早嶋です。3200文字です。
伝統的な組織や変化を避ける企業の問題点は、「問題そのものの設定が曖昧であること」だと思う。多くの企業は、「売上100億を目指す」「DXを推進する」「経常利益10億達成」など、一見それっぽいでも実は極めて抽象的な目標やスローガンを掲げる。しかし、実際にどう達成するのかという具体的なロードマップが書けない。それは問題の所存が不明瞭だからだ。従い、問題を特定することなく従来の流れで行動するので現場はそれっぽく忙しいし、取り組んでいると勘違いする。しかしいよいよ大変になってきた。時代の変化もさることながら、新たなテクノロジーの活用により今まで想定していないライバルが進出している。
今すぐ、現状のビジネスモデルがどの程度維持できるのか、新たな収益源をどこで確保するのかを具体的に分析して企業の方針として明確にすべきなのだ。問題の特定ができていない企業の特徴は、目標を掲げることで計画を終えている。例えば、2030年に売上100億を達成する。等だ。これではその内訳の定義がわからないから今との比較ができない。つまり問題が設定できないのだ。問題は、現状と時間軸におけるありたい姿(目標)とのギャップだ。
更に問題の特定ができていない企業は、現状分析も甘い。例えば、現在80億の売上があるとした場合、その売上を達成してきたメカニズムの把握や、複数の事業において何が問題になるかを整理しきれていない。それらを理解するためには、事業事の売上推移や今後の見通しを分析するのだ。その際、自社分析以外に、市場や競合の変化を理解して、3年、5年先を予測する際には、それ以外のマクロ的な分析を加えるのだ。その結果、現状80億の事業が、A事業(50億)、B事業(20億)、C事業(10億)などに細分化され、それぞれにどのような問題があるかが見えてくるのだ。
他に観察するのは、抽象的かつ定性の議論が多いことだ。時間軸の設定や定性的な目標を達成した際の具体的なイメージや定量的な表現が乏しいのだ。例えば、「DXを推進することで利益を獲得する!」というような表現だ。しかし、DXをどのエリアで推進するのか?それによって、1)売上(単価とか、客数とかを増やす)を上げるのか?2)今かけている費用を●%に削減するのか?3)売上や費用は変わらないが、従業員の精神的な負担をけいげんするのか?などのフォーカスがないのだ。
そして昨今、新たに追加された概念が新規事業だ。高い目標を掲げたものの、これまでの経営を通じて、なんとなく複数の事業が成熟期に達していることを察している。そのため例えば目標100億に対して不足する売上があることをなんとなく把握しているのだ。そこで我が社も新規事業!とスローガンを出すのだ。しかし、実際に新規事業で5億獲得するのか?10億獲得するのか?の定義はない。さらに、新規事業の領域や方針がなく、現場に新規事業という言葉がまるねげされる。少なくとも経営陣は新規事業のドメインを明確に決めることなどはすべきなのだ。
実際に問題解決能力がある企業で、実績を出している企業は以下のような取組をする。同じ2030年の売上100億に対して、A事業50億は40億に縮小(▲10億)。B事業20億は現状維持(±0)。C事業10億は30億に拡大(+20億)。不足する10億は新規事業で補う。と事業事に問題を切り分けている。
更に、売上のギャップと同時に、人員計画を合わせて明確に示し、人員のギャップがどのようになるかを示すべきだ。仮に事業毎に売上のギャップを明確にできたとしても、その売上を人材を中心にどのように満たしていくのか?という前提を明らかにすることが大切なのだ。
2030年の売上を現状の80億から100億にする。人員は現在800人で、人員を大きく増加させないで800人で実現する。という前提は経営が示すべきだ。すると、縮小するA事業は人員減少。新規事業の開発は何人必要か?A事業の人員を単純に新規事業に当てはめても適正はそもそもあるか?などが議論できるようになる。その議論の方向性を明確にするために整理するのだ。
A事業は50億を500人で対応できるが、この内新規事業に取組む人員を加味しながら100人減らして400人で40億の売上を作れるたいせにする(▲100人)。B事業は20億を100人で取り組んでいるが、人数は現状を維持する。ただし、新規事業を行うポテンシャルの人員は入れ替えをする必要がある(±0人)。C事業は10億を50人で対応しているが、20億の売上増に伴い人員を50名増やして100名体制にする(+50人)。更にスタッフ部門が150人おり、2030年は組織をスリム化して100人で運営する(▲50人)。そして新規事業の専属社員を100名確保する。
というように2030年の数字の内訳と、現事業の分析とその方向性、そしてそこに対しての人員計画を明確にすることで、各事業部と機能部と新規事業の問題がより明確になるのだ。
A事業は40億まで売上は減少させるが、現状の500人の内、新規事業を行うポテンシャルのある人員を100名選び、残った400人で40億の売上を維持獲得するためにはどうするか?という問題になる。
B事業は20億を現行の100人で行うが、その中で新規事業メンバを抽出して入れ替える。何人を入れ替え、新たに入ってきたメンバを教育しながら20億を維持するためにはどうするか?という問題になる。
C事業は50人で10億の売上から他部門から獲得した追加50名のメンバと30億の売上を実現するためにはどうするか?という問題になる。
スタッフ部門は80億のスタッフ事務機能を150人で行っている体制から100億の管理事務機能を100人で行うためにどうするか?というう問題になる。
新規事業は新メンバ100人で2030年までに売上を20億獲得するにはどうするか?という問題になる。
このように、売上目標を細分化させた後は、それに対して人員計画を明確に設計することが「実行可能な戦略」につながるのだ。伝統的な組織や変化を避ける企業は「売上を伸ばす」「新規事業を作る」といった目標を掲げて終わるだけだが、実行し成果を出す組織は、目標を細分化させ、事業毎やスタッフ部門ごとや新規の取組事に売上や利益のギャップを示す。さらに、それに対応するリソース(人員・組織体制)をどのように変化させるかを定量的に設計することで問題を明らかにするのだ。
売上と人的リソースのバランスを同時にみることで、縮小事業のリストラクチャリング、削減部門のリストラクチャリング、拡大事業のリストラクチャリング、新規事業の構築などを全社横櫛で考えたうえでの人員の議論ができる。さらに、社員の年齢や能力を加味しながら、自然退職と新規採用(新人・中途)を連動させたリソースの確保が考えられる。
当たり前だがこの問題の定義がないので、新規事業の目標だけ掲げて人員計画がなく、新規を取組む人員がいなくて成果が出ないのだ。縮小する事業の人員計画を示さないから、余剰人員が発生しコスト増になるのだ。さらに、間接部門に対してはスリム化をせずにそのまま維持するため収益性を悪化させる。当然に売上と人員の計画があれば、DXを活用して本店と事業部と視点の事務と総務機能を●%削減、●人で行う体制から●人でできる仕組みをデジタルを使って実現する。と目的が明確になり、スローがんではなく成果がでるか、でないかの取組にできるのだ。
「変化を求めない企業」「変化できない企業」は、問題を定義していない。DXや新規事業という言葉をならべることはできる。しかし、今あるビジネスの本当の姿を冷静に分析し、それを突破する戦略を持つ企業になる意思がないのだ。