◇注目する3つのテクノロジー
「IoT」はひと昔前のコンセプトと思われがちですが、関連するテクノロジーは着々と実用化に向けて発展しています。その中で、注目しているテクノロジーが3つあります。「無線給電」、「ハーベスティング回路」、「MRAM(磁気記憶式メモリー)」です。
こうした技術はあらゆるモノがネットワークにつながっていく「IoT」をさらに進めていきます。そして、ビジネスの構造や我々の日常生活を大きく変える可能性を持っています。つまりはDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性は、これからも増していくということです。
◇無線給電
無線給電は、送信された電波を、受信する機器で電力に変換する技術です。2021年度の電波法の改正で、実用化が可能になります。
この技術で、小さなセンサーなどのデジタルデバイスは、有線による電源供給の必要がなくなります。電線を届けるのが難しい場所にセンサーを設置したり、大量のセンサーを有線による充電なしで使用できるようになります。
現時点では、使える周波数帯が限られており、給電できる距離も10メートくらいで、電力も1ワット程度です。今後、技術開発が進み、電力化の効率が向上し、より高い周波数帯が使えるようになれば、さらにいろいろな使い方が可能になります。電気自動車など大量の電力を必要とする機器にも使えると思います。駐車場に停めておけば勝手に充電してくれるようになると思います。
◇ハーベスティング回路
ハーベスティング回路は、我々の日常生活で発生している様々なエネルギー(熱、振動、光、電波)を採取し、電力に変える技術です。
そうした回路のなかで、日常生活でよく使われる2.4GHzの電波を採取して、情報を発信し続けるセンサータグ(電子札)の技術開発が進んでいます。2.4GHzの帯域は都市部であれば、ほぼ電波が届いています。そういう電波を拾い、電力に変えてセンサーを動作させます。このセンサーの価格も現在普及しているRDIDタグなみになりそうです。
このセンサーは切手程度の大きさで、温度や湿度、距離などのデータを発信します。このセンサーが普及すれば、リアルタイムで、人や商品の状況を確認できるようになります。温度管理が厳しい商品が適切に管理されているか確認することも簡単になります。スポーツ選手のユニフォームに組み込めば、様々な競技の理想的なフォームが解析できるようになると思います。
◇MRAM(磁気記録式メモリー)
MRAMは以前のブログでも紹介しました。電子の磁石の性質(スピン)を利用し、データを記録する技術です。
磁気記録式メモリー(MRAM)はイノベーションの中心になるか
MRAMを使用することで半導体の消費電力を大幅に減らすことができます。我々が身につけるウエアラブル端末や、自動運転などのエッジ端末などで使われそうです。
◇テクノロジーの教養
この3つのテクノロジーの組み合わせだけでも、様々な用途が考えられます。それに加えて、「クラウド」、「AI」、「5G」、「ブロックチェーン」など主要なテクノロジーとも関わっていきます。こうしたテクノロジーの教養はビジネスの世界で益々必要になっていきます。
現在、日本中でDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が流行っていますが、その背景にあるテクノロジーの原理を理解している人は少ないと思います。あちらこちらでDXという言葉を聞きますが、文字通りどのようなデジタル技術をベースに、自社のビジネスモデルをどのように変換(トランスフォーメーション)する必要があるのか議論できるだけの基礎的な知識を持っていない場合が多いと思います。
これから既存の主要なテクノロジーに、上述したような新たなテクノロジーが加わることでさらに大きな構造の変換が生まれます。あらゆるビジネスが、こうしたテクノロジーの上に成り立つようになっていきます。これからのビジネスパーソンにとって、テクノロジーの教養は専門分野に関係なく必要になります。新しいテクノロジーがビジネスにどう結びついていくのか、どのようにビジネスを変えていかないといけないのか、関連づける能力が必要です。