早嶋です。
ドローンと聞いて、どのようなイメージを持つだろうか。子供のおもちゃ、空撮ツール、社会を変える大きなインパクト。皆、様々だが今回はドローンが与えるインパクトを考えてみる。ドローンが日常的に飛び回り、我々の生活をアップデートする。自動車の自動運転よりも早い時期にドローンが市中に溢れる可能性が高いのだ。
(ドローンがより身近になる社会 )
1900年のニューヨーク。通りにはギッシリと馬車が走る。そして自動車はT型フォードの1台だけ。それが1913年には逆転し、殆どがT型フォードに変わった。今、自動運転の車が話題にのぼるが、ドローンが市中に溢れる状況が先になる可能性があるのだ。
ドローンが人に変わって犬の散歩をする。子供の忘れ物をドローンが届ける。人の代わりにドローンが日傘をさす。日常の宅配はドローンと従来の仕組みが融合する。そして空飛ぶクルマも空の公道を走る(飛ぶ)ことも現実味を帯びて来ている。
(社会実装に必要な条件と動き)
2023年1月現在、そうは言ってもドローンが社会に実装されるためには、安全性、環境性、経済性を担保する必要がある。しかし着実に問題解決が進む。安全は高度に自立制御され、リモートコントロールが高いレベルで実現しつつある。環境性は電気自動車同様に電動化が進み、バッテリー、機体構造そのもの、充電ステーションなどの仕組みが揃いつつある。3つ目の経済性も大量生産、品質管理、整備点検、それらに関わる訓練プログラムが進み、多くのベンチャー企業がその実現と事業化に向けて日々努力している。
ドローン社会が目指す姿は、様々なフィールド業務の自動化だ。現在、人を中心とした業務だが、災害、ウィルス、人口減少等で現場の負担が肥大化している。そこで近い将来は人間とAIとロボットが役割分担していることは想像に難くない。持続可能な社会を実現するために、ドローンを含めたテクノロジーの活用は無視できない
ドローンは今、陸、海、空の自立型ロボティクスの支援を最大化しながら産業活動を地上から空中、海洋へと拡張している。結果的に、旅客輸送、貨物輸送、緊急輸送の領域においてドローンが実装される現実が近づいているのだ。日本は地下鉄やJRが普及しているため近距離輸送の課題はピンと来ないと思うが、インドネシアや諸外国では10キロの距離が30分のときもあれば、3時間以上かかる場合もあり経済損失の原因になっている。アフリカなどではそもそも道路インフラが未整備のため、緊急時の空の活用は必須だ。そのため国内外では近距離輸送を目的にする航空と水上の移動にドローンを活用する社会実装が加速しているのだ。
(ドローンの役割)
実はドローンは、モビリティ(輸送と移動支援)の役割に加えて、リモートセンサ(情報収集・分析)、フィールドロボット(作業支援)の役割も担う。
従来のインフラ関連の点検で高所や危険個所などは人が足場を組まなくてもドローンで点検が行える。リスクとコストと時間が一気に解消され、従来1週間程度かかっていた点検もドローンの活用だと半日から1日で終わるのだ。
作業支援の事例だ。農薬の散布は農家にとって重労働だった。水耕栽培では、真夏の暑い時期に農薬散布が必要で体力も消耗された。ドローンで単に代替するだけではなく、画像センサや赤外線センサなどを搭載して、傷んだ箇所や本来散布しなければならない箇所をピンポイントで散布する、夜間で人が見えない時間でも稼働することが可能になるので圧倒的な作業効率が成し遂げられた。
少子高齢化、インフラ老朽化、気候変動に伴う自然災害の増加、新型感染症等々。2022年は全てを体感した年だったが、日本は世界を代表する課題先進国と同時にこれらの解決がビジネスチャンスとなっているのだ。
(市場と法規制)
従来の日本は、新しい技術を導入する際に、ヒトの思考と法規制がネックだった。しかしドローン界隈においては世界でも突出するスピードと柔軟な方法で整備が進んでいる。
2015年度、航空法に無人航空機が定義された。2019年の成長戦略閣議決定では2022年のレベル4解禁が約束され、実際に2022年12月にレベル4が解禁された。ドローンのレベル4とは有人地帯での目視外飛行ができ、都市部においても自動制御等でドローンを飛ばすことが可能になったのだ。
それまでは目視外飛行は原則禁止で、人口密集地は特に厳しかった。特別な許可が例外的に認められる場合もあったが、1日限定とかで実際に使用できない状況だった。
現在、古い規則や法律に対しての考え方や制度改定も大幅に進んでいる。従来は、担当省庁によってルールが異なり進まなかった。しかし、同じ趣旨、目的の規制を一くくりにして、類型ごとに規制の見直しが進み横断的な取組になっているのだ。国内を取り巻く様々な課題解決に向けてデジタル社会に適した規制・制度変更が進んでいるのだ。例えば、従来の法律に抵触する場合、新たな技術をベースに解決できるのであれば新しい解釈を優先する。硬直的なイメージだった政府が実は柔軟に積極的にロボット化、自動化、それらの市場化にチャレンジしている。
(課題と展望)
ドローンが社会実装されるまで大きく4つの課題がある。要素技術の革新、事業化と収益化、法・規制の整備、社会受容だ。
要素技術の革新として、積載重量を増やすこと、動力源の対応、安全性の確保がある。荷物用のドローンでは既に30kgの積載は実現できているが、重量が増えると稼働時間が短くなる。現在は40分程度の時間だが、2時間程度の動力を確保する研究が進んでいる。
産業用ドローン技術は実証実験段階だが、社会に実装されるには事業化できる工夫が必要だ。収益が出て、保証や保険の整備など、もしもの対応に応じる仕組みの構築と検討も大切だ。ドローンによる配送も複数の企業が複数の自治体でテストを繰り返している。2021年7月に起きた熱海での土砂災害では、ドローンを目視外飛行で飛ばし、いち早く現場の情報収集が実現できている。
法規制の整備は先ほどもコメントした通り、困難な中でも民法と航空法の整合を取るなど進んでいる。NEDOを中心に複数ドローン運航を社会実装するべく、運行管理システムの開発が進められている。また2020年度から全国各地で実証実験が実施され、そこから抽出された制度面、技術面の課題が議論されている。社会実装されると、最低でも100万台以上のドローンが飛ぶことになり、沢山の企業や利害関係者が出てくるので簡単に解決できる問題ではないが着実に解決し実装できる方法を具体的に目指している。
現在、ドローンが飛んでいるのを見ると物珍しくて人の注目を浴びるだろう。しかし、これが当たり前になり、我々の生活に溶け込むまで時間の問題かもしれない。一方で何事も新たなテクノロジーは人に受け入れられるまでに時間がかかるものだ。
従来、ドローン製造技術は中国メーカーが主体だった。しかしドローンがセンサとしてインフラの点検や改善に使われることを考えた場合、データや重要な情報が漏えいする可能性が考えられる。そのため国策に近い形で特定の企業やベンチャー企業などとドローン機体自体の開発も進んでいる。一方で、自動車の自動運転は陸上を走るため、既存のインフラとの整合性を合わせるのに想像以上に課題が多い。地上から上空300mの空間はこれまで誰も活用していないエリアだった。そのため、最新テクノロジーが比較的すんなり入り込む可能性もたまたまあったのだ。
(過去の記事)
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