新規事業の旅79 ラスト一マイルの柔軟思考
2023年10月9日
早嶋です。
ラスト一マイルの議論ほど、過去から決別することが大切だと思う。
例えば、運輸。長距離は、高速道路やフェリーや鉄道を使い、現在の電気自動車の技術で用意に自動運転ができる。高速道路から電車の駅やフェリー乗り場を有機的に設計し直せば、積替えの手間なども大幅に削減される。互いの媒体が結びつくことでまだまだ省人力化は可能だ。
一方で、タイスト一マイルと呼ばれる短距離輸送は、自動化が現在の感覚ではハードルが高い。従来人間がベースとしてインフラを整備したエリアを、自動車という形や概念で自動化するには様々なハードルがあるからだ。
ここにドローンという全く異なるテクノロジーが現れて来た。地上300m以下は航空法の縛りがなく、これまで人は殆活用することがなかったエリアだ。ここに対してラスト一マイルの運輸や交通を整備すると、地上で自動運転するよりもハードルが低いという考え方もある。
例えば、離島や山間部、海の上での通信環境だ。通信といえばこれまでは有線を前提にした発想でインフラが構築された。NTT法という縛りがあり、全国津々浦々に電柱をこしらえ音声を届けた。しかし、この線でつなぐという普及方法は時代遅れで、インフラを整えるのに面積と距離に比例して一定のコストと整備費用などの維持コストがかかる。
ここに飛び道具である衛生を活用することで、通信のカバー率を劇的に高め、インフラを整備する、あるいは保守する費用を圧倒的に安くすることができるようになる。
どちらの事例も、従来の枠組みでの発想で実現しようとするとコスト高で、技術的にも難しかった。しかし発想を変えて異なるテクノロジーや概念を組み合わせることで、いがいと解決する道筋が見えてくる。
新たなことをする際に必要な視点は、連続的な思考に加えて、非連続的な思考を追加することだ。そのためには、素直な心や技術を俯瞰して活用する発想が必要になる。もちろん自分の利権を守りイノベーションを遅らせるような昭和なおじさんは、そく退場させないと30年が更に40年になってしまうと思う。
(過去の記事)
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実践「ジョブ理論」
「M&A実務のプロセスとポイント<第2版>」
「ドラッカーが教える問題解決のセオリー」
歴史は繰り返す
2023年10月6日
早嶋です。
2016年10月。日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社が定期コンテナ船事業を統合した。船隊の規模は業界で6位、世界のシャアは7%を占める。年間1100億円の統合効果を見込んだ。当時の背景は、コンテナ船の長期的な市況低迷だ。同年8月末には韓国コンテナ海運最大手の韓進海運が経営破綻している。穀物や鉄鋼石、石炭、木材チップや塩などの個体や粉体をのばら積み乾貨物であるドライバルク船の需要も当時の中国経済の原則が響き、経営状況は歴史的な低水準が続いた。
現在、再び海運業界が厳しい。各社報道を見ると運賃レベルはその2016年水準に近づいているのだ。当時と同様にコンテナ船の供給過剰が運賃低迷の理由だ。燃料費や人件費などの運航費用は大幅に上昇している中で、運賃が下がることは、損益分岐が怪しいという見立てもできる。コンテナ船会社は、運賃を上げ、大幅な減便をして供給を絞らなければ対応は難しいだろう。
ファクトを整理(上海航運交易所)する。
– 上海⇔欧州の運賃は4割下落
– 上海⇔米国西海岸は1割下落
– 上海⇔米国東海岸は2割下落
今回の理由もコンテナ船の供給過剰だ。2019年12月、武漢から広まったコロナにより家具、IT関連、白物家電などの巣ごもり特需が発生し受給バランスが崩れた。コンテナ船各社はこれに合わせて新造船の発注を増やす。数年経過した今年に入って、当時発注分の船の竣工が相次ぎ、輸送能力が急増したのが背景だ。
過去にも供給が多かった年があり、2006年から08年、2014年から15年の水準よりも6割程度多い水準で過去最速のペースト言う(調査会社ライナーリティカ)。更に、最近の新造船は積載能力が大きく、更に供給過多に勢いを付けている。海運事業の特徴からアジア欧州間が距離や港湾の整備具合が整っており供給が集中することもあり4割の運賃下落になっているのだ。
本来、新しい船が到着すると、古い船はスクラップに出されるが。現在、鉄鋼需要が高まっており、船オーナーはスクラップ価格の上昇を更に待っている動きがあり、結果、コンテナ船の供給過剰を更に助長しているのだ。
コンテナ船の動きや需要は、世界経済を見通す指標の一つとして見ているが、コンテナ船会社は、自分たちの需要バランスを調整するのは至難の技と言ったところか。歴史的に同じことを繰り返しているが、世界経済を読むというのは実に難しいことだと知らしめる内容のニュースだと思う。
「チームマネジメントで外せない4つのポイント」後編
2023年10月5日
高橋です。
私がコンサルティングをしている『営業プロセス研修』のエッセンスを、毎回お伝えしています。
今回のテーマは前回に引き続き「チームマネジメントで外せない4つのポイント」の後編です。日頃、チームを率いておられる管理職、リーダーの方に向けて「これを外すとチームが機能しなくなりますよ」という4つポイントのうち残り2つ「③戦略立案」と「④進捗管理」をご紹介します。
③戦略立案
目標を明確化したら、次はその目標に至る道筋を立てなければなりません。
戦略は「具体的」であり、「行動に移せる」、モノであるべきです。つまりメンバーが、「いつ」、「何を」、「どのように」、「どれぐらい」、行えばよいのか分かるように計画立てをすることが重要です。
その際、気をつけるべきことは誰が何をやるのか役割分担を明確にすることです。責任と権限を明らかにすることで、管理もし易くなりますし、何よりメンバーの主体性を引き出すことができます。自分が任されているのだという自覚が主体性の源です。また誰が何の役割を担うのかが明確だと、誰もカバーしていない業務があればあぶり出すこともできます。
そしてスケジュールを立てますが、その際も注意点があります。納期や必要人員の読みが甘いと、結局間に合わなかったり、ギリギリでドタバタになる恐れがあります。前もってスケジュールのズレを想定し、適正なスケジュール立てを行います。ここを誤ると、そもそもできないことをメンバーに無理強いすることになり、モチベーションの低下を招きます。もちろん成果を得ることも出来ません。
そして、メンバーには出来上がった戦略やスケジュールを正しく伝えます。ポイントは具体性です。メンバーに何を、いつまでに、どのレベルで行ってほしいのか、具体的にわかりやすく伝え理解してもらわなければなりません。
人は理屈だけで動くものではありません。チームリーダーが感情を込めて、熱量をもって、戦略を信じて、メンバーに語り掛けることが重要です。その信念がメンバーのヤル気を起こし、行動する原動力になります。
④進捗管理
進捗管理は、計画と実際の進み具合の比較とそのズレを調整することです。場合によっては計画の修正も必要でしょうし、メンバーへの働きかけによりなんとか目標達成まで導くことになります。
戦略を立てるときに、「いつ」、「何を」、「どのように」、「どれぐらい」、行うか計画立てを行ったように、進捗管理ではいつまでにどのくらい進んでいなければならないかマイルストーン(標=しるべ)を設定しておきます。このマイルストーンを測定可能な数値で設定しておくことで、計画に比べ何%進んでいる、遅れている、と判定することができます。最近はこのマイルストーンをKPI(Key Performance Indicator 重要業績評価指標) と言うことが多いです。
ズレを測定するためにも、メンバーには進捗を日々正確に申告していただく、もしくはリーダーが把握しやすいような仕組みを整えておくことが重要です。SFA(営業支援システム)など「メンバーが入力しやすい」ように、「リーダーが把握しやすい」ように、見える化して共有できるようなシステムを導入する企業が多いですね。
前回に引き続き、チームマネジメントについてお伝えしました。ぜひメンバーの力を引き出し、目標達成するために参考になればと思います。
営業プロセス、営業研修、人材育成、セールスコーチなどをご検討の経営者・経営幹部・リーダー・士業の方はお気軽に弊社にご相談ください。
新規事業の旅78 逆境を乗り越えるリーダー
2023年9月29日
早嶋です。
高齢化、現場任せ、個人の能力任せのシワ寄せが各業界で観察できる。建設、製造、エンジニアリング、運送業、引越等だ。2000年頃までは人手が不足する現象は予見されていても、現況が成り立っており収益も得れていた。そして、現役バリバリの層がまだ厚かったことから作業の標準化や見直しはスローガン的に出ていても、実際はスルーされ、従来通りの現場の頑張りで業績を維持して10年、20年が経過した。
そして、人手不足と高齢化が露呈し始めてやっと、「現場では人手が不足している」「若手の育成がでいていない」「作業が個人任せで標準化がおいつかない」などと当たり前の現象をあろうことか全社の課題として認識している。そして、「採用を増やし、教育に力を入れる」とこれまた意味不な解決策を出して一件落着でいる。
日本の経済状況と社会的な動向を見た場合、あらゆる業界で人手不足が今後も続く、もちろん現状の仕事の仕方を前提にした場合だ。特に、効率化を行わず、安い人件費でなんとかやり過ごしてきた業界は、この傾向が強い。これまでは、そのような業界は何らかの規制等で守られており、競争のルールはあったものの、他の業界と比較すると極めて優位な立場で経営ができた。
しかし、世の中は少子化、高齢化。円の価値が劇的に下がり、労働者も簡単に色々な情報を入手できる時代になった。理屈で考えると、どの業界も人手不足なので、採用を増やしても働く母数が少ないので激しく競争になる。若手を採用するとなると更に厳しい。人材を欲しいという需要に対し、働く供給量が圧倒的に少ないのだ。更に若手は、労働市場の情報を簡単に入手して、条件が良い業界や企業を選択する。辛そうな業界に自分から歩み寄る若手は少ない。
5年頃前までは、ここに外国人の労働者をあてがうことでなんとか対処した。が、コロナ期間から急激なインフレが始まり、ドルの価値を下げている米国よりも日本円は価値が下がっている。外国人労働者に取って、日本で働くメリットがかなり薄れているのだ。まだ、日本に定住して生活することを前提に考えられる外国籍であれば良いが、日本の給与の多くを自国に仕送りすることが主目的の労働者からするとデメリットが強い。円の価値が相対的に下がり、苦労して日本語を覚えて日本で仕事をするメリットが少なくなり、英語が使える他国で外貨を稼いだほうが都合が良いのだ。
と、総合的に考えると、日本人や外国人の採用は今よりも更に厳しくなるのだ。そこで業務フローや仕事のあり方そのものにメスを入れ、効率化を進める選択肢を取らなければ企業の将来は明るくないのだ。
一方で、現場の状況を10年程度前から冷静沈着に分析し、将来、現在の人材が高齢化を迎え、今の属人的な仕事の流れだったとしたら、その方々の退職と共に現場が回らなくなる。という当たり前の分析を行い取り組んだ企業も一定数いる。
・作業の標準化をした上で、効率化、あるいは経験が浅い人材でも取り組める仕組みを作る
・同様に、年齢が上がって体力や認知力が落ちても一定の仕組みで仕事が可能な体制を作る
・一人で一つの工程を行うのではなく、複数の工程ができる多能工を育成する仕組みを作る
・人で行う作業をコンピュータやロボットに置き換えて省人化を実現する
などの方向性を議論して、数年かけてシフトしているのだ。このような企業のトップや現場の管理者と仕事をしていると、いくつか共通のリーダー像を観ることができる。
上述のように、冷静沈着に過去から現状の姿を分析して、確実に来る未来の姿を徹底的に議論している。そして、その未来の姿と現状を比較した際のギャップ、いわゆる問題を明確に認識している。これは10人の現場でも100人の現場でも、1000人以上の組織でも基本変わらない。そして、その問題を解決するための課題を特定して、解決策のアプローチを確実に示しながら長期間かけて行動を続けているのだ。
例えば、ある作業フローを作業毎に別の社員で行っていたが、それだと特定の社員がいなくなった場合、現場が回らない現実を直視した。そこで、現場の状況をあらゆる視点で議論をした結果、多能工化を進める意思決定をする。多能工化を進める際の数年かけての取り組み方を明確にしめし、それが実現した世界を仲間に具体的に話しながら進めていくのだ。
現場の人間の5人は電気系統の仕事と同時に、機械系統の仕事が2年先からできるようにシフトを組む。そのために、1.5年後には新たに社内の認定資格に合格している。その資格に合格するために3ヶ月先から1ヶ月単位で具体的に資格を取りながら、現業を続ける方法を個々人に落とし込み実現するのだ。途中途中、蜜に個々人とリーダーがコミュニケーションを取りながら、社員の不安を取り除くのだ。
はじめこそは、できるわけが無いとなるが。少しづつ行動を変え、挑戦する中で、出来ないことができるようになる。そのタイミングで、周囲はその違いを言葉にして「これができるようになっているね?」という感じでその成長を可視化させていくのだ。
リーダの仕事は、確実にビジョンを示し、そのビジョンを達成した後の夢を具体的に語る。そして、そのビジョンを実現するためのプロセスを具体的に細分化して、どのように取り組んでいくかを明確に示すのだ。そして、その始めの一歩から、途中のフィードバックまで粘り強く、時間をかけてコミュニケーションを続ける。つまり、方向性を示し、具体的に行動ができるようにして、不足する能力ギャップを埋める取り組みに超コミットするのだ。
ニュアンスは適宜細かく異なる部分もあるが、概ね、上記のようなリーダーの姿を観察することができる。
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新規事業の旅77 近くと遠くと全体と細部
2023年9月27日
早嶋です。
企業はミッションやビジョンを基に、5年から10年程度の事業の在りたい姿を設定して、そこに向けて事業部毎の目標、部門ごとの目標と設定した目標を達成するために細分化する。そして当然に末端のリーダーは、その細分化された目標が自分が達成すべき全体と捉えるので、自部門の目標達成を主体に動く。
環境変化が激しい場合、この手の目標管理に不具合が生じる。5年、10年をベースに設定した取り組みが若干冗長なので、そのとおりにいかないという現象だ。そこで、5年程度の事業計画の期間をベースに、実際に1年経過した時点で残りの4年を見直し、追加で1年を加えて、常に5年程度の事業計画をローリングするやり方だ。この場合、誤ったリーダーは、対象目標を達成できないとしても、修正してローリングするので時間が来ればなんとかなると考えてしまうので。
全体を見れば細部が見えなくなり、細部を見れば全体が見えなくなる。人間の性なのだが、トップマネジメントやそれに準じる人材は、常に全体最適と部門最適のバランスを考慮する必要がある。その際の視点は2つ。遠い時間軸と短い時間軸。全体の事業ポートフォリオのバランスと、各事業の方針だ。この時間と規模を常に頭に入れて、遠くと近く、全体と部分を行き来しながら取り組むことが肝要だ。
部分の議論、短い時間軸の議論をするリーアーは、人材が不足、業務負荷が高い、リピートが獲得出来ない、若手が育たないなどの不満をあげる。
しかし冷静に考えると、人口は2008年をピークに減少している。若手を新卒等で採用したいのであれば、数多くある競合や大手企業よりも良い条件を出さない限り採用できないのが事実だ。業務負荷が高いのは、採用が出来ないからだと言っているが、2000年を境に世の中の技術革新は進んでいる。が、業務の流れや考え方は20年フィックスしたままの場合が多い。それなのに気合と根性で仕事を続けるので、なんとか利益は出るが、30代以下の社員からすると勘弁して欲しい状態で、転職を選択する気持ちも理解できる。3年、1年、四半期、1ヶ月。目標を細分化して目先の仕事に目が行くと、取った仕事のフォローや既存のメンテンスがおろそかになる。従い、年月が過ぎても固定客が出来ずに常に焼き畑農業の状態が続く。そして若手が育たないと嘆く。教育は3年から7年程度の時間をかけないと育つわけが無いのに、人事は新人教育で終わりで、階層教育も10年、20年見直しがない。事業部独自の教育は実質計画されておらず、忙しい現場に丸投げ状態だ。
ノルマに追われ、人手が不足して、自分が頑張らないとどうにもならないと勘違いしてしまうのはわかる。が、10年以上持続可能にしたいのであれば、時間軸を長く見て、事業全体、企業全体のメカニズムに対して問題の洗い出しを行い、抜本的な見直しを考えるべきではないか。
いま起きている現象は、5年前、10年前にその発生が確実に予見できるものばかりで、単に企業として対策をしていないで、たまたま採用した40代から50代の気合と根性で組織が成り立っているという事実に気づいた方がよいのではないか。
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【動画】タイムマネジメント&マインド向上研修
2023年9月26日
※本ページは、ユニバーサル・フィールド様の研修参加者向けのページです。
(10月2日) 9時30分より30分程度ガイダンスに参加
23年10月2日の研修参加日以降で、当日の指示に従って課題を行ってください。
(10月の課題)
課題図書 「コンサルの思考技術」 総合法令出版 早嶋聡史著
課題:
1)直近1年間の行動を振り返り「うまく取り組めたこと」
2)直近1年間の行動を振り返り「うまく取り組めなかったこと、できなかったこと」について触れ、
3)2)については、その理由や課題を整理し、課題図書の感想文を作成する。
形式:ワード
提出:10月30日 12時(担当者がまとめて全員分)
(11月の課題)
タイムマネジメント動画
約42分の動画です。時間を管理する際の基本的な考え方を整理しています。
課題:
1)「タイムマネジメントの基礎」視聴後、11月の2週間の各自の行動を記録する。
※フォーマット等は10月2日実施のガイダンスに従う。
2)1)を2人以上で確認し、自分の課題を整理して12月と来年1月の行動に活用する。
3)行動記録の振り返りから、自分の課題と12月から来年1月までの行動目標を整理する。
形式:自由
提出:12月4日12時(担当者がまとめて全員分)
(12月と1月の課題)
1)12月の2週間の各自の行動を記録する。
2)1)を2人以上で確認し、自分の課題を整理して、1月の行動に活用する。
3)1月の2週間の各自の行動を記録する。
4)行動記録の振り返りから、自分の課題と12月、1月の反省等を整理する。
形式:自由
提出:24年1月29日12時(担当者がまとめて全員分)
(2月の研修)
24年2月1日の10時より、上記一連で取り組んだ内容を踏まえて研修を実施する。
新規事業の旅76 TAM・SAM・SOM
2023年9月13日
早嶋です。
ベンチャー界隈のイベントやピッチを見ていて感じる。なんとも言えない違和感。イベント感があり業界を盛り上げるのは良いのだが、一方でそれをどの程度本気で取り組むのか、あるいは取り組んでいるのかが謎なのだ。モヤモヤする。
スタートアップや新規事業を立ち上げる際に、TAM・SAM・SOMを算出する。TAMはTotal Addressable Marketで、ある事業全体の最大のポテンシャルで、2次データを中心に規模を想定する。SAMはServiceable Available Marketで、実際に想定する事業で獲得する最大の市場規模だ。ここは1次情報やテストマーケを繰り返しながらある程度の精度を意識して計算する。そして、SOM、Serviceable Obtainable Market。これは実際に顧客にアプローチできる規模だ。SOMを事業の売上目標に掲げることは良くある。
一方で、SAMの5%でSOMは●円規模です、などの表現を度々聴く。が、その先が一切検討されずに、極めて雑多な感じを受けるプレゼンやピッチが多い。顧客のアプローチ方法はさておいて、どのようにプロダクトを作るかの議論が続くのだ。
違和感の正体は、プロダクトリスク(どうやって商品化するか?)の議論ばかりにフォーカスして、マーケットリスク(どうやって販売するか?どうやって継続させるか?)の議論が浅いのだ。どのような理屈で、どのようなメカニズムでその商品が市場を形成していくのかの具体が見えない。ターゲットの反応や想定する顧客のイメージやテストマーケの結果も反映されていない。特に多いのはアプリなどのプロダクトで観察できる。便利そうなプロダクトであるのは間違い無いが、それをどうやって想定するSOMの売上を獲得する顧客にリーチするのかの議論が殆無いのだ。どのような優れた商品であったとしても、顧客がその存在を知らなければ売れないし、知っていても届ける媒体に工夫が必要になる。そして、ここには思った以上に泥臭い。
経営者や経営陣が、実際に泥水を飲みながらプロダクトの開発と共に、プロダクトの販売やマーケティングを実施し、あたりを付けていれば、そのせプロダクトを売るための業界のギャップなり、キーパーソンの存在なり、なにかプロダクトを良くする以外のボトルネックが複数見つかるはずなのだ。そして、その取り組みを思考しながら顧客へのアプローチや思わぬビジネスモデルの緒が見えてきたりするのだ。
すると資金調達の目的も変わってくる。単に、プロダクト開発のためや、議論していないプロモーションの予算を集める行為から、具体的に資金提供者にも動いてもらうアイデアがどんどん出てくる。つまり、資金提供者を選んで、自分たちで不足する資源やギャップを埋める可能性がある企業に自ら近づいていき提案をして、資金も調達するのだ。
起業する際に、いくばくのアイデアと、そのアイデアを形にするチャンス。そして大切なエッセンスにチームがいる。このチームの中に、販売を加速する仲間がいると心強い。単に資金調達をすると同時に、そのギャップを埋めれる企業に近寄り、提携やマイノリティ出資を募り、そのギャップを一緒に解決する提案などを行う人材だ。そのためベンチャー企業といっても、やはり進出する業界に一定の明るい人材を確保するオーガニゼーションリスク(それなりのメンツを揃える)は常に考えて置く必要がある。ただ、開発のように常に社員としている必要はないから、ストック・オプションを提示しながら肝となる活動を行ってもらったりして、そのようなベテラン人材の確保を着々とすすめていくのだ。
北米のVCあたりは、ひよっこベンチャーにも触手を広げるが、一定の業界のマネジメント層や若手で成果を出すビジネスパーソンに日々寄り添い、彼ら彼女らに起業の話を持ちかける。なんてことも当たり前のように行っているのだ。
要は、プロダクトに加えて、マーケティング、組織、そしてファイナンスを揃えながら事業を行っていくのが肝要なのだ。
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新規事業の旅75 ゼロイチとM&A
2023年9月12日
早嶋です。
新規事業の獲得のために多くの企業がM&Aを考えている。しかし、実際は上手くいく事例が少ない。なぜだろう。M&Aは売り手の状況を考えた場合、そもそも出口戦略の一手になる。その場合、業界が縮小する、効率が悪い、利益が出にくくなる。そんな理由でどうにかなる前に会社の売却を決める場合がそもそも多い。従って、M&A以外のオプションも考えるべきなのだ。
(新規事業開発が必要な背景)
国内企業は、規模の大小に関係なく、成熟期を迎えている。そして事業存続のために、次の成長に向けて、或は将来の稼ぎ頭を獲得すべく、自助努力で新規事業を開発している。しかし結果が出る企業が少ない。多くの企業は10年も20年も特定の業界で、さらに過去に出来上がったビジネスモデルを軸に事業を行ってきた。そのためこれまでの経験があまり活用されにくい新規事業の開発に苦しむのだ。
一方、歩みは遅いけれども、経営者が先陣を切り、ゼロベースで試行錯誤を続ける企業は自助努力でも時間の経過と共に、一定の可能性を見出し、損益を回収する地点までたどり着け、一定の成果を出す企業も散見される。
しかし規模が大きな企業に良くありがちな風景は、「新規事業」「イノベーション」などとそれっぽい言葉を経営陣が連呼するだけで、実際の新規事業の開発や取組は社員に丸投げというのも珍しくない。新規事業開発室、イノベーション推進室等、かっこいい組織が立ち上がるが、既存の事業も不安定で人手不足に見舞われているため、多くはそのような組織は既存業務との兼業で行われる。事業の開発の仕方や、業界外のネットワークなど何もないと感じる社員は、新規の取組を行っても直ぐに成果が出るわけでもないし、一方で評価は既存の事業の4半期の成果で評価されるため、そもそもリソースを割かないのだ。
(ゼロイチと共にM&Aを考えはじめる)
ゼロイチ、いわゆる新たに事業を創業する経験やノウハウや知識と、既存事業を維持拡大するそれとは大きく異なる。経営者であっても四苦八苦する取組だ。それを、既存の出来上がった事業モデルの一部をニッチに繰り返しの作業で仕事をしてきた社員に、兼業で開発しろと言うのは、無茶苦茶な話なのだ。
そのような中、経営者には、「M&Aで事業を買収して次の収益の柱を立てる事例があるらしい」と金融筋や御用聞きコンサルから幾度となく話が入りはじめる。そして、これまで興味が無かったM&Aという言葉に惚れ込み、「自社もM&Aだ!」的な動きになる。
確かに、大手企業では一定の規模の事業を買収して、自社のシナジー効果を取り入れながら事業の開発を行っている事例は多々ある。しかし、自社のシナジーなしに買収した企業を更に成長加速させることは稀なのだ。
通常、M&Aは売り手からすると出口戦略の1つになる。複数ある事業の中で、1つの事業が成熟すると、その事業は会社にとって収益の源泉になる。しかし、その状態が永続するとは限らない。経営者としては、複数の事業ポートフォリオを意識的に組み替えて事業価値を高めることが仕事だ。そのため成熟期や衰退期に差し掛かった事業で、業界全体から見てポジションを取れていない事業は売却の対象になりやすい。
このような事業は、成熟した業界の中で高いシェアを持つ企業が買収し、更にシェアを高めたり、規模の経済を活用して収益構造を改善したり、デジタルを駆使して少人数でも事業活動が行なえる工夫をする。当然に、買収した後も、その事業のコントロールを徹底的に行ない事業のシナジーを出す取り組みに一定の資源を費やす必要がある。そもそも買収した事業とともにシナジーを出すには、一定の事業への理解と継続的な関わりが前提になるのだ。
勿論、小規模な事業の場合、先行きが不安、業績不振、後継者不在などのネガティブな理由で、事業のライフサイクルを度外視して売却を模索する経営者も多々いる。また、ファンドの投資先の企業がIPOすることが出来ず10年を迎えてしまった場合は、投資先の事業の一部、もしくは全部を現金化する必要がある。このような事業を新規事業の買収先として検討することもできる。しかし、その手の情報が入る企業は、新規事業の開発に対して戦略的で、ゼロイチとM&Aに加えて、提携や出資を行いながら情報収集と事業化の可能性を検討しているので、今回の議論の対象外、いわゆる優等生企業なのだ。
(M&Aは成功するのだが・・・)
さて、話を戻そう。新規事業を立ち上げる目的で、自社でゼロイチの部隊をつくる。しかし、これまで説明した理由でなかなか進まない。一方で、株主に対しては成長戦略を軸にした経営計画を既に発表している。
例えば、現在の企業の売上が70億で、後数年に100億を達成するなどだ。内訳は、既存の事業が複数あり、特に稼ぎ頭の事業は成熟期を迎えているので70億を維持するもの難しいのに、きりよく100億を目指したいと公表している状況だ。色々議論しても、既存事業の延長とゼロイチで今行っている取組が成功しても90億が限界だ。どうしても10億足りない。そんな状況だ。結局、議論が堂々巡りになり、最後に「10億はM&Aだ!」的になり、経営会議の中で希望を見出してしまうのだ。
仮に10億の企業が利益率10%で1億の利益だとする。資産の価値が3億程度だとしても相場は8億から10億程度だ。案件があればお金で解決し、事業計画で不足する10億の嵩増しが出来て一件落着とならないのだ。
売り手が事業を手放す際に、更に成長するためにより大きな資本傘下になり成長を加速したい。という案件は稀で、実際は今後の成長が不安定でいくつか問題を抱えている。それでも新規事業や成長を遂げたい買い手企業がたくさんあるので売り案件に対して買い手が10社以上手いることもざらだ。
仮に運よく買うことができたとしても、買い手はその企業のマネジメントを行う必要があるし、場合によってはテコ入れが必要になるのだ。M&Aをしたからと言って、勝手に自走して買収案件が収益を生むかといえば、そのような事業は売りに出されることが稀だ。買い手企業は買収した企業に経営陣を送り込み、買収した企業の問題解決にあけくれる。
本来は、買収する前の時点で、統合した場合のシナジーの予測や問題点の洗い出しをするのだが、経験がない買い手はお金をだしたら終わりだと思ってしまう。結果、買収した時が最も企業価値が高く、その後の経過と共に価値を棄損させてしまうのだ。ひどい場合は、のれん代の減損が生じてしまう。
さらに、慣れていない会社ははじめてのM&Aで結構なキャッシュを払ってしまい、既存事業の資金繰りも悪化するなども稀に観察する。
(ではどうするか?)
70億から100億に切りよく目標を設定したことが・・・。と思うかもしれないが、それは仕方がない。企業はミッションやビジョンの実現のために成長せざるを得ない生き物だ。問題は、残り10億となったところで思考停止したことだ。瞬時にM&Aと捉えるのでなく、その領域に対して、投資先に対しての戦略をもう一つ深掘りして準備すべきだ。
現実的に考えると、自社の売上を保管する企業が都合よく売りに出る可能性は極めてゼロに等しい。しかし、自分達だけでは達成できない。深掘りすべき点は、では何が自分たちに不足しているのかだ。時間なのか、ノウハウなのか、経験なのか、販路なのか、デジタル技術なのか。
その不足する部分を徹底的に整理して言語化することがまずは大切な一歩なのだ。そして、その部分をゼロイチで取り組む考え方と、不足する部分をM&Aではなく、提携や出資で補うという考えも持つべきなのだ。
新規事業の旅74 ストックオプション
2023年9月11日
早嶋です。
(ストックオプションとは)
ストックオプションとは、企業の役員や従業員、時には取引先や外部のアドバイザーなどに対して「将来、事前に決めた一定の条件で株式を購入できる権利」を与える仕組みです。
ストックオプションを付与された人は、将来、一定の条件で株式を購入出来る権利を得ているので、企業価値を上げる努力にインセンティブが働きます。企業価値が上がれば株価が上がり、結果的に金銭的なメリットを得ることができるからです。
ストックオプションは成熟した企業よりもベンチャー企業でよく用いられます。その企業の利害関係者が一緒になり企業価値をあげるインセンティブにつながるため、全員の方向性が一致するためです。そして、ベンチャー企業は現時点で潤沢なキャッシュフローがありません。それでも将来の可能性に投じて有能な人材と仕事をするためには資金が必要です。将来のキャッシュフローを期待して企業価値を上げる取組に賛同した仲間は、ストックオプションを得ることで利害が一致し、ベンチャー企業としては金銭的なリスクを創業時に低減することができるのです。
ストックオプションは権利です。もし株価が将来下がり、ストックオプションを行使したとします。その場合、高いお金で安い株を買うことになるので損します。その場合は行使しなければ良いのです。ストックオプションは義務ではないこともポイントです。
未公開企業のベンチャーが発行するストックオプションは、通常は譲渡制限があり譲渡できません。ストックオプションはベンチャー企業から従業員等に無償で付与されます。ベンチャー企業は一般的に資金力が乏しく、人材も揃っていません。しかし成熟した企業や大企業よりも玉虫色に将来が化ける可能性があります。ストックオプションはそれをベンチャー企業の推進力に変える仕組みなのです。
ベンチャー企業も成功の鍵は人です。小さい企業には人材が集まらない。人材がいれば理想のビジネスモデルを構築し潤沢なキャッシュフローを生むことができる。そして企業価値があがる。このパラドックスを常に合わせ待つのがベンチャーです。
大企業の安定ではなく、自分達の努力とコミット具合で将来を変える、社会に変革を起こすことが出来る。そのような将来の可能性を見出す人材を、集める仕組みでストックオプションは魅力的です。一方で、ベンチャーが起動に乗り、一定のキャッシュフローを生み出す仕組みが出来た頃は、自社でキャッシュを稼ぎ信用も確立できているので、良い人材獲得もやりやすくなります。創業期と安定期で異なる人材を集める仕組みとしても活用しやすいのです。
(基本的な仕組み)
ストックオプションは「将来、事前に決めた一定の条件で株式を購入できる権利」です。その1株をいくらで購入できるかの価格を行使価格と言います。たとえば、行使価格を5万円とします。
将来、株価が5万円よりも安い場合は、ストックオプションを行使しても得られる利益はゼロになります。ただし、ストックオプションはタダで受領しているため損しません。ストックオプションは権利で、損する場合は行使しなければ良いのです。
将来、株価が行使価格の5万円よりも高くなれば、その差額が利益です。たとえば、将来株価が20万円になれば15万円が益になり、500万円になれば495万円が益になります。
設立時のベンチャー企業は企業価値も低く、行使価格も低いです。既にベンチャーキャピタル等からファイナンスを受け企業価値がある程度上がっている場合、行使価格は高くなるのが通常です。そのため創業時に近い時期にストックオプションを得ることで、利益を最大化するチャンスが高まります。一方で、将来が不確定なため権利を行使しても利益を得られない可能性もあります。
(クリフとべスティング)
ベンチャー企業がストックオプションを配布する目的は、「良い人材を獲得する」、「将来の成功にかけてしばらくの期間、一緒に頑張ってもらう」など人にかかわる部分が大きいです。そのため「ストックオプションをもらってすぐに行使できる」という設計もテクニックとしては可能ですが、人材確保の目的にはなりません。通常はストックオプションを受け取ってから2年程度は行使することができないように設計します。この行使でいない期間、もしくは行使開始時期のことをシリコンバレーでは壁の意味でクリフと言います。
更に、目的の人をベンチャーに残ってもらい継続的に企業価値を上げてもらいたいことから、クリフ後、すぐに100%行使させません。何年かに分けて行使できるようにします。「2年クリフ。付与から毎年25%行使可能で4年目に100%行使できる」などです。この場合、ストックオプションを付与時から2年後に25%の行使が可能で、100%行使するためには5年必要になります。この仕組みをベスティングと言います。
たとえば、期待のエンジニアや役員がストックオプションを付与してすぐに株に変え、退職されてもベンチャー企業には意味がありません。このためクリフとべスティングで縛りをつけるのです。
(発行計画)
ストックオプションはベンチャー企業にとって、お金が無い時期に有能な人材を外部から調達するための原資として有用なツールで有ることはご理解いただけたと思います。最後に、そのストックオプションをどのように発行するかをみていきます。
結論は、業種や企業規模等でケースバイケースであり、資本政策にも関わってきます。ただし目安として発行されるストックオプションが上場までの累計で、発行株式数の10%以内に収まるように設計するのが無難です。より安全に考えるとしたら累計で5%から7%程度に収まるように計画します。ポイントは1回の発行ではなく、累計での発行です。
これらを鑑みると、ストックオプションの計画は人員計画、資本政策、当然ながら事業計画を合わせて作ることが必要になります。事業計画で上場までにどのような役職の人を何人採用するかの人員計画をつくります。資本政策では、いつ、どのくらいの企業価値を実現して、いくらくらいの資本を必要とするかを計画します。これらを合わせて考え、誰にどの程度のストックオプションを付与できるか、将来の事業価値から、それぞれの人にどの程度の報いを与えることができるかのシミュレーションがポイントなのです。
ストックオプションは「付与のタイミング(入社時期)」「その人の役職や職責」などから一定のルールを作り、それに準じて決定するのが定石です。付与時に全従業員に開示する必要はありません。しかし株式公開する際に有価証券届出書でストックオプションを受け取った全員の名前と住所が開示されます。上場した場合、誰にどのくらいのストックオプションが付与されたか分かるのです。ある程度の納得感は必要だということも理解できると思います。
参考:「起業のファイナンス」磯崎哲也著
参考:「起業のエクイティ・ファイナンス」磯崎哲也著
新規事業の旅73 サステナビリティ経営
2023年9月8日
早嶋です。
コンピューターのセキュリティ対策についての変化や今後の方向性について整理する。マイクロソフトがWindows 3.1の後継として、1995年に発売したオペレーティングシステム、ウィンドウズ95。この発売の前後でインターネット活用が仕事から家庭にまで一気に普及するきっかけとなった。そして2007年頃にはアップルからスマートデバイスが発売され、パソコンからスマフォを持つ個人が増え、一人1台を保有し日々の生活インフラとなり生活に溶け込んでいる。一方、あらゆるデバイスがネットワークに接続され、セキュリティ問題が浮上する。今回は、そのセキュリティ対策の進化と歴史に注目する。
(1990年代)
1990年代よりネットワーク利用が拡大される。ネットワークとはコンピューター同士を結ぶ概念で、構内ネットワークを結ぶLAN(Local Area Network)から、拠点間を離れたコンピューター同士を結ぶWAN(Wide Area Network)へと発展した。その際に利用される通信規約がTCP/IPだ。これは世界中のコンピューターネットワークで標準的に利用される通信ルールだ。TCP/IPはWWW(World Wide Web)の発明と共にコンピュータとそのネットワークに革命をもたらした。
異なるデバイスやOSが通信する際にルールが必要だ。そこで通信規約としてTCP/IPが規定された。我々がインターネットでWebページを閲覧する時は、TCP(Transmission Control Protocol)とIP(Internet Protocol)を利用する。TCPは送ったデータが相手に届いたか、その都度確認しながら通信するルールで正確な信号を送信する通信規格だ。IPはIPアドレスと呼ばれる数値を付与し、その数字を用いて通信先の指定や呼び出し、通信を行う。
一方、TCP/IPによって構内(例えば家庭内や企業内)の内側と外側が自由に接続されるようになる。家庭や企業内には各々機密情報を保持しているが、インターネットを不正に活用すれば機密情報を盗み出すことも可能になるのだ。また、人為的なミスで機密情報を漏洩する恐れもある。このような背景からセキュリティ対策は不可欠なのだ。
そこで企業は構内の内側と外側にセキュリティの防御用に壁を設置し、悪意を持つ不審者のネットワーク侵入を阻止する。この仕組はファイアウォールと呼ばれる。ファイアウォールは、送信される通信データのかたまり(パケット)情報から接続を許可するかどうかを判断する。仮に不正アクセスの場合は、管理者に通報される。ファイアウォールには様々な付加機能がありセキュリティ対策に柔軟に対応できるようになっている。
(2000年代)
この頃より、企業は不審者の侵入防止に加えて、ウィルス対策が必要となった。当初、ウィルスはフロッピーディスクなどを介してコンピュータに忍び込み子供のいたずらをする程度の存在だった。しかしネットワークの普及と共に企業での電子メールの活用がウィルスの拡散に勢いをつけた。
記憶に残るウィルスに「I love you」がある、2000年の出来事だ。メールのタイトルが「I love you」でファイル添付がある。添付ファイルを開くとウィルスが解凍されコンピュータが感染する。このウィルスは厄介で、コンピュータに保存されたデータを破壊し、更に登録しているメールアドレスにも同様のウィルスを仕込むのだ。そのためあっという間に世界に拡散されたのだ。このようなウィルスが2000年代初頭はかなり増殖した。「コードレッド」や「ニムダ」などもその類だ。ウィルスは徐々に高度な技術が仕込まれ、最終的には身代金と同様にウィルス感染した企業や組織に、コンピューター制御を正常に戻す見返りとして金銭を要求するウィルスなども登場してきたのだ。
(情報漏えい)
2000代初頭は大規模な情報漏えいも世間を賑わせた。都内で美容サロンを運営する企業から数万人規模の個人情報が漏洩し、世間を騒がせた。この事件は、裁判で一人当たり数万円の損害賠償を言い渡され、企業に取っては情報漏えいが重大な経営リスクとして認識されはじめた。
情報漏えいによる損害賠償を企業に課した背景は、その発生要因にある。これまでの流れを考えると、外部からの不正アクセスが要因だと思うが、実際は内部要因が主たる原因だったのだ。コンピューターを外に持ち出した際に紛失してデータを漏洩させた。内部のオペレーターが誤作動を起こしてしまい情報を外部に拡散してしまった。このような要因が8割以上を占め、外部からの意図的な攻撃や内部社員の悪意ある不正持ち出しなどが残りを占める。つまり情報漏えいは人為的なミスや内部不正などが理由で、外からの脅威ではなく内部での管理に関わる問題と認識されたのだ。
情報漏えいの問題は、通信販売会社、電力会社、金融機関、小売業など、様々な業界や企業から発生した。このように多くの情報漏えい事件を背景に2003年に個人情報保護法が成立。2005年から全面的に施行された。個人情報を取り扱う一定規模の企業に取って、情報を確実に管理して安全に運用することが重要課題として認識されたのだ。
(拡大する脅威)
セキュリテイ対策はイタチごっこで、大量に迷惑メールを送り付けるスパムメールの増殖、ファイアウォールをくぐり抜け不正データを送りつける手口など、敵の技術も都度高度になってきた。そこでIDS/IPSなどが新たに実装された。IDS(Intrusion Detection System)とは、ネットワークやサーバ通信を監視する仕組みで、外部からの不正アクセスを検知し、管理者に通知する。IPS(Intrusion Prevention System)は、不正アクセス検知と通知を行いながら、該当通信を遮断するなど侵入を防ぐ機能を持つ。ネットワークの利便性が上がる一方で、このように幾重にも及ぶ防御が必要になってきたのだ。
最終的には、これらの機能をUTM(Unified Threat Management)に集約することになった。UTMはファイアウォール機能、IDS/IPS機能、アンチウィルス機能、アンチスパム機能、Webフィルタリング機能、アプリケーションコントロール機能などを備えで、これらの機能を駆使した多層的な防御を1つの装置で行うのだ。
セキュリティ対策は全ての企業が行っているわけではない。リテラシーが低い企業は、日々リスクにさらされている現実を知らない。そこで2010年頃には、標的型攻撃が増加していく。敵もランダムに攻撃を仕掛けても、防御する企業には影響を与えることができない。そこで不正組織は事前にセキュリティが弱い企業や団体を調べた上で、脆弱な組織に攻撃するのだ。標的にされた組織にはウィルスやマルウェアが仕込まれた添付ファイルやURLを送り、不正プログラムをインストールさせるのだ。2015年に起きた公的年金を扱う特殊法人を狙った不正アクセスは大変なニュースとなったので読者も記憶に留めていることだろう。
2019年12月、武漢から発症したコロナ。その後の企業は、これまで重い腰をあげて一気にデジタル化にシフトした。結果的にテレワークやクラウド型のサービスを標準としたニューノーマルな仕事のスタイルが定着し、新たな脅威にさらされるようになった。従来の構内からのアクセスと異なり、初めから外部環境からのアクセスが当たり前になる。セキュリティが効かいないエリアでの業務が発生し、そこにセキュリティの落とし穴がますます増えている。
これらの対策は、社員の情報リテラシーの向上やルールを整備した運営に加えて、クラウドや外部ネットワークでの仕事を前提としたネットワーク環境の再構築(シンクライアントやVPN等)が課題になる。そして万が一被害が出ても、早期に検知が出来て被害を最小化できるようにUTMを活用するなど、ログの取得や継続的なネットワークの監視は企業に取って新たに発生する必須業務となるのだ。
参照
情報セキュリティ10大脅威 2021:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構より
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
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