早嶋です。
ChatGPTが公開されて1年が経過し、生成AIの活用は着実に浸透している。経営者や創造的な仕事をする方の多くは、生成AIと対話することで考えの整理やヒントが芽生えると言う。従来は人を通じて壁打ち相手をしていたのが、ここ1年は生成AIもその仲間の一人になっている。
生成AIは普通の言葉でコンピューターを操作できるのが特徴だ。一方で、その活用は企業や個々人で様々でアイデア次第だ。仕事の軽減、効率化の裏には仕事を奪われる恐怖や自分の存在感を下げるおそれなどが葛藤して保守的な企業ほど導入の遅れが目立つ。仕組みを理解すると機密情報の漏洩のリスクは低く、著作権侵害などの取り組みは進行中であることがわかる。紙媒体や自社のネットワーク技術で情報が漏れないリスクが遥かに高いかなどは議論せず、新しい技術の負の面のみをみる傾向は今も昔も変わらないのだ。
新しい技術の導入の鉄則は、「やってみなはれ」だと思う。例えば企業の中で優秀な10人をピックアップして、プロジェクトをスタートする。生成AIを活用して日常の業務効率を10倍、100倍上げる成果を求めるなどゴールを設定する。モノが分からない場合は、まずは使ってみて、成約を設けず一定の予算と権限を与えて遊んでみるのだ。
一般的に、商談資料の作成や営業実績との分析、議事録の要約や、毎日の日報、週報、月報の作成補助や要約、市場調査などの活用はすぐに応用できることが分かると思う。後は、一定の使用領域を決めて上げれば、従業員にはプロンプトのコツを研修や動画などで提供してOJTを行うと、一定の成果が目に見えて出ることが分かる。企業によっては、生成AIの活用を一定限定して、社員は特定の命令を出したり、文章を指示するだけで、所望の成果がでるように丁寧に誘導するチームもいる。プロントの雛形をある程度準備しておくなどだ。
複数の企業の導入を見ていると、技術的なバックグラウンドがなくても利用率は6割を声、業務の効率があがり時間の削減につながっているという報告を聴く。
コンサルや情報を分析する企業においては、まずはリポート作成などの作業を激変させている。景況や個人消費、企業の各活動項目等、従来人がデータベースから読み取り要約していた作業をAIで読み取り、タイトルの提示、項目の提示、要約例の提示をするのだ。後は、編集担当者が体裁を整えてレポートの大枠が完成するのだ。ただし、コンサル等、情報を売る企業は、その正確性が課題だ。何も工夫を加えないと、生成AIは関連性をベースに文章を作成するので、人間が読むと事実とは異なる文章を提示する可能性もある。そこで、引用元を明確にして、原典を確認しやすくするなどの仕組みが現在、有効な手段として取り入れられる。このような作業を人が行ったとしても、レポート作成の時間は半減し、ファクトのチェックにより多くの時間を避けるようになっているので効率も高まっている。
生成AIが出た当初、米国の経済学者は雇用の約半数は生成AIによって奪われると主張された。実際、上述のように業務によってもばらつきはあるだろうが、4割から6割が生成AIを活用することで効率的になり仕事の質が高まっている印象を受ける。奪われるという発想よりも、補完関係になっているとも考えることができる。
米国スタンフォード大学の研究者が示した見解がある。AI関連の特許が、ソフトウェアのアルゴリズム生成やロボットの制御など、比較的高いレベルが要求される分野において多いという指摘だ。つまり近年のAIは物理的な作業よりもコーディングや創造的な仕事が得意で、これは高いレベルを必要としない仕事は依然として人の手が必要になるという示唆だ。
また、生成AIを活用した実験で、元々文章力が高い人がChatGPTを活用して書いた文章と、文章能力が低い人が活用して書いた文章では、生産性の工場は能力が低い人が圧倒するという実験結果もある。カスタマーサクセスでの応用事例でも、生成AIを活用し始めると成績上位者よりも中から低位者の成績が高まっているという。
つまり、生成AIの活用を自分の能力や仕事の種類によってうまく補完関係を見つけ出せれば、従業員のスキルを一様に底上げすることができるということが見えてくる。
例えば、頭の回転が早いが、報告書や指示書の作成が苦手な人には、文章作成やレポート作成の手伝いをAIを使って行うことで、より創造的な仕事に時間を活用することが可能だ。逆に、テレオペレーターのように言われた事は正しく伝える事ができるが、自分で考えることが苦手な方には、AIが的確な指示や判断をすることで、その内容を相手に正しく伝えることができるようになる。従来難しいとされていたカリスマ的なサービスも一定のレベルの人であればAIとタッグを組むことで成績を底上げすることができるのだ。
セールスエリアなどは、顧客の抽出や次のアポイントのタイミングをAIが行うことで、営業のイチ番地である商談により多くの時間を充て成果を出すことも可能だ。また、カスタマーサクセスを他の部隊に渡すことによって、総合的な管理や気遣いが不要になり、一定のスキルを持つ営業でもAIとチームの活用によって全体の成績を上げることができるようになった。
という事は、まだまだしばらくはAIが完全に仕事を奪うのでなく、自分が苦手な分野にうまくAIを活用して、得意な分野に仕事をフォーカスするツールとして捉えると、後数年は気楽に仕事ができると思う。その先は、また状況を鑑みながら取り組むしかないだろう。仮にAIがすべての仕事を奪ったとしても、経済は今より豊かになっていることだろう。その時はベーシックインカムを受けて、自分な好きな時間を好きなだけ過ごせることができて、それはそれでハッピーだ。
何事も悲観的にみるのではなく局面を見て自分を変化させる柔軟性が大切なのだ。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」