早嶋です。
DX化を必須事項として掲げる企業から相談が相次ぎます。その際、一応お決まりのように「御社のDX人材の定義はなんですか?」と伺うと「・・・」となるのです。どの責任者の方も要件定義から困っているのです。
そこで、早嶋はDX人材を次のように定義しています。そもそもDXは、「デジタル技術を使い、新たな価値提案をするために、既存のビジネスモデルを変えること」です。従い、DX人材とは、この定義を実現する人材となります。
となると、
1)デジタル技術
2)新たな価値提案
3)既存のビジネスモデルの変革
を実現できる人材となるわけですから、結構領域が拾い取り組みの人材を求めていることになります。
1)デジタル技術については、それこそSTEMAに代表されるような考え方や知識がベースとして必要です。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(リベラルアーツ・芸術)Mathematics(数学)です。これらの知識が必要な理由は、早嶋なりに次のように考えます。
デジタル技術の特徴は、コピペが出来て自由に伝達することができることです。従来のアナログでは、指示命令を考える部分と、それを行動に変える部分がセットでした。しかもコピペするには相当の費用がかかり、展開するにも伝達に費用がかかっていました。
それが、指示命令を考える部分をソフトとして切り分け、行動に変える部分をハードとして切り分けることに成功しました。そしてソフトも一部ハードも従来の限界費用の理屈を度外視して安価に自由にコピーできるようになったのです。さらに、一つのソフトで複数のハードを動かすなど、伝達に関わる自由度が極めて安価で高くなり、結果的に何か1つの仕組みをデジタルで実現すると一気にその領域を拡大して世界を牛耳ることができるようになったのです。この発想はまさにプラットフォームの考え方そのものです。
簡単に整理すると、このコピペ(限界費用)と伝達(取引費用)のタガを外すことで従来出来なかったビジネスモデルが次々に生まれることになり、それがトランスフォーメーションの由来になっているのです。
我々の頭をベースに考えた場合、ソフトの部分は脳みそです。そしてハードの部分は体です。頭で考えたことを体を使って実現する。その頭と体を分けることができるようになったのです。例えば、別の人が考えたことを自分の頭にインストールして、体を動かしたらどうなるでしょうか?今で解けなかった数学が解けたり、今まで苦手としていた絵画が上手にかけたり、今まで苦手としていたお酒が飲めるようになったりと。まさに今のゲームのようにハードがあって、そこにソフトを入れ替えることで様々なことが実現できる世界が想像できることでしょう。
この究極の事例はアイフォンです。OSに相当する部分は本体にインストールされていますが、時々最新の機能を入れ替えることで大幅に機能をアップデートすることが可能です。そしてその頭脳に相当する部分は、アイフォンの中に入れることも、通信でつないでクラウドの機能を使うこともできます。伝達とコピペの概念をもろに活用しているのです。
そしてハードに不足する機能があれば、接続する仕組みを使い、別のセンサを取り付ければ熱や風量が測定できます。マイクロスコープと連動するとアイフォンが顕微鏡になります。アイフォンを使って別のハードと組み合わせ、新たな機能を自由に付加することができるのです。その際、ハードとソフトを接続する仕組みはセンサやIoTや通信の技術が使われます。デジタル化の場合、何らかの指示命令制御をソフトで記述することができれば、それはアプリとしてアイフォンに入れることで、また別の次元の機能を瞬時に手に入れることも可能です。
そして面白いのは、その過程で集まったデータを束ねることで新たな発見があったり、別の制御方法を提案できるようになることです。このデータを貯める箱はデータベースと言われ、昔はメモリに格納していましたが、今は通信の技術を使ってクラウドに格納し、好きなタイミングで活用分析することもできます。更にそのデータ同士を足したり、引いたりすることも自由に出来ますので、新たなデータを付け加えて、更に別の仕組みを考えることなども自由にできるのです。まさに発想とちょっとしたアイデアがあれば従来の枠組みを超えたレベルでの実現が可能になるのです。
知識に相当する部分がデジタルではデータになります。データは生成することもできるし、入力することも可能です。その際に、センサの技術が活躍します。衛星も動画もドローンもセンサと捉えると全て合点がいきます。センサは24時間365日、自動でデータを収集し蓄積します。その際、互いが通信する仕組みが大切です。APIや5Gなどの企画、ブルートゥースやWIFIなど、全て伝達に関わる技術です。デジタルは基本的に何らかのルールで動くことが前提なので、APIのように互いのルールを決めて於けば、異なるデータや機械同士でも瞬時にデータの取引が可能です。
コンピュータも人間の脳みそと同じで、知識やデータが蓄積されると、そこに処理をして分析したり活用することが可能になります。ここに先程のクラウドが出てきて、その集大成がビックデータになり、そこに学習させて何か発見をさせるのがAIの基本です。その分析は更に別の概念で捉える量子コンピュータなど、脳そのものの研究も進みます。また、伝達が自由にできるということは意図的に書き換えするなどが出てくるので、ブロックチェーン技術やセキュリティの議論も盛り上がってきます。
デジタル技術を簡単に言ってしまえば、人間の頭と体を別々に分け、くっつける技術に必要な考え方や技術の知識に相当するのです。そのためにSTEAMに代表されるように知識をみにつける必要があるということなのです。
2)新たな価値提案
価値とは、価値を受ける人が、その価値をどう捉えるか?という問題です。そのため、価値を提供する側のことと価値を受ける側のことを理解することが大切です。これらを日常の事業で捉えると、価値を提供する企業と価値に対価を払う顧客の分析がとても大切になります。
これらはまさにマーケティングの発想です。そして、近年は顧客の分析において、心理学的なアプローチ、行動経済学のアプローチ、脳科学のアプローチなど様々な分野の学問を総合して考える取り組みが進んでいます。しかし、根本はやはり価値を受ける相手が、如何に価値と捉えるかを突っ込んでいく思想とそれらを実現する思考が必要です。
3)既存のビジネスモデルの変革
そもそも、単純な事業であっても、規模が大きくなると複数の人員でその機能を分断して取り組んでいます。企業の中でビジネスモデルを実現するためには、価値の連鎖を考えるバリューチェーンの研究が大切になります。
しかし、規模が大きな企業になればなるほど、自社のバリューチェーン全体を把握出来ている人は少ないです。そして、業界の広がりを考える必要のある事業は、今度はバリューチェーンに加えて、業界全体のサプライチェーンの理解も必要です。
自社がどのように価値を提供しているかを整理するために、まずはバリューチェーンとサプライチェーンの理解を徹底することが大切です。
ただ、ここが出来たとしても、それはまだ一部。ビジネスモデルは、提供する側(企業)の仕組みと価値を受ける側の仕組みを理解して、更に、そこに収支の概念を同時に組み合わせて考えることが必要です。
そのため、2)新たな価値提案で議論した顧客がなぜ対価を払うかの理解も当たり前に必要です。
そして、その価値を作り出すためのコストと、顧客から対価を得る、つまり売上のバランスを同時になりたたせることがビジネスモデルです。ビジネスモデルですので、短期的に成り立つだけではなく、長期的に企業として再現可能で、安定的に繰り返すことができることが求められます。当たり前に財務や会計の知識も必要になるのです。
ただここまでは、既存のビジネスモデルを理解して、顧客のメカニズムを理解している。そしてSTEMAに代表される知識やバックグランドがあるに過ぎません。DX人材として成果を出すためには、これら1)から3)つの知識や経験を組み合わせて、従来に無い顧客価値を創造して事業として成り立たせ実現できる能力が必要になるのです。
そう、これらが出来てようやくDX人材になるのです。。。。
ふー、という感じですね。
で、全ての取り組みを行える人をつくる必要があるのか?とすると、はい、と答えるでしょうが。そのような人材を創れるか?教育できるか?と疑問に思うことでしょう。基本、全てを求めるのは酷ですよ。
そこで、早嶋の考えは、少なくとも自社の既存の事業モデルの理解は既存の社員で行い、自分たちがどうして事業として成り立ち過去数年以上利益を出しているのか?をまずは理解できるように戦略や組織やマーケティングや財務会計を整理して理解することです。ここはマネジメント層であればある程度の理解はできることでしょう。
次に、それらを把握していることを前提に、世の中のDXの事例を多方面で研究してみて、同じようなことを行ったらどうなるでしょうか?とブレストすることです。ただ、この時点で過去の事業の延長でしか物事を考えることが出来ない人材は極めて厳しいでしょう。創造することが出来ずに、否定することで自分の存在を示したからです。ですので、創発が得意な人材を調達するひつようがあるでしょう。このような能力は、ある程度教育することは難しいでしょうから、組織の中でいるか探してみて、いない場合は諦めて外部から調達することをおすすめします。
ただ、アイデアを持つ人間は多数いますが、そこに自社の仕組みを理解できるかどうかは不明です。そこで、従来のマネジメントが今節丁寧にそのような新たな創発ができる人材に教えればよいのですが、水と油のように反発することが目に浮かびますよね。。
仮に、そのタッグが上手くいっても、ではそこで掛け算で新たなビジネスモデルが生まれるか否かは、DXのDの知識、上述の1)デジタル技術の理解があることが求められます。
ただ、DX人材を育成する!とするよりは、DX人材は、1)デジタル技術 ✕ 2)新たな価値提案 ✕ 3)既存のビジネスモデルの変革、をバランス良くできる人材のことですので、全てをできる人間を育てるのではなく、その組み合わせができる人間を確保して、トップのリーダーシップのもと日夜議論を繰り返し実験することが大切になります。
ということでDX人材の育成や取り組みを社長やトップが経営企画や人事に丸投げしている組織はどんなに時間をかけても生み出すことも作り出すことも出来ないでしょう。なぜならば、アイデアが生れても、そこにトップの意思決定とリーダーシップがなければ、必ずや途中の段階でもみ消されて終わるからです。
ということで早嶋はDX人材の育成をお手伝いしていますが、多くの場合は、トップのその必要性があり、トップがリードしている企業に限っては、色々と試行錯誤をしながら取り組んでいます。もちろん、DXについての教材や動画などの資料は随時提供させていただきますが、本気の本気の取り組みをするならばトップの関与を確実に求めます。