早嶋です。約3000文字です。
Skypeは、サービスを2025年内に終了するという。マイクロソフトは当時、Skypeの買収に多額の投資を行った。メッセンジャーやVOIPを活用した音声サービスの先駆者だったSkype。当時は「Skypeしよう!」と動詞にもなっていたと記憶する。単一のテクノロジーは残りにくい。現在では統合され、マイクロソフトもチームズに技術統合したのだろう。単体で一定の成長を遂げた後は、常にセキュリティや保守メンテナンスの効率が悪くなりサービスを終了するのだ。
2011年当時、マイクロソフトはSkypeを約85億ドルで買収した。SkypeはVOIP(Voice over IP)の先駆者で、法人個人向けのオンライン通話の標準的なツールだった。しかし、その後の市場変化とマイクロソフトの戦略転換により、Skypeの役割が薄れていく。その理由はいくつか考えられる。
まずは、サブスクリプションモデルへの統合戦略だ。マイクロソフトはOffice 365(現 Microsoft 365)を軸に、企業向け統合ソリューションを提供する方向に戦略シフトした。Skypeの技術は、ビジネス向けのTeamsに統合され、単独サービスとしてのSkypeの価値は相対的に低下したのだ。Teamsは、ビジネス向けチャット、音声通話、ビデオ会議、ドキュメント共有、タスク管理などの機能を統合したツールで、企業のコミュニケーションプラットフォームとして急成長している。特に2019年12月の武漢熱、Covit19 以降、リモートワークが世界中で急速に普及し、Skype for BusinessはTeamsに完全移行していくのだ。
セキュリティやメンテナンスに対しての課題もあっただろう。SkypeはもともとP2P(ピア・ツー・ピア)技術を基盤としていたが、クラウドベースの技術と比較すると、メンテナンスやセキュリティ面での課題があったと思う。Teamsでは、Azureクラウド上での運用が可能となり、より一元的な管理ができるようになった。
競合環境の変化もあるだろう。Skypeが買収された当時は、ZoomやSlackのような競合はまだ目立っていなかった。しかし、ここ数年でZoomがビデオ会議市場を席巻し、SlackやDiscordもテキスト・音声コミュニケーションツールとして台頭した。Skypeのブランド力は相対的に低下し、マイクロソフトも、競争力のあるTeamsにリソースを集中させる方が合理的だったのだ。もちろん個人向けの市場でも変化が激しい。WhatsAppやFacebook Messenger、LINEなどの無料通話アプリの台頭が、Skypeの影響力を弱めていった。かつての「Skypeしよう!」というフレーズは、今では「Zoomする?」とか「LINEでいい?」とかに置き換わっていたのだ。
マイクロソフトは、Skype単独の製品を維持するよりも、その技術をTeamsやその他のMicrosoft 365のエコシステムに統合し、より効率的に活用する方が戦略的に合理的だと判断したのだ。Skype単体の維持にはコストやセキュリティリスクが伴うため、特にビジネス向けでは、Teamsへの一本化が自然な流れだったのだ。
統合と淘汰のサイクル。今回のSkypeのようなアプリやデジタルサービスに限らず、多くの業界で観察される現象だ。技術やサービスが単独で成長し、ある程度市場で存在感を持った後、大手の統合システムやエコシステムに組み込まれる流れだ。
Skypeとチームズのように、企業は単体の製品よりも、統合されたプラットフォームやエコシステムを持つ方が強い競争力を発揮する。AmazonはECで力を発揮して、その利益を周辺事業に投資を続けた。今では、AWS、Prime、Audibleなど、サービスを束ねることで法人と個人のサービスのリテンションを高めている。Googleもだ。検索サービスでの収益を、Gmail、Youtube、Driveと広げ、統合した顧客体験を提供することでユーザーの生活に根づいた収益をあげている。個別に存在するよりも、エコシステムの一部として組み込まれた方が競争力がより強固なものとなるのだ。
つまり、単独の技術やサービスは、持続的な競争優位を構築するのが難しいということだ。独立系企業が競争に耐えるには、「持続的な差別化」が必要だが、技術の進化や市場の変化が相当早い昨今、一定以上の品質を提供することができた後は、差別化は維持しにくくなる。
この背景には、業界全体に対して、ファイナンスを武器に成長する文化が当たり前になったとも言える。大手企業はスタートアップと協業を繰り返し、時にはマイノリティ出資をして新商品の開発や不足する経営資源を高速で補っている。あるいは、その事業ごとグループ傘下に加えることで、時間を買った成長を遂げるケースも珍しくない。そして一度資本政策による成長を経験した企業は「成長の手段としての買収」を加速させるのだ。
支払い方法に対しては、個別の商品を販売するのではなく、統合サブスクリプションの中に組み込むことで収益が安定することを学んだ。アドビは単体のソフト売りから今では、Adobe Creative Cloudに統合している。マイクロソフトも上述の通りMicrosoft 365に統合。NetflixやSpotifyは、コンテンツの単体販売ではなく、定額モデルで収益を安定化させている。
単体のサービスでは、ユーザーの選択が都度あり、その度に獲得コストが必要だった。統合プラットフォームは、とりあえず全てのサービスがあるので、一度獲得した顧客に対して、継続的な体験を提供できれば、退会することはない。そのため、企業としては、安定的な収益と確実な収益計画が作れる。これは予算化も明確で、数年における設備投資や事業の強化がより正確になるため企業のファイナンスもぐっと強化されていく。
統合されたサービスは、セキュリティや規制対応のコストも下げることができる。経営企画から、人材やサービスの調達、製造や流通、販売やマーケティング、その後のカスタマーサクセスまで。機能部隊は一部、あるいは全部を共通化することで運営のコストも高効率にまわせることがわかってきた。この流れは、今後もあらゆる業界で発生するのだ。特にまだ統合が進んでいない業界においてもだ。
生成AI・クラウドは、AIスタートアップがGoogle、Microsoft、Amazonに吸収されるだろう。電池・再生可能エネルギーは、EVメーカーや電力会社が蓄電池企業を買収する方向性が加速するだろう。ヘルステックは、AppleやGoogleが医療データ企業を統合するだろう。ロボティクスはTeslaやBoston Dynamicsのような企業がシナジーを求めて統合するだろう。そして、宇宙ビジネスはSpaceXやAmazon(Blue Origin)が衛星通信企業を取りむだろう。
Skypeのサービス廃止を事例に、世の中の単独サービスが統合されることを議論してきた。あなたは統合される側、する側、どちらの立場でプレーしているだろうか?