新記事業の旅その33 ストレッチ目標
2023年1月25日
早嶋です。
社歴が長くなると事業を展開し、複数の事業を経営することになる。
その理由はいくつかある。例えば、
・企業全体の業績の標準化
・衰退事業の補完
・企業の成長や企業価値向上
・余剰キャッシュの再投資
・経営者や株主の願望
・シナジー創出
などだ。
一方で、事業のメカニズムを考えると、新たな事業を創造するタイミングは創業期を除けば、少し異なる。止まっている物体に加速度を与える必要があるからだ。それは既存の事業が安定的にキャッシュを稼いでいる間に、そのキャッシュを新規事業に投資するという現場では理解不能な取り組みを支持されることになるのだ。しかも、安定している事業において改革を促し、10人で仕事をしていた内容を5人とか3人とかに減らされるのだから現場は意味不明を連発するだろう。そのために、多くの場合、社員や組織のマインドセットは重要だ。
そこで企業の多くはストレッチした目標を掲げる場合が多い。例えば、
・現在の売上600億を2030年までに1000億に!
・現在の売上600億を既存で100億増やし、新規で300億増やして100億に!
等々だ。
ストレッチ目標を掲げる理由は、現状に対してのメッセージで非常に重要だ。しかし、掲げてリだけの組織が多い。企業は、そのメッセージを経営者から現場に伝えたら、伝わっている、理解すると勘違いする。しかも1回でだ。しかし、多くの場合、現場は見向きもしない。むしろ何事も無かったのように過ごす。
ストレッチ目標を掲げることのメッセージには、現状のやり方では出来ないから、新たなやり方であったり、全く異なる視点で行動してね。というメッセージにもなる。が、そもそも現場がその必要性を1mmも理解していない。止まっている物体は外圧が働かないと動かないのだ。
どんなにトップが大きな数字を掲げても、現場は細分化された仕事の流れとあまり変化しない目標数字に対して、従来の延長で大丈夫だろうと何となく考えるのだ。自分に都合が悪い解釈は意図的に排除する。仮に、現場に数字が到達したとしても、現状とのギャップが大きすぎて、初めから無理と決め込んでいる場合もある。
トップはストレッチ目標を掲げた場合、
・その数字を掲げた理由と現状を維持した場合の実際の状況の説明
・ストレッチしたギャップがどのくらいあるのかの明示
・そのギャップをどのように埋めるかの大きな方針
は最低示すべきで、
・そのギャップを達成するためにトップのコミットメント
・同様に、マネジメント層の具体的なコミットメント
・そして、それらを実現するためのメカニズム
を現場の隅々にまで、根気よく、何度も、期間をかけてコミュニケーションすることが大切だ。
初めは無理と決め込んでいたマネジメントや現場の一部が動き始めると、少しづつであるが可能性が可視化され、トップがコミュニケーションしている状況が、より解像度高くみえてくる。そして、それを頑張って半年から1年程度繰り返すことで、確実にその半年前とか1年前の現状よりも状況が良くなっている。加速度がついた物体は動き始めると動き続けるのだ。
ただ、動き出した状態になれると次はその変化が見えなくなる。そこで、トップは意識的に現場や事業、会社全体の行動における状況の変化を示し、半年前や1年前との違いを示し、劇的な変化につながっていることを現場や社員やマネジメントに共有することも責務だ。
この経験を積んだ組織は5年から10年は挑戦を続けるようになる。同時に辛い状況を進んで受け入れ改革することが当たり前になる。辛い状況や課題が沢山整理された状況は、解決すると勝機につながると捉えるからだ。
トップは、ストレッチ目標を示すだけではだめなのだ。トップは、そこに向けて具体的な方針と継続的な行動を現場の隅々に見せることが大切で、動き出したら、検証した取り組みと成果に対してもチームに示しながら一体感を演出することも仕事なのだ。
新規事業の旅(34) 複利の効果
新規事業の旅(33) ストレッチ目標
新規事業の旅(32) 需要と供給
新規事業の旅(31) ジョブと障害とキャズム
新規事業の旅(30) OEは最早役に立たたない
新規事業の旅(29) 売り手のトラブルは売り手の無知から
新規事業の旅(28) 動画サブスクの落とし穴と処方箋
新規事業の旅(27) 仲介会社のビジネスモデルと買い手の事情
新規事業の旅(26) M&Aの勘所を押さえる
新規事業の旅(25) キャズムを超えるまでのKPI
新規事業の旅(24) 敵のコトを知りつくそう
新規事業の旅(23) 道具の使い方
新規事業の旅(22) 売ってから始まる事業
新規事業の旅(21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(18) アンゾフ再び
新規事業の旅(17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(16) キャズムを超える
新規事業の旅(15) 偶然と必然
新規事業の旅(14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(13) ポジションに考える
新規事業の旅(12) 山の登り方
新規事業の旅(11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(10) NBとPB
新規事業の旅(9) 採用
新規事業の旅(8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(6) 若手の教育
新規事業の旅(5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(4) M&Aの成功
新規事業の旅(3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(1) 旅のはじまり
【動画】22年度BRM 1級
2023年1月18日
※本ページは、2022年度BRM1級の研修を受講される方向けのページです。
2022年度のBRM1級研修会に参加される対象者は、以下の動画を視聴し、事務局の指示に従い事前課題の作成、当日議論に必要な資料の準備を行って下さい。
2月27日、28日の2日間で、事前課題の深堀りや議論を通じて、考え方を整理します。また、左記2日間で議論した内容を基にプレゼン資料を作成いただきますので、当日の議論に必要な資料(特に、自社、市場、競合)等は、各自持参下さい。
(視聴動画)
事業分析の基礎_概要
約20分の動画です。BRM1級の視点を整理する内容です。店舗を取り巻く環境を考えながら、レンタカー事業全体を分析して問題、課題、解決策を立案する流れをイメージしながら視聴下さい。
事業分析の基礎_前提条件
約12分の動画です。レンタカー事業を分析する前提として、企業全体の概要、ミッション、ビジョンを確認します。特に、自社が直近から数年先にどのような売上や利益目標を掲げているかは明らかにして当日の研修に参加して下さい。また、直近の事業分析も適宜行って下さい。
事業分析の基礎_問題課題
約14分の動画です。レンタカー事業の問題の特定の考え方と課題の発見の考え方を解説しています。レンタカー事業の課題を特定する際に、市場、競合、自社、マクロの視点で情報を収集します。詳細は、次の動画で整理しています。
事業分析の基礎_市場顧客
約16分の動画です。課題の発見を行う際の市場分析の考え方です。
事業分析の基礎_代替競合
約11分の動画です。課題の発見を行う際の競合分析の考え方です。
事業分析の基礎_自社
約18分の動画です。課題の発見を行う際の自社分析の考え方です。
事業分析の基礎_マクロ
約12分の動画です。課題の発見を行う際のマクロ分析の考え方です。
事業分析の基礎_解決策
約23分の動画です。課題の発見を行った際に、どのように解決策を立案するかを示しています。レンタカー事業全体の経営を考えるために、合わせて事業部長の視点や考え方を解説しています。
事前課題の取り組みを行う際に、上記動画の流れや考え方を参考に準備して下さい。不明な点や、わからない点は当日の研修で議論しながら解決していきます。パワーポイントのフォーマットを完成する事が目的ではなく、BRM1級として、どのような考えを持ち、取り組むかを理解頂くための課題です。試行錯誤しながら適宜必要な資料や分析を行いながら準備して下さい。
18歳と20歳のせめぎ合い
2023年1月16日
早嶋です。
成人式は各自治体で表現を変え、二十歳の集いや二十歳の会などとして、従来と同じように行われている。小学生では10歳を向ける時期にハーフ成人式というセレモニーが何かしら行われ、親はこの成長を感じる時を迎える。
が、成人の定義が曖昧で、投票は18歳に引き下げられたが、タバコやアルコールやギャンブルなどは従来通りの20歳で、少年法等のルールも20歳を軸に設定されている。一方でクレジットカードは18歳でOKで、パスポートも18歳になれば自分で取得ができる。つまり18歳から20歳の3年間が非常に中途半端な時期になっているのだ。
背景は、安倍総理が第一期の総理大臣のときに憲法改正の国民投票の動きが出た。その歳、憲法改正の原案は衆議院議員で作り2/3の賛成を得て、参議院議員で2/3の賛成を得る。そして最後は国民投票で51%の賛成をする手続きだ。しかし、当時国民投票の法律が無く、国民投票法ができた。その際に野党が全体最適を考えることなく投票は18歳でできると主張したのが今の背景だ。
この状況をクリアにするためには、成人の定義を明らかにして、18歳で成人を迎えるのであれば、全てのルールをここで統一すべきだと思う。一方で、成人式の日はおよそ15日前後が多く、この時期は共通一次試験と重なる。仮に18歳が成人だと皆それどころじゃないと思うかもしれない。そのため成人の日そのものを3月とか4月に設定するなど全体を議論することが望ましい。
「個人の成長」と「会社の成長」をすり合わせるリカレント教育
2023年1月12日
高橋です。
私がコンサルティングをしている『営業プロセス研修』のエッセンスを、毎回お伝えしています。
今回のテーマは『「個人の成長」と「会社の成長」をすり合わせるリカレント教育』です。
前回、社会人基礎力について人生100年時代に求められる能力を解説しました。今回は人生100年時代を生きるための「学び直し」の重要性と、企業が成長するための人材育成についてご紹介します。
「社会人基礎力」についておさらいしましょう。(参照:https://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/)
社会人基礎力とは、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、経済産業省が2006年に提唱しました。その後「人生100年時代」を踏まえ、これまで以上に長くなる個人の企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力を「人生100年時代の社会人基礎力」と新たに定義しました(2018年)。
経済産業省では社会人基礎力をパソコンの【OS】に例え、社会人としての基盤能力である「社会人基礎力」を身に付けた上で、その【OS】上に【アプリ】としての「業界スキル」や「社内スキル」など業界特性に応じた能力を活用すべきとしています。人生100年時代の働き手は【OS】と【アプリ】を常にアップデートし続けることが求められます。
今回のテーマであるリカレント教育については、厚生労働省が次のように説明しています。
「学校教育からいったん離れたあとも、それぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていくことがますます重要になっています。このための社会人の学びをリカレント教育」と呼んでいます。
(参照:厚生労働省HPより抜粋https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18817.html)
人生100年時代では個々が主体的に自分のキャリアを作っていかなければなりません。新社会人時代、中堅社会人時代、中高年社会人時代とそれぞれのステージでどのような経験を積み重ねてきたか、何を学んできたか、どのように活躍すべきかなど、振り返りとフィードバックを重ねます。自分が既に持っている能力とまだ持っていない能力を見定め、今後各段階で求められる能力や経験が何であるかを認識しておくことが重要になってきます。
個人が長い社会人人生のなかで自らの能力や経験を積み重ねる一方、会社はそのような人材を確保しそれぞれが活躍できる場を提供することで企業として成長が可能になります。
その際に重要なことが、個人の成長と会社の成長のベクトルを合わせることです。技術革新やDXによる効率化など企業が向かう方向と、それに対応できる人材をリカレント教育で育成する、企業がやりたい事と個人ができることの方向性をすり合わさなければ生産性の向上は望めません。これが「働き方改革第2章」で求められることです。
労働人口減少により、人手不足に悩む企業や人材確保が上手くいかない企業が増えています。そのような状況でも、リカレント教育で仕事に必要な知識を増やし、スキルアップした社員を育てることで、少ない人数でも幅広い領域をカバーし、生産性を上げることができれば企業にとって大変なメリットです。
そのために国の施策で給付金や助成金、職業訓練を行っていますし、ベネッセやリクルート、博報堂など様々な民間企業がプロブラムを開発、提供しています。
皆さまも人生100年時代を見据え、個人の成長と会社の成長の両方を得られるリカレント教育を取り入れてみてはいかがでしょうか。
営業プロセス、営業研修、人材育成、セールスコーチなどをご検討の経営者・経営幹部・リーダー・士業の方はお気軽に弊社にご相談ください。
新規事業の旅32 需要と供給
2023年1月12日
早嶋です。
需要と供給
営業の第一歩、事業の基本は商品を販売することだろう。当然に、商品の仕入れや開発や製造、その後のフォローなどもあるが、その商品が売れないとキャッシュが回収できないし始まらない。
営業が苦手な企業や組織は商品の説明をする。
営業が得意な企業や組織は顧客の用事を探す。
一本のペンがある。
営業経験が浅い人はペンの機能を説明して相手に売ろうとする。
生きるチカラがある人は相手がペンを必要な状況を推察する。
映画のワンシーンだ。とある駆け引き。
A:「このペンを売ってみろ」
B:「このペンは、高級ブランドのペンのシリーズの中でも、・・・」
C:「このペンを使うことで、最高の体験を・・・・」
D:「・・・」
X:「A、このナフキンに名前をかけ」
A:「ペンが無い」
X:「これを買え」
従い、商品の研究をすることは当たり前だが、その研究費の一部を顧客や市場の研究、既に購買した顧客、あるいは購買を検討した末、購買に至らなかった研究に費やすことをおすすめする。特に市場が成熟する昨今は、新たな顧客を求めるよりも、買わなかった顧客が、その商品を販売するヒントを教えてくれるのだ。
新記事業の旅(33) ストレッチ目標
新規事業の旅(32) 需要と供給
新規事業の旅(31) ジョブと障害とキャズム
新規事業の旅(30) OEは最早役に立たたない
新規事業の旅(29) 売り手のトラブルは売り手の無知から
新規事業の旅(28) 動画サブスクの落とし穴と処方箋
新規事業の旅(27) 仲介会社のビジネスモデルと買い手の事情
新規事業の旅(26) M&Aの勘所を押さえる
新規事業の旅(25) キャズムを超えるまでのKPI
新規事業の旅(24) 敵のコトを知りつくそう
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新規事業の旅(21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(18) アンゾフ再び
新規事業の旅(17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(16) キャズムを超える
新規事業の旅(15) 偶然と必然
新規事業の旅(14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(13) ポジションに考える
新規事業の旅(12) 山の登り方
新規事業の旅(11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(10) NBとPB
新規事業の旅(9) 採用
新規事業の旅(8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(6) 若手の教育
新規事業の旅(5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(4) M&Aの成功
新規事業の旅(3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(1) 旅のはじまり
振り返りの大切さ
2023年1月11日
早嶋です。
仕事ができる個人や組織は共通の特長があると思う。検証、改善、標準化等だ。その根底にあるものは目標達成のための好奇心だ。
自分たちの業務で、同じような取り組みや似たような取り組みが複数回あった場合、その仕事内容を抽出して検証する。その際のステップとしては、自分の中で同じような仕事を何らかの方法で視覚化する。絵や図や言葉で表現するのだ。同様に、自分以外の他者が行っている業務を集めて視覚化する。状況によっては、他部門や他社が行っている仕事の事例も集めて視覚化する。
同じような業務でも、人や組織や部署によって異なる場合もあれば、全く違う場合もあれば、同じ場合もある。大切なことは、実際に頭で捉えた内容を一度整理して比較してみることだ。通常、全く同じことはなく、何らかの違いや、取り組み方、工数の変化を確認することができる。そして、最終的な成果もバラバラな場合が多い。
そして自問する。自分のやり方と他のやり方で違いはあるか?成果はどうか?なぜ、他者のほうが良いのか?もっと楽な方法やないか?半分の時間で同じ成果を出すことはできないか?等々だ。
上記の取り組みは、皆頭の中では一度や二度は考えたことがあると思う。が実施に取り組む組織は100社あれば、1社か2社しかいないと思う。これは検証であり、ある意味仕事の研究開発に相当する。メーカーはものづくりや技術の研究開発はあるが、それ以外の業務に対しての研究開発は稀だ。
混沌とした今、圧倒的な新規事業を探すのも良いが、自社で最もよく行われている業務を10個くらい抽出して、圧倒的な業務効率を上げる取り組みを考えてみるのはどうだろうか。その際は、既存の業務から3ヶ月くらいの期間離れて見てもらい、ひたすら検証と考察を行う部隊を作ることをおすすめする。詳しく取り組みたい方は、いくつかノウハウがあるのでお気軽に問い合わせ下さい。
新規事業の旅その31 ジョブと障害とキャズ
2022年12月27日
早嶋です。
ジョブ理論では、ジョブのことを「特定の顧客が特定の状況において成し遂げたい姿」があるという。コンサルする際も私は、クライアントの話を注意深く聴き、適宜質問をしながらその方が「片付けたいジョブ」はなんだろうと考える。
先日の例だ。研修会社を運営するA社長とブレストした。コロナ期間に新規に開始した動画コンテンツを販売する事業に関連してのブレストだ。現時点で300タイトル、1000本程度の動画コンテンツを保有して、サブスクで従業員や社員教育目的に中小企業に販売する。対象は従業員50名から300名程度の中小企業で、300名を超えると既に導入しているケースがあり、この層に絞っている。単価は1ID辺り1,000円/月で、現在約150社、5000IDまで販売を伸ばしている。リテンション率も高く出だしとしては好調だ。
ただ、研修会社は大手で、更にIDの販売を増やさないと立ち上げたイニシャルコストを回収出来ない。ちなみに、私も戦略やマーケティングなどのいわゆる概念化能力に関するコンテンツを10種類程度提供しているので、状況は理解している。
A社長の見た目上のペインは、もっとコンテンツを増やして、IDを販売することだった。そこで複数の質問をして状況を整理した。例えば、既存の顧客はどのような顧客が多いか?逆に、提案しても導入しなかった顧客はどのくらいいて、その理由に傾向は無いか?導入した顧客がどのように社内に活用させ従業員に告知しているか等々だ。そして、いくつかの仮説が出てきた。
従業員50名〜300名の中小企業というよりは、その程度の規模で人事の教育担当が専任でいない企業が結果的に購入しているという点だ。中小企業の場合、人事は総務部の管轄で、規模が小さいと総務と人事と会計などを全て数名の総務で担当している。教育の重要性は理解しているが、自分の一存で決めることもできないし、仮に何か導入しようとすると、更に自分の仕事が忙しくなると考えている。ただ、そのような中でも10社に2社程度は、社員に広く教育を普及させたいとのことで契約しているのだ。
一方、現在150社程度の契約なので、その5倍の750社程度は検討したり、話を聞いた結果、自分が社長に説明ができないので断った。仮に導入しても自分の手間が増えそうだから断った。そもそもその動画の活用がわからないから断った。等々、値段が高いとかではない理由が複数出ていることが分かった。
A社長が解決すべき動画を導入する企業のジョブは、社員教育の仕組みを工数かけずに提供することなのだ。その障害となっている事実が、実現出来ない組織程、担当者や専任者が不在だ。当人も悪気はなく、ただ総務部で兼務などをして多忙と思っているし、本人の能力やキャパシティの問題で意思決定者の社長に説明が出来ない。50名から100名前後の中小企業のオーナーであれば、自分が営業をガンガン行うので、社員の教育に対して疎い方も一定するは居るだろう。また仮に導入したとしても、どのように従業員に活用いただけるかのイメージが全くつかない。など、複数の障害が混在しているのだ。
そう、コンテンツのIDを沢山導入頂きたいのであれば、それは動画作成の話ではなく、上記のジョブを提供するための仕組みを研究し、導入頂きたい企業が多くが抱える障害を取り除いてあげることが大切なのだ。
新規事業でも既存事業でも、始めは顧客のことを考えて事業を始める。その際は、商品開発をする際も、徹底的に顧客の声を聞いている。しかし、徐々にテストマーケティングを終え、拡大のフェーズに入ると仕事が分割される。その際に、顧客の声や開発する商品が顧客の何を解決するかを理解しないまま部隊が作られ、ひたすら自分たちの役割を淡々と作業しはじめるのだ。そのため、商品としては良いものができるが、結果的にその商品は、顧客の一部にしか受け入れられなくなるのだ。新規事業の営業パーソンは、通常は経験も無く、本社があってもその支援は受けにくい。結果的に一定の数には響くが、メインの顧客層には響かないで終わるのだ。
今回のA社長の親会社は人材を扱っており、ターゲットリストとしてバイネームで1,000社のリスト(50社から300社で可能性を抽出した後のリストでも)があった。このターゲットに対してA社長の部下複数人がアプローチして今回の提案を行っている。自分たちで商品を理解して導入できる層は、通常は3%から15%程度だ。そのため、この企業が更に商品を購入頂くためには、商品の見せ方や商品の導入の仕方を考える必要がある。通常は初期の市場とメインストリームの市場と表現するが、A社長はメインストリームの市場に入る前後で売上の低迷に悩んでいるのだ。
メインストリームの市場は、その商品の良さはなんとなくイメージ出来ても、実際に自社に導入する際に、もっと丁寧に手取り足取り教えて頂きながら提案してもらわないと中々判断できない層だ。その際に、その提案を聞いている顧客の障害は何なのか?という話を徹底的に理解して、それらを横展開して開拓することができれば投資をしてでも解決することを考える。その取組がメインストリームに入れる鍵なのだ。
新規事業の旅(32) 需要と供給
新規事業の旅(その31) ジョブと障害とキャズム
新規事業の旅(その30) OEは最早役に立たたない
新規事業の旅(その29) 売り手のトラブルは売り手の無知から
新規事業の旅(その28) 動画サブスクの落とし穴と処方箋
新規事業の旅(その27) 仲介会社のビジネスモデルと買い手の事情
新規事業の旅(その26) M&Aの勘所を押さえる
新規事業の旅(その25) キャズムを超えるまでのKPI
新規事業の旅(その24) 敵のコトを知りつくそう
新規事業の旅(その23) 道具の使い方
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新規事業の旅(その21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(その20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(その18) アンゾフ再び
新規事業の旅(その17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(その16) キャズムを超える
新規事業の旅(その15) 偶然と必然
新規事業の旅(その14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(その13) ポジションに考える
新規事業の旅(その12) 山の登り方
新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(その10) NBとPB
新規事業の旅(その9) 採用
新規事業の旅(その8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(その7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(その6) 若手の教育
新規事業の旅(その5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(その4) M&Aの成功
新規事業の旅(その3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(その2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(その1) 旅のはじまり
定着率向上や早期離職防止に向けた対策
2022年12月26日
安藤です。
今回は、「定着率向上や早期離職防止に向けた対策」です。
厚生労働省は20日、労働経済動向調査(2022年11月)の概況を公表しました。労働者の過不足判断D.I.(不足-過剰、11月1日現在・産業計)は、正社員等労働者プラス44ポイント、パートタイム労働者プラス30ポイントで、それぞれ46期、53期連続の不足超過。正社員等労働者では、「建設業」、「医療・福祉」、「情報通信業」、「運輸業・郵便業」で人手不足感が高い。生産・売上額等判断D.I.(10~12月実績見込)は、産業計マイナス3ポイントで前期から2ポイント上昇、「宿泊業・飲食サービス業」(プラス23ポイント)などでプラスとなる一方、「「サービス業(他に分類されないもの」(マイナス17ポイント)、「医療,福祉」(マイナス11)などでマイナスとなっていました。
そのような状況の中で、社員の早期離職は組織にとっても、大きな問題です。
若手の成長のためには仕事における負荷=挑戦が不可欠ではありますが、実際に負荷がかかった際には、不安が大きくなったり物事をネガティブに捉えすぎてしまい、パフォーマンスの低下やメンタル不調になってしまう社員も一定数います。
こうした状態が続くと、生産性の低下や早期離職に繋がる恐れがあるため、企業としても社員のストレス耐性を強め、ものごとの捉え方を鍛えることで自律型人財へと成長できるようサポートしていくことが大切です。
その為には、管理者も若手のストレス要因の認知・向き合い方を学ぶ必要があります。ストレス対処は、コーピング(coping)とも言われています。日常生活の中で私たちに負荷をもたらすと判断された外的・内的な刺激(ストレッサー)やそれによって生じるストレス反応を減らしたり、受け入れたりするために個人が行う認知的、もしくは行動的な努力のことを指します(Lazarus & Folkman,1984)。さらに、Lazarusら(1984)は、その努力は常に変化するものである、とも述べています。コーピング方略にはさまざまな種類があり、その分類方法は研究者によって多岐にわたっています。 そこで、今回は、ストレスフルな状況やその結果として生じるネガティブな情動に対して積極的にかかわっていく「接近型コーピング」と、それらを遠ざけようとるす「回避型コーピングについて説明します。
接近型コーピングとは、ストレスフルな状況に対して積極的に取り組んで解決を目指すためのコーピングです。
●問題点を明らかにし、解決策を考える ●経験者にアドバイスを求める ●どんな物事にも必ず良い面があるはずだと探してみる 等があります。
一般的に、接近型コーピングはストレッサー自体の解消を目指すものであるため、ストレス反応の低減に有効だと言われています。しかしながら、ストレスの原因の所在が自分以外にある、もしくは対処方法は分かっていても実行に移すのが難しい場合など、全てのストレッサーが解消できるものとは限りません。
解消できないストレッサーに対して働きかけを続けることで、疲弊してしまう恐れもあります。その場合は、ストレッサーから距離を置くことでストレス反応の低減を目指す回避型コーピングを選択することも必要となります。
回避型コーピングには、● 嫌なことをなるべく思い出さないようにする ● 自分の趣味を楽しむ時間を持つ ●問題解決を先送りする 等があります。
回避型コーピングを用いることによって、ストレッサーに直面した結果として生じるネガティブな感情を解消することができます。しかし、その効果はあくまでも一時的なものであり、 根本となるストレッサーの解消には至りません。 早期離職防止対策としては、社員がいつもと違う言動を早めにキャッチして、まずは、個別に傾聴することが優先かと思われます。
何かお役にたてることがありましたら、気軽に弊社にご相談くださいませ。
新規事業の旅 その30 OEは最早役に立たない
2022年12月22日
早嶋です。
日本全体の市場がまだ成長していた頃、欧米の企業をベンチマークし、同じような製品サービスを市場に出すために見様見真似で取り組んできた。そのため、経営者は戦略的なポジション(SP:Strategic Positioning)を明確にすることなく、模倣を繰り返しながら、現場の頑張りを踏まえて(OE:Operational Effectiveness)経営成績を上げてきた。そのため経営トップが企業の戦略を示さないままにやり過ごした感がある。
そして2010年頃より、日本が成熟期から衰退期を迎える頃、従来の方向を示さない経営がズタボロになってきた。上場企業は成長戦略を示すも、成長する方向性を見出す経営者が少なく、無機質な数字を増やすことのみ指し示した。例えば、300を500にするなどだ。しかし300を維持するのもやっとという状況下で不足する200をどうやって達成するのか、誰も具体的に示せない。
始めは既存の事業をすすめる中で200のギャプを埋めれると信じていたが、やがて不可能なことに気がつく。そこで今度は200のギャップを新規事業で埋めると宣言し始める。しかし従来、新たな枠組みで新規の事業を行った経験がある経営者はおらず、他探りで見様見真似で新規を行っても、成果が出ない。やがて2年、3年と経過した後、M&Aで新規事業をおこなえるかもということで、200のギャップを新規とM&Aで行う!という宣言が流行する。
しかし、相変わらずSPを示すことは無く、どのような分野にどのような新規事業を行うかの方針が不明なため、M&Aに対しての戦略もふわふわしたままになる。そして持ち込み案件を何度も吟味する中で、なぜか思い切って投資をするという行動にでる。当然、新規事業をM&Aする目的で行ったため、その事業のことを経営でいるマネジメントが自社にはおらず、M&Aには成功するがその後のシナジーを生むことが出来ないままでいる。
それでも経営トップは現場がなんとかするだろうと思ったのか、特にメスをいれることをしない。しかし流石に経験の浅い新規事業や異業種の事業はなんぼ頑張っても勘所がわからず、どうにもならない状態が続くのだ。本来は、新たな組織を明確に動かすためには、その企業のことがわかり、業界に明るい経営者が、方針を示して現場を動かす必要がある。仮に大きな方針を示すことが出来たとしても、現場がその方針を理解して、そのとおりに行動(OC:Organizational Capability)をしなければ成果は出ないのだ。
かくして現在、既存もガタガタで新規もガタガタの状態が続いている。
※SPとOEとOCの説明は、こちらを参照。
新規事業の旅(その31) ジョブと障害とキャズム
新規事業の旅(その30) OEは最早役に立たたない
新規事業の旅(その29) 売り手のトラブルは売り手の無知から
新規事業の旅(その28) 動画サブスクの落とし穴と処方箋
新規事業の旅(その27) 仲介会社のビジネスモデルと買い手の事情
新規事業の旅(その26) M&Aの勘所を押さえる
新規事業の旅(その25) キャズムを超えるまでのKPI
新規事業の旅(その24) 敵のコトを知りつくそう
新規事業の旅(その23) 道具の使い方
新規事業の旅(その22) 売ってから始まる事業
新規事業の旅(その21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(その20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(その18) アンゾフ再び
新規事業の旅(その17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(その16) キャズムを超える
新規事業の旅(その15) 偶然と必然
新規事業の旅(その14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(その13) ポジションに考える
新規事業の旅(その12) 山の登り方
新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(その10) NBとPB
新規事業の旅(その9) 採用
新規事業の旅(その8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(その7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(その6) 若手の教育
新規事業の旅(その5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(その4) M&Aの成功
新規事業の旅(その3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(その2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(その1) 旅のはじまり
新規事業の旅 その29 売り手のトラブルは売り手の無知から
2022年12月8日
早嶋です。
M&Aは不動産の投資と異なる。不動産の場合、収益物件として購買した後、賃貸等で貸すと期待した利回りを獲得できる。そのために不動産の価格には合理性がある(築年数、広さ、リッチ、工法、間取り等で過去の賃料や売買価格のデータもあり余りヘマをすることが無い)。
一方、中小M&Aは、買い手が買収したからと言って、従来と同じ収益を獲得できるとは限らない。M&Aは、経営権を獲得し、通常は役員以上の人材を買い手が送り込み、買収後は買い手が経営するのだ常だ。しかし超大手企業を覗けば、売り手の経営者が一定の、あるいはそれ以上の影響を経営に与え収益を出してきた。従い、買収してしばらくは収益は続くだろうが、買い手が経営を切り替えて維持、拡大しないかぎり理想とするキャッシュフローは発生しない。
その理屈を分かっているのか、分かっていないのか。M&Aの経験が乏しい買い手は、売り手企業の単体の価値を計算して、お買い得か?否かを考えている。もしこのような発想を持った時点でM&Aはすべきではない。高いに決まっているのだ。
通常レベルの売り案件があったとする。債務超過でもなく、一定のキャッシュフローが望める案件だ。この場合、売り手1社に対して買い手は15社から20社のオファーがあるのが通常だ。多くの買い手企業は成長戦略を実現する目的で常にM&Aの案件を探している。従い、昨今は売り手が優位な状態にある。仮に、売り手と買い手の双方が計算する合理的な価格があったとしても、売り手は優位な立場を鑑み、合理的な価格より高い金額で売却したいと考える。それでも買い手が付くということは、買い手は更にその価格に上乗せした交渉で買収することになる。常に複数の買い手と競い合うからだ。
それでも買い手が買収する意味は、売り手単体の価値に加えて、自社と一緒に事業をした後の化学変化を考えているからだ。よくシナジーという言葉が使われるがまさにそれだ。製造業の場合は、売り手の仕入れ価格を鑑みて、自社と一体になればコストが下がることが想定できる。すると利益が一気に獲得できるなどの算段があれば、プレミアムを払っても投資回収できると考える。商品が優れている売り手に対して、買い手が強烈な営業のネットワークがあれば、販管費を大きく変えずに販売が期待できる。そのような買収した後のシナジーを考え想定できる企業はM&Aの成功を手に入れる可能性が高くなる。一方で、未だにM&Aそのものを金融取引のように考えている経営者は買収した時点で、マイナスとの戦いになるのだ。
ただ悲しいかな、世の中の70%の企業が赤字で、税金もろくすっぽ納めていない状況だ。M&Aアドバイザーの会社が次々に上場して、案件を青田買いしていくと、買い手の需要に対して、売り手の供給が賄わない状態に現在突入している。300万社の中小含めた会社の3割が利益を出しているとする。すると100万社が母数。仮に2割の企業が売っても良いとしても、売却可能性の市場規模はその時点で20万社だ。現在で、年間に4000件程度のM&Aが行われており、規模の大小を鑑みると1万前後はM&Aされている。10年で10万程度だと考えると、市場が枯渇するイメージは湧くと思う。
国が中小M&Aガイドラインを出した2019年頃はM&Aの業者は数百だったが、M&Aの補助金を活用するために登録を促すと1年ちょっとで、その数が2,000を超えた。実際にM&Aを実現しているアドバイザーは少ないとしても、アドバイザーの事業を考えるプレイヤーからみると昨今のこの状況はチャンスと捉えるのだ。その中で、案件は限られている。特にここ5年、M&Aの上場企業が一気に増えたため、確実に案件が枯渇しているのは事実だと思う。
そのため、M&Aアドバイザーは従来案件化出来なかった売り手に対してもアプローチを初めている。初めは、小粒の案件はネットマッチングで対応しようと考えて。しかし、実際は不動産と異なり、簡単に案件化ができない。しばらく大手も放置していたがリアルの事業で収益を得る体制が整った企業の一部はWebでアプローチしてきた売り手企業に対して直接営業をする体制を整えるようになった。実際、本誌を読んでいる経営者も個々数年、M&Aアドバイザー、それも大手の企業からのアプローチが増殖している実感があるだろう。そのくらい、案件がなければ商売が成り立たないビジネスモデルなのだ。
M&Aアドバイザーのビジネスモデルは単純で、売り案件を握って、ふさわしい買い手に提案して、M&Aに関わる一連のプロセスに対して助言を行い、成約までの助言やフォローを行う中でアドバイス料を得る。規模が小さい場合は、着手金も中間金も取らず、成功報酬で行う場合が多い。成功報酬の相場はレーマンレートを軸に取引価格の5%を手数料としてもらう。一方、大手企業は規模の大小に関係なく、売り手企業の案件化をすすめる場合に、着手金を100万から150万円程度を最低に受領し、案件化する際に企業査定をする手数料として50万円かそれ以上の費用を要求する。
売り手企業も、アプローチされた時に、色々とアドバイザーの状況や報酬体系、契約の中身を調べれば良いものの、大手の信用を過信して、契約を締結する傾向が昨今急増している。ここで勘違いしたらいけないのは、大手M&Aアドバイザーは全く悪くないのだ。自分たちも上場し、株主に対して成長を求められる。しかし、M&Aの案件は枯渇している。そこで少しでもキャッシュを獲得する必要があり、本来、自社のボリュームゾーンでなかった中規模小規模案件にも営業をしなければ、自分たちが維持できない状況になっているのだ。
売り手企業にも問題がある。自社の経営の状況を把握していないのに、何故か周囲の売却事例の話を聞いて、自社も1億で売れるんだと勘違いをする。債務超過で役員報酬もろくに払えない企業なのに、冷静に考えるとおかしな話なのに、それが出来ていない場合が多い。実際、相談が急増しているのが、本来は大手のM&Aアドバイザーが関与するレベルではない、小規模の売り案件を大手M&Aアドバイザーと契約した話だ。そして契約の内容を理解していない場合が多い。
例えば、案件自体はかろうじて2,000万円程度で売却できるとする。しかし大手のM&Aアドバイザーの着手金は100万から200万。そして、売買が成約した場合の最低報酬は1,000万とか2,000万になっている。ここをまず見逃している。更に、その契約は仲介をベースにしている。買い手企業が、該当の売り手企業に興味を持った場合、同じM&Aアドバイザーの会社が間に立ち、売買の取引をすすめる。その際、買い手もおそらく成功報酬として、売買の成約報酬に2,000万円の費用を別途アドバイザーに支払う仕組みだ。
売り手が勘違いしている点はいくつかある。まず成約した際の報酬は、売り手がアドバイザーに払わなくても良い勘違いだ。契約書を余り理解しないのだ。しかし、仲介の場合は、不動産の両手と同じで、買い手と売り手の双方からアドバイザーフィーをもらう。そのため売り手も支払う必要がる。次に、専属の契約であることだ。売りては契約を結んだ後に、アドバイザーの会社と馬が合わないとする。その際に、別の中小に寄り添う地域のアドバイザーに相談しても、彼らも困るのだ。セカンドオピニオンとしてアドバイスはできるものの、専属の大手企業が全てを取り仕切る契約になっているからだ。それから、3つ目はテール条項という考えだ。仮に、契約を結んで、契約解除をしたとしても、1年から2年は、M&Aの動きを別のアドバイザリーで行ったとして、大手のM&Aアドバイザリーのテール条項に抵触する可能性が高い。大手も案件の大小に関わらず、売り案件を握ったら買い手に営業をしているはずだ。その営業先が、M&Aアドバイザリーの会社を中抜して契約して手数料をセーブしようとされない為に、契約を打ち切った後に、M&Aアドバイザリーの会社がアプローチした企業とM&Aが成立した場合は、想定の金額を受領するという内容にしているのだ。この条文の理解をせずに売り手は安易にアドバイザリーと契約を結ぶのだ。
なんども言うが、大手のアドバイザリーは全くの合法だ。売り手も契約を結ぶ際に、ちゃんと契約の内容や、金額のこと、契約破棄した後のことについて理解を得れば、他のアドバイザリーを検討したり、色々とオプションが有るのだ。
上記のようなトラブル、というか売り手が内容を理解していないがための誤解から生じるトラブルが今後続発するとこが予想できる。これもM&Aが世の中にM&Aが本格的に普及し始めた証拠だと思う。将来自社の売却、事業承継、精算などの出口を考えている経営者がいたら、早めに準備をしていくことをおすすめする。その際は、私どもでも良いし、近くのM&Aアドバイザリーの会社でも良いし、日本M&Aアドバイザー協会でも良いし、気軽に相談してほしい。そして、滅多にないチャンスなのだから誰かに丸投げすることなく、書籍に1冊や2冊は読んでから望むことをおすすめする。
上記の事例で、1,000万〜数千万で実際に売れる案件で、買い手がプラスで手数料を2,000万円払う必要があれば、通常はその時点で諦めるだろう。そして、アドバイザリーと契約を破棄してもテール条項の関係でおそらく2年程度は、企業の売却が出来ない状態が続くだろう。一方で、初めから地場のM&Aアドバイザリーや1億以下を売買価格の中心にしているアドバイザリーと契約していれば、数千万円の案件の手数料は、150万円から350万円程度なので、売り手も買い手も納得の金額になるのだ。
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