早嶋です。
スタートアップ企業や新規事業を行う際に、顧客シェア獲得の目標に悩むかもしれない。そんな時に指標となる数字を紹介する。経験則半分と市場における認知の理論(ランチェスター戦略)、キャズム理論等を総じて考えた数字だ。
そもそも新規事業なので、シェアを表現する市場の定義が曖昧だと思うが、なにかを判断する際の基準として確度が低くても設定すべきだと思う。その上で読み進めて頂くと良き。
(ランチェスター戦略をベースに考える)
ランチェスター戦略は弱者の戦略とされるが、弱者の定義を見れば、ほとんどの企業が参照すべき考えだとわかる。一方で、新規市場において参照できるのかという疑問も残るが、参考までに活用すると良いと思う。
3%、生存シェア。成熟したマーケットでは存在価値がようやく出るシェアだ。ランチェスター戦略の場合、市場を全世界とか全国とか広範囲を想定しておらず、限定的な市場での考えだ。そのため、スタートアップとしても参考になると思う。テストマーケティングを行い、限定的なマーケットで先ずは3%を目指すという概念を持つことが大切だ。
例えば、フェムテックエリアで何らかのサービスを開発した場合、特定のマーケット、例えば福岡でシェアの3%獲得をスタート時点で目指すのだ。月経を迎えはじめる頃から更年期まで幅広い年齢層の女性が対象だとすると福岡県510万人の人工の内、女性が半分。その内15歳以上の女性が85%だとざっくり想定すると、対象は、510万✕50%✕85%=216万人。この3割くらいが想定市場としても70万人程度が母数になる。ここから約3%を目標に捉えると、約2万人に対して何らかのサービスを提供している姿を目指すのだ。
7%。存在シェア。成熟したマーケットで7%というのは、競合や代替する商品から一応、存在されるという認識レベルになる。
例えば、イスラエルにおける自動車メーカーのシェアを見てみる。イスラエルは人口900万人程度で決して市場の規模は大きくない。そのため自国に自動車完成メーカーは存在せず国内販売の自動車は全て輸入車だ。メーカー別のブランドで見ると、2021年で韓国現代が15%、韓国起亜が14%、トヨタも14%、マツダが5%、三菱は4%、日産も4%、スズキが3%だ。となるとマツダや三菱や日産やスズキは、韓国の現代や起亜からは意識されていない存在ということになる。新規事業においても、特定の市場において7%よりも低い場合は、下位グループになるため顧客や競合からは認識されにくい。その意味で、3%の次は7%の獲得を目標に設定するのは良いアイデアだと考える。
11% 。影響シェア。特定のカテゴリや市場からは、競合からも顧客からも認識される規模感だ。
例えば、統計としては古いがみかんのシェアで考える。2015年の統計によるとみかんは和歌山、愛媛、静岡となる。シェアはそれぞれ20%、15%、13%だ。では4位はどこか考えて見てほしい。みかん愛好家か業界の人であれば熊本(10%)、ついで長崎(7%)を想起したことだろう。10%前後のシェアがあれば、一定の人にはようやく認知されはじめるレベルなのだ。顧客に認知されていない状態で、自社の商品をセールスするためには莫大な広告宣伝費がかかる。このシェア前後くらいよりようやく広告費の費用対効果が出始めるのだ。
14%。上位シェア。ここまでくると、市場からも競合からも認知を得られ、一定の収益を上げることが出来る。スタートアップであれば、まだ商品の開発コストを回収出来ていないかもしれないが、全体の14%前後を当面の目標に設定するイメージが収益がトントンから上振れするラインだと思う。
先程のイスラエルの自動車の場合は、上位が14%から15%で1位から3位を占めている。ということは、まだまだ競争が激しい市場だと言える。みかんの事例では、13%から20%で1位から3位が占めている。和歌山が飛び出した形で、どんぐりの背比べでも一応一位の状態だ。全体の14%前後を獲得したからと言って戦いが終わるわけではないが、スタートアップとしては、まずこのラインに立つことが大切なのだ。
(キャズム理論をベースに考える)
これまでの議論にキャズムの概念を入れてみる。上述をポイントとすると、先ずはスタートアップとして3%を超え、7%そして14%のシェアを獲得することを念頭に入れ踏ん張ることが重要だ。しかし、そこからも競争は続くことを論じた。
だが、ここに新規事業の概念を含めて考えると、注意点が一つある。それはシェア14%前後の顧客を始めて開拓して市場を創造している場合の中利点だ。市場に100人いた場合、ざっくり上位の15%前後と残りの85%前後の顧客はそもそも商品や新しいモノを利用する、購買することに対しての取り組み方が全く異なるのだ。
上位の顧客は、新しい概念や理論を用いた商品が世の中に出ても、自分たちでリスクをとって導入しようと試みる。しかし、多くの人々は用心して、新しい取り組みをチャレンジしたがらないのだ。その境が15%前後というのがキャズム理論のポイントだ。
15%前後の初期市場からメインストリームの残り85%にリーチするためには、基本的なコミュニケーション戦略や商品の使い勝手等をゼロベースで見直す必要がある可能性が高いのだ。頑張って15%のシェアが獲得できたからと言って喜んではいけない。従来の通りの延長で事業を行うと急激にシェアが取れなくなり成長が鈍化してしまう。
専門家はキャズムにはまった可能性を指摘するだろう。そして、当然に成長を進めるためにはこの溝を飛び越える作戦が必要になる。具体的にはターゲットをイメージしながら、そのターゲットがアーリーマジョリティの可能性を考えるのだ。彼らは15%前後の既に購入している顧客の声を参考にする傾向が強い。その声を市場任せにするのではなく、企業として積極的に作戦を考えて声を露出させ、その声をアーリーマジョリティに届けることがポイントになる。
更に、今の商品の使い勝手がどうかを徹底的に検証し直すことも必要だ。15%前後の既に購入している顧客は、仮に不具合が多少あっても、勝手に自分たちで対応してくれる。しかしメインストリームの顧客はそうもいかない。そのため再び製品の安心感や品質、使い勝手、購入のしやすさ、リピート購買のしやすさなどを検証して改善する取り組みも必要になる。企業として、直接顧客候補にインタビューをして直にインサイトを得るなども必須の行動になる。
スタートアップのピッチを効いていて、キャズムを超えるために、具体的にこんな取り組みを行う。というスピーチを聞く機会があるが、その際の取組の指標に市場にリーチ出来ている数字を参考に考える傾向が強いのだ。
ということで14%を超える辺りから成長が鈍化する場合、そこにはキャズムが待ち構えている。その溝を飛び越えるために、従来の延長ではない取り組みが重要になるというコトを肝に銘じて動くことが大切なのだ。
新規事業の旅(その25) キャズムを超えるまでのKPI
新規事業の旅(その24) 敵のコトを知りつくそう
新規事業の旅(その23) 道具の使い方
新規事業の旅(その22) 売ってから始まる事業
新規事業の旅(その21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(その20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(その18) アンゾフ再び
新規事業の旅(その17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(その16) キャズムを超える
新規事業の旅(その15) 偶然と必然
新規事業の旅(その14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(その13) ポジションに考える
新規事業の旅(その12) 山の登り方
新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(その10) NBとPB
新規事業の旅(その9) 採用
新規事業の旅(その8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(その7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(その6) 若手の教育
新規事業の旅(その5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(その4) M&Aの成功
新規事業の旅(その3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(その2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(その1) 旅のはじまり