早嶋です。
アニメ業界は日本のお家芸だったが、伝統を守ってきたが故に、低迷している。帝国データバンクのアニメ制作業界動向調査2022年によると、日本アニメ世界の市場が11年ぶりに減少した。その真髄はアニメの視聴者がテレビ放送からネット配信に切り替わり、パラダイム・シフトが起きたことを物語る。
日本動画協会によれば、2020年のテレビアニメ制作本数は278本。2016年をピークに4年連続減少している。一方でアニメ配信市場は過去最高を記録しており、Netflixなどのサブスク配信が普及浸透しているのだ。当然、日本のアニメ制作会社は、海外の動画プラットフォーマーとの取引を増やしはじめている。2022年7月時点で、309社のアニメ制作会社の約2割に相当する70社は海外と取引を行っている。中国が5割、アメリカが3.5割、残りは韓国と台湾だ。
元来、アニメを視聴するプラットフォームはテレビや映画館だった。これが近年台頭した配信プラットフォーマーに置き換えられる。プラットフォーマーは、日本の人気アニメとタッグを組んでコンテンツを配信プラットフォームで流すことで、直接のエンドユーザーの顧客IDを獲得する。そして、配信プラットフォーマーは顧客の視聴データを見ながら、顧客が好きそうなコンテンツを自分たちでも制作している。
セブンイレブンがナショナルブランドの商品を仕入れて棚に並べる一方で、店内に入って来た顧客に自社のプライベートブランド商品を提供しながら、徐々にプライベート商品の割合を増やしている様子と重なって見える。顧客IDを握った側が上流の企画や制作を抑えはじめる流れができ始めているのだ。
数社の大手を除き、日本のアニメ制作会社は零細中小企業。外注のアニメーターを安く雇い仕事をさせ、間に入る代理店が旨味を得る構造が伝統だった。代理店のみが肥え、アニメーターなどに富の源泉は配分されない次代が続いた。しかし優秀なアニメーターは、中国の制作会社や配信プラットフォーマーから声がかかるようになり転職しはじめる。従来より遥かに高い報酬と仕事環境を与えられ仕事を行うようになるので、大手を除く国内のアニメ制作会社は慢性的な人手不足がはじまる。人件費と外注費が増加しコスト上昇が止まらない。将来の有望な人材を確保して教育する仕組みなどもおろそかになり、組織的に生産性とクオリティをあげることが出来ない。労務面や生産現場の最新機器の導入も鈍い。負のスパイラルが続き生存が脅かされている状況なのだ。
少し前までは中国のアニメ制作会社は日本のアニメ制作会社に依頼する部分が多かった。しかし作品によっては自社で内製化したり、一部パートナーとして制作するなど、実力をつけ始めている。20年前、日本の半導体技術者が週末毎に韓国に行き、冷遇されていた日本を度外視して、半導体のノウハウをせっせと流出させた時期があった。アニメのノウハウも今は同じではないか。お家芸と言われているアニメ業界は地盤沈下が始まっているのだ。
海外の配信プラットフォーマーは高額な制作費の投下、長期に渡る共同制作の実施、最新テクノロジーの導入に加えて、若手のアニメーターを育成する活動も行っている。今後は、配信プラットフォーマーは日本の中堅アニメ制作会社を買収しながら拡大をするだろう。
その時、アニメ界にもユニクロの事業モデルのようにSPAが生まれるのだ。企画と製造と調達と販売とフォローの全てのバリューチェーンを1社で行う。アニメの企画から制作、そして配信、その後のIPの2次利用まで。体力が無いアニメ制作会社は自力では行きられない。業界の合従連衡が始まるか、プラットフォーマーや海外のアニメ制作会社の傘下になるか。
アニメの世界にコンテンツを作る側が強かったが、やはりリトルハイアにフォーカスした企業が最終的には力をつけるのだ。顧客データベースを軸に事業を展開する。アニメ界のSPAの誕生によって300程度もあるアニメ制作会社は10くらいか、それ以下の規模になることが推測される。追って業界をウォッチしていこう。
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