早嶋です。
デジタル化の時代は、全てがオンラインにつながります。つまり、人が何かをする際は、その人のIDや何かその人を特定できる何かにひも付けられ、その前後の全ての行動履歴が蓄積されている状態が当たり前になるのです。そして、その状態がデフォルト(通常)で、そこに従来のオフラインが混じり合います。しかしオフラインの状態であっても何らかの工夫でその履歴もデジタルにIDに紐付けられて蓄積されるようになります。その意味でオンラインとオフラインの区別がなくなる状態が真のデジタル化の状態と言えます。
デジタル化の時代を見越して企業は大きな変革が必要になります。企業戦略レベルでは、従来の主体を企業本位にするのではなく、新の顧客や社会本位の会社に変えることが大切です。例えば従来のオンラインのメーカーなどは、「技術革新に邁進して最高の技術を提供し続けます。」と企業が主語になったミッションを掲げています。しかしデジタル化が到来すると、顧客との接点が単発的なものから連続に変わります。これは一回の取引がゴールではなく、その前後における全ての接点を意識して顧客体験を高める取り組みが大切になることを意味します。結果的にこれまで以上に企業は顧客や社会に寄り添う必要が出るのです。
従い、特定の状況や特定のおかれた顧客の状態において企業は価値を提供する発想に切り替える必要があります。従来のように一回の成約にフォーカスしてPLを立てる意識では、デジタル化の波に対応できなくなります。そのため従来のような機能別の組織や事業別の縦割り構造、そしてエリア別の組織運営等では、顧客に最高の体験を提供し続けることができません。必ず限界が出るのです。今後は成約をゴールとして捉えるのではなく、一見さんとの出会いをスタートと捉え、商品の販売後も継続的に顧客との関係を大切にする発想が必要になります。
「1回の購買をゴールと捉えずに、1回の購買からスタートがはじまり、顧客の生涯に渡って良きパートナーとして、顧客の体験を最大化するように寄り添うこと」これが企業が考える顧客や社会とのつながりにおける考え方となるのです。大きな違いですね。これから【ビジョンの変化】【STP戦略の変化】【ビジネスモデルの変容】の3つの視点から整理します。
【ビジョンの変化】
このように考えていけば、企業のビジョンが変わります。多くの企業が、「企業の価値や企業が成し遂げたい姿」を掲げています。もちろん顧客にフォーカスしたビジョンも沢山あります。しかし、「顧客を一番に考えて貢献する」などのようにやや抽象度が高い表現になっています。未だに自社が提供する商品(製品やサービス)が固定してい、それらを顧客に届けることをビジョンにおいている企業もかなり多いです。結果的に皆が頑張って、良いものを作り提供するという風土が染み付いているのです。
しかしデジタル化の世界では、単発の購買体験で完結しません。上述したように、何らかの顧客との接点をスタートとして、その顧客に寄り添う形で継続的に顧客体験を提供する企業が勝ち残るようになります。従ってビジョンの掲げ方に対しても、「どのような顧客にどのような顧客体験を提供しつづけ、どのような状態になって頂きたいかを追求する」というような内容に変更することが大切です。
その意味でビジョンの主語が企業から顧客や社会に変わるのです。ビジョンの変化は強烈です。常に顧客との接点を重視し、そこに常につながっている状態を創り出す。そうすることで生涯に渡り顧客に寄り添うことが可能になります。その状態をビジョンに明確に掲げ言葉で表現するのです。
【STP戦略の変化】
デジタル化が当たり前になると、マーケティングのSTPの概念も変わります。これまでターゲットを特定する際は、直接特定することが技術的に難しくコストがかかったことから、代替指標を使って顧客を捉える考えが一般でした。その結果、もっとも多く浸透して活用された指標が顧客属性でした。マーケティングで重要な概念は、「誰が、なぜ、なにを買っているのか?」です。これらを特定するために、本人も知らない「なぜ」の追求をすることがマーケティングの永延の命題でもありました。しかし企業規模が大きくなると、どうしても「なぜ」の追求には費用がかかるため、結果的に「誰が」にフォーカスが当たってしまったのです。
デジタル化が当たり前になると、個人が完全に特定されます。従って、従来のように属性にフォーカスすることなく、個々人が完全にデータでも把握できるようになります。これまでは「誰」というこを理解することに費用を投じていたのが、みんなが基本オンラインにつながることによって、個人の特定が当たり前になります。するとマーケティングの重要な概念の内、「誰が、なぜ、なにを買っているのか?」のなかで再び「なぜ」に注目があつまるようになります。
実際、個人が特定されても、個人も何故購入しているかを正確に考えて行動しているわけではありません。そのためデジタル化になっても「なぜ」の特定は課題として残り続けます。しかし、個々人の行動履歴や購買履歴等からこれまで見えなかった推測が可能になります。行動です。IoTやモバイル、そして5Gなどが揃うと、常に具体的な個々人のデータがデータベースに蓄積されます。すると、これまで点で見ていた属性から完全に個々人の連続的な変化が見えるようになります。これらを工夫して調べることができればより「なぜ」にちかい個々人の特定の状況が見出しやすくなるのです。
ジョブ理論では個人を属性で捉えるのでなくペルソナで捉えていました。デジタル化が完全に進めば、ペルソナは完全に特定の個人にフォーカスできます。そして、個々人のジョブをより明確につかみやすくなるのです。個々人の特定の状態の前後が明確になるためです。結果的にSTP戦略がこれまで顧客志向と表現されていた概念が、個々人の状況に志向する捉え方が強くなるのです。
まさにジョブ理論の概念ですね。ジョブとは特定の状況で顧客が成し遂げたい姿です。彼らを顧客が解決したい用事(ジョブ)と捉えて企業は解決を提供することの重要性を整理しました。ジョブは完全なる「なぜ」と結びつかない場合もありますが、「誰が」「何を買った」という情報以上に個人の「なぜ」を推測する情報としてはリッチになります。当然ながらそのジョブが見いだされれば企業は解決策としての商品(製品・サービス)を提供しやすくなるのです。
【ビジネスモデルの変容】
現在のビジネスモデルの基本体系は企業内部ではバリューチェーン(VC)、業界全体ではサプライチェーン(SC)に代表されます。VCでは上流の研究開発から始まり、商品企画、そして製造、販売、アフターフォローと続きます。それから全体に関わるVCとして人事や財務やマーケティングなどの機能がそなわります。このVCの流れを見ると、効率的に商品開発を行い、製造し販売するかにフォーカスがおかれています。一方で、販売した後のフォローや、そこでの顧客体験に紐づくデータが上流工程の研究や開発に生かされていないことも分かります。
上述したたデジタル化の発想を、現在のVCで実現する場合、かなり制約条件が高いことが分かります。アフターデジタルでは企業が大切にするのは一回の販売や成約ではなく、1回の顧客接点から始まる顧客体験をいかに継続的に続けていくかです。そのために、企業は意図的に顧客接点を増やし、管理して、それらの情報をもとに顧客の困ったことを解決する取り組みが大切になるからです。
ジョブ理論で言うところのビックハイア(1回の大きな購買)からリトルハイア(購買後に続く小さな購買の連続)にビジネスモデルを変えていくことです。サブスクリプションがデジタルとの相性がよい最大の理由は、毎月定額の固定金額を得ることで、企業は継続的に顧客とつながり、顧客が日常的に商品を使用してる状況を把握することができます。企業は継続的にその情報を活用してより便利で快適な顧客体験を提供することを掲げ商品開発を行います。
上記の変化はKPIの変更も意味します。従来は、販売につながる指標をKPIとしていました。売上や利益等々です。そして顧客型の指標としては満足度を活用していました。しかしいずれも瞬間的な指標でその後に継続するものではありません。アフターデジタルでは、KPIそのものの発想も変えることがポイントです。
例えば、継続的な顧客の接点を示す顧客のロイヤリティです。一回の購買金額ではなく、生涯に渡る購買金額であったり、退会せずに継続的に使用する顧客の数であったりです。満足度も、1回の購買体験や消費体験から得られたものを高める取り組みですが、継続性を見たいのであれば、推奨度を指標として掲げることも大切です。推奨度とは、同じような問題を抱えている顧客が自分が親しい友人や知人に対して同様の購買や顧客体験をすすめるかという指標です。