新規事業の旅69 売れるモノが良いモノ
2023年8月11日
早嶋です。
マーケティング関連の本にも世界一のネズミ捕りの寓話がある。ある時、科学者が世界で最高のネズミ捕りを開発した。科学者はその商品が売れて富を築くことを夢見るも誰も買ってくれなかった。マーケティングの究極は、適切な方に、適切な商品を、適切なタイミングで、適切な金額で、適切に届けることだ。良い商品は全体の一つの構成要素に過ぎず、全体の最適を常に考えることが重用だ。
そのように考えると、新規市場において、「良い商品は売れる」という思い込みは排除したほうが良い。「売れる商品が良い」のだ。そもそも新規市場なので企業は、市場のことをあまり知らない。そのため商品の開発に莫大な資金と時間を費やすのではなく、試しながら市場に投入して市場の反応に商品をチューニングするスタンスも大切なのだ。
インドでエアコンがまだ普及していなかった頃、モーター会社はインドでの可能性を夢見て商談を始めた。静かで、省エネ、壊れにくくて高品質。日本では当たり前の売り文句をインドに持っていく。すると「静かなモーターなんて有り得ない。インド人は音がしないと空調が効いていると思わない!」「高性能だと壊れないから買い替え需要が生まれない!」「品質は落として良いから安いのをくれ!」と。
まさに、市場の声を理解しながら「売れるものが良いもの」という理解をする必要が多々あることが分かると思う。既存の商売は、過去10年とか20年前に、先人たちがそのような取組を行いながらチューニングしている結果なのだ。ただ、今既存の商売を行っている人は、そのような歴史や武勇伝を口伝でも継承していないのだ。
商売において、「良いもの」は作る側のロジックで、「売れるもの」は買う側のロジックなのだ。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
実践「ジョブ理論」
「M&A実務のプロセスとポイント<第2版>」
「ドラッカーが教える問題解決のセオリー」
新規事業の旅68 覚悟を持って取り組む
2023年8月10日
早嶋です。
新規事業のみならず、一定の取組に対して長続きする人としない人には何かの差があると思う。たとえば、その取組を続けることで得をする人のために、行えるか?つまり、その国のために貢献できるか?であり、その地域の人のために貢献できるか?などが大切だ。
顧客のために価値を提供することそのものに対して気持ちを持ち、自分のマインドがそこにあることが大切だ。という私も、10年前まではビジネスモデルが重用で、商品が重用で、技術が大切だと思っていた。が、実際にそれらが良くても、事業として継続するためには、相手のことを考えて、その人やその市場のために自分自身や自分たちの組織が貢献できることを信じることが前提になるのだ。そうしないと長い時間継続的に利益を出し続けることはできないと思う。
短期的な利益であれば、気持ちやマインドはそれまで大切ではないと思う。しかし、長期的に続けるためには真摯さが必要で、本当にその国やその市場に貢献することが大切になる。企業がどんなに良いと思って商品を提供したとしても、相手に受け入れられなければ事業として成り立たない。はじめこそラッキーストライクで購入されたとしても、注意深く購入後のフォローや研究をつづけることが大切だ。売って終わりではなく、売ってからをスタートと捉え、顧客のビックハイアではなくリトルハイアに注目するのだ。
これをおこなう前提としては、自分たちが単に儲ければ良いという考えだと、絶対にそのような発想にはならない。やはり商品を通じて顧客の問題を解決する。そのために企業は貢献するのだという意識なければ、リトルハイアに意識が向くことは無いのだ。
マーケティングの基本は、適切な商品を適切な対象に、適切な金額感で、適切なタイミングで提供することだと思う。有名な話だが、ソニーがインドで電池をはじめて売ったとき、日本では8本1セットで売ることが基本だった。同様にインドでも8本セットで提供してみたが売れない。日本の感覚ではまとめて少し安くすると売れるという思い込みがあったのだろう。そこで当時のインドを研究すると、必要な物は、必要な時に、必要な金額で購入するというのがわかったのだ。そこで1本から少し高い値段で提供したところ爆発的に市場が広がったのだ。
ユニ・チャームがおむつを売るときも同じことがあった。ユニ・チャームは日本での売り方であったまとめて安くを止め、インドではおむつを個包装して1つから、地元の商店で販売するスタイルを取ったのだ。そして、インド、或いはエリア毎を細かく観察してそのエリアの一人あたりのGDPを一つの指標として個包装で売るか、複数の組み合わせで提供するかなどの判断軸を編み出したのだ。
このような取組も、売って終了ではなく、その国に本気でどっぷりと浸かり貢献するぞという意志がなければ3日坊主で終わってしまうのだと思う。そう考えると、いきなり日本の成功を輸出して一気に同じ方法を展開してあっさり敗北するような取組は、そもそも本気度がなさすぎると言わざるを得ないのだ。
覚悟を持って、事業や企画に取組、ターゲットのペインやゲインの解消に覚悟を持って取り組む。そのマインドを継続することが大切なポイントの一つにあるのだ。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
実践「ジョブ理論」
「M&A実務のプロセスとポイント<第2版>」
「ドラッカーが教える問題解決のセオリー」
新規事業の旅67 新市場開拓の落とし穴
2023年8月9日
早嶋です。
新規事業として、既存の事業を新規の市場に持ち込む。いわゆる新市場の開拓において考えることがある。やはり国や地域やエリアが変われば、その土着の文化が異なり、同じようにはいかないということだ。その際は、現地に適応させる部分と全体で標準化する部分のバランスが重用になる。ただ、その塩梅を決めるのは合理的な机上の空論では上手くいかず、小さくはじめて試行錯誤を繰り返しながらチューニングするものだ。
その際に、あたりを付けることが私は大切だと思う。ただ、そのあたりもあっている保証は無いが、あたりがあることで、それを軸として修正の角度や頻度が見えてくるものだと思う。そのあたりは、歴史からの学びや、他の業種からの学び、自分の経験や他社の経験からなど複数の視点で捉えるしか無い。要は何も分からないし、それがあっているかも不明だからだ。
たとえば、はじめて進出する国に商品を提案するとする。その場合、相手は分からない。でも自社の商品知識は持っている。このような状況は、たとえば日本にはじめてコーヒーや練乳を導入したネスレは何を考えたのか?などと歴史を参考にあたりをつけることができる。元々コーヒーを飲むなどの文化はなかったので、コーヒーを角砂糖の中に粉状にして入れ、それを溶かして簡単に飲む工夫をしてネスレは日本に文化を根付かせたと聞く。練乳に対しては、そもそも牛乳を飲む感覚が薄かったことから、そのような飲料を飲むことがかっこいいというファッションを創り出したり工夫をしている。
新規事業として、新市場開拓をする際の落とし穴だが、既存の市場と同じやり方で提供する前提でいくのは良いが、必ずその手法が通用する可能性は薄いと捉えて、そこに一定の覚悟と推定が必要なのだ。その際に、常に良いものが売れるという考えは捨て、現地に受け入れられたモノが良いものだという発想を持つことが大切だ。マーケティングの世界でもn=1を観察することからはじめて、よくわからない市場をとにかく観察してあたりをつける重要性を謳っている。まさに、あたりを持ちながらも、その対象とする顧客や企業の実態がどうなのかをファクトで理解を深める中で、商品をチューニングするイメージを持つことが大切なのだ。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
実践「ジョブ理論」
「M&A実務のプロセスとポイント<第2版>」
「ドラッカーが教える問題解決のセオリー」
話題のドラマ “キング・ザ・ランド”から学ぶマネジメント
2023年8月3日
安藤です。
今回は、「話題のドラマ “キング・ザ・ランド”から学ぶマネジメント」です。
現在、話題の韓流ドラマ 『キング・ザ・ランド』をご存知でしょうか。
放映中の韓流ドラマです。内容は、富裕層ホテル経営者のためのパラダイスであり、ホテルマンの憧れであるキングホテルのVVIPビジネスラウンジ ‘キング・ザ・ランド’ を背景に、作り笑顔が我慢できない男と、職業上いつも明るい笑みを浮かべなければならない女が、お互いに心から明るい笑顔でいられる幸せな時間を作ろうとする物語が描かれていますが、他にも学ぶべき点があります。
そこで、このドラマから学ぶことを整理してみました。
1点は、世の中には意思と関係なく笑わなければならない人もいれば、無理に笑わなくても支障がない人もいます。
誰かにとって笑顔は生存の道具であり、誰かにとって笑顔はその人らしさを表すともいえます。
日常において笑顔は便利なものでもあります。
人によっては、笑顔は見た目が良くて便利だし、人によっては自身を隠すことができて便利なものでもあります。
そのうちに、笑顔はただの “記号” として残り 真実は消えていくこともありえます。
そこで、主人公のク・ウォン(キング・ザ・ランド本部長は、“ここからの笑顔”を目指しています。そのことが、後に示している“従業員エンゲージメント”にもかかわってきます。
2点目は、主人公のク・ウォン(キング・ザ・ランド本部長)とク・ファラン(キング・ザ・ランドホテル常務:ク・ウォンの異母姉)とのホテル経営についてです。元々、2人にはホテル経営についての考え方に違いました。
売上・利益を上げるために 姉のク・ファランは、経費節約を主に福利厚生、社員節減から人員削減し、正社員を非正規社員への登用に変換することで、利益を上げるやり方です。
主人公のク・ウォンは、ホテル100年祭を任されます。そこで、今までのやり方とは違って、 日頃、裏でホテルを支えてくれる従業員、また、100年に至るまでの間に経営難だった頃に支えてくださったお客様を招いてスピーチを企画します。そして、経営に関しても、他のホテルとの違いを創ること “ブランディング”いわば、社員・お客様の大切にするホテルであるイメージを強化しました。その100年祭でのイベントが”感動”を生み、ホテルのイメージを新たに創りあげることに成功しました。
正に、そのことが “従業員エンゲージメント” を生む会社の生産性に繋がってるとドラマを見ながら思った次第です。そこで、経営戦略としては、ブランディングを確立したことで、世界のホテルとの提携をしていくことで利益を上げるという内容です。
従業員エンゲージメントは、従業員が会社を理解し、信頼を置いていることを表す言葉です。
従業員エンゲージメントの指標の高さは、従業員の会社への貢献度や愛着心の高さに比例します。エンゲージメント(engagement)には、契約や約束・雇用などの意味があり、会社と従業員との信頼度の高さやつながりの強さを表しています。従業員エンゲージメントを構成する要素として、①理解度 ②共感度 ③行動意欲が挙げられています。
① 会社への理解度は、従業員がどれだけ組織の理念やビジョンを理解しているかは従業員エンゲージメントを構成する要素の一つです。双方の理想が合致することで、理想を現実にしていくための意識が高まります。
② 会社への共感度:従業員が会社に共感するほど、主体性をもって仕事に励むようになります。理解だけでなく、共感することで組織の一員としての自覚が高まります。
③ 行動意欲:従業員一人ひとりが、自主的に組織のために行動しようとする姿勢や意欲です。自分の行動が、業績向上や企業の成長につながっていると感じるほど、自発的に行動する意欲が高まります。
①~③を実施するには、時間もかかり直ぐに効果が得られるものでもありません。最近取り入れられているのが、まずは、安心・安全の場で“現場の声”を挙げてもらい、問題・課題を抽出し、課題解決を現場から挙げてもらうというやり方です。
ク・ファラン(キング・ザ・ランドホテル常務:ク・ウォンの異母姉のやり方では、短期的には収益を上げることは可能かもしれませんが、本当の意味での”笑顔”はだせませんし、みることもできません。そして、従業員エンゲージメントを得ることは不可能だと考えます。そして、離職も増える可能性もあるかと思います。
心からの”笑顔”をだせる、見られるためには、組織において、従業員エンゲージメントを高めることかな~と、今回、このドラマから学びました!。
プレイングマネージャー2つのセルフマネジメント
2023年8月2日
高橋です。
私がコンサルティングをしている『営業プロセス研修』のエッセンスを、毎回お伝えしています。
今回のテーマは「プレイングマネージャー2つのセルフマネジメント」です。前回までサーバントリーダーシップについてお伝えしましたので、今回はマネージャーの多くがプレーヤー兼任である実情を踏まえ、代表的なお困りごとを取り上げます。
まずプレイングマネージャーとは、自身も成果を出しながら、チームの成果にも責任がある人のことです。個人目標とチーム目標の両立が求められます。
私が接する企業のマネージャーと言われる方は、たいていプレイングマネージャーです。会社規模や人材不足など様々な理由があるとは思いますが、多くの企業でプレーヤーとマネージャーの兼任は定着していますね。
もちろんプレイングマネージャーの方々の悩みは人それぞれでしょうが、今回は2つの悩み「タイムマネジメント」と「リスクマネジメント」を取り上げます。
タイムマネジメントは、要は「忙しくて時間がない」問題です。自分の通常業務だけでも忙しいのに、その上、チームメンバーの面倒までとても見きれないという声をよく聞きます。
原因は分かっています。メンバーに仕事を割り振れないからです。プレイングマネージャーは自身が優秀なあまり、自分でやった方が早いと仕事を抱え込み、忙しくてメンバーのサポートや育成・指導をするヒマもない。よってメンバーはいつまでたっても育たない。するとさらに自分が仕事をこなさなければならなくなる。まさに悪循環です。
この状態をいかに打破するか。ご自分の仕事を棚卸し3つに分別することをお薦めします。①自分しかできない仕事(権限上)、②メンバーに任せられる仕事(能力的に)、③メンバーにやらせなければならない仕事(メンバーの成長のため)の3つです。そんなことは分かっているという声も聞こえてきそうですが、わかっていてもなかなかできていないという方は、リーダーとして本当に大切なことが分かっておられないと思います。
リーダーであるプレイングマネージャーにとって最も大切なことはチームの目標を達成することです。自分に仕事が集中することがどれだけ危険なことかは、明らかです。目標達成のために仕事を分別して割り振ることは、最優先でしなければならないことのはずです。
部下に仕事を任せることは、時に勇気のいることかもしれません。しかし部下の成長とは、できる仕事を増やし責任を持って最後までやりきることです。部下の成長のためにも、仕事を割り振りましょう。
リスクマネジメントは、チームのミスやトラブルを未然に防ぐことです。そのためには日々のメンバーの仕事をチェックすることが重要ですが、プレイングマネージャーだけで全体に目を配ることは大変です。そこで組織的にリスク管理の仕組み作りを構築することをお薦めします。
まずは仕事の進め方の標準化です。人によって仕事の進め方がそれぞれだと、基準もあいまいですし、トラブル発生の原因を察知することも不可能です。仕事のプロセスや知識の標準マニュアルを作成し、メンバー間で共有します。
その上で、よくあるトラブルとその発生原因、対策、クレーム事例の情報交換までしておくと未然に防ぐ効果があります。定期的なミーティングや勉強会を開催すれば良いでしょう。またそれら起こったことを、データとして組織内に蓄積することも重要です。データベースを作ることで、同じ過ちを繰り返さないようになります。
あとは組織内で階層的に、ホウ・レン・ソウを行う仕組み作りをします。新人は3年目社員に、3年目社員は5年目社員に、といった情報を吸い上げる仕組みが構築できれば、プレイングマネージャーはトラブルになる前にリスクを各階層で事前に防ぐ、もしくは予測できます。ホウ・レン・ソウは新人研修で教えますが、各階層においても組織的に働く上で重要なスキルです。何を、いつ、どのようにホウ・レン・ソウすべきか、メンバー間で共通の基準を持つべきです。
営業プロセス、営業研修、人材育成、セールスコーチなどをご検討の経営者・経営幹部・リーダー・士業の方はお気軽に弊社にご相談ください。
【動画】2023年度 QTnetインターンシップ
2023年8月1日
こちらの動画は、2023年度QTnetインターンシップの関係者向けのページです。
『新規事業を考えるインターンシップ体験ワークショップ』
2023年8月24日と31日のインターンシップ体験ワークショップに参加される関係者は、以下の動画を視聴下さい。
ビジネスチャンス(約25分)
新規事業を考える際のヒントを社会課題からみつけます。本動画は、事業を取り巻く環境変化から将来のビジネスチャンスを発見する方法について説明しています。新規事業を考えるワークショップに参加する関係者は、動画のフレームを使って社会課題や事業環境の変化からビジネスチャンスを自分なりに整理した上で参加ください。
新規事業の基礎(約40分)
新規事業のアイデアの出し方、ビジネスモデルの考え方、計画立案の考え方を整理しています。インターンシップに参加する皆さんに取って、新規事業を創り出す力や考え方は、多くの企業から求められる能力です。今回の2日間の体験ワークショップで実際にどのように新規事業を生み出すかを考え、その流れを体験下さい。こちらの動画は、全体のイメージを持っていただくために視聴ください。
(補足動画)
Day2では、プレゼンテーションを行います。参加者によっては、大勢の前でプレゼンをする機会が初めての方もいると思います。そこで、「プレゼンテーション」に関する動画をセットしています。こちらの動画は必要な方のみ視聴下さい。
プレゼンテーションの概略
プレゼンテーションの流れ
プレゼンテーションの準備
プレゼンテーションの中身
プレゼンテーションの配信
新規事業の旅66 ベンチャーキャピタルの実態
2023年7月29日
早嶋です。
最近テレビや紙面でも見聞きする「ベンチャーキャピタル(VC)」の実態はどのようなものなのでしょうか?
想像以上にハードな仕事ではありますが、社会課題をクリアするために、世の中にイノベーションを起こすエコシステム。実は、VCは単なるマネーゲームではなく、我々の社会を良くする担い手でもあるのです。
(イノベーションを生むエコシステム)
ソフトバンクグループの孫さんは「世界はいつも「発明家(起業家)」と「資本家(投資家)」の2つによって進化を遂げてきた」といいます。19世紀は蒸気機関を発明したジョームズ・ワットと投資家のロスチャイルド家がその代表です。21世紀も同様でスティーブ・ジョブス、ビル・ゲイツ、ジョフ・ベゾスのような起業家に対してベンチャーキャピタル(以下、VC)のお金が投資されたことで世界は大きく変化しました。
一方で多くの日本人ビジネスパーソンにとって、VCは縁の無い世界です。日本は伝統的な大企業のプレゼンスが強く、スタートアップは経済の主役になり得ていません。しかし歴史を見れば、発明家と投資家の関係が常に新たな産業を創造しているので無視できない存在になっているのです。
グーグルは、米国において12番目の検索エンジンで後発組でした。初期を支援したVCが名経営者のエリック・シュミットと資本を提供して成長しています。
コロナで有名になったスタートアップであるモデルナ。ウィルスの遺伝子データを入手してからわずか2日間でワクチンの設計図を作り、42日間で臨床試験に使う1本目を完成させました。
21年末時点で世界最大のユニコーン企業はショート動画SNSのテイックトック(TikTok)を運営するバイトダンスで直近の時価総額は39兆円で、当時トヨタが34兆、ソニーが18兆なのでその規模がわかります。
(ベンチャーの投資ステージ)
ベンチャー企業を見ると「なぜ銀行からお金を借りないのか?」と思うことでしょう。銀行の融資はローリスク・ローリターンです。何か事業を行う際に、確実に売上が手元に入り、それでも元本や利息が返済できない際には、土地や建物を担保にお金を貸す事業が銀行です。
しかしスタートアップの成功に保証はありません。ハイリスク・ハイリターンの事業に投資をします。しかし世の中に革新を与える企業はこうした不透明な事業であり、そこに資金を提供するのがVCの役割になるのです。
VCが投資をする際、成長段階により異なる投資ステージがあります。当然、創業間もない頃がハイリスクで、成長した後はスタートアップ企業でもリスクは低減します。
アイデアや事業計画をベースに、経営陣だけがいる時期が「シード期」です。次に、プロダクトやサービス開発を行い、初期の顧客を魅了すべくテストマーケティングを繰り返す時期が「シリーズA」です。更に、そこから急成長の道筋が見え、事業として本格的に立ち上げる時期が「シリーズB」です。そしてここまでが伝統的なVCが支援するステージです。
VCにも特徴があり経営陣を評価する、市場を評価する、プロダクトやサービスそのものや、その技術力を評価するなど様々です。スタートアップが成長するフェーズでは、徐々に体制ができる「シリーズC」や「シリーズD(上場等)」などもあり、このフェーズの調達額は数百億を超える場合もあります。また、近年のトレンドは上記のシリーズ後に「グロース投資」としてすでに成長したスタートアップに更に投資して成長を盤石にする取り組みも観察されます。ソフトバンクのビジョンファンドは、大きく分類するとこのグロース投資のプレーヤーになるのです。
(VCの誤解)
国内ではVCに馴染みがない分、誤解も多いです。最も多い誤解は「品評会投資」です。VCはスタートアップに対してマネーの虎で放映されたように起業家の情熱やアイデアに投資をするという誤解です。
しかし実態は全く異なります。過去に成功した起業家(シリアルアントレプレナー)や優れた技術を持つ企業はあっという間に資金を調達します。従い、プレゼンをして売り込むのはVCである投資家サイドなのです。VCはマネーゲームを行うのではなく、社会課題などを解決するイノベーションを加速するための付加価値競争を行っているのです。そのためVCには自身もスタートアップで成功した経験を持つ方が多く属します。
2つ目の誤解は、「直感投資」です。話としては面白いでしょうが、一度プレゼンを聞いて投資を判断するなどあり得ません。可能性のあるスタートアップをリストアップしては情報を集めます。ステージごとに情報を整理しながら投資前の調査を繰り返し行うのです。またVCによっては過去の膨大な投資経験を活用して自分たちの投資リスクを下げる取り組みも当然に行っています。
従い、VCがスタートアップ企業に対して「一目惚れ」で投資をすることは有り得ないのです。
(VCの仕組み)
VCの一般的な登場人物は3者に別れます。それぞれLP、GP、起業家です。LPはいわば資金の出し手です。米国では大学基金や年金基金、保険会社などの機関投資家がメインです。当然、業として投資を行うためロマンではなく長期にわたる高いリターンを期待します。日本では、機関投資家は少なく、一般の大手企業が出し手になることが多いです。LPとVCは約10年の付き合いになります。その間、投資したお金は自由に引き出せません。一定期間出資した金額が塩漬けされる代償として他の資産運用よりも大きなリターンをVCに期待するのです。ざっと10年で3倍以上を期待してLPはお金を預けます。
GPはまさに投資家そのものです。ファンドを立ち上げ、LPから預かったお金を投資しリターンを得ることを託された責任者です。預かった資金を手元に有望なスタートアップを見つけて投資をするリスクマネーのプロなのです。GPの成功要因はまさに「ダイアの原石」を見つけることです。
GPは通常LPから資金を預かり10年間かけて膨大なキャピタルゲインを狙います。ビジネスモデルとしては、預かり金額の2%ほどの運用手数料で事業を回します。例えば50億のファンドだと、毎年1億の手数料でファンドを運営します。スタッフの給与、オフィス、出張費、将来の有望な起業家への露出。全てを賄う必要があります。加えて、投資した金額を超えるリターンに対しては、超過した利益の20%を成果報酬として得ることができます。50億のファンドが3倍の150億のリターンを得たとすれば、上振れの100億の20%はGPに、80%をLPが出資比率で分けるのです。このように考えると想像絶する規模の資金を手に入れることが可能です。
起業家は事業を立ち上げる発明家です。わずか数人でスタートし、限られた資源で実現しなければなりません。お金は先に出ていき、プロダクトは後で出来上がります。その間常に資金ショートとの戦いです。そこで会社の所有権でもある株式の一部を譲渡する代わりに資金を得て事業の実現を達成するのです。
VCはお金の出し手であるLPと、リスクを見極める仲介者のGP、そして起業家によって成り立つイノベーションを実現するためのエコシステムなのです。
(まとめ)
GPの仕事は「美味しく」感じますが極めてハードな仕事です。少数精鋭で有望な投資先を掘り起こす日々。可能性ある企業のリサーチと投資先のCEOとの面談。毎年に数百人とのCEOとの面談から50社程度の企業とタームシートを使って投資額とシェアの割合を交渉。運良く投資できる企業は年に数社から10社程度。その後も資金面以外の支援を提供してリターンを得られるように支援するのがGPの役割なのです。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
実践「ジョブ理論」
「M&A実務のプロセスとポイント<第2版>」
「ドラッカーが教える問題解決のセオリー」
新規事業の旅65 高齢者をターゲットにした事業
2023年7月28日
早嶋です。
高齢化問題。今後の日本がこのままでは心配ですね。確かにそうですが、視点を変えるとシニア市場は数少ない成長産業であり、彼ら彼女らが保有する金融資産を動かすことができれば、莫大な事業が可能になります。チャンスと捉えた場合、まだ本気で参入している企業はほんのわずかな市場でもあります。
国内では、総人口が減少する一方、65歳以上の人口が約3,600万人と過去最高を記録し、高齢化率でも世界一を誇ります。その超高齢化社会を社会問題として捉える報道は日夜続きますが、一方で数少ない成長ビジネスとして捉える企業、組織、団体、個人はまだ少ないです。
(日本の高齢化の現状)
2020年の日本の総人口は12,571万人で65歳以上は3,619万人でした。高齢化率は28.8%。65歳以上の高齢化率は日本が1位で2位はドイツの21.7%、3位はフランスの20.8%です。日本が世界に先駆けて高齢化社会を迎えています。
日本の高齢化の特徴は、65歳以上から90歳の人口が一定以上の人口があり、2020年と比較しても2030年の予測では減らない、むしろその数が会増加することです。そのため更に高齢化率は伸び、2030年は約33%になる予測です。
電通「電通報超高齢社会の課題解決ビジネスNo.1」を見ると、超高齢化社会の課題は、「消費高齢化」「労働力減少」「社会保障費高騰」「過疎化進展」「コミュニティ希薄化」「単身世代増加」「高齢者の詐欺、事故等のトラブル増」などがあります。そして、個人の課題としては、「歩行・動作困難」「感覚機能低下」「認知機能低下」「日常生活の困難」「社会的な孤立」等が考えられます。しかしこれらは、全てが問題解決の機会であり、経済低迷が続く日本には珍しいくらい、数少ない成長産業と見ることができるのです。
(シニア層の実態)
サントリーウェルネス「実感年齢白書2022」では、49歳からが「おじさん/おばさん」で、約62歳からが「シニア」のイメージ。「おじいさん/おばあさん」は69歳からで、「お年寄り」は約73歳からのイメージでした。従い、高齢化のターゲットの呼称はシニアとした場合が適切とし、以降シニアと表現します。
高齢化と捉えると、上述のように様々なマイナスのイメージがあるでしょうが、実際に身近なシニア(62歳以上)を想定してみてください。実際は、スマホも使えるし、ネットショッピングも、運動も普通以上に元気な方が多いことに気が付くと思います。
実際、各種調べを見てみると、77%のシニアはスマホを所有。23%がネットショッピングを活用。60代の7割、70代の4割がLINEを活用しています。更に労働の意欲も高く62%が働けるうちは働きたいと考えています。そして3人に1人の割合でお一人様です。そのためか75%のシニアは盆暮正月以外にも孫と会うための工夫やきっかけつくりを行っています。更に、五輪選手や身近な知事をTVの前で応援する「推し活」ならぬ、親子目線で自分の一押しの人に情熱を注ぐ活動を行っています。
実際、シニアの特徴は子育てや仕事が落ち着き、金銭的にも余裕が出てきたため、昔あこがれていた趣味や購買、旅行にもお金が時間をかけやすくなっています。
車ではBMWのMINIが人気で憧れの外車のエントリーカーとして親しまれています。バイクでは若い頃手が届かなかった高額のバイクや排気量の大きな機種が人気です。それからプロ以下アマチュア以上のスキルを持つ方々が多く、カメラや動画の編集など、自分の趣味を活用したボランティアや小遣い稼ぎに没頭する方も増えています。この特徴はあくまでも時間を楽しみ、社会に役立つことが目的なので、若手のクリエイターからするとある意味恐怖な存在です。
(シニアのセグメンテーション)
一言でシニアと言っても、実はかなり様々な傾向や特徴があります。これは凡その年代によって分けることができます。
85歳以上のシニア。戦前の生まれの方々で戦争経験者です。現在半数が介護認定者で両親は明治大正生まれです。終活、相続、介護、嚥下などが注目する市場になります。市場規模は約750万人です。
75歳以上のシニア。戦争を知る世代で学生運動が盛んな時代を過ごしています。約3割が介護認定者で三種の神器がTV、冷蔵庫、洗濯機でした。シニア住宅、資産形成、終活、国内旅行、健康食品などがキーワードで市場規模は約1,300万人です。
72歳から74歳。少し細かいですが段階の世代です。高度成長経済とマイホーム神話で日本を支えてきました。実に95%以上が現役バリバリの元気な方々です。健康、旅行、資産形成など市場としても魅力的な620万人です。
60歳以上。ここがポスト団塊と呼ばれ、約2,000万人の市場規模です。家電など物欲があり、朝ドラ、専業主婦、仕事人間、ジャンプ創刊、首都高開通、リタイア後の人生を志向中という状況です。起業や就労、社会参画、長期滞在mリゾート、海外、若さなどが刺さります。
そしてシニア予備軍のバブル世代。53歳から59歳です。1,200万人の市場規模です。徐々に生活が楽になり、まさに消費意欲が旺盛で、若い時のポップカルチャー、スキー、ジュリアナを憧れ、仕事半分遊び半分の充実生活を掲げて経済に活気を与えています。
(シニアビジネスの本命は埋蔵金にあり)
日本の家計金融資産の総計額は約2,000兆円にも上ります。そして約6割がシニアの所有です。金額にして実に1,200兆円です。上述のシニアのセグメントで見ても様々な需要があることが鑑みれます。
生活関連では、就業支援、住み替えやリフォーム。移住支援やレジャー、エンターテインメント、フィットネスや旅行に金融です。
医療・医薬関連では、医療品、医薬品、診断機器、医療関連サービス、リハビリ、メンテナンスなどです。
介護では、家事支援、介護施設、介護食品、介護用品などがあります。家庭の支援から考えると、非常に膨大なマーケットとして捉えることができますね。
そして、特徴的な分野はエンディングです。終活、生前葬、葬儀などは無視できないマーケットです。
(シニアビジネスのポイント)
統計的な情報だけを見た場合、明らかに成長産業です。しかし一方で、巨大な成長産業にも関わらず、シニアビジネスを上手く取り入れていない企業が多いです。その問題は、シニアの実態の理解が不足していることが問題です。事業を行う場合は、やはり社会課題として捉え、儲けばかりを考えないでシニアを満足させることにフォーカスすべきです。それからシニアビジネスは介護だけではなく、上述のシニア予備軍で見たように、長い人生フローを鑑みた設計が大切になるのです。
シニアが使えるお金の殆どを貯蓄に回して、実際に使うことなく天国に行く最大の理由は、日本の将来を誰よりも不安に思っているからだと思います。そこでシニアの目線になった老後の不安が何か、それは妄想か、事実かを理解して寄り添うことが大切です。そしてシニアの心理的なバイアスを取り出すこともポイントです。我々世代で理解しにくい悩みや不安や葛藤などをもっと研究して、セカンドライフの充実や人生の仕舞い方の手助けをする。そしてシニアの購買行動と意思決定のプロセスをもっと研究する必要があります。ポイントは安心して消費頂く工夫です。
それからシニアは80代、90代の介護だけではありません。50代をプレシニアと捉え、62歳のシニアから100歳前後の節目に向けて、全体の流れの中にシニアの事業を提供することです。そのように捉えるとシニア事業として取り入れる可能性の余白が限りなく広がることが分かると思います。
参照:
内閣府「令和3年版高齢化白書」
日本経済新聞 2022年3月27日の記事
日本銀行「資金循環統計」
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
実践「ジョブ理論」
「M&A実務のプロセスとポイント<第2版>」
「ドラッカーが教える問題解決のセオリー」
新規事業の旅64 小売とマーケティング
2023年7月27日
早嶋です。
店舗系事業の成功要因は何でしょう。一言で立地という時代は昔の話。地元に密着しながらも複数の媒体を活用した取り組みで、顧客本位に事業を行う。という当たり前のことがポイントになります。
(企業主体の4P)
有用なマーケティングのフレームワーク(考え方の枠組み)に4Pがあります。1960年にエドモンド・ジェローム・マッカーシーによって提唱された概念で、マーケティングを議論する際の4つの視点です。商品(製品やサービス)に関する方針のProduct、価格に関する方針のPrice、流通や商流や情報の流れを決めるPlace、そして販売促進に関するPromotionです。
モノが無かった時代は、商品(Product)が重視され、上流工程の研究や製造が企業の成功要因とされました。作れば売れたのです。モノが溢れると、今度は商品の認知がカギになり販売促進(Promotion )が注目されます。今と違い情報は僅か、そのため1980年代から1990年代は、広告代理店が中心となり、マス広告が普及します。日本の経済成長がピークとされた1996年前後、市場には似たような商品が溢れ、認知活動も進みます。そのため価格競争が激化して価格(Price)が重視されました。
(顧客主体の4C)
それぞれのPがバラバラだと上手くいかないという概念は当初から在りましたが、2000年前後より、「企業が商品を提供するのではなく、顧客の問題解決をするために企業がある。」という顧客志向の概念が脚光を浴び始めます。4Pの概念は、1990年代にロバート・ローターボーンが提唱した4Cの概念に言い換えられます。
4Pを企業側の視点とすると、4Cは顧客側の視点です。商品は顧客の問題を解決するモノなので価値(Customer Value)と捉え、価格はコスト(Cost)と捉えます。流通は顧客に取って利便性(Convenience)を提供し、一方的な販売促進ではなく、双方でコミュニケーション(Communication)することが大切とされました。
製品やサービスの購入により得られる価値に加えて、購買前後の体験や購買後のフォローを含みます。そして、感情的に得られる気分や優越感なども価値として考えます。
コストは商品の購入において重要な判断材料です。更に検討する苦労や流通に関わる苦労、取り付けや実際に使い始めるまでに必要な労力も加味して考えるとより顧客に寄り添った考えになります。価格の調査や割引情報、ポイント等を付加する取組もコストの範疇です。
優れた商品と価格帯が合理的でも入手困難な状態では購買に至りません。そのため顧客の購買前後の利便性までを考えることが大切です。小売店の陳列棚を見ると、商品をただアピールしたい企業の思惑が赤やオレンジなどの目立つパッケージに現れます。しかし、顧客はそれらを自分の家の素敵な空間に置きたいとは考えません。この流通に関する利便性の視点を変えるだけでも、様々な改善アイデアが出てきますね。
最後はコミュニケーションです。企業と顧客を継続的に結びつけ、意味ある意思疎通をタイミングよく行うことが大切です。企業は一方的に沢山の情報を届けようと考えます。しかし顧客に対して、顧客のタイミングで、わかりやすく伝えることが大切です。
(近年の小売の変化)
小売業界を見ていきます。2000代、4Pの概念が4Cの概念になり企業主体から顧客主体にシフトしました。しかしながら小売業界ではまだ4Pの中のPlace、すなわち立地条件が成功の鍵でした。理想の立地条件を探し、多額の費用をかけて出店を行います。そのため小売業は資金力がモノをいう世界でもありました。因みに2000年と言えば、当時の森首相がIT革命を「イット革命」と発音した映像が蘇ります。まだITを「アイティー」と呼ぶ文化が無かったのです。
ここにインターネット革命が風穴をあけます。ネットの普及と同時に2007年頃より始まったスマートフォン革命も小売業に大きな変化を与えます。誰もが気軽に情報を検索し、行きたい場所に行けるインフラの整備と共に、プラットフォームで気軽に商品検索と比較購買ができる環境が生まれたのです。この変化により立地条件の重要性は低下していきます。
ドットコムバブルの象徴でもある米国Amazonは、店舗を持たずに消費者と商品を結びつける事業形態を書籍販売から開始します。そしてその裏ではひたすら物流の整備を進めます。小売業の秘訣が立地から物流にシフトしたのです。米国ではAmazon、日本では楽天のような企業が小売業者と顧客を結びつけるビジネスモデルを確立します。
小売業者はプラットフォームの中で知名度が上位になることや、カテゴリの中で1位を取ることが販売の鍵だと考え広告宣伝費を費やします。また、購買者の評価を上げることにも躍起になり、プラットフォームの囲い込みが始まります。そのような中、中古品やオークションはヤフー、個人(素人)間の出店はメルカリ、法人事業のマーケットプレイスはモノタロウ、ナショナルブランドを購入する場合はヨドバシカメラなどと、Amazonや楽天一強の世界に競合が次々に登場して、目的によって顧客が媒体を選択する世界が始まりました。
(D2Cの始まりと終わり)
インターネットの世界でも小売業は進化し、顧客向けブランドを展開する企業や小規模事業者は従来のプラットフォーム(電子商取引サイト)を活用せずに、直接顧客と取引をする販売に注目するようになります。D2C(消費者直接取引)と呼ばれるモデルです。
D2Cの立役者はカナダのECプラットフォームであるショッピファイです。小規模の小売業者でも簡単にD2Cが実現できるように顧客情報等の管理業務、決済機能、配送インフラなどの各種サービスを提供しAmazonや楽天に対応できる仕組みを提供したのです。米国や欧州を中心にD2C企業が躍進して大量の投機マネーも流入して一大ブームが起こりました。
D2Cの特徴は、SNSを活用してブランドの認知度を上げ、顧客の興味を獲得します。そして、自社のサイトに誘導し顧客データベースを獲得。直接商品を販売して、きめ細かいアフターフォローを展開します。
しかしこのブームも長く続きません。SNSを活用し、似たようなコミュニケーション戦略と、商品は違えども、どこも同質のマーケティング戦略に顧客は定着することなく、D2C企業は顧客獲得に苦戦するとともに、投資家からも見放されていきます。費用をかけて広告宣伝が出来なくなると新規顧客の流入がストップして自社のビジネスの成長が下火になるという脆弱なモデルが露呈したのです。
コロナを発端に、ウクライナとロシアの戦争、中国のゼロコロナ政策による物流の停止、エネルギー価格や部品価格と配送料の高騰などが次々に連鎖しています。顧客はモノが欲しいけれども部品や物流の停滞で商品が不足し手元に届かず、結果的に物価が上がる現象が発生しています。D2C企業の直撃は、これに加えてSNSの広告ポリシーの急激な変更と広告料の値上げで追い打ちをかけられました。
(リアルとバーチャルの境目)
米国のウォルマートは、リアル店舗を活用したD2Cの開発を進めオンラインで注文した商品を店頭で受け取るBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)をすすめています。一方のAmazonはリアルの世界から実店舗の世界へ拡張を進めています。今後は、リアルの店舗とバーチャルの取組が融合するオムニチャネルが当たり前になると、その土地にしかない希少性に益々価値がでてくるかもしれません。ひょっとして立地で始まったPは、流通に変わり、しばらくはローカライゼーションにフォーカスされるかもしれないですね。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
実践「ジョブ理論」
「M&A実務のプロセスとポイント<第2版>」
「ドラッカーが教える問題解決のセオリー」
新規事業の旅63 Z世代
2023年7月26日
早嶋です。
Z世代とはどのようなカテゴリ層を示すのか。その特徴をどのように歯科医院経営に活用できるのか。
Z世代は96年から2015年に生まれた層を指し、デジタル、スマフォ、SNS、動画活用が当たり前の世代。一方、大震災や多くの災害を経験してきた世代でもありリアルの体験を重視する側面と社会課題に高い意識を持ち合わせる。Z世代にリーチする場合、自分たちと異なるZ世代のメカニズムを把握して共感を呼ぶことがポイントになりそうだ。
(Z世代の定義)
マーケティング活動と顧客分析は切っても切れない中。従い、いつも何とか世代などの人気ワードが飛び交う。しかし裏を返せば、大手コンサル会社が研究開発し、広告代理店が効率的に顧客獲得をするために大枚をはたいて取り組んでいる結果だ。そのエッセンスを活用しない手はない。
Z世代。消費区分のひとつとして定義され、1996年頃から2015年に生まれた層を指す。2022年現時点において、年齢で7歳から26歳がZ世代。生まれた時からデジタル機器に接しており真のデジタルネイティブと呼ばれる。
1965年から90年生まれをX世代と呼んだ。幼少期からカラーテレビが存在し政治的関心が低い世代だ。1981年から1996年はY世代。アナログからデジタル化を消費欲が旺盛な若年層の時に経験した世代で合わせてデジタルネイティブ、ミレニアル世代と呼ばれた。
(Z世代の特徴を表す3つの事例)
Z世代を理解するために3つの特徴的な事例を紹介する。
1)スマフォの縦型動画
スマフォと5G高速通信が当たり前になった今、動画を中心とするコンテンツはZ世代にとって当たり前だ。YouTube、TikTokが普及し、インスタグラムなどのSNSも動画表示に対応を切り替えている。
Z世代以前の調べモノはグーグルだったが、Z世代はまず動画で検索する。そして動画の形式は横ではなく縦が一般だ。そのためスマフォで録画した縦型の動画を保存、編集、サイトやアプリに配信することで自社のコンテンツを作成する企業が増えている。またそのような動画管理プラットフォームを提供するクラウドサービスも沢山ある。
従来、マーケティングや広報のチームに動画担当は脇役だったが、今は主役の扱いだ。聞いたことある組織の殆どが動画の編集、管理、エンジニアチームなど自前で束ねるまでになっている。
花王、光文社、良品計画、アパレルのヤマトインターナショナル等、動画の体裁をTikTok風にし、動画を見ながら情報取得、欲しい商品を注文できるような販売促進を行っている。
店舗系のビジネスでは、店員が商品や自社サービスをアピールしSNSの人気ライバーのようにスタジオや自店舗から情報を発信する取組もZ世代には人気で日本の小売企業でも急速に導入されている。と言っても、動画の品質はスマフォの性能で問題なく、中規模程度の企業であっても担当者が1、2名で動画を配信するケースも多い。
2)キャッシュレス決済
Z世代はキャッシュレスも当たり前。今や結婚式のご祝儀も事前にスマフォ決済で受け取るカップルも増えている。日常生活はキャッシュレス、家族の支出をリアルタイムで把握することが当たり前になっている。スマフォ決済で付与されたポイントは投資運用に回すなど余念がない。
結婚式ではPayPayを使ったご祝儀サービスの利用も増加している。その動機は、新札を用意して頂く負担を無くすという配慮からだ。一方、結婚式場の支払いは前払いが通常。ご祝儀を事前にスマフォで送金頂ければ、参加者も夫婦も互いの手間や負担が減るという算段だ。
若い世代のカップルや夫婦はキャッシュレス決済を行うことで互いの支出を管理する。同居するパートナーと生活費の管理に家計簿アプリ連動のプリペイドカードを使う。すると互いのお金の使い方を共有でき無駄をなくすことができるのだ。この背景は、共働きの夫婦やカップルが増え、収入や支出の流れが複雑になったことも考えられる。
決済サービスを手掛けるインフキュリオンの調べによると、キャッシュレス決済におけるモバイルの割合は年齢が若くなるほど高く、10代では7割、20代でも5割近くが利用している。
Y世代は子供の頃は現金が主流で学生や社会人になってキャッシュレス決済を導入。一方Z世代含め、今後は子供の頃からキャッシュレス決済が当たり前になっているのだ。
3)リアルな体験
大企業の人事を中心にZ世代を中心とする若者は「付き合いが悪い」「リアルコミュニケーションが下手」という評価が定着している。しかし、実利が少ない上司や先輩と仕事後も一緒にいても価値が無いと感じているだけで、意味ある付き合いはリアルを求める傾向が強い。
東京・高円寺の銭湯「小杉湯」は1968年の来客者のピーク530人で直近は147人まで減少した。しかし昨今、平日で400人から500人、週末になるとコンビニの来店なみの800人から1,000人にまで増えている。その来客者の半数が30歳以下なのだ。
セルスサービスの銭湯はシェアリングエコノミー的で若い世代に相性が良いのだ。常連同士が軽く会釈し、挨拶する。この程よい距離感がフィットした。また独居の寂しさを半径500メートルの裸の付き合いで解消するなどのニーズも存在する。モノに投資する満足感よりも、リアルな体験でコトに価値を感じるのもZ世代の特徴なのだ。
(Z世代の特徴と活用のポイント)
Z世代の特徴は、スマフォ、デジタル、SNSが当たり前だ。生まれてから早い段階でスマフォやデジタルに触れ、SNSで友達とやり取りする。動画や映像で調べ物をこなし、それ自体が当たり前になっている。
上記の媒体は、企業がはじめからピンポイントにマーケティングしている。そのためマス向け商品よりも、限られたコミュニティでの情報が身近に存在する。結果的に自分にとって価値あるものを重要する消費行動が誕生した。ブランドや一般的な知名度よりも、自分に価値があるものに対する投資が旺盛になる。
2011年の東日本大震災、昨今の大規模災害が日常になり、従来の世代よりも社会課題に対する関心が高い。テニスプレイヤーの大坂なおみ選手、環境活動家のグレタさんなどのインフルエンサーの存在も大きく、社会問題を自分たちが解決すべき問題と捉えている。
一方で、経済感覚は実に堅実だ。コスパを常に意識し、合理的な選択を求めている。メルカリやオークションアプリを駆使し、新品ではなく同じ機能・デザインであれば中古品の購入にも抵抗が少ない。リユース品は手頃で環境問題にも関与すると考え合理的に活用する。当然、消費に対する失敗は避けたく、口コミ評価や事前購入の情報収集は自ずと緻密になるのも伺える。
若者の言葉に「エモい」がある。自分の感情や価値観の共感を大切にすることから誕生した。社会的な背景や生まれた時から経済が発展しないと感じる世代だからこそ、作り込まれていない本物のリアルを重視する傾向が強いのだ。
まとめ
Z世代は、従来の世代ともまた違う価値観を持ち、自分らしさの追求と多様性を大事にする価値を持ち合わせる。デジタルツールを普通に使い、自分たちから積極的に情報にアプローチして武装する。共感し、価値を感じる商品に投資をする。機能や利便性の追求に加えて、ストーリーや体験を提案されることを待っている。
デジタル、スマフォ、SNSが当たり前の世代だからこそ、リアルの体験を重視する側面と社会課題に高い意識を持ち合わせる。今後、Z世代に対してマーケティングを行う上で、このような特徴を理解し、デジタルとリアルを融合して共感を呼ぶことがポイントになりそうだ。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
実践「ジョブ理論」
「M&A実務のプロセスとポイント<第2版>」
「ドラッカーが教える問題解決のセオリー」
最新記事の投稿
カテゴリー
リンク
RSS
アーカイブ
- 2025年1月
- 2024年12月
- 2024年11月
- 2024年10月
- 2024年9月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月
- 2013年3月
- 2013年2月
- 2013年1月
- 2012年12月
- 2012年11月
- 2012年10月
- 2012年9月
- 2012年8月
- 2012年7月
- 2012年6月
- 2012年5月
- 2012年4月
- 2012年3月
- 2012年2月
- 2012年1月
- 2011年12月
- 2011年11月
- 2011年10月
- 2011年9月
- 2011年8月
- 2011年7月
- 2011年6月
- 2011年5月
- 2011年4月
- 2011年3月
- 2011年2月
- 2011年1月
- 2010年12月
- 2010年11月
- 2010年10月
- 2010年9月
- 2010年8月
- 2010年7月
- 2010年6月
- 2010年5月
- 2010年4月
- 2010年3月
- 2010年2月
- 2010年1月
- 2009年12月
- 2009年11月
- 2009年10月
- 2009年9月
- 2009年8月
- 2009年7月
- 2009年6月
- 2009年5月
- 2009年4月
- 2009年3月
- 2009年2月
- 2009年1月
- 2008年12月
- 2008年11月
- 2008年10月
- 2008年9月
- 2008年8月
- 2008年7月
- 2008年6月
- 2008年5月
- 2008年4月
- 2008年3月
- 2008年2月
- 2008年1月
- 2007年12月
- 2007年11月
- 2007年10月
- 2007年9月
- 2007年8月
- 2007年7月
- 2007年6月
- 2007年5月
- 2007年4月
- 2007年3月
- 2007年2月
- 2007年1月
- 2006年12月
- 2006年11月
- 2006年10月
- 2006年9月
- 2006年8月
- 2006年7月
- 2006年6月
- 2006年5月
- 2006年4月
- 2006年3月
- 2006年2月
- 2006年1月
- 2005年12月
- 2005年11月
- 2005年10月
- 2005年9月
- 2005年8月
- 2005年7月
- 2005年6月
- 2005年5月
- 2005年4月