早嶋です。
Web検索をしていると時折、高級時計のディスカウントショップと出くわすことがあります。キラキラダイアモンドを散りばめたロレックスが定価の3割引で販売している。タグホイヤーの新品が破格の値段で売られている。こうした市場はグレーマーケットと呼ばれ高級時計市場からすると厄介な存在です。
先月のバーゼルワールドではモヘ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)の腕時計部門を率いるジャン・クロード・ビーバー氏は、グレーマーケットを「業界のガン」と呼んでいます。高級部門の小売にとって、評判、憧れ、夢、価格が安売りによって崩れる事によって、ジワジワと信頼が損なわれるからです。高級品のディスカウントは、一見、購買者が増えますが、一度価格に走り始めると、それがジワジワブランドの価値の崩壊につながるのです。
ロイターの記事によれば、グレーマーケットに出回る時計の供給元は複数あり、売れ行きの悪い商品を処分したい公式の販売代理店、輸入代理店、更にブランド本体が直接提供することもあるとのこと。
一方で、グレーマーケットに対してメーカーの利点もあります。時計が売れることでメーカーは利益を確保できることです。また、そのようなサイトがネットに広告宣伝を出すことで自社ブランドの時計が無料で露出する。つまり宣伝広告としての効果が見込めることです。
多くのメーカーは時計の在庫を適正に管理しているでしょうが売上至上主義に走ったブランドが少なからずとも出現しています。2009年の金融危機の後に中国での高級品の需要が一気に高まりました。当然、高級市場の代表選手であるスイス時計も注目されます。メーカーはこれに追随する形で生産量を増やし小売価格を上昇させました。
しかしいわゆる中国人の爆買いは終焉を迎えます。日本同様に欧州を訪問する買物目的の観光客が激減しているのです。中国当局が過度の関税をかけたことが理由です。高級時計や宝飾品などを傘下におさめるスイスのリシュモングループは昨年の9月の株主総会で直近5ヶ月の成績は為替の影響を鑑みても14%の大幅な減少と報告していました。世界的なエリアでは日本が25%減、欧州が18%減、中東アフリカが10%減でした。
一方で国境を超えるECである越境ECは伸びています。現地に赴かなくても商品を検索することで品物が買えるし、越境ECには当局は注目をしていません(ネットの世界はあえて監視しているが今のところ口を出していない、という表現が正しいかもしれませんね。)。
高級時計と言ってもある程度生産数を増やした企業は急に生産量を調整することは難しいと思います。時計の製造工程は多く、段階を追って組立ていきます。高級時計は製造工程も複雑で製造計画の期間が1年から2年のものもあると聞きます。従って徐々に生産量を増やしたメーカーが、急に生産量を減らすことができない可能が考えられます。
そこで考えられる仮説は、在庫として溢れた商品の一部がグレーマーケットに流れているのではと。そして、越境ECの伸びとともにグレーマーケットが成長しているのです。
百貨店のコンサルをしている時の数字感覚ですが、売上100に対して2割がメーカーに、販売店は最大4割超えるマージンでした。しかしどんなにビジネスが苦しくても、メーカーは公式販売店に対して値下げをすることを許しません。ブランドイメージを徹底的に管理するためです。百貨店はそのような場合は、公のルートでは値下げをしませんが外商の得意顧客には15%から2割のディスカウントをして数字を確保していました。百貨店以外の代理店はそこまで外商のような上得意客を抱えていません。そこで自社の資金繰りを良くするためにグレーマーケットに商品を流したのではないかという可能性です。
スイスの時計輸出を見れば昨年は10%の減少、今年も初めの3ヶ月程度で8%の減少ですので、急激に商品が売れなくなっているという事実は本当のようです。
グレーマーケットのビジネスモデルは案外と巧妙です。基本は在庫をもたずに注文があった場合に秘密ルートから商品を調達するのでリスクを持ちません。商品は合法的な正真正銘の商品。ただ正規ルートでの販売いではないためブランドは腕時計の修理を拒む傾向があるようで保証性がつかないのが一般です。そのため販売店舗が独自tの保証や修理サービスを付けて顧客の獲得を狙っています。
ここいっときの高級時計の過剰なブームが急に止みブランドは生産過剰に。在庫を抱える販売店はちょっと魔が差したか、生きるために仕方なかったのか、グレーマーケットに商品を流す。そして中国の爆買いから越境ECのシフトとともにグレーマーケットは急成長。顧客は正規ルートで満足を得るか、メーカーの保障はないけれども3割前後の値引きで高級時計を手に入れるか。高級時計業界も目まぐるしく経済が動いていることがわかります。