早嶋です。9200文字です。
利益は、売上からコストを引いたあまりで、経営者は誰でも興味ある。しかし、多くの経営者は、コストを下げることで利益を出す努力を行い、高く販売することに情熱を注がない。不思議なのだ。売上は、価格と販売数量の2つの変数で決まる。たくさん売るか、高く売るかも重要な戦略だ。新規事業においては、まだ誰も知らない商品(製品・サービス)故に、価格戦略の自由は非常に高い。
(価格戦略:3つのアプローチ)
大きな方針として企業はその商品(製品・サービス)についてどのように戦いたいかを明確にしておくと良い。いらゆる戦略を明らかにすべきなのだ。競争戦略が曖昧だと、価格設定が場当たり的になり、市場でのポジショニングを失いかねない。戦い方の方向性は、コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、ニッチ戦略の3つがある。
●コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップは、競合他社よりも低コストで製品やサービスを提供出来る自社資源を活用して、市場シェアを獲得する方針だ。単なる値下げや安売りではない。製造や商品の調達において何らかのメリットやノウハウを持つことが前提だ。また、製造や調達は通常、少量よりも大量に扱うことで規模の経済を得られる。このスケールメリットを活用して利益を確保する。更に、サプライチェーン全体を見直して競合と異なるやり方で業界の流通を管理する場合もある。当然に全体のコストを下げる目的だ。これらの取組を行いながら競合が模倣できないレベルでコスト構造を構築していき提供価値を下げても自社の利幅を確実に取ることを目指す考え方だ。
●差別化戦略
差別化は、コスト以外で他社にない価値を提供して、高い価格でも顧客が満足する市場ポジションを確立する方針だ。価値は、デザイン、使い勝手、性能、ブランド、顧客体験など多岐にわたる。重要なことは、自分達が差別化している!と一方通行に差別化して自己満足しても意味がない。その違いをターゲットとする顧客に理解頂くことが大前提になる。独自性のある商品(製品やサービス)。ブランドイメージや顧客ロイヤリティの構築。差別化ポイントを伝えるマーケティング力。差別化を実現する要素は無限にあり、その組み合わせも自由だ。差別化を実現しながらプレミアム価格(高価格)で提供する。成功すると、価格競争に巻き込まれるリスクが低下する。
●ニッチ戦略
私が大好きな取組だ。大きな池(メジャー市場)の大きな魚(大手)になるのではなく、小さな池(ニッチ市場)の大きな魚になることで、大規模市場ではなく、特定のセグメントや専門分野に焦点を当てて戦う方針だ。ただし、ニッチな市場そのものが成長すると大手の参入があるので、ストイックに成長をコントロールする必要がある。ニッチを実現するためには、特定のニーズや顧客層を深く理解することがポイントだ。小規模市場での圧倒的な優位性。他社が容易に参入しづらいポジションの確立など、実現するための切り口は無数にある。価格に対しては、顧客が価値を感じれば高価格が可能で、競合が少ない場合が多いので、利益率は高くなる。ただ、あまりにも顧客を無視するとたがを外されるので、顧客のニーズに合わせた柔軟な価格設定が求められる。
(2つの価格戦術)
コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、ニッチ戦略と、それらを実現するための価格設定方法にスキミング(上澄み)とペネトレーション(浸透)の2つの考え方がある。
●スキミング
スキミングは、商品(製品やサービス)の価格を高く設定して市場投入し、早期に収益を最大化する考え方だ。新規性や独自性が高く、価格感応度が低い顧客が存在する場合にフィットする。技術革新が明らかな製品や高級ブランド商品などをイメージするとわかりやすい。スキミングのメリットは、アーリーアダプター向けに高く価格を設定するため、商品開発コストなどを早期に回収することができる。ただし、諸刃の剣で高価格帯が故に、市場の初動が遅れるリスクもある。そして競合が追随して価格を下げられたらシェアを一気に奪われてしまうのだ。
●ペネトレーション
ペネトレーションは、市場参入時に低価格を設定して、大量販売と同時に市場シェアの獲得を目指す考え方だ。コストを度外視して、一定のシェアを獲得する必要がある際に採用される。価格感応度が高く、顧客が価格で比較する市場はフィットする。新しいブランドが既存市場に挑む場合、ペネトレーションが度々観察される。ペネトレーションのメリットは、迅速に市場シェアを拡大可能なことだ。しかし、シェア獲得を追求する余り、継続することで、自社の利益を食いつぶし、初期投資の回収に時間がかかる場合もある。更に、折角の新しい市場が、ペネトレーションを仕掛けることで儲かりにくい市場になる場合もある。
コストリーダーシップは低価格での大量販売を狙うため、高価格のスキミングとは相性が悪い。一方で、低価格を武器に市場シェアを獲得し、大量販売で規模の経済を達成するため、ペネトレーションとの相性は良い。差別化戦略は、独自の価値を提供し、高価格を設定することでプレミアム感を強調する。そのためスキミングとの相性は良い。一方で、低価格は差別化戦略の独自性を損ない、顧客に価値が低いと思われるリスクがあるため、ペネトレーションは注意が必要だ。ニッチ戦略は、特定の顧客に焦点を当てるため、高価格を設定しても受け入れられ安いのでスキミングとの相性は良い。しかし、そもそも市場を絞り込むため低価格でスキミングを狙っても利益を確保できる規模がないのでニッチとペネトレーションは戦略の意図が合わない。
(価格設定:3つのアプローチ)
価格設定アプローチは大きく3つある。原価ベース(自社)、ベンチマークベース(競合)、顧客の感応度ベース(顧客)だ。
●原価を基にした価格設定
多くの企業が、原価をベースにした価格設定を行う。商品(製品やサービス)原価に一定の利益率をかけて価格を決定する。この方法であれば、確実に原価をカバーでき、一定の利益率を確保することができる。また、コスト構造が明確な場合、すぐに価格の設定が出来るので楽ちんだ。
ただし、価格の設定に対して市場や競合を度外視するため、需要や顧客の支払い意欲を無視した価格設定といえる。本来は、競争が少ない市場や、ニッチ市場での提供時に適用しやすい考え方なのだ。
伝統的な日本の製造業は商品を直接販売しない。製造に徹する、小売の場合は、仕入れて販売するという役割があった。そのため昔から商品が良ければ売れるという発想が続いている。認識では、下流工程の販売や販売後のフォローは、パートナー会社や販社、下請け会社に依頼しておけば良いという発想だった。その際に、手数料やマージンの計算が必要になるが、原価に利益率をマークアップした価格の設定だと、一律で協力会社に対しても手数料を払いやすいという概念があったのだ。
例えば、メーカーが商品を作り、販売小売店に商品を提供する際に、掛率がある。メーカーや卸業者が小売業者(百貨店、スーパー、専門店)に商品を卸す際の卸値(仕入れ価格)を定める割合のことだ。
掛率70%だとすると、10,000円の販売希望価格に対して、卸値は1,000円×70%で7,000円。小売の利益は3,000円となる慣例だ。掛率は、高級ブランの場合、販売価格が大きく利幅が大きいとか、ブランドの力が強いとかで80%とかになる場合もある。
日用品や消耗品は掛率50%から70%で低利益だが回転率が高いので小売店は利益を獲得しやすい。一方で、高級ブランド品は掛率70%から90%と小売店の利幅は少なくなる。回転率こそ下がるが、1つの点数が販売出来た際に小売の利益は大きくなるのだ。
掛率は流通によっても一定の決まりがある。百貨店などは販売コストを掛けて商品を提供することからかけ率は高く70%から90%程度で、量販店などは掛率が低く50%から70%程度だ。これは利幅の中で量販店が価格を下げて提供するためだ。
当然に、メーカーや卸と小売店の関係は長年の取引や販売実績によって異なってくる。売上見込が高い場合は掛率を調整するなどを行うのだ。更に、競争市場が激しい場合、卸値を下げて掛率を低くすることで取引先を確保するなども行ってきた。
掛率を低くしてまで他社に販売してもらわないと難しいような商品を敢えて新規事業で行うか。という判断は、新規の企画段階から議論していくべきなので、価格と流通は同時に議論するのがポイントなのだ。
●競合ベンチマーク型価格設定
既に、同じような機能や価値を提供している商品がある場合、その商品の市場価格をベースに価格を設定するやり方だ。原価ベースの価格設定と比較して、顧客にとって受け入れやすい相場感を反映することになる。更に、競合との差別化ポイントを見極めやすい特徴もあるだろう。
価格帯を競合に寄せると自社のポジションを不明確にすることになり、競合よりも強気の価格を示すことで何らかの差異やポジションに違いを示すことにもなる。その意味で、スタートアップや新規事業において他社や他のエリアで似たような商品を既に展開している場合は有効な価格戦略となりえると思う。
ウーバーやグラブ。ドロップボックスやボックス。チャットワークやスラック。アマゾンやモノタロウ。カーブスやチョコザップ。多くの企業がこの方法を取り入れて市場シェアを獲得しようとしているのだ。
競合ベンチマーク型の価格設定は、消費者に対して他と同等の価値を、同じまたは低価格で提供すると伝えやすい。そして競合の価格帯に合わせることで、価格による拒否反応を減らし、サービスを試してもらうきっかけを作りやすくなる。
差別化を強調する場合は、競合と同じ価格帯でスタートし、追加の機能や独自の価値を提供することで差別化を図る。後で詳しく説明するが競合より低価格で提供するペネトレーション戦略との組み合わせも可能になる。
スマフォやサブスク商品のように、顧客がすでに商品に対しての価格感覚を持っている市場では、価格帯を参考にして設定することで、顧客の意思決定を容易にすることにもつながる。
いくつか事例をみてみよう。ウーバーとグラブだ。ウーバーがライドシェアの市場を開拓した際、グラブ(東南アジア)はウーバーの価格モデルを基準に自社価格を設定した。今も頻繁にポロモーションを行っているが、一定期間、プロモーション価格や割引を活用し、低価格で顧客を引きつけたあと、同様の価格に寄せるやり方だ。差別化要素としてグラブは地域特化型の戦略を採用している。よりローカライズされたサービスや支払い方法を追加(例: 現金対応)し、価格戦略に加えてサービス内容でも差をつけた。
次に、ドロップボックスとボックスだ。ドロップボックスが個人ユーザー向けクラウドストレージサービスを展開すると、ボックスも同様のモデルで参入した。価格戦略でユニークだったのがボックスは、個人向けの価格帯はドロップボックスと同水準にしながらも、企業向けプランで差別化したことだ。ボックスはビジネスユーザーを対象にしたセキュリティ機能や管理機能を強化し、価格以上の価値をアピールしたのだ。
チャットワークとスラックも興味深い。スラックが先行するビジネスチャット市場で成功を収めた後、チャットワークが同価格帯でサービスを提供した。チャットワークは日本市場で使いやすさや日本語対応サポートを前面に押し出し、差別化を図った。そして、チャットワークは日本企業向けの機能(例: タスク管理や会計システムとの連携)を追加した。
アンドロイドとアップルも面白かった。アップルが高価格でiPhoneを市場に投入した後、アンドロイド搭載デバイスは多様な価格帯で市場に参入した。アップルの高価格帯に対抗し、ローエンドからハイエンドまで幅広い価格帯を用意したのだ。更に、アンドロイドはオープンソース戦略を取り入れ、複数メーカーがアンドロイドを採用することで価格競争を強化した。
●顧客感応度ベースの価格設定
顧客の支払い意欲や価格感覚を調査して、最適な価格を設定する方法だ。メリットは、顧客の支払い意欲を最大限活用でき、プレミアム価格や値ごろ感を活用することで利益の最大化が可能だ。一方でデメリットだ。価格を設定する前の感応度調査にコストと時間がかかることや、顧客の反応を予測し損ねるリスクもある。
スターバックスは、商品そのものに加え、店舗での体験やブランドイメージに価値を感じる顧客をターゲットにしている。高感度の顧客層が贅沢なひとときに払う価値を重視し、一般的なコーヒーショップよりも高価格だ。季節限定のフラペチーノや特別な豆を使ったコーヒーは、価格感応度が低い顧客層を狙ってさらに高価格で提供している。成功要因は高価格でも特別な体験として受け入れられるため、プレミアム感を維持できていることだ。私が分析する成功要因は、プレミアムコーヒーと思わせながら地球上で最も砂糖とミルクを高額で販売することで利益を確保している点だと思う。
スポティファイは、音楽ストリーミングサービスの価格設定において、無料ユーザーと有料ユーザーの価値感覚の違いを分析している。無料プランで広告を表示し、広告が気になるユーザーには広告なしのプレミアムプランを提供する手法だ。一般にフリーミアムモデルと呼ばれる方法で、プレミアムプランの価格は、音楽に広告がないことに価値を感じる層の価格感応度に基づいて設定された。また、ファミリープランや学生プランなど、多様な価格帯を用意して顧客の幅広いニーズに対応している。無料プランで幅広い顧客を引きつけることで販促コストと鑑み、価格感応度が低い層に有料プランを訴求するのだ。ITが発達する前には、限界費用などを鑑みてみこの手の価格設定は不可能に近かった。一方で、電子的にコピペが可能で、瞬時にネットワークを介して配信出来る商品は、フリーミアムモデルを取ることで認知と試用を顧客に体験させ、一定の比率で有償プランの収益を得ることがでいる。従い、この手の事業に対しての成功要員は、認知と継続率だ。
イケアは、自分で家具を組み立てることに抵抗がない顧客をターゲットに、コストを抑えた価格設定を実施した。自己組み立てを許容する顧客層に向けて、低価格で提供しているが、ここには戦略的な要素が沢山ある。組み立てを前提にしているので、多くの部品は家具の商品に関係なく部品を共有化している。また、通常の家具屋は一定の完成形で運搬するため運送と保管コストがかかる。イケアの場合は、フラット梱包なので、輸送と保管が効率的だ。イケアの店舗は、流通拠点として利便性が高いエリアで展開して、顧客が倉庫に買いに来て、顧客が自分で商品をピックアップして、持ち帰り組み立てるスタイルだ。価格戦略を軸に、他のマーケティング・ミックスの要素もチューニングしているところが素晴らしい。もちろん、中には価格感応度が低い層もいるだろう。ここは別途有償で、配達や組み立てサービスを提供している。安価だが機能的でスタイリッシュな家具という価値を安売りするのではなく、合理的な考えのもと提供し、感応度の高い顧客層を引きつけているのだ。
ウーバーは、ライドシェアサービスの需要に基づき、リアルタイムで価格を変動させるダイナミックプライシングを採用した。混雑時やイベント開催時には料金を引き上げ、急いでいる顧客が支払える上限を考慮している。需要が少ない時間帯には料金を引き下げ、価格感応度の高い顧客を獲得している。時間や場所によって価格感応度が異なる顧客をターゲットに最適な価格を設定したのだ。このリアルタイムプライシングは、顧客がスマフォを片手に持っていること、需要をリアルタイムに推定して精度良くサービスを提示できることなど、ITの恩恵が高い。
時間や需要によって価格を変える企業の右代表がアパホテルだ。その日に、必ずそのエリアに宿泊を確保したい法人からすると合理性が高いが、アパホテルの数とシェアが高いことから一般の利用もあり、一部心象を悪く思う人もいるだろう。リアルタイムプライシングは需要が高い期間に価格を上げることで、収益を効率的に増やせる。これは、法人のビジネス用途のように高価格であっても、本当に必要だと思う顧客(その日にその場所に宿泊する理由)からすると利用できる仕組みと捉えられるので実は合理性は高い。更に、空室を最小限に抑え、需要が低い時期には安価で稼働率を上げることで、企業の持続可能性を高めている。ただ、販売を法人に限定しているわけではないので、繁忙期やイベント時の価格が極端に高くなると、普段あまり宿泊しない顧客が搾取されていると感じるリスクがある。また、近年の宿泊事情が不足する状況下では、常に高い宿泊費用を提示するためリピーターや固定客がホテルのブランドに対する信頼を失うリスクもあると思う。本来は、この手の価格戦略は差別化された製品や新しい価値を提供する場合や価格に対する弾力性が高い市場において適応できた。アパホテルは、ブランドの認知度は高いが、ラグジュアリーの印象は薄い故、コンフリクトが発生しているのだ。
ライカは、他のブランド商品同様に所有に駆られる。写真愛好家やプロフェッショナル層が品質とブランドに価値を感じることを重視しているのだ。そして価格感応度が低い高所得層をターゲットに、高価格設定を徹底している。更に、限定モデルやコレクターズエディションでは、よりプレミアム価格を設定する手法も取る。写真のテイストは、企業やモデルによって異なり、近年のデジタルでは同じような設定を再現出来るとしても、ライカは最良の写真体験を求める層に満足できる価格とブランドを保っている。
(その他の価格に関連する戦術)
価格の設定方法や収益モデルに付いては、網羅すると20以上の手法が存在する。ダブりもあるが、網羅してみる。
●伝統的な価格設定
既に議論した、コストプラスで原価をベースにした価格設定。競合ベンチマーク型の価格設定。顧客感応度をベースとした価格設定。加えて、需要や供給のバランスに応じて価格をリアルタイムに変動させるリアルタイムプライシング(もしくはダイナミックプライシング)、一部差別化で実現するスキミングの手法でもあるプレミアム価格設定。
●サブスク関連の価格設定
定額料金で商品(製品・サービス)を一定期間提供するサブスクリプション(定額制)。実際の使用量や頻度に応じて課金する使用ベース課金。基本サービスは無料で、一定の高機能を使う場合に有償になるフリーミアム。商品やサービスを分割して支払う分割払い。
●成果や価値に応じた価格設定
顧客が得た成果に基づいて報酬を請求する成果報酬型の価格設定。コンサルや医療機器等、製品やサービスが提供する価値に基づいて価格を設定する価値ベース型の価格設定。
●広告モデル関連の価格設定
広告収入をベースにサービス自体を無料にする広告モデル。特定のスポンサーからの収益を基にサービスを提供するスポンサーシップモデル。
●変動型やオークションモデル
商品を入札形式で販売するオークション価格設定。オンライン広告で広告主が特定のワードやターゲットに対して入札する入札型の広告に基づく価格設定。リアルタイムプライシングより、やや頻度を下げて需要が高い時間帯や期間に価格をあげるピークプライシング。
●まとめ買いや割引に応じた価格設定
製品やサービスをセットにして提供することで、単品より安く提供するバンドル価格設定。複数の価格設定を準備して顧客に選択してもらう分割価格モデル。クーポンやセールを一時的におこない割り引くディスカウントモデル。
●無料提供や寄付
Wikiのように実際は、一部の寄付ベースで、完全に無料で提供するモデル。アーティストやクリエイターのように価格が金額を設定して支払う寄付型の価格設定。
●他の価格設定
投資ファンドのように、成功した際に、一部をシェアする成功型の価格設定。当たり前だが一度購入すると永久に使用できる買取モデル。リスクに応じて料金を設定して、条件が満たされた時にサービスを受ける保険モデル。商品を一定期間貸出て期間終了後に返却するリースモデルやレンタルモデルや一時利用モデル。
と価格設定に対しては、今後も何かユニークなアイデアが生まれるだろう。ただ、ポイントとしては戦略と戦術があり、それらのベースの設定にはコスト、競合、感応度の理解はあったほうが良い。そして、価格設定が単独で機能するわけではなく、組み合わせで考えるほうがより自然になるだろう。
(事前準備と分析)
価格戦略を決定し、実現するためのスキミングやペネトレーション、具体的な価格設定手法(原価ベース、ベンチマークベース、感応度ベース)を採用する前には、事前の分析と準備が不可欠だ。市場や競合、顧客、内部リソースを正確に把握することで、価格戦略が成功する可能性を高めることができる。
●市場分析
市場全体を理解することは概念的な取組なので結論は不可能だ。それ故に、自分たちの仮説を明らかにする目的で分析が必要になる。更に、自社商品のポジションを決める上でも理解がある状態が望ましい。最低でも、市場規模と成長性、市場セグメントの整理は行いたい。
●顧客分析
セグメントを明らかにしながら、特定の顧客の価値観や購買行動を理解して、価格設定の基準を整理する。顧客のニーズやウォンツの理解、価格感応度、支払意思は貪欲に、定期的に把握したい指標だ。
●競合分析
ニッチな市場であても、競合を特定して、自社とのポジションの違いを把握したい。最低でも、競合の特定、競合が提供する商品の特徴と価格設定とポジション、差別化要因と顧客ターゲットの特定、競合の戦略には一定の理解を示したい。
●自社分析
自社のコスト構造や経営資源の把握、実現可能な価格戦略を決定するためには、内部の分析は必須だ。価格を設定する際に、コスト構造の把握、収益シミュレーションができる情報の整理、実際に価格以外のマーケティング(販促、流通、商品、サクセス)を実現するためのリソースの確認は、常に明らかにしたい。
価格戦略の成功は、市場、顧客、競合、自社の全てを包括的に分析し、それに基づいた戦略の選定と手法の実行が重要だ。マーケティングにおいて、流通(物流、商流、情報流)の設定と同じく価格の設定は重要だ。それなのに、国内の企業の多くは、原価をベースにした価格設定を中心と捉え、価格をあげる取組をあまり積極的に採用していない。経営者よ、もっと価値を向上する取組を議論しよう。