早嶋です。
高齢化、現場任せ、個人の能力任せのシワ寄せが各業界で観察できる。建設、製造、エンジニアリング、運送業、引越等だ。2000年頃までは人手が不足する現象は予見されていても、現況が成り立っており収益も得れていた。そして、現役バリバリの層がまだ厚かったことから作業の標準化や見直しはスローガン的に出ていても、実際はスルーされ、従来通りの現場の頑張りで業績を維持して10年、20年が経過した。
そして、人手不足と高齢化が露呈し始めてやっと、「現場では人手が不足している」「若手の育成がでいていない」「作業が個人任せで標準化がおいつかない」などと当たり前の現象をあろうことか全社の課題として認識している。そして、「採用を増やし、教育に力を入れる」とこれまた意味不な解決策を出して一件落着でいる。
日本の経済状況と社会的な動向を見た場合、あらゆる業界で人手不足が今後も続く、もちろん現状の仕事の仕方を前提にした場合だ。特に、効率化を行わず、安い人件費でなんとかやり過ごしてきた業界は、この傾向が強い。これまでは、そのような業界は何らかの規制等で守られており、競争のルールはあったものの、他の業界と比較すると極めて優位な立場で経営ができた。
しかし、世の中は少子化、高齢化。円の価値が劇的に下がり、労働者も簡単に色々な情報を入手できる時代になった。理屈で考えると、どの業界も人手不足なので、採用を増やしても働く母数が少ないので激しく競争になる。若手を採用するとなると更に厳しい。人材を欲しいという需要に対し、働く供給量が圧倒的に少ないのだ。更に若手は、労働市場の情報を簡単に入手して、条件が良い業界や企業を選択する。辛そうな業界に自分から歩み寄る若手は少ない。
5年頃前までは、ここに外国人の労働者をあてがうことでなんとか対処した。が、コロナ期間から急激なインフレが始まり、ドルの価値を下げている米国よりも日本円は価値が下がっている。外国人労働者に取って、日本で働くメリットがかなり薄れているのだ。まだ、日本に定住して生活することを前提に考えられる外国籍であれば良いが、日本の給与の多くを自国に仕送りすることが主目的の労働者からするとデメリットが強い。円の価値が相対的に下がり、苦労して日本語を覚えて日本で仕事をするメリットが少なくなり、英語が使える他国で外貨を稼いだほうが都合が良いのだ。
と、総合的に考えると、日本人や外国人の採用は今よりも更に厳しくなるのだ。そこで業務フローや仕事のあり方そのものにメスを入れ、効率化を進める選択肢を取らなければ企業の将来は明るくないのだ。
一方で、現場の状況を10年程度前から冷静沈着に分析し、将来、現在の人材が高齢化を迎え、今の属人的な仕事の流れだったとしたら、その方々の退職と共に現場が回らなくなる。という当たり前の分析を行い取り組んだ企業も一定数いる。
・作業の標準化をした上で、効率化、あるいは経験が浅い人材でも取り組める仕組みを作る
・同様に、年齢が上がって体力や認知力が落ちても一定の仕組みで仕事が可能な体制を作る
・一人で一つの工程を行うのではなく、複数の工程ができる多能工を育成する仕組みを作る
・人で行う作業をコンピュータやロボットに置き換えて省人化を実現する
などの方向性を議論して、数年かけてシフトしているのだ。このような企業のトップや現場の管理者と仕事をしていると、いくつか共通のリーダー像を観ることができる。
上述のように、冷静沈着に過去から現状の姿を分析して、確実に来る未来の姿を徹底的に議論している。そして、その未来の姿と現状を比較した際のギャップ、いわゆる問題を明確に認識している。これは10人の現場でも100人の現場でも、1000人以上の組織でも基本変わらない。そして、その問題を解決するための課題を特定して、解決策のアプローチを確実に示しながら長期間かけて行動を続けているのだ。
例えば、ある作業フローを作業毎に別の社員で行っていたが、それだと特定の社員がいなくなった場合、現場が回らない現実を直視した。そこで、現場の状況をあらゆる視点で議論をした結果、多能工化を進める意思決定をする。多能工化を進める際の数年かけての取り組み方を明確にしめし、それが実現した世界を仲間に具体的に話しながら進めていくのだ。
現場の人間の5人は電気系統の仕事と同時に、機械系統の仕事が2年先からできるようにシフトを組む。そのために、1.5年後には新たに社内の認定資格に合格している。その資格に合格するために3ヶ月先から1ヶ月単位で具体的に資格を取りながら、現業を続ける方法を個々人に落とし込み実現するのだ。途中途中、蜜に個々人とリーダーがコミュニケーションを取りながら、社員の不安を取り除くのだ。
はじめこそは、できるわけが無いとなるが。少しづつ行動を変え、挑戦する中で、出来ないことができるようになる。そのタイミングで、周囲はその違いを言葉にして「これができるようになっているね?」という感じでその成長を可視化させていくのだ。
リーダの仕事は、確実にビジョンを示し、そのビジョンを達成した後の夢を具体的に語る。そして、そのビジョンを実現するためのプロセスを具体的に細分化して、どのように取り組んでいくかを明確に示すのだ。そして、その始めの一歩から、途中のフィードバックまで粘り強く、時間をかけてコミュニケーションを続ける。つまり、方向性を示し、具体的に行動ができるようにして、不足する能力ギャップを埋める取り組みに超コミットするのだ。
ニュアンスは適宜細かく異なる部分もあるが、概ね、上記のようなリーダーの姿を観察することができる。
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