知識と経験。材料科学者は新しい半導体材料の開発と特性評価の経験。デバイスエンジニアはAIやIoTデバイスのための高性能半導体の設計経験。システムエンジニアはAIやIoTシステムの統合と最適化に関するスキルが必要とされるだろう。
同じ半導体関連でもTSMCとラピダスでは、製造する半導体の種類や用途が異なるため、必要とされるエンジニアのスキルや経験にも違いがでる。TSMCでは最先端のロジック半導体の製造に特化した技術と経験が求められる一方、ラピダスでは次世代技術を支えるための新しい材料やプロセス技術に関する知識が重視される。ただ、この流れをみても熊本のエンジニアと北海道のエンジニアの協力は今後活発になり一定の行き来が必要になるのではないだろうか。札幌と阿蘇熊本。どちらも食文化が良く、観光にも自然にも恵まれているエリアだ。テクノロジーの発展とともに南と北の融合にも期待したいところだ。熊本菊陽町の不動産の瀑上がりと人件費の超高騰によって、観光業におけるサービス産業の人員の奪い合いも始まるだろう。大卒エンジニアの初任給を40万程度から取り始めるだろうから、道内の大学も数年かけて半導体エンジニアの育成をはじめるだろう。
熊本の動きは、まずはその道のプロを多数招致している。国内外の半導体業界から専門知識を持つエンジニアや研究者を招致するのだ。そして大学や研究機関との連携をすすめる。半導体分野での研究が進んでいる大学や研究機関と連携し、優秀な学生や研究者を採用するのだ。企業は現地の技術者に対して、専門的な研修プログラムを提供し、半導体製造の知識と技術を習得させる。職業訓練学校も、半導体製造に特化した職業訓練学校を設立し、地元の若者を育成し始めている。他の製造工場よりも供給が不足する間は給与が高いので、雇用される側のやる気も高くなっている。
パートナーシップと協力も進んでいる。半導体関連企業と連携し、研修プログラムや人材派遣を通じて必要なスキルを持つ人材の育成だ。もちろん政府も絡む。政府の支援を受けて、雇用創出と教育プログラムの充実を図るのだ。すると学生の動きも変わってくる。学生や若手技術者に対してインターンシップを提供し、実務経験を積ませる動きが活発になるだろう。経験豊富な技術者の下で見習いとして働くことで、実践的なスキルを習得しようとする技術者も出てくるだろう。
もちろん優秀な人材はすべて現地で調達できない。昨今のDXを活用して地理的な制約を超えて、リモートで技術支援を行うことで、国内外の専門家の協力を得る動きも必要だろう。これだけの動きになると、半導体技術を学ぶ学生に対して奨学金を提供し、優秀な人材を育成する動き、大学や研究機関に対して研究助成金を提供し、半導体関連の研究を推進する動きも活発になる。日本の南と北で半導体を軸に文系くんよろしくねの世界から再び理系くんいらっしゃいの世界が再構築されようとするのだ。これは日本の未来にとって嬉しい限りだ。
北海道を取り巻く設備投資の増加、GX関連と新型半導体関連、そしてそれらに付随するDX関連の大型投資は継続的に続くことが予測できるし、短期的な取組でできる計画ではない。風力発電所施設の建設と運用、データセンターの建設と運用、洋上風力そして次世代半導体関連。これらの事業を立ち上げ運用するためには、圧倒的に技術に明るい、そして一定の専門を持つ人材が大量に必要になる。そしてその仕事をするものは一定の給与水準以上を約束される。一企業の中で省人化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環に携わっている人材は、給与を比較しながら札幌か熊本に拠点を移して新たな10年、20年のキャリアを開拓することも可能だ。そうなると、中央に在籍するメーカーのエンジニアは人材を捉える格好になるので、自分たちの成長ビジョンを明確に示し、人材のキャリアビジョンを示し、見合った給与を支払うことをしなければ日本の両端に人材を吸収されることになる。
道内の経済だけでなく、日本全体に一定の影響を与える活動になって欲しいものだ。
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新規事業の旅133 台湾事業その3再び物価
2024年8月2日
早嶋です。(約1400文字)
台湾のコンビニやスーパーでは、日本製の食品や薬品、家庭用品が沢山そのまま販売されている。そして値段はどこも日本人からみると割高に感じる。背景は輸入コスト、関税、規模の経済がある。台湾は多くの製品を輸入に依存する。その中でも日本製は高品質と見なされ、輸入コストをかけて販売される。さらに関税も追加されている。従い街中の日本製の商品が割高で販売される。
経済学に規模の経済の概念がある。少量生産よりも大量に生産することで1つあたりの生産コストを下げる効果だ。日本のコンビニエンスチェーンは非常に大きなネットワークを構築して、スケールメリットを最大に活用した事業を展開している。一方、台湾の小売チェーンはその規模に達することが出来ず、スケールメリットを提供することが出来ていない。
更に、特定の商品を消費する傾向も文化として観察できる。一度良いとされる商品にであうと繰り返し利用する、結果的に特定の商品に対しての高い需要が発生する。特に日本製のお菓子や玩具、家電は高品質でプレミアムの価格が付けられても消費が鈍らないのだ。台湾から観光客が押し寄せて、日本製品を爆買いする様子が一時期観察された。2024年は日本の為替の影響も重なり、すべての商品が大バーゲンであり、こぞって買い物したくなる気持ちも良く理解できるのだ。
では具体的な価格の違いを見てみよう。例えばお菓子だ。日本でキットカットを購入する。コンビニでも150円から200円で購入できるだろう。台湾では、約60台湾ドルなので300円近くになる。おにぎりは国内で100円から150円。台湾では40台湾ドルから60台湾ドルなので200円から300円だ。トイザらスで見たレゴセットは台湾で、1,000台湾ドルから1,500台湾ドルだ。同様の商品は日本だと3,000円から5,000円程度だ。
2023年時点、台湾の人口は2350万人。国土は36,000km2。面積は急羽州全体とほぼ同じ大きさだ。九州の面積に2倍の2350万人が暮らして一つの国家を形成している。産業の多くは、半導体やITに傾倒して、不足する食料や製品は輸入に頼る。付加価値の高い産業を育成して、そこで得た益を輸入に当てている。そう考えると実に合理的な国だと言える。
日本は、製造品の中で薬や一般家庭商品や食品は多くのポテンシャルを持っており、その品質は、同様の競合と比較して恐ろしく高いレベルだと思う。ソニーやパナソニックなどの家電メーカーはこぞって世界に進出している。しかし日本の食品メーカーは、国内にこもっており、外貨を稼ぐことを余り行っていない。
台湾で現地で工場を持って展開している企業はビールメーカーのアサヒやキリンぐらいだ。他の食品メーカーは現地に工場を進出せずにせっせと日本から輸出している。国内の人口規模や産業規模を鑑みると以前の電機メーカーのように海外に進出すると良いと感じる。
ジャパンクオリテイは食品にこそ注目が集まるのではないか。その品質を現地で再生して価格で勝負する。その際のきめ細かい品質管理は実は日本のお家芸とも言えるのではないか。ハングリーな食品メーカーが進出して、もっと展開しても良いのではと考えてしまった。
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新規事業の旅132 台湾事情2024その2背景
2024年8月2日
早嶋です。(約8000文字)
台湾がこの10年から15年で急激に成長している背景について考察する。次の視点を立てて考える。
・ハイテク産業の成長
・グローバルサプライチェーンの一部としての役割
・政府の経済政策
・スタートアップ支援
・人材の質
(ハイテク産業)
まずは、ハイテク産業の成長だ。台湾は半導体や電子機器の製造において世界的に重要な地位を占めている。特に、TSMC(台湾積体電路製造)などの大手半導体メーカーは、世界中のテクノロジー企業にとって不可欠な存在になっている。TSMCといえば九州熊本菊陽町の物価や土地建物価格を一気に上昇させた会社でも有名だ。スマフォ、パソコン、自動車など、さまざまな製品に使用される半導体の需要が増加し、台湾の輸出収入が大幅に増加しているのだ。
技術が躍進する足元には必ず戦略的な人材育成があると考える。台湾も同じ用に、再現性高く人材を輩出するメカニズムを持っていると思う。ブログその1でも考察した通り、台湾は人口増加がさほど顕著でない中、質の高い人材を輩出している。台湾の教育システムは、特に科学技術分野に特化して充実させている。理工系の大学や専門学校が多く存在し、高度な技術教育が行われている。また、研究開発に対する奨学金制度や政府の支援プログラムも充実しており、学生が技術分野でのキャリアを追求しやすい環境が整っているのだ。日本は、文系の方が大学に入りやすいからと言って7割が文系という不可思議な発想が未だにつついている。文系はもちろん重要ではあるものの、そのベースに理科系の発想を組み入れることが重要だと思う。
台湾の教育機関は国際的な協力関係を戦略的に構築している。多くの学生が留学や国際的なプロジェクトに参加し、国際的な視野を持つ人材が育成される。あわせて最新の技術や知識を台湾に持ち帰ることにも貢献している。中国と台湾という微妙な地政学の影響も大きく影響しているだろう。同じ島国でありながら、緊張感の差は大きいのだ。
産学官の連携も強い。学生はインターンシップや共同研究プロジェクトを通じて、在学中から実際の業務に触れる機会が多い。そして卒業後すぐに即戦力として活躍できるスキルを身に付けている。もちろん企業での人材育成も工夫されている。企業内での研修プログラムや継続教育の機会が豊富で、社員のスキルアップが図られているのだ。台湾の企業は、教育の充実を離職防止と捉えている。技術者に成長する環境を提供しつづけることが優秀な人材の流出を防ぎ企業内に高い技術力を維持すると考えている。
更に、ベンチャー企業の支援も力が入っている。テック企業の人材育成に加えて若手の起業環境を整備している。これらは台湾そのものの文化とも一致していると思う。教育や仕事に対する高い意欲と勤勉さを持つ文化があり、この文化を技術分野に集中して高い専門性と技術力を持つ人材の育成に寄与しているのだ。
(グローバルサプライチェーンの一部としての役割)
台湾はグローバルサプライチェーンの重要な一部となった。特にアジア地域においてその役割は大きい。台湾企業は、中国、日本、韓国、アメリカなどとの貿易関係が強く、これも経済成長の一躍と考える。いくつか台湾のグローバルサプライチェーンの事例を示そう。
TSMC(台湾積体電路製造)。九州熊本でも有名な世界最大の半導体ファウンドリ企業だ。Apple、NVIDIA、Qualcomm、AMDなどの大手テクノロジー企業に半導体を供給する。TSMCの最先端の製造技術(例:5nmプロセス技術)は、スマートフォン、データセンター、AI、5Gなどの分野で使用される重要な半導体を生産する。これにより、グローバルなテクノロジーサプライチェーンの中核を担っている。
Foxconn(鴻海精密工業)。世界最大の電子機器受託製造(EMS)企業だ。AppleのiPhoneをはじめとする多くの電子機器を製造している。Foxconnの工場は中国やインドなどに広がり、グローバルサプライチェーンの重要な一部だ。Foxconnの製造能力は、製品の迅速な市場投入とコスト削減を可能にし、多くの企業にとって不可欠な存在だ。
AcerとASUS。台湾を拠点とする主要なコンピューターメーカーで、世界市場にパソコンやノートブック、周辺機器を供給する。両社とも、自社の設計および製造拠点を台湾に持ち、部品の調達や製品の組み立てを中国や他のアジア諸国で行っている。同社の強みでもある、コスト効率の高いサプライチェーンを構築し、国際競争力を維持している。
MediaTek。台湾を拠点とするファブレス半導体企業だ。スマフォ、タブレット、スマートテレビなどに使用されるチップセットを設計している。MediaTekのチップセットは、Samsung、Xiaomi、Oppoなどの大手スマフォメーカーに供給され、世界中の消費者に影響を与える存在だ。
Delta Electronics。電力およびエネルギー管理ソリューションの大手メーカーで、電力変換器、エネルギー貯蔵システム、再生可能エネルギーシステムなどを提供する。Deltaの製品は、グローバル市場で使用され、特にエネルギー効率の高い製品の需要が高まる中で重要な役割を果たしている。
Pegatron。台湾を拠点とする電子機器受託製造会社で、Apple、Microsoft、Sonyなどの大手企業に製品を供給する。Pegatronは、製品の設計から製造までの全プロセスをサポートし、複雑な製造プロセスを効率的に管理することで、顧客の多様なニーズに対応する。特に、ノートブック、スマフォ、ゲーム機の製造において強みを発揮している。
これらからわかるように、台湾企業はグローバルサプライチェーンの中で、スマフォやIT機器などの電子機器で特に重要な役割を果たしている。その背景には技術力、製造能力、コスト効率の高さと工夫があり、国際競争力を維持しているのだ。
(政府の経済政策)
台湾政府は技術革新を促進するための政策を積極的に推進している。研究開発への投資やスタートアップ企業の支援、外国直接投資の誘致などだ。結果、産学官の連携が促進され、相乗効果で台湾の成長に寄与している。そのキーワードは集中だと思う。
まずはエリアの集中だ。台湾は特定の地域(例えば、新竹サイエンスパーク)にハイテク企業や研究機関を寄せている。場の力を活用して密な連携とイノベーションを促進する目的だ。新竹サイエンスパークにはTSMC、UMCなどの大手半導体企業のほか、多くの中小企業やスタートアップ、研究機関を集めている。相談相手や商談相手が近場にいることは、偶発的なイノベーションを生むためにも大切な要素で、産学官の連携も自然と強化されていくのだ。
次に分野だ。台湾政府は「五加二産業革新計画」などの政策を通じて、特定の産業(半導体、バイオテクノロジー、グリーンエネルギーなど)を重点的に支援している。この政策は、産学官連携の強化と研究開発への投資も促進している。政府の明確なビジョンと支援が、成功要因になっている。日本は、総花的かつ非連続の支援で複利の効果が効いていないと反省すべきだ。
日本のイノベーションを鑑みると、様々な規制があるおかげで、未だに大企業や規制起業が守られている。例えばETCの普及など、一気に進めれば良いものの、「クレジットカードを持たない運転者はどうする?」といった議論で前に進まない。渋滞の原因は明らかにETC以外のレーンがキャパオーバーになり発生するのにだ。背景は元公団などの仕事が縮小されることなどがあるとしか考えられない。タクシーのシェアサービスも然り。タクシードライバーはプロの免許を持たない運転手は危ないとか、素人は研修を受けていないとかでシェアを100%受け入れない。それらを含めて技術の力で仕組みを変えるのがDX、つまりデジタルの力を使ったトランスフォーメーションなはずが、既存のタクシー業界を守るためにシェアサービスが変な形で導入された。ちょいと事例を探せばキリが無いくらい無数に出てくる日本と比較して台湾は柔軟なのだ。産学連携を促進するために、大学や研究機関が企業と共同研究を行いやすい法規制が整備されているのだ。また企業が大学や研究機関と連携して研究開発を行う場合、税制上の優遇措置や補助金が提供されることもある。結果、企業はリスクを低減しながら研究開発を進めることができるのだ。
大学の考え方も成長にフォーカスしている。日本は、アカデミーという名前が選考して実務に程遠い教育を未だに提供する学術機関が良しとされる。情報が民主化され、知的な情報は独学でも学ぶことは可能になった。従い、知っていることそのものは価値が薄く、それらを実践して結果を出すことではじめて価値となる。それでも学びを軸にした学問が未だ多い。一方、台湾の大学は、産業界との交流を重視し、多くのインターンシップや共同研究プログラムを提供する。例えば、国立台湾大学は、TSMCやFoxconnなどの大手企業とのインターンシッププログラムを通じて、学生に実務経験を積ませる機会を提供している。結果、産業界のニーズに即した人材が育成されて、卒業とともに即戦力が増強される仕組みが整っているのだ。
台湾の文化も背景にあるかもしれない。それは、協力と共同作業が重視されることだ。企業、大学、政府機関が密接に連携し、共同で問題を解決する文化が根付いている。このような文化的背景が産学官連携の成功に寄与しているのだ。協力と協業を街中で観察したければ、いつも賑わっている鼎泰豊を覗いてみると良い。常に待ち行列の小籠包で有名な飲食チェーンだ。あらゆる客層に柔軟に対応し、店舗スタッフは寡黙に休みことなく気持ちの良い接客をする。阿吽の呼吸で飲食の提供や顧客の案内、次の顧客を案内するまでの間のテーブルのセットなど、気持ちの良いサービスが提供される。そしてその協業ぶりは実に見事だ。
この協力体制は国内のみならず、常に世界に視野を向けている。台湾の大学や研究機関は、国際的なネットワークを活用して、海外の大学や研究機関と連携している。例えば、国立交通大学は、アメリカやヨーロッパの多くの大学と共同研究プロジェクトを行っている。そして最新の技術や知識が台湾に導入され、国内の研究開発が更に促進するという良いサイクルを構築しているのだ。これらの要因が組み合わさることで、台湾の産学官連携は成功しているのだ。政府の積極的な支援、法規制の整備、文化的背景、国際的な視野が、特に重要な役割を果たしていると言える。
(スタートアップ)
企業や地域が成長する前提として、その卵が沢山産まれることが前提だ。台湾のスタートアップは政府や学術機関、それから民間の支援も重なりユニークな特徴を持っている。そして台湾がスタートアップやイノベーションを促進するための重要な要素となっていのだ。
台湾政府は「Startup Taiwan」プログラムを通じて、スタートアップ企業への資金援助やインキュベーション施設の提供を行っている。このプログラムには、資金調達、ビジネスモデルの開発、マーケティング支援などが含まれ、スタートアップ企業が初期段階での課題を乗り越えるための包括的な支援が提供される。そして場とネットワークの提供として、台湾には多くのインキュベーションセンターやアクセラレーターが存在し、スタートアップ企業に対してオフィススペース、メンターシップ、ネットワーキングの機会を提供している。例えば、台北市政府が運営する「Taipei Tech Arena」は、スタートアップ企業に対して技術支援やビジネスマッチングの機会を提供し、多くの成功事例を生み出している。
台湾のスタートアップは、中国を市場として考える一方で世界にも目を向けている。内向きの事業も外向きの事業も非常にポテンシャルが高く、始めから国際的なネットワークを見ているのも特徴と言える。更に、台湾のスタートアップは、政府や民間の支援を受け国際的な市場へのアクセスを得やすい環境にあるのだ。例えば、「Asia Silicon Valley Development Plan」の一環として、台湾はシリコンバレーとの連携を強化し、スタートアップ企業がアメリカ市場に進出するための支援を行っている。また、国際的なスタートアップイベントや展示会に参加する機会が多く、グローバルなネットワークを構築しやすい環境にあるのだ。
鶏と卵ではないが、成長する源泉にはその成長によってリターンを得たい組織のネットワークも構築される。その証として、台湾には多くのベンチャーキャピタル(VC)が存在する。スタートアップ企業に対する投資が活発で、政府もVCファンドに出資し、スタートアップ企業への資金供給を促進していり。これにより、スタートアップ企業は必要な資金を迅速に調達できる環境が整うのだ。
繰り返し述べてきたが、台湾は場所と業種を一定絞ってのイノベーション開発を行っている。半導体やICT(情報通信技術)の分野で世界的に重要な地位を占め、スタートアップ企業もこれらの先端技術を活用しやすい環境にあるのだ。そして官民問わず積極的に協業を行いながら小さな実験を積み重ねる機会を多数生み出しているのだ。「Taiwan Startup Stadium」は、政府、民間企業、大学が協力して運営されており、スタートアップ企業に対して包括的な支援を提供している。このような連携により、スタートアップ企業は多様なリソースを活用できる環境が整う。まさに台湾のベンチャー起業支援は多様で包括的だ。スタートアップ企業が成功するための土壌が整っているのだ。政府の積極的な支援、インキュベーションセンターの存在、国際的なネットワーク、VCの活発な投資、技術力の強化、そして公共・民間のコラボレーションが、台湾のスタートアップエコシステムを支えていると言っても過言では無いのだ。
(人材の質)
台湾の人材の質は高い。台湾の人口動態を見ると、日本と同様に高齢化が進んでいる。2010年の時点では平均年齢は39.5歳だったが、2024年では44.6歳に達している。2020年の日本の国政調査の結果から、日本人の平均年齢は47.6歳なので台湾と日本の平均は大きく変わらないといって良い。
台湾の出生率も日本と同様に長期的に低下傾向だ。2023年の時点で、出生率は8.386人/1000人だ。また、総出生率(TFR)は2022年に0.87人/女性で、これは世界平均の2.3人/女性を大きく下回り、日本と比較(2021年で1.3人)してもかなり低い。現時点で台湾の65歳以上の人口割合は2023年に18.4%に達しているので、今後の台湾でも急速に高齢化が進むことがわかる。この人口動態の変化は、台湾の社会保障制度や労働市場に大きな影響を与える。高齢者人口の増加は、医療費や年金支出の増加を招き、若年層の労働力不足が経済成長を抑制する可能性があるからだ。台湾政府は、これらの課題に対処するために、出産奨励政策や高齢者の社会参加を促進する政策を実施していり。また、技術革新と自動化を推進し、生産性の向上を図る取り組みも行っている。日本でも同様の取組を行っているがスピード感や集中といった点で大きく結果が水分されているのだ。
日本と台湾は同じ島国だ。日本は隣国や中国やロシアとの脅威が常にありながら人口減少に対して明らかな打ちては見せていない。一方台湾は、中国からの侵略リスクに対してもハイテク産業と軍事産業のバランスを取っているように観察できる。台湾は、ハイテク産業で培った技術を軍事産業に応用し、両者のバランスを取っている。例えば、半導体技術や通信技術は、軍事装備や防衛システムの強化に役立っているのだ。ハイテク産業の人材が間接的に軍事力の強化に貢献しているのだ。これはイスラエルも同様だ。人材が少ない国々で軍需が豊かな国はハイテクと軍需の両立を担うことでバランスを取っているのだ。
それから台湾は予備役制度を強化している。平時は民間のハイテク企業で働き、緊急時には軍事産業や国防任務に従事できるようにしているのだ。このシステムも若い労働力を軍事とハイテク産業の間で柔軟に配分することに成功している。
ただ、台湾のように一定の科学技術分野にリソースを集中しすぎると、他の業界では人手不足を生むのではと考えるだろう。台北市内を歩くと、建設ラッシュが今も進んでいることがわかる。諸々話を聞くと日本と同様に人で不足は問題視されている。特に中堅技術者や職人、機械操作員の不足が顕著だ。2022年には、建設業界全体で約11万8000人の労働者が不足していると報告されている。背景は日本似ている。若者が建設業界に参入することを敬遠する傾向があるのだ。建設業は低賃金で労働条件が厳しいと見なされ、親世代も子供にこの業界を勧めない傾向があるのだ。また、他の業種と比べて社会的地位が低いとされることも要因の一つだ。
そこで台湾政府は、労働力不足を補うために外国人労働者の導入を推進している。最近では、新たに8000人の外国人労働者を建設業界に受け入れる計画が発表し、需要に応じてさらに1万5000人に増やす可能性もある。政府はまた、移民労働者の雇用を容易にするための新しい人口政策と移民政策を推進している。これには、外国人専門職や留学生を引き寄せ、既存の外国人技術労働者の定着を図るプログラムだ。これにより、即戦力となる外国人労働者の確保を目指しているのだ。
もちろんこれだけでは根本の解決にはならない。そこで建設業界の魅力を高めるために、政府と業界団体は職業教育の推進や職業資格の価値向上に取り組んでいり。これにより、若い世代が建設業に関心を持ち、参入する動機づけを提供することが狙いだ。ただ今の不足感を見ると、やはりハイテク産業に人員を割かれ、政府の思惑通りに建設業界の問題が解決するということは簡単に実現できないだろう。
台湾の人材は、非常に勤勉で優秀だ。なんか昭和の頃の日本のような感じを受ける。自国の成長や今の生活水準を上げるために皆が黙々と高みを見ている感じだ。もちろん台湾の教育システムは非常に競争力があり、高い教育水準を誇っている。特に科学技術分野での教育が充実しており、多くの学生が国際的な競技会で優れた成績を収めている。ただ、今の日本と比較するとすごいな!と思うが1980年代の日本も同じような傾向だったのではないか。
台湾の経済は活発で、多くの人々が朝から夜まで働いている。特に都市部では、夜市や24時間営業の店舗が多く、街全体が活気に満ちている。戦後の日本とまではいかないが、発展している国の街中はどこを歩いても活気がある。日本が低迷しているのではなく、なんとなくある程度の地位を獲得してしまって、そこからさらなる高みを見るとこを忘れてしまったのでは無いだろうか。
台湾は少し前の日本なのかもしれない。怒られるかもしれないが、皆新設で、民度が高く、社会全体の活気や人々の高い生産性に国民が一丸となって貢献しているように感じる。教育、経済活動、社会文化のいずれもが台湾の人々の優秀さと活力を支えているのだ。
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