早嶋です。
三菱商事の自社倉庫シェアリングサービスは興味深い。ウーバーが飲食を運びたい人と食べたい人をマッチングするように、倉庫を貸して良い人と倉庫を利用したい人を三菱商事グループでマッチングするのだ。実業は子会社野ガウシーが行う。デジタル技術を活用することで、緊急な1日単位の利用から長期間まで自由に双方設定でき、eコマースや諸事情で物流や商品の保管が必要になる利用者に取っては選択肢が増えて良いサービスだと思う。
事業の背景には、自家倉庫という形態があり、倉庫業法により国交省の登録が必要で、企業が商品を預かり保管する営業倉庫と自社商品のみを保管する自家倉庫がある。営業倉庫は名前の通り、ECモールや他社の商品を扱うが、自家倉庫は他社製品を預かることができない制約があった。また国の手続き業務が伴うので営業倉庫の登録は手間で、メーカーや規模が大きな企業は自家倉庫を選択することが多いことに気がついたのだ。
ガウシーの推計では、国内倉庫面積、約1.86億平方メートルの中で7割が自家倉庫だという。しかし昨今の少子化、過疎化、経済低迷等で地方を中心に事業縮小や見直しを考えている企業は多い。自家倉庫は自社商品のみしか扱うことができないので倉庫があいたからと言って自由に活用ができていなかったのだ。ガウシーの凄さは、3年間かけて国と交渉したことだ。自家倉庫の余剰は4割程度あり、営業倉庫の3割未満と比較してポテンシャルが十分にあったのだ。結果、ガウシーが損害保険などに入るなど安全性を担保する前提で、空きスペースの貸し出しができるようになったのだ。倉庫を貸したい企業がガウシーと業務委託を結ぶ。そして倉庫を借りたい利用者と再び業務契約を結び直すという流れで倉庫を1日の期間からでも賃貸できるようにしたのだ。
新規事業を行う場合、アイデアは意外と出る。しかし、様々なハードルがあり断念することが多い。こと規制が大きければすぐに諦めることは考えられる。三菱商事がすごいと思うところは、それらを踏まえて国と交渉をはじめているところだ。2023年3月7日。国は「デジタル社会の形成を図るための規制改革を推進するためのデジタル社会形成基本法等の一部を改正する法律案」を閣議決定した。デジタル庁のプレスリリースを引用すると、
””「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」(2022年6月デジタル臨時行政調査会決定)を踏まえ、デジタル技術の進展を踏まえたその効果的な活用のための規制の見直しを推進するため、①デジタル社会形成基本法、②デジタル手続法(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律)、③アナログ規制を定める個別法の改正を行うもの””
ということだ。しかし3年前は、まだまだコロナが始まる前後で、そのような兆しはなかった。アイデアを出して実行に移す。一方で国益や多くの企業にとってもメリットがある大義があるからこそ、今回の取組が進んだと思う。思考と行動はセットにして、はじめて事業が成り立つ。ガウシーの事例はそのようなことを教えてくれていると思う。
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新規事業の旅(1) 旅のはじまり