早嶋です。
株の話と共にPBR1を割る企業の記事が昨今多い。日本的に企業は、財務の安全性に力をいれながら、利益を出す体質を創り出すことが出来ずにいる証左なのだ。
(PBR)
PBRは、株価純資産倍率(Price Book-value Ratio)で、企業が保有する資産の価値と現在の株価を比較する指標だ。数値が高いと資産を有効に活用している。つまり買い手からみると割高に見える。低いと資産の活用が少なく、買い手からみると割安にみえるのだ。
投資家は様々なパラメーターを確認して株式を売買して利ザヤを得るだろう。(もちろん長期的にその企業を信頼してリターンを得る発想もあるが、PBRが1を割っている時点で長期的な可能性はないとされている。その理屈は後述。)PBRもその指標の1つだ。株式相場が下落のとき、PBR1倍がその下限だ。一方で地銀などは構造的に成長が期待しにくい業種で常に1を割り続けている業界も多々ある。
算数で表すと、
PBR = 株価 / 1株純資産
= 時価総額 / 純資産
だ。
注意が必要なのは、これが1倍だから10倍だから、1倍を下回っているから「良い」だの「悪い」だのではないことだ。しかし上場企業の立場からすると致命的といえる。
PBR1倍割れの理由は、大きく2つに大別できる。1)株価が低いか、2)純資産が多いがだ。1)株価は、将来のキャッシュフローの現在価値の合計で表すことが可能なので、株価が低い企業は、利益を出せていないと解釈できる。2)純資産が多い企業は、財務の安全面では安心材料になる。リーマンやコロナなど、不安定な状況が起きても企業としての体力が担保され持続する余地があるからだ。しかし、企業の真骨頂は過去に保有した資産で食いつなぐことではなく、その資産を将来に投資しながらリターンを高めていく行動にこそある。
このように考えると、PBR1倍を割っている企業の問題は、単に利益を出せていないことが根本となる。資産が厚い企業は、それに準じた利益を出しさえすれば1倍は超えるのだ。ただ、繰り返すが、PBRが1を割っていること自体は会社にとって悪いことではない。基準は、あくまで投資家目線で見た時になる。つまり投資をしたが、投資した金額に見合った状態ではなく、利益は低く、投資額よりも低い状態が続いている状態に見えるのだ。そのため投資家は、投資した資金の使い道がなければ、株主に還元しなさいというのは自然な発想になる。そこで眠らせるよりはキャッシュを回収して他の発展する企業に再分配した方が富を築けると考えるのだ。
(コスモHD)
コスモHDが村上氏の社外取締役選任議案に反対している。村上氏がコスモHDを狙う理由は簡単で、企業そのものが解散価値に等しいからだ。
売上2.8兆に対して、
・営業利益1,600億円、
・純利益680億円、
・純資産6,600億円、
・時価総額3,800億円
だ。
純資産6,600億円に対して時価総額3,800億円でPBRは0.6倍。極端に言えば、株主目線からすると会社を辞めて今すぐ現金化した方が株主は大幅に得するのだ。村上氏が狙いをつけた理由はこれに他ならないと推測する。
2023年3月期決算短信 コスモエネルギーホールディングス株式会社
(大日本印刷)
大日本印刷は万年割安株とある意味ディスられている。PBR1割れが続いているのだ。そしき近年衝撃を受けたのが、企業の目標としてPBR1倍を目標にしたことだ。上述したように、企業として1倍を超えることは当たり前なのにだ。むしろ純資産が多いことよりも、将来の利益が望まれずに株価が下がっている。そう、全く将来を期待されていない会社と認識されてしまっている。
仮に、経営側がPLしか注視していないなら、活用されない資産が多くあることを理解できていないのだ。上述のように不安定な状況時は会社としてはメリットだ。しかし、長く続いても将来のキャッシュが生まれる兆しが無いから株価が低いのだ。それでも従来の事業を腰を据えて安全に運用したいのであれば外部投資家を締め出し頼らない選択での資本政策を考えればよいのだ。良い、悪いの話ではない。選択肢を間違っているのだ。つまり上場廃止すればよいのだ。実際、ベンチャー然りで上場することが成功と思う経営者も多いが、資金調達のための選択肢の一つに過ぎない。
(純資産を厚めにする日本企業)
純資産は超ざっくり言えば、今の清算価値に相当する。仮にこの瞬間に事業を辞めた場合、いくらキャッシュが残るかを金額で示す値だ。株主は、企業が事業を辞めた場合に、どのくらいの純資産相当を受け取る権利があるかを把握することができる。
仮に純資産が10億あるのに、時価総額が5億だったら、今すぐ事業を清算すると株主は10億受け取ることができる。それらのに株式の価値がバーゲンセール価格の50%になっているのだ。これがPBR0.5とか、1を割る状態なのだ。
金融当局は、この状況を打破したく、上場企業もよく理解すべきだ。現状PBR1割の企業は財務の安定に重きを置き過ぎているのだ。ただ、安定的な財務体制でも利益を稼げばよいのだが、それが稼げていない。その状況を継続させているのだ。嫌なら上場企業は上場廃止すべきだし、企業人としてもっと利益を稼ぐ行動に移すことが求められているのだ。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
実践「ジョブ理論」
「M&A実務のプロセスとポイント<第2版>」
「ドラッカーが教える問題解決のセオリー」