◇とある経営者の寓話
原田です。
とても印象に残っているある創業経営者の話があります。かなり有名な経営者です。人伝いに聞いた話でエビデンスはないので、一つの寓話だと捉えてください。
この経営者は、会社が大きくなっても、自分の目で現場を見ることを優先していました。定期的に、全国にある自社の店舗まで赴き、お客様、働く人、売り場づくりなど、生の現場を視察していました。
しかし、視察される店舗へ、事前に幹部からこっそり指示が出ていました。そのときだけ、人の配置、レイアウト、商品陳列などを経営者の指示通り変えていました。店舗もきれいに清掃しました。普段はその通りにできないので、視察のときだけです。
経営者が視察に行くと、自分の考えが、ちゃんと現場で実行されています。従業員の愛想も良く、商品は素晴らしくディスプレイされています。お店のトイレもきれいです(普段はすごく汚かったです)。当然、経営者は毎回視察で大喜びです。多少、業績が悪くなっても、現場でこれだけのことができていれば大丈夫と思ったでしょう。
ちなみに、もうこの企業はありません。
◇取り巻きの人たちの忖度(そんたく)
幹部の人たちにしてみれば、良かれと思ってやっていたことでしょう。経営者が視察に行くから、ちゃんとやろうと。いわゆる「忖度」です。
幹部は経営者が欲している情報を提供しています。経営者のニーズを満たしています。組織は、こういう方々が出世します。
しかし、経営者は、正しく実態を把握できません。だんだん現場感覚がなくなり、おかしな意思決定(無理な拡大路線とか)をするようになります。それにあわせて幹部のかたは、さらに悪い情報を隠し、良い情報だけを届けます。
企業で不祥事があったときに、経営者がとんちかんな発言をすることがあります。これは本当に現場を知らなかったのだと思います。本気で自分の企業は素晴らしい企業で、社員も満足して働いていると思っていたのだと思います。
世界の歴史を紐解いても、悪名高い独裁者ほど、自分の国が世界一素晴らしいと本気で思っていました。
◇共犯関係
こういうことはコンサルの現場で良く経験します。客観的なデータを集めると、経営者の認識と実態が大きく離れていることがわかります。これまで経営者にとって都合のいい情報しか上がってこなかったということです。
一方的に、取り巻きの幹部が悪いということではありません。多くの場合、経営者も心の奥底では、気づいていると思います。しかし、人間は自分の信じたいことだけ信じるものです。不都合な現実よりも、刺激的なフィクション(虚構)を信じるということは、仕事だけに限りません。人の生活においてあらゆる場面で見られます。
なんか変だなと思っていても、まあいいかと思い、次の面白そうな話題へいこうと、スルーしてしまうのが人間心理です。
◇組織は頭から腐る
人は誰でも自分の立場が一番大切です。これは良い悪いではなく、人の社会的な性質です。会社が大きくなればなるほど幹部に自分の立場を守る気持ちが強くなります。逆に、会社が大きくなり自分が何をすればいいかわからなくなります。
組織のトップが、実態を知らない経営者と、役割を見失った幹部で構成されます。会社に勢いがあり、現場が頑張っているうちはまだなんとかなります。
しかし、勢いがなくなると、何もわからないトップが焦り、現場にどんどんプレッシャーがかかっていきます。業績を回復するために次々と手を打ちますが、実態にあっていないため、やがて現場は耐えられなくなります。
良い情報も悪い情報も共有できる経営者マインドの醸成が必要です。そのためには、経営がわかる人を育成し、立場(ポジション)ではなく、役割(ファンクション)を与えることが必要です。