早嶋です。
FC展開やチェーン展開する飲食店を中心にロボットの現場導入が加速している。今後、サービス業態の方針が大きく分かれ、ローコストを売りにする業態はコンタクトポイントを含め全てを機械化するだろう。一方、差別化を図る業態は、顧客とのコンタクトポイントには敢えて人を介在させるなど、人間の価値を添えたサービス提供や開発に力を入れると思う。今回は、ローコストを目指して機械と人間の融合に先行しているすかいらーくHDの事例を考えてみる。
すかいらーくHDはコロナ渦の後半1.5年の間に全店の7割に相当する店舗に約3,000代の配膳ロボットを導入している。数を展開できる企業にとって、日々の配膳業務の人手不足を補うことに加え、ロボットの走行データや配膳記録を統合して分析することで様々な生産性の向上を実現している。ロボットの軌跡をベースに従業員の導線を見直すことで従業員の歩行の4割を軽減するなどの効果を得ているのだ。飲食店の従業員は、配膳の仕事をロボットに任せることで、入店案内や会計時の接客に時間を割くことができ、結果的に生産性をあげることに成功している。
コストで勝負する飲食店は、サービス業に従事する人材の高齢化が課題だった。受付、案内、注文、配膳、片付け、会計など多岐に渡る業務を機械を導入することで緩和させ、人が行ったほうが企業の収益につながる業務に従事させる方針が少しづつ現場で見えてきていると思う。
すかいらーくの事例を見てみると、単にロボットを導入して終わりではなく、ロボットを中心とした業務フローに変えるという「戦略」を明らかにした体制を構築してる点に注目したい。本部がロボットを使う方針(SP:Strategic Positioning)を出しても、現場が勝手に使い方やルールを作ると、「ロボットを使わないほうが良い接客ができる」などの文脈が正当化されて、ロボットの投資が無駄に終わってしまう可能性がある。これはOE(Operational Effectives)の議論で散々されているが、方針だけ示しても現場はなかなかその方針を理解できない。しかし、一生懸命なんとか対応しようと考えた結果、現場が取組んだ内容と本部が考えた内容がバラバラになってしまい戦略が実現されないのだ。
そのため本部はあらかじめOC(Organizational Capability)の理解を重視した組織や会議体を議論して構えていくのだ。例えば、ロボットを現場に設置して終わりではなく、一定期間は一緒に使い勝手を検証しながら、そこで得た知見を標準化して全店舗に展開するなどの取組を初めからイメージしておくのだ。すかいらーくが短期間で3,000台を導入している背景には正に上記を議論した形跡を感じる。
例えば、ロボットを効率的に現場で活用できるようにインストラクターを配置し、現場で、どのようにロボットと人を共存させるかを指導している。更に、上述のようにロボットから得たデータを本部で解析し、更に現場が仕事をしやすいフィードバックを行っている。そして、店舗の設計などはロボットを優先とした設計に変更するなど、単にロボットを投入するだけに加え、全ての業務フローを見直しているのだ。
今後のすかいらーくHDの取組はもっとドライになっていくだろう。現在は配膳などの機械を導入しているだろうが、完全にワンオペやゼロオペでも店舗が回るような店舗の設計を確実にイメージしていると思う。そうなると、完全に投資した機械を減価償却しながら収益を確保する事業に変わっていくだろう。だが、難しいのは、ウーバーと同様に「いずれ機械化します!」と堂々と言えないことだろう。ということで、ローコストで運営する企業は多少コストが高くなっても、派遣やパート・アルバイトでの運営を店長含めて行うように切り替えると思う。ここは全くの想定で有るが。
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